すべり
回転磁界に対する「遅れ」の比率
すべりとは、誘導電動機において、固定子が作る「回転磁界の速度(同期速度:Ns)」と、回転子(ローター)の「実際の回転速度(N)」との差を比率で表したものである。通常、パーセントまたは小数で表現される。
誘導電動機は、その原理上、回転磁界と同じ速度(同期速度)で回ることはできず、必ず回転磁界よりもわずかに遅れて回転する。この「遅れ」によって、電動機がトルク(回転力)を生み出すことができる。
計算式と定義
すべり s は以下の式で定義される。
s = (Ns - N) / Ns × 100 [%]
- Ns(同期速度):120 × 周波数(f) / 極数(p) で求められる理論上の回転速度。例えば、4極・50Hzのモーターであれば1,500min-1、60Hzであれば1,800min-1となる。
- N(回転速度):実際に回転子が回っている速度。
例えば、4極・60Hzのモーター(同期速度1,800min-1)が、定格負荷時に1,740min-1で回転している場合、すべりは (1800 - 1740) / 1800 = 0.033... となり、約3.3%となる。
なぜ「すべり」が必要なのか
誘導電動機は「アラゴの円板」の原理で回転する。回転子の導体(アルミダイキャストのかご型バーなど)が磁束を横切ることで「誘導起電力」が発生し、電流が流れ、フレミングの左手の法則によってローレンツ力(トルク)が生まれる。
もし、回転子が同期速度と同じ速度(N = Ns, s = 0)で回ってしまうと、回転子から見て磁界は静止している状態となり、磁束を横切らなくなる。その結果、誘導起電力が発生せず、電流も流れず、トルクはゼロになる。したがって、負荷を回すために必要なトルクを得るには、必ず回転速度が落ち込み、磁束を横切る状態(相対速度差)を作り出す必要がある。
運転状態とすべりの変化
すべりの値は、モーターの運転状態によって0〜1(0%〜100%)の範囲で変化する。
- 始動時(s = 1):回転子が停止している瞬間(N=0)。回転磁界との相対速度が最大となり、大きな始動電流が流れる。
- 無負荷運転時(s ≒ 0):軸に何も負荷がつながっていない状態。摩擦や風損に打ち勝つだけのわずかなトルクしか必要としないため、同期速度に極めて近い速度で回転する。
- 定格運転時(s = 0.02〜0.05):定格負荷がかかっている状態。汎用モーターでは2%〜5%程度のすべりでバランスして運転する。
負荷が増えると回転速度 N は低下し、すべり s は増加する。すべりが増えると回転子に流れる電流が増え、より大きなトルクが発生して負荷と釣り合おうとする(トルクの自動平衡作用)。
すべりと効率(二次銅損)の関係
電気設備設計において重要なのは、「すべりは熱損失」という認識である。回転子に入力される電力(二次入力:P2)のうち、機械的出力として取り出せるのは (1 - s) の割合であり、残りの s の割合は熱として捨てられる。これを「二次銅損(Pc2)」と呼び「Pc2 = s × P2」で示される。
つまり、すべりが大きいモーターほど効率が悪く、発熱が大きい。近年普及している「トップランナーモーター(IE3:プレミアム効率)」は、回転子の導体を太くして抵抗値を下げるなどの設計変更により、標準効率モーターよりも定格すべりを小さく抑え、高効率化を実現している。これにより、回転速度(N)は従来機よりわずかに速くなるため、ファンやポンプなどの負荷では流量が増え、電流値や消費電力が増加する場合があるため注意が必要である。
電動機の特徴等については電動機の種類と保護方法を参照。












