碍子(がいし)
碍子の基本役割と材質の選定
碍子(がいし)は、送電線や配電線などの電線を支持し、電柱や鉄塔などの造営材から電気的に絶縁するための器具である。屋外の過酷な環境下で長期間使用されるため、機械的強度と電気的絶縁性、および耐候性が要求される。
日本国内の電力網で普及している碍子の大部分は、酸化アルミニウムなどを主成分とする硬質磁器(陶器製)である。近年では、軽量で耐衝撃性に優れ、地震時の破損リスクを低減できるシリコーンゴム製のポリマー碍子も一部の線路や機器で採用されているが、長期間の耐久実績やコストの観点から依然として磁器製が主流となっている。
表面汚損による漏れ電流と塩害対策
碍子の絶縁性能を維持する上での課題は、表面への塵埃や海塩粒子の付着による汚損である。碍子表面に塩分が付着し、さらに雨や霧によって水分を含むと、表面の絶縁抵抗が低下して漏れ電流が増加する。これが進行するとアーク放電を伴うフラッシオーバ(絶縁破壊)を引き起こし、地絡事故や停電の原因となる。
これを防止するため、高圧用や特別高圧用の碍子は表面に深いひだ(深溝構造)を設けている。この形状により、電線から支持物までの表面距離を長く確保し、漏れ電流を抑制する。また、降雨によって表面の汚れが自然に洗い流されやすい形状設計がなされており、海岸に近い塩害地域では沿面距離をさらに長くした耐塩碍子が用いられる。
配電線路および送電線路における碍子の種類
6.6[kV]の高圧配電線路や特別高圧送電線路においては、電圧階級と電線の支持方式に応じて様々な形状の碍子が使い分けられる。
- ピン碍子は、下部に鋼製のピン(ピンネジ)を備え、腕金に対して上方向から差し込んで固定する支持碍子である。雨水による洗浄効果が高い形状を持つが、電線のサイズが大きくなると機械的強度が不足するため、現在は後述のラインポスト碍子への移行が進んでいる。
- ラインポスト碍子(LP碍子)は、円柱状の磁器本体に複数のひだを設けた中実構造の支持碍子である。ピン碍子よりも機械的強度と耐トラッキング性に優れており、現在の日本国内の高圧配電線路において直線部分の電線支持の標準として採用されている。
- 耐張碍子は、電線の張力(引っ張り荷重)を支えるために強度を高めた碍子である。電柱の引留め箇所や角度の変わる箇所において、電線を水平方向に支持するために用いられる。10[kN]を超える張力に耐える構造である。
- 懸垂碍子は、特別高圧の送電鉄塔などで用いられる傘型の碍子である。送電電圧が高くなるほど複数個を直列に連結(ストリング構成)し、要求される絶縁性能と機械的強度を確保する。
屋内配線における碍子引き工事の衰退
建築物の屋内配線工事においては、電線を造営材から離して支持する「碍子引き工事」という施工方法がある。電線周囲の放熱性が高いため許容電流の低減率を考慮する必要がなく、電線の導体性能を維持できるという電気的な特徴がある。
しかし、絶縁被覆とシースを備えたVVFケーブルやCVケーブルを造営材に直接固定するケーブル配線工事が普及した現代において、施工に手間がかかる碍子引き工事が新設で採用されることはほとんどない。歴史的建造物の改修や、意匠的なレトロ感を演出する店舗内装などの特殊な環境に限定されている。












