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ライティングにおけるプルキンエシフト現象

プルキンエシフト(Purkinje Shift)は、周囲の照明レベル(明るさ)が変化することによって、人間の視覚における「色の見え方(明るさの感度)」が変化する現象である。チェコの生理学者ヤン・エヴァンゲリスタ・プルキンエによって発見されたこの現象は、明るい環境(明所視)と暗い環境(暗所視)において、網膜内で働く視細胞の特性が切り替わることに起因している。

具体的には、明るい日中から薄暗い夕方へと移行するにつれて、赤色系の色が黒ずんで暗く見えるようになり、逆に青色系や緑色系の色が相対的に鮮やかに、そして明るく浮き上がって見えるようになる。同じ物体であっても照明条件によって色の印象や視認性が大きく変化するため、建築や屋外空間の照明計画において極めて重要な考慮事項として位置づけられている。

プルキンエシフトの仕組みと視細胞の働き

人間の網膜には、光を感じ取るセンサーとして「錐体(すいたい)細胞」と「桿体(かんたい)細胞」という2種類の視細胞が存在する。

  • 錐体細胞:明るい環境で機能し、色彩を識別する能力を持つ。分光感度のピークは約555nmの黄緑色付近にある。
  • 桿体細胞:暗い環境で機能し、色は識別できないがわずかな光の明暗を感知する能力を持つ。分光感度のピークは約507nmの青緑色付近にある。

明るい環境下では錐体細胞が主に働き、赤や黄色の波長を明るく感じる。しかし、周囲が暗くなり照度が低下すると、錐体細胞の機能が衰え、代わりに桿体細胞が視覚の主要な役割を担うようになる。桿体細胞は青緑色の短波長に対して最も高い感度を示すため、結果として暗闇の中では青色系の色がより明るく知覚されるようになる。この網膜内での主役の交代が、プルキンエシフトを引き起こす根本的な仕組みである。

照明設計への影響と色温度の選択

この視覚特性を考慮した一般的な設計手法として、使用環境の想定照度に応じた適切な色温度の選択が挙げられる。駐車場や夜間の公園といった低照度環境においては、暖色系(赤・オレンジ)の光源を使用するよりも、青色成分を多く含む高色温度(青白色系)の光源を使用する方が、人間の目には空間全体がより明るく感じられる。

夜間照明や非常用避難誘導灯などにおいて、この特性を逆手に取ることで、同じ消費電力(物理的な照度)であっても視覚的な明るさ感を向上させ、省エネルギーでありながら十分な視認性と安全性を確保する合理的な照明計画が可能となる。

屋外・建築照明への具体的な応用例

実際の街路灯や防犯灯の設計において、従来のオレンジ色に光る高圧ナトリウム灯(約2000K)から、青色成分を含む白色LED(5000K~6500K)への置き換えが進んでいるのは、省エネ性だけでなくプルキンエシフトの効果による夜間視認性の向上も理由のひとつとされている。青白色系の光源により、歩行者のシルエットや路面の障害物、白線のコントラストがより明確に認識できるようになり、交通事故や犯罪の防止効果が期待されている。

また、建築物のライトアップにおいても、石材や打ち放しコンクリートの表面に高色温度の光を当てることで、低照度であっても素材の立体感や冷涼な質感を鮮明に浮かび上がらせる効果的な演出が行われている。

メラノピックや暗順応との関係性

近年、照明工学において注目されている「メラノピック(非視覚的光作用)」とプルキンエシフトは、いずれも青色光などの短波長成分が人体に与える影響として密接に関連している。青色光は夜間の視認性を高める一方で、睡眠を促すメラトニンの分泌を抑制し、人間の概日リズム(サーカディアンリズム)を覚醒させる作用を持つ。

そのため、住宅地や病室などの夜間照明においては、プルキンエシフトによる安全性(明るさ感)の確保と、メラノピックによる生体リズムへの悪影響(光害)のバランスを慎重に取る必要がある。時間帯によって色温度を変化させる調光・調色システムを導入し、適応する仕組みをコントロールすることが求められる。

S/P比を用いた分光測定と実環境での評価

プルキンエシフトの影響を定量的に評価し、設計に反映させるための指標として「S/P比(Scotopic/Photopic ratio)」が用いられる。これは、光源の分光分布測定を行い、暗所視(桿体細胞の感度:Scotopic)と明所視(錐体細胞の感度:Photopic)の相対的な比率を数値化したものである。

S/P比の値が高い光源ほど、暗い環境下での視認性向上効果(明るく見える度合い)が大きいことを示している。実際の照明設計現場では、このS/P比のデータに基づき、被験者を用いた主観的な見え方の評価と客観的な視機能測定を組み合わせて、その空間に最適なランプの種類と照度基準を決定している。こうした人間の生理的な特性の理解に基づくアプローチが、エネルギー効率と快適な視環境を両立する次世代の照明設備構築を支えている。

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