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電気設備に関わる者として、特に取得を推奨する資格として「電気主任技術者」という国家資格がある。
電気工事士、電気工事施工管理技士など、電気設備設計を行う技術者が取得すべき資格は数多くあるが、電気主任技術者資格は重要性、難易度共に高く、取得者は貴重な存在として扱われる。
高い難易度を誇る資格試験ではあるが、電気の理論、送配電、電気機械の理論、法規について深く学べる上、自家用電気設備の維持・運用は電気主任技術者でなければならないため、需要が途絶えることがないという大きな利点がある。
電気主任技術者は、発電所や変電所、需要家の受変電設備の維持管理や運用を行える資格である。電気事業法により、電気事業用及び自家用電気工作物の設置者は、電気工作物の工事、維持、運用の保安監督をさせるために、電気工作物の種類によって電気主任技術者を選任することが定められている。
電気主任技術者資格は「電験」という名称で呼ばれており、電気設備業界の登竜門の試験として有名である。工業高校や専門学校の電気学科では、在学中の取得を特に推奨している国家資格のひとつとなっている。
電気主任技術者資格は、実務経験や学歴といった規制が存在せず、誰でも受験できる国家資格である。電気工学に関する学校を卒業するといった規制がなく、電気技術者試験センターの試験案内に基づいて受験申し込みを行い、筆記試験を受験して所定科目を全て合格できれば、電気主任技術者の免状を得られる。
これは第三種・第二種・第一種全て共通であり、どの資格であっても年齢や学歴に関する制限は設けられていない。下位資格から順に取得する必要はなく、極めて難易度は高いが、はじめに第一種電気主任技術者免状に挑戦することも可能であり、人気の一つとなっている。
第三種電気主任技術者は、電気主任技術者資格の中で最も下位に位置する区分である。第三種の免状を取得することで「50,000V未満の電気設備」「5,000kW未満の発電設備」の維持・運用・管理が可能となる。自家用電気工作物は電気主任技術者が維持管理しなければならず、これは法律で定められている。
通常、オフィスビルや商業施設など、多くの建築物に採用されている高圧受電設備は「3,300~6,600V」の自家用電気工作物であり、高圧でありながら比較的低い電圧範囲に留まっている。
第三種電気主任技術者の維持管理範囲は50,000V未満と定められており、第三種電気主任技術者の免状取得者であれば十分管理できる電圧範囲となる。第三種の取得によって、国内に設けられている大多数の受変電設備が管理できるため、需要が多く、大変人気が高い。
50,000V未満の電気設備を運用できる第三種電気主任技術者免状を取得していれば、これら電気設備の維持管理業務を行える。オフィスビル、工場、店舗など、あらゆる建築物で高圧受電を採用する可能性がある。
一定規模以上の電力を必要とする建築物は、高圧受電としなければならず、自家用工作物を設置することになる。一般的に「49kWを超える電力が必要となる建築物」は、原則として高圧受電としなければならないと定められており、高圧受電を行っている施設は極めて数が多い。
これら電気設備を維持管理する電気主任技術者は、常に人数が不足しており、かつ高齢化が進んでいるため若手による取得が強く求められている。
首都圏では、スポットネットワーク方式と呼ばれる特別高圧による受電方式が普及している。受電電圧は22,000Vと比較的高く、特別高圧という高い電圧を扱う受電方式でありながら、第三種電気主任技術者が取り扱える電圧範囲であるため、東京都内であれば、第三種電気主任技術者が管理可能である。
地方都市などで特別高圧受電を行う大規模施設の場合、スポットネットワーク方式による配電網が整備されていないため、66,000Vの特別高圧受電が用いられる。東京都内など、スポットネットワーク方式が普及しているエリアであっても、地域によっては66,000Vによる特別高圧受電を求められる場合があり、必ずしも22,000Vでの受電が可能というわけではない。
50,000Vを超える受変電設備は、第三種電気主任技術者では運用できない。170,000Vまで維持管理できる「第二種電気主任技術者」または維持管理の対象電圧に規制のない「第一種電気主任技術者」の免状を取得した設備管理者が求められる。
電気主任技術者試験の難易度は、工業高校の電気科卒業程度の内容とされている。高校程度といっても試験難易度は高く、電気理論は第一種電気工事士の試験問題に類似している。
学科試験範囲は第一種電気工事士と一部類似しているが、電気設備工事に関する出題はほとんどなく、電気理論や電気機械、法規、発電・送配電、電気化学など、理論的な出題が多い傾向にある。電気工事士の試験と違い、工具を用いて回路を組み立てるような実地試験はなく、筆記試験だけが行われる。
合格率は例年10%程度とされていたが、平成23~24年に掛けて著しく合格者が減少し、合格率6%を切るという難関資格となった。近年も大きく変わらず、合格率は10%前後である。
試験科目は「理論」「電力」「機械」「法規」の4科目となっている。それぞれ科目合格が認められているため、一度に全科目を合格する必要はない。数年間に渡って試験を繰り返し、数年書けて合格する受講者も数多い。
科目合格はそれぞれ3年まで有効であり、1~2年目に一部の科目しか合格できなくても、最大で3年を使い、科目合格を繰り返して免状を取得する受講者も多い。科目合格の有効期間は3年間であり、3年目に合格できなければ合格の権利が消失し、再度試験を受けなければならない。
電気理論は、電気工事士試験で行ったオームの法則やキルヒホッフの法則だけでなく、鳳テブナンの定理、帆足ミルマンの定理といった電気理論のほか、磁気回路、三相交流回路、電子回路など幅広い範囲から出題される。ほとんどが計算問題であり、記述問題は多くない。
コイルとコンデンサの特性の違いなど、電気工事士の試験に含まれる学習範囲であるが、公式・定理を当てはめた応用計算が求められるため、4科目の中では比較的難易度が高い。
電磁気や直流回路だけでなく、トランジスタを含む電子回路に関する計算問題も多く出題されている。
電力は、水力発電、火力(汽力)発電など発電所の出力を求める計算問題のほか、コンバインドサイクル発電など各種ある発電方式の特徴や効率の違い、新エネルギー発電など、発電設備に関わる試験問題が多数出題される。
発電だけでなく、送配電設備に関する出題も多く、電線路の電圧降下や、送電線に発生する現象と対策、落雷に対する保護、高調波対策など、出題の多くが「外線」に関わる内容であり、建築物の「内線」に関わる実務者が、直接これらに関わる機会がほとんどないため、聞きなれない用語が多い分野である。
火力や水力発電だけでなく、原子力発電の出題も用意されている。PWRとBWRの違いなども、出題に含まれている。
直流機、誘導機、同期機といった電動機の特性に関する出題のほか、変圧器の結線方法の違いによる特性の変化など、殆どが電気機器に関する内容と鳴っている。内線で用いられる電気機器が多く、電力の科目よりも身近な設備は多い。
電動機と変圧器の出題が半数を占めるほか、照明や電池、サイリスタなどの電子デバイス、電熱、自動制御、プログラミングなども出題範囲に含まれる。照明用語は実務経験者であれば間違えることはないが、計算ソフトを用いずにて計算で照度を算出する出題が、B問題で出題されることがある。
電気設備技術基準、電気設備技術基準の解釈、電気事業法など、各種ある電気法規からの出題が大半を占める。ほとんどが暗記であり、空欄を埋める出題であるが、B問題のみ、計算問題を含んでいるため注意を要する。
計算問題は、電柱の根入れや、架線の強度などが出題例として挙げられる。電線の許容電流や、温度による補正の数値を、実際の計算で求めるといった問題も、過去に 出題されている。
電気主任技術者の免状を取得するためには、学科試験による方法の他に、経済産業省の認定を受けるという方法がある。電気に関する大学等で単位を取得し、所定の期間、電気設備の維持管理や運用、工事に従事すれば試験が免除され、認定手続きを行うことで試験を受けずに電気主任技術者免状を取得できる制度である。
第三種電気主任技術者免状を認定取得するためには、前提として大学や高等専門学校など、所定の教育施設において電気工学に関する学科を卒業し、かつ電圧500V以上の電気工作物の工事・維持・運用を所定の年数以上行なっていることが前提となる。
認定による免状取得では、実際に管理した際の安全対策や、管理した電気設備の特徴などを面接として質問されるため、適切な回答ができなければ何度も再試験となるといわれる。
電気主任技術者として電気設備の管理業務に付く場合、試験取得による免状取得と、認定取得による免状取得に違いはなく、管理できる電気設備の範囲についても違いはない。
第三種電気主任技術者の上位資格として、第二種電気主任技術者、第一種電気主任技術者がある。第二種、第一種は維持管理・運用可能な電圧範囲が高く、電力会社の変電所や発電所など、高い電圧を用いた電気機器を維持・管理・運用する場合に必要となる資格である。
第二種電気主任技術者は、第三種電気主任技術者の電圧範囲を超え、17万ボルト未満の電圧の電気設備を管理できるため、66,000Vで受電する需要家の電気主任技術者として活躍できる。
大規模な工場や商業施設などでは、高圧受電では電気容量が不足するため、66,000Vによる特別高圧受電を必要とする事が多い。大規模需要家では、第二種電気主任技術者の免状を取得している技術者による施設運用が不可欠となる。
50,000Vを超える電気を受電する大規模工場やビル、商業施設では、第二種電気主任技術者の免状取得者の専任が義務付けられるため、免状取得者のニーズは極めて高く、さらに取得者の少なさもあり、資格取得者は非常に希少である。
資格試験は難しく、電気に関する専門大学卒業と同等の知識が求められる。試験は誰でも受験できるが、第三種と違い、一次試験と二次試験に合格しなければならない。一次試験は電気理論、電力、機械、法規の4種類であるが、二次試験ではパワーエレクトロニクスなど高度な専門技術を問われる試験が行われるため、さらに高い難易度となる。
一般財団法人電気技術者試験センターの公開情報によれば、一次試験の受験申込者は7,000~8,000人で推移しており、合格者は1,500~1,800人である。合格率は15~20%となる。
続いて実施される二次試験は受験者2,000~2,500人と少なく、合格者は300人程度と難関である。二次試験の合格率は10~12%であが、一次試験と二次試験を合わせると、合格率3%を下回る難関試験であることがわかる。
第二種電気主任技術者免状を認定取得するためには、大学や高等専門学校など、所定の教育施設において電気工学に関する学科を卒業し、かつ電圧10,00V以上の電気工作物の工事・維持・運用を行なっているか、第三種電気主任技術者免状を取得し、同様に電圧10,000V以上の電気工作物の工事・維持・運用を所定の年数以上行なっていることが求められる。
第一種電気主任技術者は電気主任技術者資格の最上位で、管理できる電圧の規制はなく、超高圧の発電所から末端の需要家まで、どのような電圧の電気設備であっても維持・管理・運用できる。
発電所や変電所などは17万ボルトを超えるので、電力会社の電気事業者において使用される資格といえる。第二種電気主任技術者よりもさらに免状取得者が少なく、年間数十人程度しか合格していない。
試験範囲は第二種電気主任技術者と同様、二次試験まで実施される。試験範囲は第二種と同様であるが、問われる出題内容はより高度な専門知識を要する。
第一種電気主任技術者免状を認定取得するためには、大学や高等専門学校など、所定の教育施設において電気工学に関する学科を卒業し、かつ電圧50,00V以上の電気工作物の工事・維持・運用を行なっているか、第二種電気主任技術者免状を取得し、同様に電圧50,000V以上の電気工作物の工事・維持・運用を所定の年数以上行なっていることが求められる。
第二種電気主任技術者の情報と同様、一般財団法人電気技術者試験センターの公開情報による数値を確認すると、一次試験の受験申込者は2,000人前後で推移しており、合格者は300人~400人、合格率は同様に15~20%となる。
二次試験は受験者700~800人であり、合格者は50~100人程度で、合格率は7~15%である。一次試験と二次試験を合わせると合格率は2%を下回り、第二種電気主任技術者試験よりも低くなる。
電気設備設計の実務において、電気主任技術者免状の有無は業務に関係なく、資格の有無によって電気設計の業務範囲が限定されることはない。電気主任技術者でなくても、電気設備設計の業務を行うことは可能であり、制限は存在しない。
しかし、建築物を設計・監理するにあたり、電気の知識を持つことは非常に重要である。自らが設計した電気設備を管理する電気主任技術者に対し、施設の運用方法や設計思想を説明する際に、電気主任技術者免状を取得している設計者が説明するのであれば、より設計内容の説得力を高められるほか、詳細な図面説明も可能となる。
電気工事士、電気工事施工管理技士、電気主任技術者の3つは、電気に関する知識をより高める事ができる資格試験であり、設計者の知識向上のためにも、取得することが望まれる。
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