電気設備の知識と技術 > 受変電設備の基礎知識 > 非常電源専用受電設備
非常電源専用受電設備は、自家発電設備、蓄電池設備、燃料電池設備などを使用せず、電力会社から受電する電源を非常電源とみなして運用する方式である。受電設備を非常電源専用受電設備の基準に適合させることで、消防設備の非常電源として使用できる。
自家発電設備や蓄電池設備を非常電源として利用する計画の場合、機器本体の設置コスト、設置スペースの確保、燃料の確保と維持などが必要になり、イニシャルコストとランニングコストの増大につながるため、できる限り設置せずに建築計画を行うべきである。
しかし、特定用途の防火対象物や一定規模以上の防火対象物では、消火設備の設置が義務付けられるので、これに電源を供給するための非常電源の設置が必要となる。
小規模建築物や、不特定多数が使用しない限定的な建築物では、電気設備工事における非常電源コストが大きくなるため、低コスト化を考える場合は専用受電による計画を検討すると良い。
専用受電設備は「電力会社の電源に信頼性があること」を前提にしている。日本国内では停電がほとんど発生せず、これを防災電源として活用できる仕組みである。ただし、地震や落雷による瞬時電圧低下や、一時的な停電はゼロではなく、万が一停電発生中に火災が置きた場合、消防用設備への電源供給も経たれてしまうというリスクを内包している。
非常用発電機や蓄電池は、防災設備への電源供給だけでなく、緊急時の保安電源として活用できるため、東日本大震災後は、BCPの観点から保安電源の確保が注目された。複数の電源を所持することでフレキシブルな対応が可能になるが、BCP対応を考慮する場合は、発電機の設置を検討すると良い。
専用受電設備を非常電源として良い消防用設備等は、下記に限定されており、これに記載がない消防用設備への電源供給は不可とされている。
非常電源専用受電設備は、採用が可能な面積に制限がある。不特定多数が利用する、比較的危険性の高い「特定防火対象物」の場合、1,000㎡以上の規模では専用受電を適用できないため、非常用発電機等を設置しなければならない。
16項イの防火対象物の場合は、特定用途となる部分の床面積が1,000㎡以上となる場合、同じく適用できないため、計画に際しては注意を要する。
専用受電設備は、点検が容易な場所で、かつ火災の被害を受けない場所に設置するのが原則である。他の電気回路の遮断器や開閉器で回路が遮断されないこと、専用の開閉器には消防用設備等であることを表示することなどが、定められている。
高圧や特別高圧で受電する場合でも、専用受電設備の採用が可能である。
不燃材料で造られた壁・床・天井で区画され、窓や出入口に防火戸を設けた専用室に、専用受電設備を設置することが求められる。専用室を作らない場合は、建築物から3m以上離隔するか、主要構造部を耐火構造とした建築物の屋上(ペントハウスなどから3m以上離隔が必要)に設置しなければならない。
建築物からの離隔が確保できない場合は、建築物の外壁や仕上げ面を不燃材料とし、かつ開口部がある場合は防火戸を設けることで対応可能である。
建築物を耐火構造にできない場合、離隔距離が3m以上確保できない場合など、上記の対応がすべて不可能な場合は、キュービクル側の耐火性能を高めることで対応も可能である。
「キュービクル式非常電源専用受電の基準」に適合した認定キュービクルを設けることで、建物側が不燃材料でない場合でも、専用受電設備としての認可を受けられる。認定キュービクルは内部機器の増設の改造をしてはならない。万が一改造をすると、認定が失効するので注意が必要である。
低圧受電の計画において、非常電源専用受電設備を採用する場合、「配電盤又は分電盤の基準」に適合する第1種配電盤・第1種分電盤を使用する。設置場所は高圧や特別高圧受電と同じく、不燃専用室の内部、屋外で建築物から3m以上離隔した場所、耐火構造とした建築物の屋上に限定される。
専用受電設備は、有効な保有距離を確保することが定められている。
規制される部分 | 操作面 | 点検面 | 換気面 |
---|---|---|---|
配電盤・分電盤 | 1.0m以上 | 0.6m以上 | 0.2m以上 |
※操作面が相互の場合 | 1.2m以上 | - | - |
変圧器・コンデンサ | - | 0.6m以上 | 0.1m以上 |
※操作面が相互の場合 | - | 1.0m以上 | - |
キュービクル周囲(屋内) | 1.0m以上 | 0.6m以上 | 0.2m以上 |
キュービクル周囲(屋外) | 1.0m以上 | 1.0m以上 | 1.0m以上 |
キュービクルと他設備 | 1.0m以上 | 1.0m以上 | 1.0m以上 |
消防用設備に電源供給する専用受電設備は、上位にある受電用の遮断器や負荷開閉器よりも先に遮断するよう保護協調を図らなければならない。消防用設備等の専用変圧器を設ける場合は、他の一般負荷用変圧器と区分できるよう、専用の負荷開閉器を設ける。
消防用設備専用に変圧器を設ける事例は少なく、他の一般負荷と共用する変圧器から電源供給する場合が多い。配線用遮断器がひとつの変圧器に多数設置するが、定格電流の合計は、変圧器二次側定格電流の2.14倍以下にしなければならない。
2.14倍という数値は「不等率1.5 / 需要率0.7」という計算式から定められている。過負荷を検出した瞬間に一般負荷回路を遮断する装置を設けた場合であれば、2.14倍以下の制限を除外して計画できる。
非常電源専用受電設備の引込ケーブルは、消防法や施行令に明確な表現がない。多くの場合は、受電点からキュービクル一次側までを耐火ケーブルとするように指導される。一部の自治体では、地中埋設、屋外布設などで、火災を受けるおそれがない場所にケーブルが敷設される場合は、耐火ケーブルを使用しなくても良いと判断している。
通常の建築物内部ではケーブルが火災被害を受けるおそれがあるが、機械室やシャフトなど、火災のおそれができるだけ少ない室だけを通過するように配線計画を行い、かつCVケーブルなど難燃性の電線を用い、かつ金属管に収容した場合には、耐火ケーブルとしなくても良い場合がある。これも所轄消防との協議が重要である。
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