電気設備の知識と技術 > 受変電設備の基礎知識 > キュービクルの設置計画と法的規制
2024.3.31
キュービクルは、奥行き・高さともに2.5mほどにもなる大型の鉄箱であり、その設置位置は建築計画に大きな影響を及ぼす。キュービクルを設置する場所については建築計画への影響が甚大であり、階高や有効高さ、梁の位置と高さ、扉寸法などを考慮し、搬入がスムーズに行えるように計画する。
「工事中には搬入据付が可能」であっても、施設の利用開始後にキュービクルの内部機器が交換できなかったというのは問題である。運用開始後のメンテナンスも含めて「いつでも交換ができる」計画が必須事項である。
キュービクル内には電力会社支給のVCTが取り付けられ、21年に1度交換が必要とされている。変圧器の交換と同様、容易に点検や交換が可能なよう、搬入や搬出のスペースを確保することが重要である。
原則として、キュービクルは毎日点検しなければならないものであり、垂直はしご(タラップ)による計画は避け、しっかりとした階段を設けると良い。
キュービクルは建築物における電力拠点となる設備であり、建物へ供給する電力の起点となる。キュービクルの設置場所が、需要場所から離れてしまうと、幹線ボリュームが変動しコストに大きな影響を及ぼす。キュービクルを設置する場所は、需要場所を中心にして、できる限り隣接した位置とするか、大容量の負荷設備の近辺に設けることが望まれる。
幹線ケーブルは長ければ長いほどコストが架台になり、かつ電圧降下を引き起こすので、低圧ケーブルを長距離敷設するのは避けて配置計画を行う。電気設備における幹線はコストの大半を占める重要設備であり、ケーブルサイズが小さいほど、短いほど建設費を圧縮できる。
大きなケーブルを敷設することの多い「非常用発電機」「蓄電池」「空調室外機」の近くにキュービクルを配置できれば、幹線ケーブルのサイズを細く短くできるため、コストの大幅な圧縮が可能である。
キュービクルの日常点検に、各種計器類の目視確認がある。電圧や電流、電力量計に表示されている数値を日々記録することで安全な運用が可能になるが、これは雨天時であっても行う必要があり、屋外設置のキュービクルの扉を不用意に開放して内部に雨が侵入すると、汚染による絶縁抵抗の劣化を引き起こす。
扉面に検針窓を設けることで、扉を開放せずに計器が読める。近年はひとつの計器で電圧・電流・電力量の指針が切り替えられるマルチメーターが主流であるが、扉を開けなければ切り替えができない。受電点など重要部分の計器は、アナログメーターとして全ての指針を同時に読むことを考えるのも良い。
計器の取付位置が高過ぎると、身長の低い設備管理者では、目視による視認が困難である。計器の取付高さは床面から1.5mを基本として、目視確認がしやすい高さとすべきである。
箱体の高さは2,300~2,350mmが一般的であるが、配線を下部から引き込む場合、基礎高さを加算するとキュービクルの合計高さが3m以上ともなり、床面からでは計器が読みづらくなることが考えられる。検針窓の高さが適正にならなければ、点検歩廊や架台を計画し、日常点検に支障がないように配慮しなければならない。
屋外に設置する場合、本体内部への水の侵入を避けるため、箱体下部からの入線である。キュービクルに直接電線管を差し込む方式もあるが、ケーブルラックを多数使用する露出配線方式の場合、基礎や架台が低すぎると入線できないため、最低でもH=600程度の基礎高さが必要である。
上部から入線できるのであれば、基礎高さは固定アンカーのみ込み分があれば良いので、H=200程度で問題ない。躯体となるスラブが損傷しないよう、アンカーの長さと基礎高さを整合させるよう計画する。
寒冷地や多雪地帯では、足元が雪に埋もれてしまう可能性があるので、架台高さを若干高くして、積雪時に埋もれてしまうことがないよう配慮する。
融雪のためのヒーティングを設置するのも一案であるが、イニシャルコスト、ランニングコストともに増大するので、キュービクルのための融雪設備が計画されることはほとんどない。
キュービクル内部には高圧の電圧が印加されているため、不用意に取り扱うのは大変危険である。電気管理者以外が容易に触れられる場所に設置することは避けなければならない。
キュービクルは危険部位が鉄箱に納められているとはいえ、給気口などがあるため完全に密閉されているわけではなく、いたずらなどをされた場合、感電事故や広範囲停電など、大きな事故につながる危険性がある。
キュービクルのハンドルキーは、タキゲンと呼ばれるメーカーのキーを設けるのが一般的である。カギの種別は、従来から「200番」と呼ばれるキーを選定するのが一般的である。タキゲンの200番は、国内に普及している盤のほとんどを開けられる汎用キーであり、電気工事業者の施工性・作業性が優先されて来た歴史があるが、全て同じキーを使うのは、セキュリティ性能の低下を引き起こす。
セキュリティ強度を高めたいという要望がクライアントから求められる昨今では、200番を使用せず、TAKシリーズ」と呼ばれる上位互換キーが用いられるようになった。TAKシリーズは、50、60、70、80の4種類を電気設備分野で用いる事が多く、数字ごとにセキュリティ強度が違う。TAK60は60通り、TAK70は1,000通り、TAK80は118,000通りの鍵番号が設定されている。
キュービクル式の受変電設備は、点検部分が全て鉄製の箱に収容されているため、保護対策を含めてパッケージ化された設備である。充電部などが露出している変電所の「オープン式」設備であれば、フェンスや塀で侵入防止を図ることが法的に義務付けされるが、キュービクルの場合、接触防止のためのフェンス設置義務はない。
キュービクルのフェンス設置が義務付けされるのは、屋上など落下の危険性がある場所において、キュービクル点検中に屋上から落ちないよう、落下防止用のフェンスを設けることが記載されているが、これは「キュービクルに触れること」を防止しているわけではない。
高圧受電設備規程では「幼稚園」「学校」「スーパーマーケット」など、幼児が金属箱に触れる場所にキュービクルを設ける場合に、フェンス等で囲うことを記載しているが、推奨事項に留めており法的義務ではない。
キュービクル用のフェンスは、落下防止用であれば1.1m以上の高さで良いが、乗り越えを防止するのであれば1.8m以上の高さとすれば、安全性が高まる。
キュービクルを電気室内に設置する場合、労働安全衛生規則により、配電盤計器面で300ルクス以上、その他の部分で70ルクス以上の照度を確保しなければならない。キュービクルの内部に照明を設置し、扉を開けた際にスイッチがオンになり、照明が点灯するという方法が一般的である。
キュービクル内部に照明器具を設ければ、計器面の照度は十分である。キュービクル内部に照明を設ける場合、通電したままでもランプが交換できるよう、アクリル保護カバーの外側に照明器具を設けるのが基本である。照明器具から発する光が反射し、計器が読みにくくならないように配慮することも重要である。
屋内にキュービクルを設置する場合、内部だけなく前面廊下についても所定の照度確保を求められる。通路の照明計画にも注意を要する。
キュービクルは、変電設備として消防法によって規制されている。受変電設備は近接建物から3m以上離隔しなけれはならないと定められているため、既存建物から3m以上の離隔が確保するよう建築計画を十分確認する。
隣地境界がある場合、どの位置に建築物か建てられるか不明であり、3m以上の離隔を確保すると良い。建築物の外壁からの離隔を3m以上確保できなければ、建築物側への延焼を防止するため、外壁を不燃材料し、かつ開口部を設けないことで対応できる。
もし十分な離隔が確保できず、不燃対応も困難であれば、告示適合キュービクルや消防認定キュービクルを選定し、仕様規定による離隔確保の免除を検討する。
告示適合品は支障ないが、消防認定品を採用すると、増改築などで電気容量が増加した場合であっても、改造をすると認定失効となるため注意を要する。消防認定品であっても、送電効率が高いといった性能面での違いはない。一般品よりも汎用性が低いため、消防認定キュービクルの採用はできるだけ避けるのが望ましい。
受変電設備を安全に操作するための離隔距離が法的に定められている。遮断器や断路器が設けられている操作面は1.0m以上の作業スペースがなければならない。
操作がなく、点検のみが行われる面は0.6m以上のスペースが必要である。まったく点検しない面であれば0.2m以上の保守空間を確保し、清掃の保守が可能なよう計画する。
設置場所の環境や周囲離隔についても消防法によって細かく規定されているため、関係法規の見落としがないように計画する。消防法だけではなく、火災予防条例や労働基準法にもキュービクル関連の配置計画における規制がある。自治体例規や専門書を確認し、対応すべきである。
地方自治体の条例を確認したい場合、インターネット検索によって自治体ごとの例規集が確認できる。「○○市 例規」と入力すれば、自治体が公開している例規集を参照できる。火災予防条例なども確認でき、設計作業の効率が向上する。
20kWを超える変電設備は、自治体がそれぞれ定める火災予防条例によって「変電設備」として各種規制があり、キュービクルを設置する際には、これらの条例に準拠しなければならない。
キュービクル設置場所の環境として、水が浸入、浸透するおそれのない措置を講じた位置に設けること、可燃性・腐食性蒸気やガスの発生する室や滞留する室に設けないことが定められている。
不燃材料で造った壁、柱、床、天井で区画され、窓や出入口に防火戸を設けた室内に設けることが原則である。この区画をダクトや電線管、ケーブルが貫通する場合、貫通部分に不燃材料を充填し、延焼防止を図ることも明記されている。
その他、屋外に通じる換気設備を設置すること、変電設備であることを表示すること、係員以外の者を立ち入らせないこと、定格電流以内で使用することなどが定められている。変電設備である表示は、表示方法(白地に黒、寸法など)が自治体によって各種決められているため、所轄消防に確認を取る必要がある。