電気設備の知識と技術 > 受変電設備の基礎知識 > キュービクルの寿命と耐用年数
2024.3.31
キュービクルは電気設備の一つであり、耐用年数や寿命を考慮した管理が必要である。屋外設置と屋内設置で大きく寿命が変動し、電流の流し方、使い方によっても大きく変動する。
税法上の償却資産の耐用年数として、キュービクルの耐用年数は15年と定められているが、実際に運用するキュービクルについては、メンテナンスを十分に実施していれば、15年を超えても問題なく稼働できる。
キュービクルの外箱は単なる鋼板である。清浄な屋内環境で、再塗装、補修、清掃をしっかりと行っており、劣化が進んでいる内部機器の一部交換などを続ければ、30年という長い期間であっても使用できる。しかし、屋外設置の場合は雨、潮風、酸化ガスの影響を受けるため、外箱や内部機器に対し、数年で錆が発生するおそれがある。
頻繁なメンテナンスを実施しても、20年も経過すれば、外箱が全体的に腐食し、内部機器にも深刻な腐食が発生する。もし定期的な保守が行われないようであれば、キュービクル本体の交換といったことも検討しなければならない。
内部に収容されている高圧機器については、外箱とは別に、個別管理を行う。負荷開閉器、遮断器は、短絡電流など事故電流を経験していなければ、15年~20年は問題なく使用でき、実際に30年近く運用し続けている高圧機器もある。しかし、大きな負荷電流を繰り返し開閉していたり、事故電流の遮断などを経験している遮断器は、短期間での故障が見られる。
長期間使用した高圧機器は、交換部品が手に入りにくくなる。交換部品が手配できない機器が故障すると、新規品への交換に時間を要し、事故の復旧がなかなかできず、長期間の停電のおそれがある。交換部品の手配が困難になった機器は、すぐに新品に交換するよう計画すべきである。
定期点検で、異常な絶縁低下や、異音異臭・焦げ跡の発生が確認された場合は、運用年数にかかわらずすぐに交換すべきである。不良が発生している開閉器、遮断器を使用していると、負荷開閉時や遮断時にアークを消弧できず、短絡事故などが発生する。
電気事故により波及事故を起こした場合、経済産業省への電気事故報告の義務があり「なぜ事故が起きたのか」の詳細を報告しなければならない。絶縁低下を引き起こしている機器を放置していたことがわかれば、電気主任技術者は法的責任を問われる。
高圧ケーブルや母線は、屋内であれば30年~40年程度、屋外であれば20年~30年で使用限界となり、交換が必要である。ケーブルや母線は、目視で異常を発見することが困難であり、絶縁抵抗、絶縁耐力の試験を定期的に行い、事故の前兆が発見された場合は早期に交換するよう手配すべきである。
キュービクルの外箱は一般的な屋外だけでなく、塩害のおそれがある海岸部、寒冷地などでも設置ができるように数多くの塗装仕様がある。キュービクルを設置する環境に合わせて、仕様を決める必要がある。適合しない塗装仕様を選定した場合、期待寿命を著しく短縮させてしまう不具合につながる。
海岸部など塩分による汚損被害が想定される場所に、一般屋外用キュービクルを納入すると、数年で外箱が腐食し、内部まで浸食が進行する。事故を防ぐため、耐候性のある塗料で板金の全面塗装を行う。現地で塗装することができず、現地搬入すると、細部のタッチアップ程度しか対応できないため、計画時から、外箱の塗装仕様についても十分な検討が必要である。
キュービクル内の遮断器の組み換えは、改造コストを度外視すれば現地対応も可能であるが、全面塗装のやりなおしは不可能である。膜圧が全体的に薄かったり、塗装仕様が違っていたりすれば、工場に持ち帰って再塗装するしかない。工程の延長や余計なコスト発生の原因になるため、設計者や施工者が工場検査に出向き、塗装仕様を十分確認することが望まれる。
塗装色についても、意匠性を考慮した計画が求められる。電気室内の専用室であれば、2.5Y9/1(ベージュ)、または5Y7/1(グレー)といった標準色の採用が良いが、見え掛かりとなるような場所では、標準色以外の塗装色を求められる場合がある。
塗装色だけでなく、ツヤについても指定が必要である。ツヤは通常「全艶」「艶なし」「半艶」から選択する。「全艶」は汚れに強く、雨水によって表面の汚れが良く落ちるという利点があるが、光の反射が強いため眩しさを感じたり、目立ってしまうおそれがある。
「艶なし」は、まったくツヤがない仕様である。汚れに弱く、屋内で使用するのが前提である。ロッカーやキャビネット棚と似たツヤなので、見え掛かりに分電盤を設ける場合に適している。
「半艶」は、全艶と艶なしの中間であり、屋外・屋内のどちらでも適用可能である。これらツヤを指定する際、電気設備のみで決定せず、機械設備や建築と調整し、隣接する盤類と色合わせをしなければならない。ベージュやグレーといった「色だけ」を合わせてしまい、列盤のツヤが違うという不具合につながるので、綿密な打ち合わせが必要である。
キュービクル本体の塗装を強化するのは、塩害など外部からの腐食に対する耐候性を高めるが理由のひとつである。溶融亜鉛めっきを施した外板を使うことも耐候性を高めるに有効であるが、さらに表面を塗装することで、高い耐久性を維持しつつも、美しい外観が維持可能である。
屋内であれば30μm以上、屋外では40μm以上の塗装膜圧を確保し、塩害地域ではより塗装膜圧を厚くする方法や、ベースとなる鋼板の仕様を変えて耐候性を高める。
高い耐久性を求められる地域では、ベース鋼板に亜鉛溶射を施し、かつその上面に60~80μm以上の塗装を行う手法が採用される。
キュービクルの耐久性を高めるための塗装であるが「この方法であれば錆びない」「この方法であれば何年間は保証できる」といったことはなく、塩害がどれだけ発生するか、どれだけ汚れやすい地域か、傷や腐食を発見した場合に早期補修が可能か、といった多くの要素を理由に、寿命や耐用年数が大きく異なる。
日常的に塩分にさらされる場所では、表面の拭き取り清掃などを行い、かつ補修をこまめに行える環境であれば、より長期に渡って塗装性能を維持可能である。
キュービクルの内部には発熱を伴う電気機器が多く収容されており、温度変化によって結露が発生する。外気温度が急低下することで盤の内面が結露したり、湿度の高い外気が盤内部に侵入し、機器表面に結露が発生するおそれがある。
寒冷地では、積雪時の天井面内部結露が懸念される。屋根面に積雪があると、天井面から内部までが冷やされ、内部は変圧器やヒーターなどで暖められているため、温度差によって天井面が結露する。
寒冷地仕様では、天井材に断熱材を充填するなど、結露対策を検討すべきである。電気機器の結露は腐食の原因となり、絶縁性能が低下し、絶縁破壊や漏電事故につながる。結露による電気事故を防止するため、結露対策の有無についても設計段階で検討すると良い。
盤内にスペースヒーターを設置し、盤内温度を高めて結露を防止する方法である。盤内温度を高めることで飽和水蒸気量の低下を防止し、盤内結露を防ぐ。外気の湿度が100%の状態で、盤内湿度を結露防止が可能な85%に抑えるためには、概ね5℃程度の温度上昇を見込むと良い。
除湿装置を盤内に設置したり、乾燥剤を盤内に収容する方法がある。乾燥剤を使用する方法の場合、定期的な乾燥剤の交換が必要となるため、大きなコストと労務が発生する。乾燥剤を利用するのはキュービクル運搬時の結露防止などはあっても、運用中に継続的に乾燥剤を投入するのは現実的ではない。
分電盤やキュービクルは、内部収容機器の発熱を効率よく放出させるため、通気口を設けて放熱を促する。
通気口は一般的に下向きに設置されるので、無風状態では雨水が侵入することはない。しかし、風が強い場合、空気の流通とともに雨水の侵入を許する。台風など風が強い際には、大量の雨水が盤内部に侵入するおそれがある。
雨水が盤内部に侵入して電気機器が汚染すると、本来絶縁体である保護材などが絶縁劣化を引き起こし、内部漏電による地絡につながる。条件が悪ければ、短絡事故を引き起こす原因となる。
盤内部への雨水侵入を防止するには、通気口に水平仕切板を内蔵して雨水侵入を防ぐか、折返し付き仕切板を設けて雨水侵入対策を実施する。
通気口には一般的にフィルターが設置されるが、異物侵入防止に役立つとしても、雨水の侵入を防ぐことはできない。通気口に吹上げ防止ポケットを構成し、吹上げた雨水が直接フィルターに当たらないような措置を行う。
風の流通するルートを狭くすることは、静圧の増大に繋がり、換気量が低下するため機器発熱の除去が困難になってしまう。発熱が多い機器を盤内に収容する場合、屋外に設置せず、屋内設置とすることも計画の中で考慮すると良い。
分電盤やキュービクルは、下部にコンクリート基礎やチャンネルベース架台を設け、その上部に盤類を設置する。
チャンネルベースに吸気口を設けた場合、吸気口から雨水が侵入し、枠内部に水が溜まる。チャンネルベース枠内に水が滞留すると、蒸発した水分によって盤内部の湿度が上昇する。湿度が上がると結露の発生原因となり、水滴が付着した電気機器は絶縁性能が低下する。
チャンネルベース内部の水滞留を防ぐには、ベースになるコンクリート基礎に傾斜をつけて滞留した水を排出する方法や、ベース基礎に溝を切って排出する方法がある。
屋外盤の下部をゲタ基礎とした場合は、ゲタの内側に勾配を付けることにより、ゲタ基礎内部に水が滞留しないよう対策する。ゲタ基礎両端を塞ぐことで、風による雨水の吹き上げを防止すべきである。