電気設備の知識と技術 > 電気の資格 > 建築設備士
建築設備士は、建築士に対して、建築設備の設計・工事監理に関するアドバイスを行える資格者として位置付けられており、建築士が建築設備士に意見を聞いた際は、建築確認申請書や工事完了届において、その旨を明らかにしなければならないと定められている。建築士事務所開設者が建築主から設計委託を受けたとき、建築主への交付書面の記載事項として、建築設備士の氏名を記載できる。
この文面からわかるように、建築設備士は「建築士に対して助言を行う」のが主たる業務であり、自らが設計業務を行うことに関する規制は表現されていない。建築士が「建築設備士に助言を求めない」場合、建築設備士の意見を聞く必要はなく、建築士の知識のみで建築物を設計・工事監理が可能である。
建築設備士が関与せずとも、建物を造ることは可能であり、建築設備士でなければ設計できないという規制は存在しない。建築設備士資格による規制が存在しない以上、取得者の位置付けは低く、設計業務においては不要と考える建築士や施主も存在するというのが事実である。
しかし近年、建築への安全性の確保への関心の高まりや、高度化した建築設備に対する技術の必要性から、クライアントの方から「建築設備士に意見をもらうこと」を、設計条件の一つとして与えるので、建築設備士資格そのものに価値が少ないと考えることは早計である。
平成20年より、実務経験を4年以上積んだ建築設備士には、1級建築士の受験資格が与えられることになった。従来、機械系や電気系の学校を卒業し、一級建築士資格を取得するには十数年の歳月が必要であるが、建築設備士資格を取得することにより、早期に一級建築士となるための道筋ができたといえる。
建築設備士の資格試験は、一次試験と二次試験で構成されている。一次試験ではマークシート式の学科試験となっており、二次試験では設計製図を行う。
一次試験は「建築一般知識30問」「建築法規20問」「建築設備50問」の3つに区分され、総問題数100問で構成される。二次試験は「建築設備基本計画」「建築設備基本設計」の2つに区分され、文章を主体とした基本計画の構築、作図を基本とした基本設計を行う。
建築士の試験と同様に、建築設備士試験でも、一次試験に法令集を持込むことが許可されている。建築設備に関する出題の比率が高いので、建築設備に関して記載の多い「建築設備関係法令集」を購入し対策するのが有利である。
従来、建築設備士の受験資格は非常に厳しい設定がされており、大学卒は卒業後8年の実務経験を積まなければ、建築設備士の受験資格を得られなかった。現在ではこれが6年緩和され、大学卒で2年の実務経験があれば受験資格が得られるようになり、受験に対するハードルが大幅に低下した。
第三種電気主任技術者といった電気系の国家資格だけでなく、空調衛生工学会設備士といった学会資格(民間資格)であっても、取得後に2年の実務経験を積むことで受験できるため、さらに受験しやすい資格となっている。
大学、高等学校、専修学校等で「建築」「機械」「電気」に関する課程を修めて卒業後、学歴ごとに定められた実務経験を積んだ場合、受験資格を得られる。
四年制大学では実務経験2年以上、短期大学・高等専門学校では実務経験4年以上、高等学校・旧中学校では実務経験6年以上の実務経験で、建築設備士試験が受験できる。
一級建築士、一級電気工事施工管理技士、一級管工事施工管理技士、電気設備主任者といった国家資格を所持している場合、2年以上の実務経験を経て受験資格を得られる。民間資格として、空気調和・衛生工学会設備士の所持者も実務経験2年を経て受験資格を得られるようになり、受験資格が格段に広くなった。
建築設備士の合格率は、一次試験が30%前後、二次試験が50%前後となっており、総合合格率は15~20%で推移している。難易度は一級建築士と比較すると低めであるが、受験手数料35,640円を納め、かつ業務独占資格としての活用が存在しない「建築設備の専門技術者」が受験する資格として、合格率20%という数値は難関といえる。
合格基準は、建築一般知識40%以上、建築法規50%以上、建築設備50%以上を確保し、かつ合計基準点60%以上を必要とする。全体の合計基準が60%を超えていても、各々の科目で著しく点数が基準値を下回った場合、不合格とされる。
建築設備士試験は、建築設備に関する出題だけでなく、建築の計画や構造力学などの一般知識も、出題範囲に含まれている。建築の一般知識は一級建築士の試験で出題されるような専門的な内容ではなく、二級建築士の範囲に留まっている。
構造力学の出題においても同様で、一級建築士試験に出題されるような複雑な構造形状の出題はほとんどなく、基礎的な内容に留まっている。建築一般知識については、二級建築士試験の問題集を繰り返し解くことで対策が可能である。
建築設備の問題については、専門性の高い出題が多く、一級建築士試験よりも高度と考えて良い。過去の問題集のほか、一級管工事施工管理技士や一級電気工事施工管理技士の問題集もあわせて学習し、建築設備に関する幅広い知識を得ると良い。
建築士の問題集では建築設備の出題数が少なく、建築設備士試験の対策には不足である。一級管工事施工管理技士・一級電気工事施工管理技士の問題集を併用することで、より幅広く設備に関する知識を得られる。
建築一般知識の出題範囲は、主に環境工学、建築計画、構造力学、施工計画などが出題される。建築士試験でいえば、建築法規以外の科目について、まんべんなく出題されるといった傾向にある。
環境工学の範囲が広く専門的であり、これらを重点的に学習すると良い。建築法規については問題数が少なく、建築一般知識と時間が一緒となっているため、回答のペース配分を自由に振り分けられる。
建築設備士の試験は、一級建築士や二級建築士の試験と同様、製図を行う二次試験が行われる。設計概要を記載する文章を主体にした「基本計画」の課題と、作図を主体とした「基本設計」の2科目が実施される。基本設計では、与えられた建築物の条件に対し、設備計画上で留意した内容を検討し、文章として記載しなければならない。
「給排水衛生設備について留意した点」という出題がされた場合「受水槽を6面点検が可能な配置とした」「受水槽上部に1mの離隔を確保した」など、関連法規に満足した計画であることを述べていくのが基本となるが、まったく間違えたことを記載しない限り、得点のチャンスがあるので、隙間無く文章で埋めることが重要である。
マークシートによる自動採点ではなく、試験監督員が文章を読んで正誤判断していく採点方法のため、文字が汚く読めないようでは採点されない。丁寧に記載することを心掛け、読みづらい言い回しをせず、一字一句正確に記載するのが基本である。試験監督が文章を読むことを考え、わかりやすい文章で解答すべきである。
設備プロット図の作成や系統図の作図が、二次試験の出題に含まれている。電気設備を選択した場合、高圧単線結線図を作図することになる。電気設備に関わる者であれば、高圧単線結線図を書くのが良い。
製図試験の課題となる建築物は、ろ過設備を含むプールや浴場施設、セントラル方式による大規模空調を含む複合施設が選ばれることが多いが、電気設備は単純な高圧1回線受電がほとんどであり、難易度が大変低い。
高圧単線結線図を作成する場合、「継電器を記載すること」「継電器を省略して良い」といった付記がないか十分確認する必要がある。出題内容をよく読み、求められている内容を記載しなければならない。
太陽光発電など系統連系を含む設備を必要とすることが多く、どの地点で連系するのか、逆接続可能なELCBで接続するなど、実務で実施している内容が記載できればなお良い。
製図試験には、設備関係諸室のプランニングが課題として出題される。課題となる建築物の地下フロアに対し、間仕切り壁を削除した大部屋に階段、エレベータ、ドライエリアのみが記載されている平面図を渡され、「通路」「設備諸室」を記載するといった課題である。
搬入に必要な通路幅、扉幅を確保するだけでなく、建物規模に適したサイズの部屋となっているかも重要で、狭すぎて主要な機械が納まらないスペースでは大きな減点となる。
電気室と発電機室は、耐火ケーブルで接続されるため接近させないと効率が悪い。上階にトイレがある場合、排水管や給水管は上部スラブを貫通し下階に現れるため、電気室や受水槽室の女ヴ2に設けてはならない。実際の設計案件であれば、ドレンパンや漏水検知センサーなどを用いて対処する方法もあるが、試験課題でこのような考えをする合理性はなく、「上部に水回りが存在しない」ことを確認すると良い。
空調機械室からは大きなサイズのダクトが敷設されるので、上階に接続されるDSと離れすぎていると、効率が悪化する。同様に、発電機室に設けられる発電機からは、煙突が設けられるため空調とは別に煙突を収容するDSが必要となる。
これら設備機器に必要なスペースを十分検討し、設備的に間違いのない配置計画が求められる。
建築設備士試験の一次試験を突破するのは、参考書やテキストを購入し、独学でも問題ない。しかし、二次試験を独学のみで突破するのは極めて困難であり、外部講習会などを活用し、試験に合格するための学習を行うのが合理的である。
電気設備学会や空気調和・衛生工学会では、建築設備士試験の二次試験について特別講習を実施しており、これに参加すると合格率が飛躍的に高まる。受講料は25,000円程度である。
建築設備士は名称独占資格であり、業務の独占資格ではない。建築設備士でなくとも電気設備設計は可能であり、「一級建築士に対する助言」のみが行えるという、強制力のない資格である。しかし、建築設備士の資格取得者には、いくつかの特典が与えられている。
建築設備士は「二級建築士と同等以上の知識・技能を有するもの」とされる。よって、資格取得後に4年以上の実務経験を得れば、一級建築士試験を受験できる。
従来、電気設備設計者は一級建築士を受験するための受験資格を得る道筋が非常に少なく、二級建築士など専門外の資格から、長期にわたる実務経験を経て受験していた。現在では、電気主任技術者などを取得し、建築設備士を経て、一級建築士を受けるという道筋ができ、設備技術者が一級建築士を取得するためのルートが拡充された。
大規模建築物では、設備設計一級建築士が図面を確認しなければならず、一級建築士の重要性が高まっている。一級建築士を目指す設備技術者が増えていることもあり、多くのルートから建築士を目指せるというのが大きな利点となっている。
建築主に交付すべき書面、建築設備工事監理報告書、確認申請書など、公的な書類に建築設備士として記名できる。一級建築士が建築設備士に対して助言を受けることを希望し、その助言を採用した場合に限って記名することになるが、建築物の設計にあっては、できる限り建築設備士の意見を聞き、より品質の高い建築物を計画することが求められている。
一級建築士は、2,000㎡を超える大規模建築を行う場合、建築設備士の意見を聞くよう務めなければならないが、これは義務ではない。もし建築設備士の意見を聞いた場合には、記名欄に名前を記載する。
建築設備士資格を取得し実務経験が1年以上であれば、一般建設業の許可基準における専任技術者、主任技術者となれる。
経営事項審査の技術力評価の評点について、各1点を付与されるのもメリットのひとつである。ただし、一級建築士や一級施工管理技士と比べると、評点は著しく少ない。施工管理技士の資格で十分事足りるため、大きな特典とはいえないのが実情である。
防火対象物点検資格者の受講資格を得られる。建築物は防災上の点検を定期的に実施する必要があり、消防法で定められている。
建築設備士は「建築物に精通している」と認められるため、点検資格者の受講資格を得られる。ほかにグリーン購入法やESCO事業における活用等があるが、民間業務ではあまり目立った活用方法ではないため割愛する。
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