機械的強度
対象となる材料において、圧縮や引張の物理的な外力に対して持つ耐久力を表す指標。電気設備の材料は圧縮・引張・衝撃など多くの外的要因に対する耐久性を検討しなければならず、変形、破壊といった致命的な損害に耐えることができる強度を維持しなければならない。機械的強度が高いほどその部材が「頑丈」であると考えて良い。
特に、電線の機械的強度は、引張、曲げ、ねじり、圧縮、振動といった外力に対して、断線や著しい変形、あるいは絶縁性能の低下を招かずに耐えうる能力を指す。一般的には、以下の3つが評価の軸となる。
- 引張強さ:架空電線などで、自重や風雪による荷重に耐え、破断しない性能
- 屈曲・柔軟性:移動用ケーブルやロボット配線などで、繰り返し曲げに耐え、素線切れを起こさない性能
- 耐摩耗・耐側圧性:配管内への引き込みや、踏み付け、重圧による被覆の損傷を防ぐ性能
電線の強度は、使用される素材とその構造によって決定される。一般的な銅線は導電性に優れるが、強度が求められる送電線などでは、アルミニウムの周囲に鋼線を配したACSR(鋼心アルミより線)などが採用される。1本の太い「単線」は剛性が高いが、繰り返し曲げには弱い。複数の細い線を束ねた「より線」は、柔軟性に富み、振動や屈曲による疲労破断に強い特性を持っている。
また電線は温度が上昇すると強度が低下したり、表面の被覆が溶融する。長期的な発熱は材料の硬化や脆化を招き、機械的寿命を縮めてしまう。
短絡事故など大電流が流れる状況において、事故発生時に発生する電磁力により電気機器が受ける機械的損傷に、どの程度耐えられるかを「機械的強度」として示すことがある。電気設備の分野では、電線の接続や分岐をする場合に、その接続点の機械的強度を損なわないようにすることが定められており、分岐点に張力を掛けたことで抜けてしまったり、電線が切れてしまうようなことがあってはならない。
発電機や変圧器、調相設備、母線、がいしなども同様であり、送配電設備や受変電設備を構成する重要機器は、短絡電流によって発生する機械的衝撃によって容易に破壊されないよう、高い機械的強度が求められる。
架空電線路などでは、想定される最大荷重(風圧や着雪)に対して、一定の安全率を確保して設計することが義務付けられているし、施工時に電線を強く引っ張りすぎると、導体が伸びて断面積が減少し、電気抵抗の増大や強度の低下を招く。そのため、ケーブルごとに最大許容張力が定められている。
風による「カルマン渦」や機械の振動は、電線の接続部にストレスを集中させ、疲労破断を引き起こす。これを防ぐために、スペーサーや防振装置の導入、あるいはジャンパー線の余長確保といった応力緩和の方策が講じられる。
機械的強度は経年によって確実に低下する。特に屋外や沿岸部では、水分の侵入による導体の腐食や、塩害・紫外線による被覆の劣化が進行しやすい。定期的な絶縁抵抗測定に加え、被覆のひび割れや電線の「たるみ」の変動を目視で確認することは、物理的な破断事故を未然に防ぐ上で重要である。












