電気設備の知識と技術 > 照明設計・電球の知識 > 照明設備の防爆設計
危険物を貯蔵・使用する工場やプラントでは、爆発性ガスや可燃性の蒸気を定常的に使用する。施設では、危険性の高い爆発性ガスが空気中に存在しているおそれがあり、照明器具やスイッチの充電部に発生する火花や発熱により、引火して爆発事故を引き起こすことが有る。
危険性のあるガスは「ガソリン」や「シンナー」といった、燃料として使われる液体や、洗浄用として使われる液体が考えられる。多量のプロパンガスを使用する場合も、危険性ガスを流出するおそれがあり、その使用場所や保管場所は、危険場所の一つとして規制される。
爆発性のガスが充満している環境で、通常屋内で使用するような一般照明器具やスイッチを設置できない。電気機器が点火源となり得るという事例は多岐に渡り、照明や電動機類のスイッチをオンオフしたり、電動工具を使用した際に発生するアーク(火花)は、爆発性のガスと接触することが誘爆の大きな要因となる。
カッター類で材料を切断することにより、摩擦による高温部が発生、という工程も点火源のひとつである。照明器具も同様で、内部接点の開閉はアークを伴うため、爆発性ガスが充満した状態では容易に誘爆する。
危険な環境においては、点火源となり得る電気機器を防爆仕様として、爆発性ガスと遮蔽しなければならない。危険物などを取り扱う施設では、爆発性ガスがどれだけ漏洩するかによって危険性をレベル分けし、その雰囲気内に設置できる電気機器を制限することで、爆発事故を防ぐことが重要である。
爆発性雰囲気が発生する状況は、その場所で爆発性のあるものをどのように貯蔵・使用するかによって分類されており「特別危険場所(0種場所)」「第一類危険場所(1種場所)」「第二類危険場所(2種場所)」に区分されている。
0種場所は「ゾーン0」とも呼ばれる。特別危険場所(0種場所)は「危険性雰囲気が通常使用状態において連続して存在する場所」として区分している。
「可燃性の液体容器の内部」や「可燃性液面の上部」などが、0種場所として指定されている。燃料タンクの内部などは高い圧力を維持した状態で、爆発性ガスが充満している空間である。危険性が極めて高いので、照明器具や配線を敷設するのは通常考えられない部分である。点火源があれば、即座に爆発するおそれがある。
0種場所は極めて危険なエリアであり、このエリア内部に照明器具やスイッチを設けないのは当然とし、強電線を含む配管の通過も避けるべき場所である。照明器具メーカーが生産している照明器具も、0種場所に適合する「本質安全防爆仕様」の製品はほとんど存在せず、表示灯やブザーといった制御機器に限られる。
計装や制御機器分野では、タンク内部にセンサーを設けるといった必要性があるので、本質安全防爆仕様の製品が多く取り揃えられている。
1種場所は「ゾーン1」とも呼ばれる。第一類危険場所(1種場所)は、通常の使用状態で、危険性の雰囲気を発生するおそれがある場所を区分している。
「点検や修理を行う際に限り爆発性のあるガスが放出する」という場合や「爆発性ガスを貯蔵した容器の蓋を開閉した瞬間にガスが流出してしまう」といった場所は、1種場所となる。0種場所のように、常に爆発性ガスが充満しているような空間ではなく、危険性が空間として規定されているが、一般的な照明器具や配線工事を行うと、爆発事故につながるおそれがある。
1種場所は、本質安全防爆仕様の電気機器のほか「耐圧防爆仕様」と呼ばれるクラスの電気機器も設置可能である。
2種場所は「ゾーン2」とも呼ばれる。第二類危険場所(2種場所)は、故障による異常状態に限り、危険性の雰囲気を発生するおそれがある場所を区分している。
「燃料貯蔵を行っている室内において、通常の使用方法では爆発性ガスが漏れだすことはないが、誤った操作で容器が破損した際には爆発性ガスが漏れてしまう」という環境が、2種場所として規定されている。「換気装置が設けられているが、故障した場合は危険性ガスか充満してしまう」というような、付属機器の故障によって危険性ガスが流出する場合も、2種場所の要件のひとつである。
事故や故障が発生しない限り危険状態にならない環境であり、安全性は0種場所や1種場所よりも高く、照明器具や配線工事の防爆仕様がより緩和される。
「1種場所が隣接しており、1種場所から漏れだした爆発性のあるガスが侵入するおそれがある」という環境も、2種場所として分類されるため、1種場所が隣接している空間では注意が必要である。
2種場所では、耐圧防爆仕様、本質安全防爆仕様のほか「安全増防爆仕様」と呼ばれる、簡易な防爆仕様の電気機器を使用可能である。防爆仕様の電気機器の中では、構造が単純で、かつ安価である。
爆発性の雰囲気が「どのような状況」で存在するかを区分し、その場所に応じて電気機器の防爆構造を設定する。防爆の措置が施された電気機器は、器具内部で発生する高温や火花を外部に出さないようになっており、その性能によって「本質安全防爆」「耐圧防爆」「安全増防爆」という区分がなされている。
防爆構造には「内圧防爆」「油入防爆」もあるが、照明器具の分野では「本質安全防爆」「耐圧防爆」「安全増防爆」の3種類が広く使用されている。
本質安全防爆仕様の電気機器は、その機器の電気回路に着火源がそもそも存在しない仕様とするか、一定の限度内に抑制した構造とすることで「本質的に」火花や危険温度が発生しない構造としている。
火花や危険温度が発生しないため、着火源にはならない。タンク内部などでも使用可能である。照明器具ではなく、表示灯やセンサー類に利用されることが多い防爆仕様である。
特別危険場所(0種場所)で使用できる、極めて高い防爆性能を持っている。本質的に着火源とならないため、第一類危険場所(1種場所)や第二類危険場所(2種場所)でも当然使用可能である。
耐圧防爆仕様の電気機器は、高い密閉度を確保した容器の内部に電気機器を収容し、電気機器のアークや発熱が外部着火しないよう安全性を高めた防爆構造である。
爆発性のあるガスが電気機器内部に侵入し内部爆発が起こっても、その容器が爆発の圧力に耐え、容器の外部に点火源が漏れ出さないよう高い強度を持つ構造である。
高い防爆性能を持っているため、第一類危険場所(1種場所)、第二類危険場所(2種場所)で使用可能である。特別危険場所(0種場所)での使用は不可能である。
安全増防爆の電気機器は、火花や高温について規定し、温度上昇や絶縁性能など高い安全度を要し、かつ容器内にチリやホコリが入らないような密閉構造となる。
一般の照明器具よりも高い密閉度を持ち、絶縁劣化などで発熱やアークが流出しにくい構造となっており、着火源とならない高い安全性を持っているが、耐圧防爆構造と違い、容器の強さについて規定はなく、容器内部で爆発が起こった場合は外部に点火源が漏れ出すおそれがある。よって第二類危険場所(2種場所)でしか使用できない。
電気機器の容器内に不活性ガスを圧入し、容器の内圧を高めることで、爆発性ガスが容器内部に侵入しないよう対策した電気機器である。1種場所でも使用可能な、高い防爆性能を持っている。
内圧防爆構造は、容器内のガス圧力を保持するための装置や、ガスの漏洩を検出する装置など、多数の付属機器が必要となる。圧力に耐える機器しか仕様できないという構造的な制約も受けるので、照明器具には採用されない。
容器内を絶縁油で満たし、着火源と爆発性ガスを離隔する方式の防爆構造である。絶縁油は空気や水分・湿気と接触すると劣化するので、容器が完全密閉されていることが条件となる。
絶縁油は長期利用による交換が必要で、交換設備の手配や、抜き取った絶縁油の処理も必要となるため、内圧防爆と同様、照明器具の利用はない。
「本質安全」「耐圧」「安全増」「内圧」「油入」以外の防爆仕様は、特殊防爆仕様として定義されている。国内では認可されていない防爆仕様も含まれており、試験によって安全性が確認され、許認可を受けた場合に使用可能な防爆構造である。
安全性が確認できる防爆構造であれば、特別危険場所(0種場所)でも使用可能である。センサーでは、樹脂を充填して危険性ガスと離隔する方法があるが、これは特殊防爆構造として規定される。
T1 | 450℃ |
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G3 | 200℃を超え 300℃以下のもの |
G4 | 135℃を超え 200℃以下のもの |
G5 | 100℃を超え 135℃以下のもの |
G2 | 200℃ |
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G3 | 120℃ |
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G5 | 40℃ |
1 | 0.6mmを超えるもの |
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2 | 0.4mmを超え0.6mm以下のもの |
3 | 0.4mm以下のもの |
3a | 水素ガス・水素を対象とするもの |
3b | 二硫化炭素を対象とするもの |
3c | アセチレンを対象とするもの |
3n | 全てのガスを対象とするもの |
照明器具のLED化に伴い、防爆照明器具のLEDへの更新が進められている。LED照明は高い光束と輝度を持ち、蛍光灯と比較して4倍以上の寿命を持っているため、ランプ交換の頻度を少なく抑えられる。
従来の防爆照明は、蛍光灯やHIDが用いられており、寿命は10,000時間程度である。2年程度がランプ交換周期となることが多く、高いメンテナンスリスクにより、運用負担は大きいものである。
防爆照明をランプ交換する場合、ランプを防爆容器から取り出さなければならない。ランプは防爆容器内に密閉しなければ防爆性能が確保できないため、専用キャップで厳重に密閉されている。
耐圧防爆仕様や安全増防爆仕様照明器具をランプ交換する場合、専用工具でキャップを外し、照明器具を容器から取り外して交換しなければならない。
ランプ交換時に危険性ガスが発生していると、爆発事故につながるおそれがあるので、ランプ交換をする場合は照明器具への通電を止め、危険性ガスが放出されない安全な時間帯でなければならない。多数の照明器具を使用している場合、工場やプラントの運営を停止してランプ交換しなければならないことも考えられ、ランプ交換のメンテナンスリスクは非常に大きくなる。
蛍光灯やHIDと比較して、LED照明器具は40,000時間以上の長寿命である。一度設置してしまえば、24時間連続点灯でない限り、一般的な運用であれば10年近く使用可能であり、ランプ交換リスクを最小限に留められる。
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