水気のある場所
「水気のある場所」の定義と電気的リスク
電気設備において「水気のある場所」とは、常時または断続的に水を取り扱う場所、水滴が飛散する作業を行う場所、あるいは結露等によって常に水が露出している環境など、漏電リスクの高い場所の総称である。水は電気の良導体であるため、電気機器や配線の絶縁性能が低下した場合、人体や周囲の金属体を介して電流が漏れ出す「漏電」の危険性が極めて高まる環境として規定されている。
具体的な施設区分としては、住宅におけるキッチン、浴室、洗面所、トイレをはじめ、雨水が直接吹き込むおそれのある庇や軒下などが該当する。業務施設においても、厨房、魚屋や八百屋などの大量の水を使用する物販店舗、洗車場、さらには排水が滞留しやすい簡易地下室やピット、地下湧水が漏出する場所など、その範囲は非常に広い。これらの場所では、空気中の水蒸気量が著しく変動しやすく、機器内部での結露による絶縁破壊が引き起こされやすい。
「湿気の多い場所」との明確な区分
設計実務において混同されやすい概念として「湿気の多い場所」があるが、これらは電気設備技術基準において明確に区別されている。水気のある場所が「水そのもの」が直接関与するのに対し、湿気の多い場所は、蕎麦屋の厨房など沸騰した湯から発生する湯気が常時充満する環境や、酒や醤油の醸造所、地下の密閉空間など、相対湿度が著しく高く結露が避けられない場所を指す。
保護設備の選定にあたっては、どちらの環境に該当するかを見極めることが重要である。水気のある場所では直接的な防流水対策が求められるが、湿気の多い場所では、それに加えて継続的な湿気侵入を防ぐための密閉構造や、防湿コーティングが施された機器の選定が必要となる。そのため、例えば軒下で使用することができる照明器具を浴室で使用すると、漏電を引き起こすといった事故につながる。
漏電遮断器(ELB)と接地工事の法的義務
水気のある場所に電気機器を設置する場合、漏電による感電事故を未然に防ぐため、電気設備技術基準により「漏電遮断器(ELB)」の設置が義務付けられている。特に、水に濡れた人体は皮膚の電気抵抗が通常の10分の1以下にまで低下するため、わずかな漏れ電流でも心室細動などの致命的な状態を引き起こす危険がある。そのため、高感度かつ高速動作型(例:定格感度電流15mA、動作時間0.1秒以内)の漏電遮断器の選定が推奨される。
また、漏電遮断器を確実に動作させるためには、適切な接地工事が不可欠である。水気のある場所で使用される低圧機器(100Vや200Vなど)に対しては、原則としてD種接地工事を施し、接地抵抗値を規定値(通常100オーム以下、漏電遮断器設置時は500オーム以下)に維持することで、万が一の漏電時にも人体への電位上昇を安全なレベルに抑え込む設計が求められる。
防護等級(IPコード)による機器選定の基準
水気のある場所に設置される照明器具、コンセント、スイッチ、および電動機などの各種機器は、環境に応じた適切な「IPコード(防塵・防水保護等級)」を持つものを選定しなければならない。一般的な水気のある場所(浴室などを除く)であれば、あらゆる方向からの飛沫に対して保護されている「IPX4(防沫形)」以上の性能を持つ機器を使用するのが基本である。
さらに、洗車場や厨房などで高圧の水流を直接浴びる可能性がある場所では「IPX5(防噴流形)」や「IPX6(耐水形)」が必要となる。また、コンセント類には接地極付きの防水コンセントを採用し、電線接続部からの水の侵入を防ぐために、防水自己融着テープや専用の防水ジョイントボックスによる確実な端末処理を行うことが、長期的な設備の安全性を担保する。
施工上の制約と配線工事の留意点
水気のある場所における配線工事には、内線規程により厳格な制約が設けられている。例えば、ケーブル配線を行う場合は、がいし引き工事や金属管工事、合成樹脂管工事などの適切な保護管を使用し、ケーブルの被覆が物理的な損傷を受けないよう施工する。特に金属管を使用する場合は、管自体が漏電経路とならないよう、管相互およびボックスとの電気的接続を確実に行い、金属管そのものにも厳重な接地工事を施す必要がある。
また、これらの場所では、電線の接続点を可能な限り設けない設計とすることが望ましい。やむを得ず接続を行う場合は、ジョイントボックスを水が溜まらない高い位置に配置し、ボックス下部に水抜き穴を設けるなどの工夫が必要である。定期的な保守点検においても、絶縁抵抗計(メガー)を用いた配線の絶縁性能の確認や、漏電遮断器のテストボタンによる動作確認を怠らないことが、事故防止の重要項目となる。












