非常電源
法規制に基づく保安電源の確保
非常電源は、火災や地震などの災害時に商用電源が遮断された場合であっても、防災設備や避難設備が所定の機能を維持できるよう、法令に基づき設置が義務付けられた予備電源設備である。
設置対象や性能要件は主に消防法と建築基準法によって規定される。消防法では屋内消火栓ポンプ、スプリンクラー設備、非常コンセント設備などの「消火活動・人命救助」に必要な設備への供給を目的とし、建築基準法では非常用照明、排煙設備、非常用エレベーターなどの「避難・排煙」に必要な設備への供給を目的としている。実務上は、これら両方の負荷を一台の非常用発電機で賄う設計が一般的である。
電源種別と適用範囲
非常電源として認められる設備は、法令により以下の種別に分類され、供給対象となる設備の特性や容量に応じて選定される。
- 非常用自家発電設備:ディーゼルエンジンやガスタービンを原動機とする発電機。大容量かつ長時間の運転(数時間以上)が可能であり、スプリンクラーポンプや大型排煙機、エレベーターなどの動力負荷に適している。ただし、始動から電圧確立までに時間を要するため、即応性が求められる負荷には不向きである。
- 蓄電池設備:鉛蓄電池やリチウムイオン電池を用いた直流電源、またはUPS(無停電電源装置)。瞬時に電力を供給できるため、誘導灯、非常放送設備、制御盤の操作電源などに用いられる。容量に限りがあるため、大容量動力の長時間運転には適さない。
- 非常電源専用受電設備:電力会社から専用の引込線を用いて受電する方式。火災時に当該建物への送電が停止しないよう、耐火性能を有する専用のキュービクルや電線路が必要となる。
始動時間と運転時間の規定
非常電源の性能において重要な要素が始動時間(電源確立までのタイムラグ)と運転時間(継続供給能力)である。
自家発電設備の場合、商用電源停電の検知から電圧確立・負荷投入までを40秒以内に行うことが消防法で規定されている。一方、即時性が求められる非常放送や非常照明では、蓄電池による瞬時切替または10秒以内の点灯が求められる。
運転時間については、対象設備によって異なるが、一般的に消火設備では30分以上または60分以上、非常用エレベーターや排煙設備では30分以上または60分以上の燃料保有量やバッテリー容量が要求される。大規模建築物や高層ビルでは、消火活動が長期化することを想定し、法規制値以上の燃料を備蓄するBCP(事業継続計画)対応の設計も推奨される。
容量計算と定格出力の選定
非常用発電機の容量選定にあたっては、接続される全ての負荷を単純合計するのではなく、始動電流が最も大きい電動機(主に消火ポンプ)が最後に始動する最悪のケースを想定した計算を行う「最大最終投入方式」で計算するのが一般的である。
特に電動機の始動時は、定格電流の5倍から8倍程度の突入電流が発生するため、これによる電圧降下で他の機器が停止しないよう、発電機の瞬時許容電圧降下率を考慮した計算手法を用いて、適切なkVA容量を決定しなければならない。
非常電源による防災電源の必要運転時間
| 消防用設備 | 専用受電設備 | 自家発電設備 | 蓄電池設備 | 容量 |
|---|---|---|---|---|
| 屋内消火栓設備 | △ | ○ | ○ | 30分間 |
| スプリンクラー設備 | △ | ○ | ○ | 30分間 |
| 水噴霧消火設備 | △ | ○ | ○ | 30分間 |
| 不活性ガス消火設備 | - | ○ | ○ | 60分間 |
| 粉末消火設備 | - | ○ | ○ | 60分間 |
| 自動火災報知設備 | △ | - | ○ | 10分間 |
| ガス漏れ警報設備 | - | - | ○ | 10分間 |
| 非常警報設備 | △ | - | ○ | 10分間 |
| 誘導灯 | - | - | ○ | 20分間 ※1 |
| 排煙設備 | △ | ○ | ○ | 30分間 |
| 連結送水管 | △ | ○ | ○ | 120分間 |
| 非常コンセント | △ | ○ | ○ | 30分間 |
| 無線通信補助設備 | △ | - | ○ | 30分間 |
※1 消防庁長官が定める要件に該当する防火対象物は60分間












