ゴースト障害
ゴースト障害は、従来普及していたアナログテレビ放送の受信において、画面上に本来の映像からわずかに横にずれた薄い二重、三重の像(多重像)が重なって表示される現象である。テレビ塔などの送信アンテナから直接届く「直接波」と、近隣の高層ビル、山、鉄塔などに反射してから届く「反射波」を受信アンテナが同時に捉えることで発生する。
電波は空間を一定の速度で伝わるため、反射波は直接波よりも長い距離を飛行し、わずかに遅れてアンテナに到達する。アナログ放送では、この時間的な遅れがそのまま画面上の水平方向の位置ずれとして映像信号に現れる。空間における電波の多重伝搬(マルチパス)が引き起こす障害であるため、マルチパス障害とも呼ばれる。
ゴースト障害の種類と視覚的特徴
ゴースト障害はその発生要因と画面上の見え方によって分類され、それぞれ異なる対策が求められる。
- 右ゴースト(遅延ゴースト):直接波の右側にずれて現れる一般的なゴースト。建物の反射などにより遅れて到達した電波が原因となる。
- 左ゴースト(先行ゴースト):直接波の左側に現れるゴースト。ケーブルテレビなどの有線経路から漏洩した電波が、空間を伝搬する電波よりも早く受信機に到達した場合などに生じる。
- フラッターゴースト:飛行機やヘリコプターなどの移動体に電波が反射して起こる現象。画面上の像が小刻みに揺れ動き、周期的に明暗の変動を伴う。
アナログ放送における物理的・回路的な対策
アナログ放送時代には、ゴースト障害を軽減するためにアンテナ側と受信機側で様々な対策が講じられていた。アンテナ側の対策としては、反射波の到来方向からの受信感度を下げるため、指向性の鋭い高性能なアンテナを使用する、あるいは反射波の影響が少ない高さや位置へアンテナを移設する手法が基本とされた。
受信機側の対策としては、放送電波に重畳されたゴースト除去基準信号(GCR信号)を利用するゴーストキャンセラー搭載チューナーが実用化されていた。これは、受信したGCR信号の波形から遅延時間や反射波の強度を算出し、内部回路で逆位相の信号を生成してマルチパスによる干渉を電気的に相殺する仕組みである。
地上デジタル放送への移行とクリフエフェクト
地上デジタル放送への完全移行に伴い、テレビの伝送方式が根本的に変更されたことで、ゴースト障害は物理的に発生しない現象となった。
アナログ放送では電波の受信レベルが低下したりマルチパス干渉を受けたりすると、それに比例して画質が徐々に劣化していく特性があった。一方、デジタル放送では、受信信号の誤り訂正能力が限界に達するまでは完全に元の高画質を維持するすが、一定の限界値を下回ると急激にブロックノイズが発生し、音声が途切れ、最終的に突如として受信不能なブラックアウト状態となる。このデジタル特有の急峻な限界特性をクリフエフェクト(崖効果)と呼び、画面上に多重像が現れるゴースト現象とは明確に異なる挙動を示す。
OFDM方式とガードインターバルによるゴーストの解消
地上デジタル放送(ISDB-T方式)においてゴースト障害が発生しない技術的な理由は、OFDM(直交周波数分割多重)と呼ばれる変調方式と、ガードインターバルの採用にある。OFDMは、多数の搬送波にデータを分散させて送信する方式であり、マルチパスによる特定の周波数帯域の劣化に対する耐性が高い。
さらに、各データシンボルの先頭には、シンボル後半の波形をコピーしたガードインターバルと呼ばれる緩衝時間が設けられている。近隣の建物などから反射して遅れて到達した電波であっても、その遅延時間がこのガードインターバルの時間内に収まっていれば、受信機側で直接波と同等の有効な信号として合成処理される。
これにより、マルチパスは画質を劣化させる妨害波ではなく、むしろ受信電力を補強する有用な波として扱われる。この仕組みは、複数の送信局から同じ周波数で電波を送信する単一周波数ネットワーク(SFN)の構築も可能にした。高層ビル群によるゴースト障害に悩まされていた都市部においても、デジタル放送への切り替えによって画像品質が改善された背景には、これらの高度な伝送技術が存在している。
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