テレビ共聴設備の計画 | 受信電波・選定と強度計算・4K対応

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テレビ受信の考え方について

テレビアンテナで受信するチャンネルとして、VHF放送・UHF放送・BS放送・CS放送がある。VHFは12チャンネル、UHFは50チャンネルの計62チャンネルが、標準テレビジョン放送として使用されている。

VHFとUHFアンテナは、テレビ放送を送信している放送アンテナに向けるようにし、首都圏内であれば東京タワーの方向にアンテナを向けると良い。都心部ではケーブルテレビが周辺に敷設されている事が多いので、VHFアンテナやUHFアンテナを設置しなくても、ケーブルテレビ契約を行うことで受信するという手法もある。

首都圏以外では、地域ごとに設置されているテレビ電波の中継局から受信を行うのを基本としている。東京近郊はスカイツリーからの送信を受信するが、地方都市であれば各所に設置されているテレビ塔からの電波を受信する。

近くの放送アンテナに受信用アンテナを向けることで、テレビ電波を受信できる。基本的に国内の全域が受信範囲となっているが、ケーブルテレビが普及している地域もあり、有線による供給を受ける地域も存在する。

現在、地上波アナログVHF放送は停波しており、UHFアンテナを使用した地上波デジタルによる放送が行われている。

ポールに取り付けられたテレビアンテナの写真

地上デジタル放送への移行

地上デジタル放送は、テレビの信号を0と1の信号として取り扱い、情報量の圧縮、妨害によるエラーを訂正できるなど、テレビ情報の高品質化を図ることができる新技術であり、地上波アナログ放送と比較して大幅な品質向上を図るものとして期待されている。

従来のアナログ放送が地上デジタルに切り替わることで、より少ない帯域でハイビジョン放送や多チャンネル放送を送信できる。地域ニュースや天気のデータ放送受信、通信回線による双方向サービス、ゴースト障害が発生しないことによる品質向上、移動通信機器の受信の安定化、既存の周波数帯域削減など、多数のメリットがある。

地上デジタル放送は、2011年7月に完全切り替えが実施された。現在、従来のアナログ放送による放送サービスは行われていない。

アナログ放送はVHFアンテナを使用して電波を受信しているが、デジタル放送はUHFアンテナを使用して電波を受信するため、既存のアンテナは不要となる。VHFアンテナのみを設置してアナログ放送を受信していた場合、2011年7月以降はテレビを見られなくなるため、UHFアンテナへの切替が必要となる。

アンテナの交換工事が困難であれば、ケーブルテレビの事業者と契約し、デジタル放送の供給を受ける方法もある。

アナログ放送の受信電波強さ計算

送信局から受信場所の距離を算出

一般社団法人 放送サービス高度化推進協会(A-PAB)のホームページを見ると、地域のどこに送信アンテナがあるかを調べられる。この送信アンテナの位置と受信アンテナ位置との距離を測定する。例として、受信場所から送信アンテナまでの距離を50kmとして計算すると下記のようになる。

実効輻射電力から送信強さを算出

放送局の送信アンテナの実効輻射電力を無線局情報検索から調査する。東京タワーから送信されている「日本放送協会」の実効輻射電力(ERP)は69kWである。69kWの実効輻射電力を単位mWに換算し、10log(E*1000) を計算すると、

10×log (69kW×1000×1000) = 78.4[dBm]となる。

自由伝播損失の算出

自由伝搬損失を算出するため、20log(4πr/λ)を計算する。UHFを計算するため周波数500MHzで計算する。

20×log (4×3.14×50000m / (3×10^8/(500×10^6))) = 119.6[dB]である。

受信点の電界強度の算出

受信点の電界強度は 78.4 - 119.6 = -41.2[dBm]である。この数値ではブースターの出力値と単位が違うのでdBμVに変換する。簡易手法であるがブースターが75Ω仕様のため、108.8dBを加える。

-41.2 + 108.8 = 67.6[dBμV]である。

受信点の電界強度は70dB以上

受信点電界強度は67.6dBと算出されたが、UHFは70dB以上を受信点で確保するのが原則である。70 - 67.6 = 2.4dB以上の利得を持つアンテナを選定すべきである。日本アンテナやマスプロ電工のカタログにUHFアンテナの利得が記載されている。ここでは8dBのアンテナとして計算する。

67.6 + 8 = 74.6[dBμB]である。

受信点までの損失計算

74.6dBμVで受信した信号を同軸ケーブルで伝送する。同軸ケーブルは伝送距離に応じて信号が減衰していく。500MHzの帯域信号をS-5C-FBケーブルで伝送すると、0.2dB/m程度の減衰である。

ブースター選定

伝送経路にブースターを設置すると、25~35dBの信号増幅ができる。70dBの信号をブースターで増幅すると、100dB程度まで増幅できる。ブースターで増幅するのは、70dBの品質を見かけ上100dBまで増幅しているだけであり、受信品質を増幅点以上まで向上させることはできない。

末端の信号強度を算出

受信点から末端までに設置されている、分配器やケーブルの長さによる減衰量を加算し、末端のアウトレットで何dBになるかを計算する。末端で70dB以上を確保したことを確認できれば、計算は終了となる。

UHFアンテナは20素子を選定しておけば問題ない。共同住宅やビルのテレビ設計では、アンテナ直後にブースターを入れ、100dB程度を起点として計算を開始する。

4K放送への対応

東京オリンピック開催に向けて、高解像度なテレビ放送の規格として「4K・8K」対応が進められている。「横3,800×縦2,160」の解像度を持つ高画質映像が電波として配信され、家庭のテレビで高画質な映像を受信できる。

現在、BS放送やCS放送は「右旋」と呼ばれる右回りの伝送路で送信されている。この伝送路に「左旋」と呼ばれる左回りの伝送路を重ねあわせ、チャンネル数を増やし、その伝送路を利用して4K・8K放送を送信することが計画されている。

右旋を使用した電波はBS放送とCS放送で活用されており、ブロックコンバータを介して、2,070Mhzまでの帯域を既に使用している。左旋による伝送路は、2,070Mhzを超え、3,223Mhzまでの高周波帯域を利用するもので、ほぼ倍のチャンネルを利用できる。

高周波帯域の伝送路は、減衰が極めて大きいという欠点があるので、既に敷設されている同軸ケーブルや、分配器・分岐器といった構成機器での減衰が大きく「放送が開始したらすぐに受信できる」という性質のものではない。

すでに2,000Mhzの時点で減衰が限界に近い状態であれば、さらに高周波帯域を使用する4K・8K放送では、強度が不足して受信不能となる。同軸ケーブルは、BSやCS放送に対応した「S-4C-FB」「S-5C-FB」といった「S」が付記されているケーブルは使用可能とされているが、ブースターは2,000Mhz帯域を超える帯域を増幅することを想定していないため、対応できないとされている。

古い同軸ケーブルや、配管に収容された同軸ケーブルは、減衰が非常に大きくなる可能性がある。電波強度に対して十分余裕のある配線設計がされている場合でも、受信できないことがある。高周波帯域に対応したブースターを増設することも検討が必要と思われる。

4K・8K対応の設計対応

4K・8Kの映像を将来的に受信するための設計手法として「建物内部の同軸ケーブルを全て引き換える」というのを前提にするのは合理的ではない。ブースターや分配器、分岐器を交換するだけで受信できる設計とするのが妥当である。

一部のテレビ機器メーカーでは、4Kや8Kの対応に考慮した設計ができる体制が整っているため、これを利用するのも一案である。

衛星放送の受信計算

衛星放送は、上空約38,000kmにある衛星から放送信号を受信する方式で、日本国内で上空が開けている環境であれば、約80dBの信号強度を確保できる。VHFやUHFの計算と違い、どのような地域においても80dBを確保できるので、80dBを基準として計算するのが主流である。

衛星放送には、下記の4種類が代表的である。

全ての放送媒体から信号を受信するには「①」「②」「③と④をセット」としてアンテナを設置する。都心部においては、光パーフェクTVというサービスにこれらの衛星放送を全てケーブルで受信できるように整備が進んでいるため、サービスエリア内であれば、アンテナを設置せずに衛星放送を視聴できる。

衛星放送の受信電波の強さ計算

受信点の電界強度の算出

衛星放送の受信点における電界強度は、直径40cmのアンテナを使用すれば80dBは確保できる。共同聴視用アンテナでは、75cm~90cm以上のパラボラアンテナを採用するため、天候が不良でも、ある程度良好な受信が可能である。

受信点までの損失計算

80dBで受信した衛星放送の信号を、同軸ケーブルで伝送する。VHF・UHFと同様、伝送距離に応じて信号が減衰するが、衛星放送は1,300MHz以上の高帯域を使用する信号なので、減衰量がVHFやUHFよりも大きくなる。S-5C-FBケーブルを使用した場合 0.4dB/m 程度の減衰である。分配器やアウトレットの分配損失や挿入損失も、VHF・UHFより大きくなるため、計算には注意が必要である。

ブースター選定

末端のアウトレットで必要な信号強度は、国土交通省の基準では57dB以上確保することとされている。受信点から末端までに57dBを下回るようであれば、伝送経路の途中にブースターを設置し、信号を増幅させる。衛星放送の信号を増幅するためのブースターは、BS/CS対応品でなければならない。VHF/UHF専用のブースターでは、高周波帯域の信号を増幅できない。

末端の信号強度を算出

分配器やケーブルの長さによる減衰を加算し、末端のアウトレットで何dBになるかを計算する。57dB以上を確保したことを確認できれば計算は終了となる。

テレビ共聴設備の構成機器

アンテナ

テレビアンテナには、VHFアンテナとUHFアンテナ、衛星放送用のパラボラアンテナがある。

VHFアンテナは、アナログ放送を受信するためのアンテナで、12素子の全帯域用、5素子・8素子の広帯域用等があるが、一般には全帯域用12素子のアンテナが選定される。地上波アナログ放送が停波したため、今後は用いられることはない。

UHFアンテナは、アナログ放送の他、デジタル放送を受信するために使用するアンテナである。20素子のUHFアンテナを選定するのが一般的である。素子数が多いほど受信に有利になるが、大型・高価となるため、20素子で十分な事が多く、30素子を選定することは稀である。

衛星放送用のパラボラアンテナは、900φを標準として選定すれば、比較的大規模なマンション等でも十分な信号強度を維持できる。詳細は物件ごとに設計が必要であるが、テレビ共聴用アンテナとしては900φ~1,200φが一般的かつ、コストも安価に抑えられる。

混合器

VHF、UHF、パラボラアンテナなど、異なるアンテナで受信した電波を、ひとつの電線で伝送させるための混合装置である。U/V混合器、UV/BS混合器など、アンテナの種類毎に混合器が存在する。混合器はアンテナ直近に設置し、電波ができる限り強い状態で、混合することが望まれる。

増幅器(ブースター)

ブースターは、受信電波の電界強度が低かったり、伝送中に減衰してしまったりする場合に、電波を増幅する装置である。特定の周波数帯だけを増幅するブースターもあるため、用途に応じた選定が必要である。

ブースターは、劣化した電波を修復する装置ではないため、品質が保たれる電界強度以下まで減衰する以前に、ブースターを通す必要がある。末端で57dBの電化強度が必要な場合、伝送路中に57dBを下回らない点でブースターを通す。

分配器

電線の途中に挿入し、信号を均等に分配するための装置である。主幹線の末端部などで、幹線を2つに分けたい場合などで使用する。2分配、4分配、6分配、8分配の4種類が標準品として販売されている。

分岐器

伝送路を通る信号を、必要分だけ分岐するための装置である。分岐側は比較的大きな減衰を示すが、伝送幹線の減衰は小さく抑えられている。主幹線からケーブルを分岐したい場合に使用する。

分波器

入力されるテレビ信号を、帯域毎に分けるための装置である。V/U/BS/CSを混合している場合、U/VとBS/CSに分けられる。チューナー装置側にV/U・BS/CSの端子があり、壁のアウトレットが1つしかない場合は、分波器を設置して低周波側と高周波側に信号を分割し、チューナーに接続できる。

ブロックコンバータ

電波を混合する際に、重複する部分の周波数帯域を変換して、混合を可能にするための装置である。BS-IFは1335MHzまでの帯域を利用し、CS-IFは1293MHz~の帯域を利用し、かつ水平偏波と垂直偏波が存在するため、これを各々独立した周波数帯域に変換することで、1本の同軸ケーブルで伝送が可能である。

同軸ケーブル

高周波の多重伝送に適したメタルケーブルで、VHFやUHF、BSの信号周波数の、70MHzから2,000MHzの高周波信号を伝送するのに使用されている。

同軸ケーブルは、銅心線を発泡ポリエチレンで絶縁し、周囲をアルミ箔テープで巻き、外周を筒状の銅編組という網状の導体で覆い、ビニルシースで外側を包んでいる。アルミ箔テープと銅編組がシールドを構成するので、外部要素によるテレビ信号の悪影響が避けられる。テレビ共聴用の同軸ケーブルでは、S-5C-FBやS-7C-FBが多く使用される。

オプティキャストとCATV

オプティキャストとは、CATVの一種で、光ファイバーを用いたテレビ受信サービスである。各種衛星からテレビ情報を受信した受信拠点から、光ファイバーを用いてテレビ情報を受信したい集合住宅に供給する。地上デジタル、BSアナログ、BSデジタル、スカパー、110度CS、FMラジオ放送などを一挙に受信でき、アンテナの設置が不要になるため、非常に便利なシステムサービスである。

従来、集合住宅やビルでテレビを受信するには、受信したいテレビ情報に応じて、屋上にアンテナを数基設置しなければならず、すべてのテレビを受信するには2軸方式、3軸方式と呼ばれる、複数本の同軸ケーブルを構内に敷設する方式が必要で、高コストとなっていた。

オプティキャストやCATVサービスを利用することで、自営でアンテナを設置せず、テレビ電波を受信でき、コストの削減を図ることができる。これらオプティキャストやCATVサービスでは、月々の使用料が必要になるため、長期利用の場合はイニシャルコストとランニングコストの検討が必要となる。

関東都心部では、オプティキャストサービスによりほぼすべてのチャンネルが受信できるが、地方のCATVでは、全チャンネルが受信できることは稀で、一部の選ばれたチャンネルだけが受信できるに過ぎない。地域のチャンネルガイドなどで放送チャンネルを確認すると良い。

FM電波利用

FM放送はラジオ放送用として普及しているが、電気設備分野では「時刻合わせ用」として、FMを受信する。中央監視装置や放送設備を導入する場合、時刻がずれていると、機器の運転や故障履歴、館内放送時間にずれが生じ、利便性を大きく損なう。

機器の時刻合わせは、人の手で行うことも可能である。しかし、一般的なクォーツ時計は1ヶ月あたり10秒もずれてしまうため、定期的な時刻補正が不可欠である。これを人の手で補正するのは合理的ではないため、機械的に自動補正を行うのが一般的である。

設備機器の時刻補正は、タイムサーバを導入した上で「GPS」「テレホンJJY」などから時刻情報を取り出して補正するのが一般的であるが「FM放送」を用いての時刻補正も可能である。毎正時にFMラジオからNHK-FMの時報(880Hz)を検出して時刻補正を行う。NHKの放送を利用するため、国内での利用に限られる。

FMラジオが聴ける環境であれば時刻補正できるので、幅広く利用されている時刻補正技術である。GPSは衛星が見える位置でなければ時刻補正できないが、FMは電波を受信できる環境であれば建物内であっても時刻補正できる。

設備時計システムの詳細については電気時計と設備時計・電波時計で解説をしている。

FM補完放送局(ワイドFM)

テレビのVHF放送が、地上デジタル化により不使用となり、一部の周波数が不使用となった。「VHFローチャンネル」は、アナログテレビ放送用に使用されていた周波数帯域であるが、この有効活用として「FM補完放送局」が開設されている。

FM補完放送局では「都市型難聴対策」「外国波混信対策」「地理的・地形的難聴対策」「災害対策」の4つを目的として、ラジオ放送を行う放送局が、VHFローチャンネルの有効活用が行われている。

電波障害と調査

電波障害とは、建築物や送電線、工事用クレーンなどによってテレビ電波が遮蔽され、テレビ電波が正常に受信できない状態を示す。テレビが受像できるか否かは生活に深く関わっており、新築の計画では電波障害が紛争の原因となることも多い。

建物を新築する場合、事前に電波障害の測定や机上計算を実施し、建物の建築前、建築後にどの程度障害を発生させているか記録することで、電波障害によるクレームを受けた場合の対応に大きく関わる。

遮蔽障害

遮蔽障害は、テレビ電波が送信されているテレビ塔のアンテナに対して、建物が影になることで発生する電波障害である。テレビの適正受信に必要な電波が、建物によって遮られてしまうため、テレビ画像の映りが悪くなる。

反射障害

反射障害は、建物によってテレビ電波が反射し、直接届く電波だけでなく反射した電波も同時に受信してしまうことで、画像が二重化してしまう障害である。ゴースト障害とも呼ばれている。地上デジタルによる通信では、ゴースト障害は発生しないため、反射障害による影響は大きく軽減された。

電波障害の対策

電波障害が発生した場合、その原因を発生させた者が、障害に対して補償しなければならない。電波障害に対する対策はいくつかあり、電波障害が発生している側のアンテナの位置変更・高さ変更のほか、既存のアンテナを高性能な製品に交換するといった方法がまずは考えられる。

既存のアンテナでの対策が困難であれば、電波障害を発生させている建物側から、テレビ信号を直接供給する方法を検討しなければならない。電波障害対策用としてアンテナを専用に設け、受信したテレビ信号を同軸ケーブルによって供給することになる。都心部における高層建築物では、電波障害が発生する近隣建物の件数が多くなりがちであり、それに掛かるコストも大きくなる。

CATVや光TVなど、地上デジタル放送が有線によって供給されている地域では、電波障害が発生している建物に対し、原因者の負担でCATVや光TVに契約するという対策も考えられる。どちらの場合も継続的なコストが発生するため、建築物を新築する場合の大きな負担となる。

 
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