アクティブフィルタ
アクティブフィルタ(能動フィルタ)は、電気設備において発生する「高調波電流」を検出し、それと全く逆の位相を持つ電流を人為的に生成して回路へ注入することで、高調波を相殺して消滅させる装置である。インバータ制御を伴う機器から電力系統へ流出する高調波を極めて高い精度で低減できるため、現代の建築設備において電力品質を維持するための重要な装置として位置づけられている。
高調波の発生要因と設備への悪影響
ビルや工場において、空調機のパッケージエアコン、エレベーター、クレーン、溶接機、アーク炉など、電力を効率的に制御するためのインバータ回路やブリッジ回路を搭載した機器が多数稼働している。これらの電力変換装置は、交流を直流に変換し、再び任意の周波数の交流を作り出す過程で、基本周波数(50Hzまたは60Hz)の整数倍の周波数を持つ「高調波電流」を発生させる。
高調波電流が電力系統に大量に流出すると、電圧の波形が著しく歪み、電気の品質が汚染される。これにより、同一系統に接続された他の電気設備に深刻な不具合を引き起こす。
- 進相コンデンサや直列リアクトルの異常な振動、うなり、過熱および焼損。
- 変圧器(トランス)や電力用ヒューズの異常発熱と予期せぬ溶断。
- 通信機器や制御機器へのノイズ混入によるシステム障害や誤動作。
このような不具合を防ぐための標準的な対策として、アクティブフィルタの導入が検討される。
逆位相電流による打ち消しの仕組みと特徴
受動素子(コンデンサとリアクトル)の組み合わせで特定の周波数のみを吸収するパッシブフィルタ(受動フィルタ)とは異なり、アクティブフィルタは内蔵された演算回路によって常に変動する負荷電流の波形をリアルタイムで監視している。
波形の歪み成分(高調波)を瞬時に検出し、内蔵するインバータから逆位相の補償電流を出力してぶつけることで、波形をきれいな正弦波に整形する。負荷の変動に対する追従性が非常に良好であり、機器の運転状態が変わっても常に最適な補償を行えるという優れた性能を持つ。
空調設備への実装とコストの適正化
オフィスビルや商業施設において、最も電力を消費し、かつ高調波の主な発生源となるのがインバータ制御された空調機である。そのため、主要な空調機メーカーは、室外機にアクティブフィルタを組み込んだ対策型製品をオプションとして用意している。
アクティブフィルタを搭載したパッケージエアコンを選定した場合、高調波の発生量を示す換算係数は「Ki = 0.3」程度という極めて低い数値に抑えられ、電力系統への流出を大幅に削減できる。しかし、アクティブフィルタ自体が高価な電子装置であるため、多数の空調機を設置する大型物件では多額の初期投資が必要となる。そのため、設備の設計段階において「すべてのアクティブフィルタを外した標準機とした場合でも、法的な規制値に収まるか」といったコストダウンの計算が頻繁に行われる。
高調波流出電流計算書と簡略方式の適用
需要家が電力会社から新たに高圧または特別高圧で受電する場合、自らの施設から配電網へ一定以上の高調波を流出させないための厳しい規制基準が設けられている。これに適合していることを証明するため、電気の受電申し込み時に「高調波流出電流計算書」の提出が義務付けられている。
本来であれば、施設内に設置するすべての機器の特性を詳細に調査し、流出量を合算するという極めて煩雑な計算が求められる。しかし、一般的なビル用途のように主要な高調波発生源が空調機である施設の場合、設置する機器の換算係数が「Ki = 1.8」を超過しない範囲であれば、複雑な計算を省略できる「簡略方式」を適用できる。
アクティブフィルタを搭載しない安価な標準仕様の空調機であっても、メーカーの仕様書を確認し、この換算係数1.8の基準内に収まる機器構成とすることで、導入コストを大幅に抑えつつ電力会社の審査を通過できるのが一般的な設計手法となっている。
高調波抑制対策とガイドライン
1994年に当時の通商産業省(現:経済産業省)から公布された「高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」は、電力系統における高調波障害を未然に防ぐための重要な指針である。
同時に公布された家電・汎用品向けのガイドラインは2004年に廃止され、現在は国際規格に整合した「JIS C 61000-3-2(高調波電流発生限度値:1相当たりの入力電流が20A以下の機器)」へと移行されている。対象機器の取扱説明書には「JIS C 61000-3-2適合品」あるいは「準用品」といった明記がなされ、機器単体での対策が標準的な仕様となっている。
高調波環境目標レベルとガイドラインの効果
ガイドラインにおいては、電力系統全体で維持すべき「高調波環境目標レベル」を総合電圧歪み率で規定しており、高圧配電系統で5%、特別高圧系統で3%を上限としている。
過去10年間の電力系統の観測データによれば、電圧歪み率の増加傾向には明確な歯止めがかかっており、現状の高圧系統の電圧歪み率は平均して2%から3%程度という目標値を十分に下回る水準を維持している。これは、各需要家における高調波抑制対策の取り組みが効果を発揮し、電力網全体の品質保全という仕組みが正しく機能している証左といえる。
高調波流出電流計算書の作成と必要資料
需要家が電力会社に対して高圧以上の設備を新設、増設、あるいは更新する申請を行う際、施設内に設置される機器からの高調波流出電流が上限値を超えないことを証明するため、「高調波流出電流計算書」の作成と提出が義務付けられている。計算は原則として第25次高調波まで行う必要があるが、現状の障害発生の大部分が第5次および第7次に集中しているため、高次成分が特段の支障とならない場合は、この2つの次数に対象を絞って検討することが付属書にて認められている。
詳細な計算による検討を実施するためには、施設全体における以下の電気的データをもれなく収集しなければならない。
- 受電点における電力会社側配電線のインピーダンス(%Rおよび%X)と受電電圧。
- 需要家の契約電力(契約設備電力)と、高調波発生機器の専用電源トランスの容量、二次電圧、インピーダンス。
- 施設内に設置されるすべての高調波発生機器の名称、メーカー、形式、容量、台数、回路種別、および機器最大稼働率。
- 力率改善等のために設置される進相コンデンサおよび直列リアクトルの容量。
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