電気設備の知識と技術 > 電気の資格 > 電気の資格と種類
電気設備設計を行うための資格は基本的に存在しない。電気設備の設計について、法的に制限されている業務を挙げるならば「建築物の非常用照明装置」「予備電源設備」「避雷設備」など、防災設備の計画を行う場合に、一級建築士や二級建築士の資格を必要とする。
建築士は代表となる設計者が担当すれば良く、必ずしも全ての設計担当者が建築士である必要はない。電気担当者が建築士でなくても、設計補助業務としての計画や作図が可能である。
受変電設備のシステム設計、幹線の太さの算定、照明器具の配置についても同様、設計するための資格はない。業務放送設備や電話設備、通信設備の計画についても同様となっている。
さらに、電気設備設計者は電気設備工事に関する配管配線工事や、機器据付工事の実務を行うことはない。電気設備の維持管理や点検といった運用業務に携わることもないため、電気工事士や電気主任技術者資格も不要といえる。つまり、資格の有無によって、法的に規制される業務がほとんどないというのが現状である。
電気設備設計者の多くが取得を求められる「消防設備士」の資格に付いて触れる。自動火災報知設備や非常放送設備の工事・維持・運用を行うために消防設備士資格が必要であるが、前述したように専門資格は必要ない。
一般的な設計の手法として、自動火災報知設備や放送設備といった防災機器一式について、各種防災メーカーに図面協力を依頼する方法がある。これら防災設備が専門化している現状、防災メーカーに設計協力してもらわなければ、設計図の取りまとめを行うことは難しい。
これら防災設備を設計する場合、電気設備設計者は、火災受信機の種別、どのルートで配線を行うか、テナントや貸室がある場合の工事区分といった設計コンセプトを防災メーカーに伝え、コンセプト通りの図面を仕上げてもらい、チェックするという業務が主体となる。
チェック業務には消防設備士資格は不要であり、これも有資格者である必要はない。設計図の作成や、確認申請図・消防同意確認図の提出には、資格を要しない。
電気設備の技術を高めるため、各種法規を理解するため、電気の資格を取得するのは望ましいことである。電気の資格試験を通して、電気設備に関する知識を高め、品質の高い電気設計を行うための継続的な努力が求められる。
設備設計一級建築士という新資格が生まれ、設備設計者も建築全般の知識を問われる流れとなっている昨今、一級建築士等の資格取得が、広く求められる可能性がある。電気設備に関連する資格と、その資格の概要について解説する。
電気工事士は、電気工事士法によって「電気工事の作業に従事する者の資格及び義務を定め、もつて電気工事の欠陥による災害の発生の防止に寄与することを目的とする」と定められた国家資格である。
不良な電気工事によって発生する災害を防止するために定められた資格で、素人工事による感電事故、火災事故の発生を防止するために、一定以上の知識と技術を持っていることを証明し、免状を取得していなければ電気工事に従事できないよう規制している。
電気工事士資格には、第二種電気工事士と第一種電気工事士があり、第一種電気工事士が上位資格として規定されている。一般に「電気工事をするための資格」として認知されており、住宅内の照明やコンセントの移設・増設は第二種電気工事士、高圧で受電するような業務施設における受変電設備は第一種電気工事士といった大きな分類がされている。
電気工事士でなければできない工事として、電線を造営材に直接固定する工事、電線管に電線を収容する工事、接地線の相互接続・接地極埋設・接地極と接地線を接続する工事がある。
電線の敷設工事においては、電線を固定するための支持間隔や固定方法を間違えると電線に過度な負担が掛かり、絶縁不良や発熱による火災発生のおそれがある。電線管に電線を収容する工事では、電線管の収容電線における占積率の関係式や、許容電流の低下についての知識がなければ、異常発熱による火災を引き起こす。
専門的な知識のほか、配管配線の敷設方法や、適切な電線の選定などを行わなければ、火災や漏電事故を引き起こす原因となり、大変危険である。電気工事士の免状取得者でなければ、電気工事を施工してはならない。
接地極接続や埋設工事は、埋設深さや埋設方法、電線の仕様や接続方法によって接地極の機能が左右され、不良工事によって漏電遮断器が動作しなかったり、感電死亡事故につながるおそれがある。コンセントプラグを壁付けアウトレットに差し込むのとは技術的なレベルが違う。
コンセントひとつ増設する工事としても、分電盤への配線用遮断器(または漏電遮断器)の増設、VVFケーブルの敷設、電線管への収容、接地線の確保、アウトレットボックスの支持固定、電路の絶縁抵抗測定というように、数多くの専門的な電気技術が必要となる。電気工事士資格を持つ技術者でなければ、安全な工事は達成できない。
電気工事士資格を持たない者が工事をするのは、電気工事に不良が発生するおそれが非常に高く、感電事故や火災発生のおそれがあり非常に危険である。DIYの普及により素人電気工事を行う事例が多いが、電気事故を起こした場合、火災により近隣に被害を与える可能性もある。
無資格工事は絶対に行わず、電気工事は専門技術者に依頼するべきである。
電気工事士法により、電気工事の欠陥による災害の発生を防止するため、一定の範囲の電気工事は電気工事士が行うのが原則である。
第二種電気工事士資格はその中でも、住宅や個人事業所など比較的小規模な電気工事を行うための資格である。電気工事士は、電気工事災害の発生を防止するために定められた資格であり、素人工事によって感電事故や火災の発生を防止するため、一定の知識と技術を持っている技術者でなければ、電気工事を行えないように制限されている。
コンセントの増設程度であっても、電気工事士資格を持った専門技術者が施工を行わなければならない。ただし、第二種電気工事士免状の取得者であっても、電気工事を行える範囲は「一般用電気工作物」までである。
ここで設計業務について触れるが、電気設備設計の業務は計画・作図・監理といった業務に限定され、工事を行うことはないため、第二種電気工事士資格を所持する法的規制はない。
電気工事士試験によって得られる基礎知識は、電気設備工事を安全かつ高品質に行うための基本情報が数多く含まれているため、設計者であっても電気工事士資格を取得するべきである。
試験難易度は電気関連資格の中でも比較的簡単である。二次試験で実地試験(配線工事)があるため、材料の手配や器具購入、配線工事の練習が必要となる。
一次試験は、基本的な電気概論(オームの法則、キルヒホッフの法則)、合成抵抗の求め方や交流回路・直流回路の基礎が出題範囲であり、使用する公式や数学の範囲は非常に限定的である。三角関数の基礎程度を覚えていれば、問題ない範囲であろう。
二次試験は、小規模な電気回路を実際に組む試験である。アウトレットボックス、電線管、リングスリーブや差込コネクタ、VVFケーブルが支給され、決められた回路を時間内に作る。
第二種電気工事士の工事可能範囲、資格試験の詳細情報は第二種電気工事士を参照。
ビルや工場など、大規模な施設の電気工事を行うための資格である。高圧受電設備から供給される、大規模な電動機や変圧器に電力を供給する工事にも従事でき、住宅以外の業務施設での工事では必須の資格である。「自家用電気工作物」で、最大電力500キロワット未満の需要設備の工事が可能である。
第二種電気工事士と比べて、高圧に関する問題が多く難関資格といえる。実地試験も大規模になり、高圧電路に関する回路構築などが試験に出題される。
電気主任技術者は、発電所や変電所、需要家の受変電設備など、事業用電気工作物や自家用電気工作物の維持・管理・運用を行える国家資格である。電気事業法により、電気事業用及び自家用電気工作物の設置者は、電気工作物の工事、維持、運用の保安監督をさせるため、電気主任技術者を選任することが定められている。
発電所、変電所、需要家の受電設備の電気設備維持管理・運用を行える資格である。電気事業法により、電気事業用及び自家用電気工作物の設置者は、電気工作物の工事、維持、運用の保安監督をさせるために、電気工作物の種類毎に電気主任技術者を選任することが定められている。
電気主任技術者資格は「電験」という名称で呼ばれ、電気業界の登竜門として有名である。工業高校や専門学校の電気学科では、取得を推奨する国家資格である。
第三種電気主任技術者になることで、50,000V未満の電気設備や、5,000kW未満の発電設備の管理ができる。電気設備の分野であれば、建物の電力を高圧で受電する場合、電気主任技術者が受電設備の維持管理を行うことが、法律で定められている。
高圧受電設備は6,600Vで運用されているため、50,000V未満の電気設備を運用できる第三種電気主任技術者免状を取得していれば、当該電気設備の維持管理が可能である。事務所、工場、店舗など、高圧受電を行っている施設は極めて多く、これを維持管理する電気主任技術者は常に人材が求められ、非常に人気がある資格の要因となっている。
首都圏近郊では22,000Vのスポットネットワーク受電も普及しており、特別高圧受電の大規模施設でも、第三種電気主任技術者で運用できる場合があり、より活躍できる場が広がっている。
地方都市ではスポットネットワークが普及していないことが多く、66,000Vの特別高圧受電であることがしばしばある。第三種電気主任技術者では運用できないため、第二種電気主任技術者免状の取得が求められる。
試験難易度は高いが、第一種電気工事士の問題と近いとされている。理論・電力・機械・法規の4科目を3年がかりで取得すれば、免状を取得できる。
第一種電気工事士の範囲と似通った部分もあるが、電気主任技術者資格の出題範囲は、工事に直接関係する出題よりも、電気に関する理論、電気設備の安全対策(保護協調や電気事故防止の機能)に重点が置かれている。電気工事士試験とは違い、実際に回路を構築するの実地試験はなく、筆記試験だけが行われる。
電気主任技術者資格は、筆記試験による取得だけでなく、認定による免状取得の道も開かれている。電気に関する教育を行う大学等で所定の単位を取得し、所定の期間、電気設備の維持管理や運用・工事に従事すれば試験が免除され、認定による免状取得ができる。
認定による免状取得では、実際に管理した際の安全対策や、管理した電気設備の特徴などを面接として質問されるため、回答できなければ何度も落とされるという話もある。実際の管理業務に付く場合、試験取得による免状と、認定取得による免状に管理できる範囲の差はない。
維持管理・運用可能な電圧範囲が高くなる。第二種電気主任技術者では17万ボルト未満の電圧の設備を管理できる。大規模工場など、66,000Vによる特別高圧受電の需要家では、第二種電気主任技術者免状以上の資格取得者による運用が不可欠である。
大規模工場やビル、商業施設では、免状取得者を専任させなければならないため、免状取得者のニーズはきわめて高く、さらに取得者の希少性も相まって、非常に人気がある。試験内容は非常に難しく、電気に関する専門学校卒業と同等の知識が求められる。
第一種電気主任技術者は管理できる電圧の規制はなく、発電所から末端の需要家までどのような電圧の施設でも管理できる。免状取得者が極めて少ないため、実務経験があれば就職に困ることはない、といえるほど重宝されることであろう。
電気工事士資格でも記述したが、電気設備設計にあっては電気主任技術者の免状有無は実務に関係なく、免状の有り無しによって業務範囲が限定されることはない。電気主任技術者でなくても設計業務が可能である。
しかし、電気設備の設計・監理を行うにあたって、電気に関する高度な知識を持つことにより、設計の品質や安全性向上が期待できる。
電気設備を管理する電気主任技術者に対し、運用方法や設計思想を説明する機会があれば、資格の無い設計者が対応するよりも、電気主任技術者免状を取得した設計者による説明を行うことで、高い安心感を得られるという利点もある。
電気主任技術者の資格試験に関する詳細情報は電気主任技術者を参照。
建設業法により、建設業者は、電気工事を適正に施工するため、一般及び特定建設業に関する電気工事業の営業所毎に選任の技術者を配置することが定められている。工事現場には主任技術者または管理技術者を置くことが定められている。
建設業のうち電気工事業を営む場合に、電気工事施工管理技士資格を取得する。1級と2級では管理できる工事規模が違い、その請負金額によって区分されている。
特定建設業では、請負金額が3000万円以上となる契約を締結して施工しようとする場合、1級電気工事施工管理技士を選任し管理させる必要がある。2級電気工事施工管理技士の資格では、特定以外の規模の電気工事を管理できる。
1級電気工事施工管理技士では、一般建設業、特定建設業の両方の営業所で専任技術者となれる。2級では一般建設業の営業所で専任技術者になれる。施工に関する知識を問われ、設計のみならず幅広い知識を要求される資格試験である。
実務経験には「指導監督的実務経験」を含むことが明記されている。現場代理人や主任技術者、施工監督、設計監理者など、部下や協力業者へ技術面での指導監督をした経験が求められる。単純作業を行う作業員としての経験は、指導監督的実務経験には含まれないため注意を要する。
電気工事施工管理技士資格の受験資格、実務経験の詳細については電気工事施工管理技士を参照。
建築設備士は、建築士に対して建築設備の設計・工事監理に関する助言を行える資格者として位置付けられている。建築士が建築設備士に意見を聞いた場合、建築確認申請書や工事完了届にその旨を明らかにしなければならないと定められている。
建築士事務所開設者が建築主から設計委託を受けた際には、建築主への交付書面記載事項として建築設備士の氏名を記載できる。
建築設備士の業務範囲は、建築士に対して助言を行うことであり、自ら設計業務を行うための資格ではない。建築士が「建築設備士に助言を求めない」場合、建築設備士の意見を聞く必要はない。建築士の知識のみで建築物を設計・工事監理でき、建築設備士が関与せずとも支障はない。
近年は、建築への安全性の確保への関心の高まりや、高度化した建築設備に対する理解の重要性から、施主から「建築設備士に意見をもらうこと」を設計条件の一つとしていることが多く、建築設備士資格の価値が高くなっている。ただし、法的規制は存在しないため、案件によっては建築設備士の関与していない設計も数多い。
平成20年の建築基準法改正により、実務経験を4年以上積んだ建築設備士には、一級建築士の受験資格が与えられることになった。機械系や電気系の学校を卒業した建築関係者は、建築設備士資格の取得により、一級建築士資格の受験が容易になった。
建築設備士試験は、一次試験と二次試験で構成されている。一次試験はマークシート式の学科試験で、二次試験は設計製図を行う。一次試験では「建築一般知識」「建築法規」「建築設備」の3区分について問う試験を実施する。
二次試験では「建築設備基本計画」「建築設備基本設計」の2区分について、文章による基本設計主旨の記載、作図を行う。二次試験は給排水衛生・空調・電気の3つに分かれており、専門的な知識を問う問題には選択式の出題もある。
建築士の試験と同様、一次試験に法令集を持込むことが許可されている。建築設備に関する出題の比率が高いため「建築設備関係法令集」を使用すると有利である。
数年前まで、建築設備士の受験資格を取得するためには、一級建築士資格を取得した後の長期実務経験など、非常に厳しい設定がされていた。大学卒業後8年の実務経験を積まなければ受験資格がない時期もあったが、現在では大きく緩和され、大学卒で2年の実務経験があれば受験資格が得られることとなっている。
電気関連では、第三種電気主任技術者の資格を取得し、2年の実務経験があれば試験を受けられる。民間資格でも受験することが可能になり、空調衛生工学会設備士の資格を取得し、2年の実務経験を積むことで受験できる。
建築設備士に関する受験資格、合格率については建築設備士を参照。
消防設備士は、屋内消火栓やスプリンクラーの消火設備、自動火災報知設備の警報設備、避難設備など、消防法に規定されている消防用設備等の工事・整備・点検を行える国家資格である。
消防設備士資格は「甲種」「乙種」に分類されており、甲種は上位資格、乙種は下位資格として分類される。甲種消防設備士は、消防用設備等の「工事」「整備」「点検」という全ての業務に従事できる。対して乙種消防設備士は、消防用設備等の工事に従事することはできず、甲種消防設備士が設置工事を行った消防用設備等の「整備」「点検」のみ可能である。
消防試験研究センターが、消防設備士の資格試験を掌握しており、消防設備士試験の案内、試験の例題(過去問)、筆記試験の免除方法などを公開している。
消防設備士の受験資格、合格率、試験内容の詳細については消防設備士を参照。
消防設備士試験の合格率は、甲種では30%前後、乙種では40%前後となる。電気工事士や電気主任技術者など、消防設備士以外の資格をしていれば、学科試験の一部免除を受けられる。合格基準は、科目ごと40%以上かつ全体の60%以上の成績を修め、実技試験で60%以上の成績であることが求められる。
筆記試験の一部免除を受けた場合は、免除を受けた以外の問題で、科目ごと40%以上かつ、全体の60%以上の成績を修める必要があるので、特定の分野が得意な場合、点数のベースアップを図るために免除を行わないという選択も有り得る。
電気工事士の免状取得者は、消防関係法令を除き「基礎的知識」「構造・機能及び工事・整備」の「電気に関する部分」が免除となる。実技試験においても、甲種4類・乙種4類における「鑑別試験の問1」が免除となり、乙種7類では全問が免除となる。第一種電気工事士・第二種電気工事士のどちらの免状を取得していても、免除の範囲は同じである。
消防設備士の電気に関する設問は難易度が低いため、電気工事士免状の取得者であれば容易に回答できる。簡単な問題を免除することにより、試験の難易度が上がることもあり得るため、免除をせずに受験するのもテクニックのひとつとされている。
電気主任技術者の免状取得者は、電気工事士の免状取得者と同様、消防関係法令を除き「基礎的知識」「構造・機能及び工事・整備」の「電気に関する部分」が免除となる。
電気主任技術者は電気設備工事の実務を行える資格ではないため、実技試験の免除を受けることはできない。第一種・第二種・第三種電気主任技術者の3種類があるが、どの免状を取得していても免除範囲は同じである。
技術士のうち、下記に該当する分野の資格取得者は「基礎的知識」「構造・機能及び工事・整備」が免除される。
技術士機械部門は「第1、2、3、5、6類」、電気・電子部門は「第4、7類」、化学部門は「第2、3類」、衛生工学部門は「第1類」の筆記試験が一部免除される。
技術士の資格取得者は、「技術士」という名称を用いた業務が可能となる。科学技術に関する高度な専門知識を持っていることを証明する資格であり、非常に難関な資格とされている。技術士資格は独占業務を行えるといった位置付けの資格ではないため、一部の建設業法における主任技術者等の専任要件といった内容を除き、技術士資格を持っていることを必要とする業務はない。
技術士試験を受験するためには、技術士補という、技術士を補佐・補助する資格を取得し、4年以上の実務経験を得ることが条件となる。試験も、面接や論文作成などを行い、知識だけでなく人格なども評価される。
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