安全増(あんぜんまし)防爆構造
安全増防爆構造の設計思想と基本定義
安全増防爆構造(Increased Safety / 防爆記号:e)は、正常な運転中には電気火花、アーク、または点火源となる高温を発生しない電気機器に対して適用される防爆構造である。その設計思想の根幹は、「爆発を封じ込める」のではなく、「点火源の発生そのものを確率的に排除する」点にある。
耐圧防爆構造(d)が、容器内部での爆発を許容し、その火炎が外部へ逸走することを阻止する堅牢な容器に依存するのに対し、安全増防爆構造は、機器内部の絶縁性能や機械的強度を物理的に「増強(Increase)」することで安全性を担保する。したがって、スイッチやリレー接点、整流子モーターのブラシなど、正常動作において火花を発生する部品に対しては、単独で本構造を適用することは原理的に不可能である。
構造的要件:絶縁距離と温度管理
安全増防爆構造として認定されるためには、一般的な産業用電気機器よりも厳しい構造的要件を満たす必要がある。
電圧印加部分と接地金属体、あるいは異極充電部間の「空間距離(クリアランス)」および絶縁物表面を沿う「沿面距離(クリーページ)」について、定格電圧に応じた厳格な最小値が規定されている。これは、埃や水分の付着による絶縁劣化(トラッキング現象)が引き起こす短絡火花を防止するためである。
端子台や接続部における接触不良は、過熱や火花の直接的な原因となる。そのため、スプリングワッシャーやダブルナットによる緩み止め措置が必須とされ、振動や熱サイクルによる接触抵抗の増大を恒久的に防ぐ構造が求められる。
機器の最高表面温度は、対象となる爆発性ガスの発火温度(発火点)よりも十分に低く抑えられなければならない。これは「温度等級(T1~T6)」として管理され、絶縁材料の耐熱温度に対しても余裕を持った設計とすることで、経年劣化による絶縁破壊を未然に防いでいる。
適用危険場所と「第2種場所」の妥当性
本構造の適用範囲は、原則として「第2種危険場所(Zone 2)」に限定される。
第2種場所とは、「通常の状態においては危険雰囲気を生成するおそれがなく、生成したとしても短時間である場所」と定義される。安全増防爆構造は、あくまで「正常運転時」の安全性を高めたものであり、万が一、事故等で機器内部にアークが発生した場合、侵入した爆発性ガスへの引火を防ぐことはできない。
したがって、常時または頻繁に危険雰囲気が存在する「第0種場所(Zone 0)」や「第1種場所(Zone 1)」においては、点火源となるリスクが許容できないため、使用は禁じられている。ただし、近年はLED照明器具等において、保護レベルの高い「Ex eb(Zone 1対応)」などの新規格も登場しているが、選定には慎重な検討を要する。
複合防爆構造としての活用
実務的なプラント設計において、安全増防爆構造は単独で使用されるよりも、他の防爆構造と組み合わせた「複合防爆構造」として採用される事例が多い。
例えば、火花を発するスイッチ部品やランプソケット部分のみを「耐圧防爆構造(d)」とし、火花を発しない端子箱や安定器収納部を「安全増防爆構造(e)」とする構成(Ex de)である。これにより、器具全体を耐圧防爆構造とする場合に比べて、重量のかさむ鋳鉄製容器を減らし、大幅な軽量化とコストダウンを実現できる。
また、安全増防爆構造の信頼性は、容器の密閉性(IP保護等級)に大きく依存する。外部からの水分や粉塵の侵入は絶縁性能を低下させるため、ガスケットの劣化やケーブル引込口(ケーブルグランド)のシール性能には、耐圧防爆構造と同等以上の維持管理が求められる。
電気設備分野で使用頻度の高い、照明器具の防爆仕様については照明設備の防爆設計を参照。












