鉄損
鉄損の定義と無負荷損の性質
変圧器などの機器において、鉄心に交流電圧を印加した際に生じる電力損失の和を「鉄損」と呼ぶ。鉄損は、変圧器の二次側に負荷が接続されているか否か、あるいは負荷電流の大小にかかわらず、一次側に規定の電圧が印加されている限り常に一定量が発生し続ける。この性質から、実務や仕様書においては「無負荷損」とも呼称される。
損失した電力は熱エネルギーや振動に変換され、機器の温度上昇や騒音の原因となる。単位はワット(W)で表され、この数値が小さいほど待機時の電力消費が少ない高効率な機器と評価される。
ヒステリシス損と渦電流損の発生メカニズム
鉄損は、物理的な発生メカニズムの違いから「ヒステリシス損」と「渦電流損」の2種類に大別される。ヒステリシス損は、交流電源によって鉄心内部の磁界の向きが周期的に反転を繰り返す際、磁気分子の向きが変わることで生じる分子間の摩擦熱に相当する損失である。使用される磁性材料の材質によって損失係数が決定される。
一方の渦電流損は、ファラデーの電磁誘導の法則に基づき、時間とともに変化する磁束が鉄心を通ることで、鉄心そのものに起電力が発生し、内部に渦電流が流れることによるジュール熱の損失である。この渦電流損を低減するため、変圧器の鉄心には単一の金属塊ではなく、表面を絶縁処理した薄いケイ素鋼板を何枚も積層した構造が採用されている。
銅損(負荷損)との違いと全損失
鉄損が無負荷状態でも発生する定常的な損失であるのに対し、負荷機器を使用して電流が流れることで巻線(コイル)の電気抵抗によって生じるジュール熱の損失を「銅損」と呼ぶ。銅損は負荷電流の2乗に比例して変動するため、「負荷損」と呼称される。
変圧器の全損失は、鉄損(無負荷損)と銅損(負荷損)の合計値で示される。変圧器の効率が最大となるのは、固定的な損失である鉄損と、変動する損失である銅損の値が等しくなった時点(最高効率点)である。設計においては、想定される平均負荷率に合わせて鉄損と銅損の比率を調整する。
トップランナー制度による高効率化
変圧器は電力系統において常時稼働する機器であるため、わずかな損失の低減が長期的な省エネルギー効果に直結する。日本では「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」に基づくトップランナー制度の対象機器に指定されており、製造メーカーに対して目標年度ごとに厳しい基準エネルギー消費効率の達成が義務付けられている。
20~30年前の旧式変圧器は鉄損および銅損ともに大きかったが、近年のトップランナー基準に適合した変圧器は、方向性電磁鋼板の採用や鉄心構造の改良により、待機電力の無駄となる鉄損が大幅に小さく抑えられている。
アモルファス変圧器の特性と導入の制約
鉄損をさらに小さく抑えた製品として「アモルファス変圧器」が存在する。これは、鉄心の材料に従来の方向性ケイ素鋼板ではなく、原子配列が不規則(非晶質)で磁壁の移動が容易なアモルファス合金を用いたものである。これにより、一般のトップランナー変圧器と比較して鉄損(無負荷損)を約5分の1程度まで低減している。
軽負荷での24時間連続稼働が前提となる施設では高い省エネ効果を発揮するが、一般変圧器と比べて初期導入コストが高額である。損失低減による電気料金の削減分だけで機器の差額を回収するには長期間を要するため、採用されるケースは限られている。
また、アモルファス合金は加工が難しく、磁気飽和密度が低いため鉄心の断面積を大きく設計する必要がある。その結果、ケイ素鋼板を使用した同容量の変圧器よりも外形寸法が大型化し、重量も増加する傾向にある。さらに、製作工程が特殊であるため納期が長くなるといった物理的・運用上の制約も存在する。
関連ページ
変圧器の種類や技術的な詳細については油入変圧器・モールド変圧器の構造を参照。












