突入電流
突入電流(インラッシュカレント)は、電気機器の電源を投入した瞬間に、定常状態で流れる定格電流よりもはるかに大きな電流が一時的に流れる過渡現象である。その最大値は定格電流の数倍から数十倍に達することがあり、時間が経過して機器の動作が安定するに伴い、本来の定常電流へと急激に収束していく。
配線用遮断器や漏電遮断器が設置されている回路において、この突入電流を短絡や過負荷事故と誤検知してしまい、不要なトリップを引き起こす原因となる。また、大きな電圧降下やノイズを発生させ、同一系統の他の機器に悪影響を及ぼすおそれがあるため、慎重な検討が求められる。
コンデンサ負荷とスイッチング電源における発生メカニズム
突入電流が発生する代表的な要因のひとつが、電気機器の電源回路に組み込まれている大容量の平滑コンデンサである。パソコン、LED照明の電源ドライバー、インバータ機器などに広く採用されているスイッチング電源では、交流を直流に整流した直後にコンデンサを配置している。
電源を投入した瞬間、内部のコンデンサは電荷が空の状態(電圧ゼロ)であるため、電気的には短絡状態に等しい。この空のコンデンサを一気に充電しようとして、電源系統から短時間に大きな充電電流が流れ込む。コンデンサへの充電が完了すると、電流は通常の動作レベルへと落ち着く。
白熱電球のフィラメントにおける抵抗温度特性
通電する導体の温度変化による電気抵抗値の変動も、突入電流を引き起こす大きな要因となる。その典型例が、タングステンフィラメントを用いた白熱電球やハロゲンランプである。
タングステンは、常温(冷え切った状態)では電気抵抗が非常に小さく、通電して白熱化(数千度まで加熱)すると抵抗値が十数倍に跳ね上がるという「正の温度係数」を持っている。そのため、スイッチを入れた直後の冷たい状態では、定常点灯時の約10倍から15倍もの大電流が瞬時に流れる。白熱電球がスイッチを入れた瞬間に「パシッ」と音を立てて切れやすいのは、この過大な突入電流の熱衝撃によって劣化していたフィラメントが焼き切れるためである。
変圧器の励磁突入電流と保護協調
高圧受変電設備に設置される電力用変圧器に無負荷状態で電源を投入した瞬間にも、特有の大電流が流れる。これを「励磁突入電流」と呼ぶ。これは、電源遮断時に鉄心内部に残っていた残留磁束と、再投入された瞬間の交流電圧の位相のタイミングが悪く重なった際、鉄心が磁気飽和を起こしてインピーダンスが急激に低下することで発生する。
励磁突入電流の大きさは変圧器の容量や特性によって異なるが、一般的に「定格電流の約10倍の大電流が0.1秒間継続する」という厳しい条件で設計計算が行われる。この巨大な電流によって高圧盤の過電流継電器(OCR)が誤動作(もらい事故)を起こさないよう、継電器の動作時間特性(タイムレバー)を遅延させるなど、確実な保護協調を計画しなければならない。
始動電流との違いと設備側における抑制対策
なお、三相誘導電動機(モーター)などを起動する際に流れる大電流は「始動電流」と呼ばれ、回転子が定格回転数に達するまでの数秒から数十秒間継続する現象であり、ミリ秒単位で収束する突入電流とは物理的なメカニズムが異なるため、区別して設計される。
電気機器や設備側において突入電流の悪影響を抑制するためには、回路設計と保護機器の選定に工夫が必要となる。
- 突入電流制限回路の搭載:大型機器の場合、スターデルタ始動機やコンドルファ始動機といった、始動電流を抑制する始動機を設ける。
- 遮断器の特性選定:突入電流が発生する多数のLED照明回路やコンセント回路では、負荷を接続しすぎないよう制限し、ブレーカーの不要動作を防止する。












