相電圧
相電圧は、三相交流回路において電源の巻線や負荷を構成する個々の要素(各相のコイル)の両端に実際に印加される電圧を指す。対となる概念として、機器を接続するために引き出された2本の配線間で測定される「線間電圧」が存在する。三相交流は、互いに120度の位相差を持つ3つの単相交流を組み合わせたものであり、発電機や変圧器の巻線を120度ずつずらして配置することで生成される。
線間電圧は、隣り合う2つの相電圧のベクトル差として合成される。各相の電圧が120度の位相差を持っているため、単純な足し算や引き算にはならず、幾何学的な合成によって数値が変化する。この相電圧と線間電圧の相関関係は、三相交流回路の結線方式によって明確な違いを示す。
スター(Y)結線における電圧と電流の特性
スター結線(Y結線)は、3つのコイルの一端を1箇所で結合して中性点とし、他端を外部の電線路へ引き出す方式である。この結線方式において、中性点と各相の引き出し線との間で測定される電位差が相電圧となる。
- 線間電圧 = √3 × 相電圧
- 線間電流 = 相電流
線路に流れる電流はコイルに流れる電流と等しいが、線間電圧は相電圧の√3倍(約1.732倍)となる。例えば、相電圧が200Vの系統において、線間電圧は「200V × 1.732」により約346Vとなる。この特性から、送電網などにおいて、より高い電圧を作り出して送電効率を高めたい場面で広く採用される。
デルタ(Δ)結線における電圧と電流の特性
デルタ結線(Δ結線)は、3つのコイルを環状に直列接続し、その3つの接続点から配線を引き出す方式である。各コイルの両端がそのまま線間として引き出されるため、スター結線とは逆の特性を示す。
- 線間電圧 = 相電圧
- 線間電流 = √3 × 相電流
相電圧と線間電圧が等しくなる反面、線間電流は相電流の√3倍となる。低い電圧で大きな電流やトルクを必要とする三相誘導電動機などの大容量負荷に適している。ただし、物理的な中性点が存在しないため、後述する直接的な中性点接地を施すことができないという特徴がある。
日本国内の配電方式における相電圧の活用
日本国内の工場やビル設備において、相電圧と線間電圧の特性は用途に応じて合理的に使い分けられている。一般的な小規模工場で普及している三相3線式200V配電では、主に変圧器の二次側をデルタ結線とし、相電圧・線間電圧ともに200Vとして動力機器を駆動する。
大規模な工場や高層ビルにおいては、ケーブルの細径化や電圧降下の抑制を目的として、三相4線式400V級の配電方式が採用される事例がもある。変圧器の二次側をスター結線とし、中性線を引き出すことで、線間電圧(400Vまたは415V)を大型空調機やポンプの動力電源として使用しつつ、中性線と各相から得られる相電圧(230Vまたは240V)を、単相の照明器具やコンセント用の電源として1つの回路から同時に取り出す。
高圧配電線路における対地電圧と相電圧の挙動
日本国内の高圧配電網(6600V)は、主にデルタ結線による非接地方式で運用されている。この系統において、通常の運転状態では電線路と大地間の静電容量が三相で等しいため、各相の対地電圧(大地を基準とした相電圧相当の電位)は「6600V ÷ √3 = 3810V」に保たれている。
しかし、いずれか1相で地絡事故が発生すると、その相の対地電圧は0Vとなる。その結果、残りの健全な2相の対地電圧は、本来の相電圧(3810V)から線間電圧(6600V)まで√3倍に上昇する。この異常電圧の上昇に耐えられるよう、気中開閉器や高圧ケーブルの絶縁性能は、線間電圧を基準とした余裕のある設計がなされている。
変圧器の中性点接地工事と安全性
スター結線において相電圧を決定する基準となる中性点は、電気設備技術基準に基づくB種接地工事を施すための接続点である。日本国内の受変電設備では、変圧器の内部で高圧側と低圧側が混触する事故が発生した際、低圧側の電位が危険なレベルまで上昇することを抑制するため、二次側中性点を直接大地に接地するように計画する。












