電気設備の知識と技術 > 電気設備用語辞典 > VDSL
建物内に引き込んだ光回線を建物内供給する配線方式のひとつ。建物には通信事業者の光ファイバーケーブルを用いた通信幹線が供給されるが、各住宅や店舗などインターネット回線を利用する場合は、光ケーブルではなく電話配線を利用して接続する。
光幹線は建物引込部のMDFに供給するのが基本となるが、ここで光回線はアナログ回線に変換され、以降の建物内部は光ファイバーを用いず電話配線が使われる。電話線で通信を行うことになり、1Gbpsといった高速回線の利用は不可能であるが、電話線しか敷設されていない古い建物であっても、高速なインターネット通信が可能ということもあり、広く普及した通信方式である。
古い建築物では、建物内には電話線のみが供給されており、光ケーブルが供給できる配線ルートが確保できない場合が多い。竣工した建築物にあとから光ファイバーを引き込むことや、住戸内に電線を引き込むことは容易ではないため、「光回線は建物の引き込み部まで」とし、以降は既存の電話線を用いることで配線量が抑えられている。
通常、共同住宅は階高や天井高さに余裕はなく、ぎりぎりまで詰めた設計となっている。ここに、電話回線以外の配線をあとから敷設するのは困難であり、プロバイダーや通信業者が光回線を用いたメニューを展開していても、導入することは難しい。外壁に配線孔を開けるというのも難しく、光ケーブルを新たに通線できない建物では、1Gbpsを超える高速な光回線契約をしたいと通信業者やプロバイダーに申し出ても、引込不可・契約不可という判断となる。
VDSL方式の場合、ユーザーはVDSLモデムを電話回線のモジュラージャックに接続し、LANケーブルを用いてルーターやPCに接続する。VDSLモデムにはルーター機能を内蔵した製品もあるが、IPv6や、IPv4 over IPv6といった新技術に対応している製品は少なく、VDSLモデムとしての機能だけを動作させ、高機能ルーターを設置するという方法も可能となっている。
VDSL方式の下り最高速度は100Mbpsであり、ISDNやADSLといった方式と比べれば高速通信とも言えるが、光配線方式のように1Gbpsや10Gbpsといった高速通信には及ばない。
住宅内への配線は電話線を兼用しているため、VDSLモデムを設けた場合に電話機が使えなくなってしまう。そのため、VDSLモデムにはスプリッターが内蔵されていることが多く、モデム本体に電話機を接続しつつ、インターネット回線も利用できるといった構成が基本となっている。
下り100Mbpsという速度は、近年では低速な部類となっており、テレワーク、4K画質の動画配信といった多量のデータを必要としている環境では、速度不足ともなりやすい。近年は通信データ量が非常に多くなり100Mbpsでは満足できないユーザーも多いため、建物管理者や大家に対して光回線を含む高速回線の導入を求めるといった事例も多くなっている。
VDSL回線の高速化を図るため、現状敷設されている回線を利用し、1Gbpsに近い回線速度を提供する技術として、G.fastという規格が2018年からスタートした。4K・8Kといった高解像度の動画サービスなどは高速回線の利用が不可欠であり、従来の低速な回線では視聴が難しく、ベストエフォート方式で供給されている回線を占有してしまうおそれがあるため、高速回線化が望まれている。
VDSL方式は電話回線用のメタルケーブルを用いており、光ファイバーを新たに敷設するのが難しい建物で普及したが、その配線類はすべて利用し、建物側の親機と、住宅内の子機を対応品に交換するだけで、上り、下りともに高速化を図る技術である。
G.fastに対応することで、下り664Mbps、上り166Mbpsと、理論値で6倍以上の高速化が図ることができるとされており、モデムの交換のみで対応できる。建物側の機器交換も必要なため導入できるプロバイダやマンション等は限られているが、従来のVDSLサポートの終了も見据えて、順次切り替えが進んでいくものと思われる。
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