励磁突入電流
変圧器投入時の過渡的な過大電流
励磁突入電流は、変圧器の一次側に電圧を印加した瞬間に流れる、定格電流の数倍から十数倍に達する過渡的な電流である。通常運転時の励磁電流は定格の数%程度と微小であるが、投入のタイミングと変圧器内部の残留磁束の関係により、鉄心が磁気飽和を起こすことで発生する。
特に、電圧がゼロの瞬間にスイッチを投入すると、磁束は定常状態の最大値の約2倍まで跳ね上がろうとする。これに前回の運転停止時に残った「残留磁束」が同極性で加算されると、鉄心の飽和磁束密度を大きく超え、インピーダンスがほぼコイルのみの状態に等しくなるため、短絡に近い大電流が流れる現象である。
波形特性と第2高調波成分
励磁突入電流の波形は、正弦波ではなく、どちらか片側に大きく偏った「非対称波形」となるのが特徴である。最大ピーク値は変圧器の容量や設計によって異なるが、一般的に小容量の変圧器ほど定格電流に対する倍率は大きくなる傾向にある。継続時間は数サイクルから数秒間続き、徐々に減衰して定常状態に戻る。
この電流波形を周波数解析すると、基本波(50Hz/60Hz)以外に、偶数次の高調波、特に「第2高調波」を多く含んでいるとされる。対して、短絡事故などの事故電流は正弦波に近い対称波形であり、第2高調波の含有率は低い。この特性の違いを利用し、保護リレー(OCR)が「これは事故ではなく突入電流である」と判断して動作をロックする機能が、デジタル型リレーを中心に装備されている。
過電流保護協調と誤動作防止
受変電設備の設計において、変圧器の一次側に設置する過電流継電器(OCR)やヒューズは、この励磁突入電流で誤動作・溶断しないように整定値を決定する必要がある。これを「保護協調」と呼ぶ。
OCRの瞬時要素(INST)を突入電流のピーク値よりも高く設定するか、あるいは限時要素(DT/IDMT)の動作時間を突入電流の継続時間よりも遅く設定する。しかし、設定値を上げすぎると、変圧器二次側での実際の短絡事故を検出できなくなるおそれがあるため、動作協調曲線(T-I特性曲線)を作成し、突入電流のプロット点とリレーの動作カーブが交差しないよう、慎重な計画が求められる。
突入電流の抑制対策
保護協調だけでは対応できない場合や、瞬時電圧低下(瞬低)による周辺機器への影響を抑えたい場合は、物理的に突入電流を抑制する対策を行う。代表的な手法として、抵抗器付き遮断器を用いる方法や、位相制御開閉器の採用がある。
位相制御開閉器は、変圧器ごとの残留磁束の極性を記憶・推定し、最適な電圧位相を狙って極ごとに投入指令を出す装置である。これにより、突入電流を定格電流程度まで劇的に抑制することが可能となり、OCRの整定をより事故保護重視の高感度な設定にすることができる。
抵抗付開閉器(エネセーバ等)による抑制
保護協調による対策はあくまで遮断器やヒューズが「切れないようにする」だけであり、大電流そのものは流れてしまう。そのため、系統の瞬時電圧低下(瞬低)を引き起こし、同一系統に接続された他の精密機器や工場の製造ラインなど、電圧の変動に影響を受ける機器を停止させるといったリスクが残る。これを物理的に解決するために用いられるのが、「励磁突入電流抑制開閉器(エネセーバ等)」である。
この装置は、主接点が閉じる直前に、数ミリ秒〜数十ミリ秒の間だけ「抵抗器」を介して回路を接続する機構(抵抗投入方式)を持つ。抵抗器によって突入電流のピークを大幅に減衰させた後、主接点を短絡して定常運転に移行する仕組みである。これにより、突入電流を定格電流レベルまで抑制できるため、OCRの整定をより事故保護重視の高感度な設定にすることが可能となり、瞬低による周辺設備への悪影響も防止できる。
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