ホールライフカーボン
ホールライフカーボン(Whole Life Carbon: WLC)とは、建築物や製品のライフサイクル全体、原材料の調達から製造、建設、運用、維持管理、解体、廃棄・リサイクルに至る、すべての段階で排出される温室効果ガスの総量を包括的に評価する概念である。評価対象は主に二酸化炭素である。
この考え方は、従来の建築物の脱炭素化が主として「運用時」の冷暖房や照明、給湯などに伴うCO2排出量(オペレーショナルカーボン)のエネルギー消費に焦点を当ててきたことに対し、その限界を補完するものである。
カーボンニュートラル社会の実現という目標が不可避となる中で、建築物のライフサイクル全体にわたる排出量を網羅的に捉え、評価し、削減するアプローチが国際的な主流となっている。
オペレーショナルカーボンとエンボディードカーボン
ホールライフカーボンは、以下の二つの主要な要素で構成される。オペレーショナルカーボン(Operational Carbon)とエンボディドカーボン(Embodied Carbon)であり、簡単に紹介する。
オペレーショナルカーボンは、建物の運用段階で発生するCO2排出量を示す。これは、建物の日常的な利用に伴うエネルギー消費から排出されるものであり、これまで多くの省エネルギー対策やZEB(Net Zero Energy Building)などの取り組みが対象としてきた領域である。
対してエンボディドカーボンは、建築物の運用時以外のすべての段階で発生するCO2排出量を指す。具体的には、以下の項目が含まれる。
- 製品段階:原材料の採取、輸送、資材の製造
- 建設段階:資材の建設現場への輸送、建設工事
- 維持管理・修繕段階:建材の交換、修繕
- 解体・廃棄段階:解体工事
- 廃棄物の輸送、最終処分
近年は、このエンボディードカーボンが、特に高気密・高断熱化が進んだ『ZEB』のような建物においては、ライフサイクル全体のCO2排出量のかなりの割合を占めることが明らかになり、その削減の重要性が強く認識されるようになった。建物の省エネ化が進むほど、運用時の排出量が減るが、ホールライフカーボン全体で見れば相対的に、エンボディドカーボンの割合が増大する。
国際的な動向と日本の取り組み
ホールライフカーボンは、EU(欧州連合)を中心に国際的な標準化が進んでいる。日本でもこの国際的な流れに対応すべく、関連法規や制度の整備が進められている。2025年には、すべての新築建築物に対して省エネ基準への適合が義務化され、今後はエンボディドカーボンを含めた包括的な評価が求められるようになることが予想される。
一部の建設会社や設計事務所では、独自にホールライフカーボン評価システムを開発・導入し、建材の選定から工法に至るまで、より低炭素な選択肢を検討する取り組みを開始している。ホールライフカーボンを低減させる手法は多岐に渡るが、下記一部を紹介する。
- 再生可能エネルギーの活用:製造時に太陽光発電などで作られた建材利用
- リサイクル建材の利用:セメント代替材料や再生骨材の積極的利用
- 長寿命化設計:建物の寿命を延ばすことで、建て替え時の解体・新設による排出量を削減
- プレキャスト工法:建設現場での資材製造や加工を減らし、排出量を抑制












