電気設備の知識と技術 > 受変電設備の基礎知識 > 電気事故の事例
受変電設備は、遮断器、断路器といった開閉装置のほか、変圧器、保護継電器など、各種電気機器を組合せた装置であり、それぞれ耐用年数や寿命が存在する。これら部品やケーブルは経年劣化によって故障することがあり、劣化の進み具合によっては電気事故につながる。
電気事故の多くはケーブルの絶縁劣化による地絡事故であり、引込ケーブルや開閉器、遮断器、高圧母線といった部分が、事故の半数程度を占めている。
電気機器やケーブルの劣化による地絡事故以外にも、盤内部に小動物が侵入して相間短絡を引き起こすといった事例もある。
引込ケーブルや絶縁電線、高圧母線などは絶縁劣化診断を定期的に行い、事故が発生する前に補修や交換を行うと良い。きめ細やかな点検だけでなく、点検しやすい設計・計画を行い、電気事故を予防することが重要である。
電力会社から受電した電力は、敷地内の電柱やハンドホールを経由して、受変電設備に送電される。引込部の高圧ケーブルは外気、日射といった日常的な劣化要因のほか、落雷による事故も考えられ、屋内敷設と比較しても極めて過酷な環境である。
高圧ケーブルの事故には、ケーブルが熱や湿気で劣化し、シース内部の導体と遮蔽層が絶縁破壊し、地絡事故を発生させるといった事例があり、数年ではっせいするものは少ない。道路工事などで物理的な損傷を受ける事例を除き、通常の屋外敷設であれば15~20年以上の耐久性を確保出来るのが一般的である。
屋外引込部に接地される気中開閉器(PAS)は、雷撃、雨、塩分、日射など多くの自然現象の影響を受けやすく、絶縁劣化の進行が早い部分である。
気中開閉器はでん町長部に設置されている事が多く、落雷事故の影響を受けやすい。落雷による内部機器破壊による絶縁破壊だけでなく、塩分や雨水による腐食が発生し、内部に湿気や雨水が流入することによる地絡など、自然現象による経年劣化による事故が大半を占めている。
屋内やキュービクル内に敷設されている高圧母線は、自然環境の影響を受けての事故は少ないが、鳥獣が進入することで内部配線や銅バーに接触して短絡事故を起こすことがある。通常、一定サイズ以上の物体が入り込まないよう開口制限が施されているが、換気口はフィルターなどで閉塞しておくのが望ましい。
鳥獣の侵入は、換気口だけでなくケーブル導入部も対象となる。換気口へのフィルター設置だけでなく、ケーブル導入部のパテ塞ぎなど、侵入経路を断つよう施工する。
高圧機器では、ケーブルや継電器よりも、変圧器やコンデンサでの事故が多い。変圧器は、過負荷による異常過熱で内部巻線が焼損したり、絶縁油の劣化による絶縁不良が考えられる。コンデンサは、高調波の影響を受けやすい部材であり、内部素子が劣化し、素子間短絡が発生するといった事例がある。
CTやVTといった機器の事故はあまり多くなく、経年劣化による地絡事故がほとんどである。
電力ヒューズは、事故電流による溶断や、過負荷による損傷を受けやすく、定期的な交換を要する。事故電流や、事故電流に近い電流を受けたヒューズは、一式交換を必要とする。
断路器や遮断器は、開閉回数が耐久回数を超過することによる劣化が考えられる。これら開閉機構を持つ部品は、定められた開閉回数があるので、開閉回数の記録を確実に残し、超過した遮断器や開閉器は定期交換すべきである。
VCBやVMCなど、一部の機器には動作回数カウンターが搭載されているが、手動で開閉するDSやLBSなどには存在せず、電気管理者による記録が不可欠となる。
波及事故とは「電圧3,000V以上の自家用電気工作物の故障等により、一般電気事業者に供給支障事故を発生させた事故」とされている。6,600Vで受電している需要家内で事故が発生した場合、需要家内に接地されている高圧遮断器やヒューズなど、各種保護装置によって事故点が遮断され、電力会社に影響が発生することはない。
しかし、保護装置の整備不良や、保護装置よりも上位の箇所で事故が発生し、需要家内で事故が遮断できなかった場合、電力会社配電線の保護装置が動作し、周辺の停電を伴った事故になってしまう。
電力会社は、変電所に設けられている「再閉路継電器」を動作させて配電線の復旧を行い、送電を始める。事故を発生させた需要家の事故点が切り離されており、再送電を受けた時点で近隣が問題なく復電できれば、波及事故扱いとはならない。
しかし、事故を発生させた需要家の系統が切り離されていなければ、電力会社は二回目の停電となり自動復旧することはない。この状態は「波及事故」として扱われ、発生させた需要家は電気事故を発生させた責任を負うこととなる。波及事故を発生させた場合、経済産業省へ48時間以内に速報を、30日以内に詳報を提出する義務を負う。
波及事故を発生させた場合、付近一帯の需要家が停電によった被った損害を補償しなければならず、費用も多大となる。
波及事故の原因は、その多くが「保守不完全」であり、高圧ケーブルを切られたり、車両接触や破壊といった人為的な被害は多くない。高圧ケーブルや保護装置が正常に動作していることを定期的に確認し、事故を未然に防ぐのが電気主任技術者の使命となる。
電気工作物は、電気事業法によって定期的な点検が義務付けられている。電圧30V以上の電気工作物は、月1回以上の日常的点検と、年1回以上の定期点検を電気主任技術者他関係者が実施し、点検記録を保管しなければならない。点検頻度は、電気工作物の規模や重要性を鑑みて、電気主任技術者によって作成された「保安規程」に基づいて実施される。
電気設備の点検状況を行政に報告することはなく、電気主任技術者が自主的に点検した記録を保管するのが基本となる。しかし、経済産業省から立入検査を受けた場合、高圧受変電設備の点検記録を提示し、適切に点検し、維持管理していることを示さなければならない。
点検記録の保管期間は、これも保安規程に基づくことになる。
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