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高調波とは

高調波とは「ひずみ波交流の中に含まれている、基本波の整数倍の周波数をもつ正弦波」と定義されている電流のひずみで、電路や接続機器に悪影響を及ぼす性質がある。基本波の3倍の周波数を第3高調波、5倍の周波数を第5高調波と言い、この二つを重点的に確認し、抑制することが高調波対策として有効である。

基本波とは、東日本では50Hz、西日本では60Hzで供給されている電源周波数のことで、これよりも高い周波数を持つ電流は、電動機が異常回転や振動を起こすなど、電気機器に悪影響を及ぼす。

電力会社が維持管理している電力系統では、高圧系統5%、特別高圧系統3%という電圧歪み率を維持しており、需要家が設置する電気機器で電圧が歪まないよう、高調波流出電流が小さくなるよう対策を求められる。

自家用電気工作物を設置し、電力会社より電力供給を受ける際、設置する構内電気設備に高調波が発生するおそれがないか、計算書の提示を求められる。設計段階では電気機器類のメーカーなどが決定していないため、施工が進み、メーカーが決定した時点で提出するのが基本となる。受電前に提出を行い、電力会社内部での検証を求めると良い。

交流電源の周波をイメージした写真

高調波の発生原因

高調波の発生原因としては、下記がある。

単純な電熱負荷や電動機負荷から高調波が発生することはない。高調波は、整流回路を持つインバータや、サイリスタなどを利用した制御を行う電子機器、電源の交直変換を行うなどした場合に発生する。

蛍光灯の安定器なども高調波が発生する代表的な電気機器であるが、高調波発生機器については「EN規格の高調波電流規制」に高調波発生限界が定められている。

EN規格の高調波電流規制

高調波電流規制とは、電子機器が発生させる高調波電流を規制するため、クラスA~クラスDに電気機器を分類し、それぞれの高調波発生限界を定めたものである。

クラスAは、平衡三相機器及び他のクラスに属さない全ての機器が対象である。クラスBは手持形電動工具、クラスCは照明器具、クラスDは、特殊電流波形を持つ600W以下の電気機器が該当する。

高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドラインでは、高圧・特別高圧受電を行う需要家が行うべき高調波対策についてのガイドラインが明記されているが、適用範囲の中に「日本工業規格 JIS C61000-3-2の適用対象となる機器以外の機器」とある。

電力会社から電力供給を受ける場合の高調波計算書提出においては、EN規格の高調波電流規制に準拠した電気機器を採用している場合、有効に高調波を抑制できていることになり、個別に計算する必要がない。数千台の蛍光灯器具を設置するような大規模商業ビルなどであっても、クラスCに準拠していれば高調波に対しては問題ない。

インバータと高調波

インバータは、直流と交流の電力変換を行う装置が、電気設備工事で一般的なものである。交流を直流に変換することは「順変換」と呼ばれ、これは整流とも呼ばれる。反対に、直流を交流に変換することを逆変換と呼ぶ。

汎用インバータは、電圧形インバータと電流形インバータに分類される。電圧形インバータは、負荷と直流電源を半導体スイッチで切り替え、負荷に対して方形波の交流電源を供給する。電動機に採用される場合は誘導性の負荷となるため、主素子と逆並列に帰還ダイオードが接続される。整流回路には大きな平滑コンデンサが必要となる。

電流形インバータは、直流側にリアクトルが挿入され、電流波形が方形波となる。電流は常に一方向に流れるため、帰還ダイオードを設置する必要はない。

インバータは、交流電源の周波数や電圧、電流を制御できるため、安定した電圧と周波数を供給するためのCVCF装置や、エレベータの交流電動機駆動制御用のVVVF装置に応用されている。

インバータは半導体を利用し、電力変換を行う際に高調波を発生させる。インバータ負荷に電力を供給する場合、入力電流が一般負荷よりも大きくなる。電圧形PWMインバータの場合は1.5倍、電圧形PAMインバータは3倍、電流形インバータは1.2倍の入力電流値となる。

インバータ投入時、平滑回路に使用されているコンデンサに突入電流が流れるため、インバータ回路に電力を供給する変圧器についても、電圧降下などを考慮しなければならない。

高調波による影響

高調波が電路に発生すると、下記のような悪影響を及ぼすことがある。

高調波が発生することは、電気機器や電路に悪影響を及ぼすので、高調波が発生しない電気機器を設置するか、発生した高調波を打ち消す処置が必要である。

力率改善用の進相コンデンサは高調波に弱いといわれる。コンデンサの性質として、周波数が高いほどインピーダンスが減少するため、大きな電流が流れる。高調波が発生すると、コンデンサと併設されている直列リアクトルに大きな負担が発生し、異常振動や過熱が発生し、場合によっては焼損事故という可能性もある。

被害を防止するためには、直列リアクトルの耐量を高める、進相コンデンサを低圧対応にする、高調波異常を自動的に切り離す装置を設けるといった手法が考えられる。

高調波の抑制

高調波抑制には、下記の対策が有効として、広く普及している。

進相コンデンサに直列リアクトルを設ける方法を除き、高調波抑制対策機器としての「パッシブフィルタ」や「アクティブフィルタ」は高価である。高調波が多く、建物内や付近に対して高調波が悪影響を及ぼすことが想定されている場合でなければ、一般的な建築物での採用はできる限り避けるよう計画すると良い。

直列リアクトル容量とリアクタンス

直列リアクトルのリアクタンスは、進相コンデンサ容量の6%が一般的である。

直列リアクトルは、高調波を抑制する性質がある。悪影響を及ぼす高調波としては、第5調波が主対象となっており、第5調波を直列リアクトルで緩和し、電源側へ拡大させない措置を行う。高調波抑制のためには、( n × XL - Xc / n < 0 )という計算により、0よりも小さな値とする。

ここで( n × XL - Xc / n < 0 )で示される計算式に、n = 5を代入する。(nは調波の番号である。)

( 5 × XL - Xc / 5 < 0)=( XL > 1/25 × Xc ) = ( XL > 0.04 × Xc )となるため、XL(直列リアクトル容量)は、Xc(進相コンデンサ容量)の4%よりも大きければ、電源側への第5調波の流出がない。

つまり、直列リアクトルの容量は4%で良いが、若干の余裕を見て6%が標準である。

第3調波が多い場合

原則として、高調波対策の計算は第5調波で行う。しかし、進相コンデンサや直列リアクトルを設置する場所が、すでに高調波に汚染されている地域では、系統内に第3調波が多く混在している場合がある。

第3調波成分が多い場合、前述した式への代入値( n = 5 )を( n = 3 )に変えて計算する。すると( 3 × XL - Xc / 3 < 0 )=( XL > 1/9 × Xc ) = ( XL > 0.111 × Xc )になるため、直列リアクトルの容量を11.1%以上としなければ、電源側への第3調波流入のおそれがあることがわかる。

標準仕様のリアクトルは6%リアクトルであり、これでは電源側に流出してしまうため、13%リアクトルが存在すると良い。13%対応品の場合、6%リアクトルよりも電圧上昇が大きくなるため、進相コンデンサも同様に電圧の高い製品を選定しなければならない。

許容電圧よりも高い電圧が印加されると、発火・焼損の危険があるため、選定時には十分な確認を要する。

電力会社が求める高調波対策と計算書

電力会社からの電力を受給する場合、高調波が電路に流出しないよう抑制を求められる。高調波流出電流計算書を作成し、著しい高調波の発生がないことを証明する必要があるが、高圧受電の需要家であれば、設置設備による緩和規定がある。

以上の条件を満足すれば、設置されている機器の一覧を提示するのみで、高調波流出電流計算は終了となる。換算係数が Ki=1.8 を超過する機器が設置される場合、緩和規定を利用できないため、高調波発生機器の等価容量 Po の限度値以下であることを計算によって確認しなければならない。

高調波は、奇数次の数値において「40次」までが対策の対象となっているが、最も悪影響をおよぼすのは「5次」と「7次」とされている。

高調波の流出限度値は、契約電力1kWあたりの数値が定められている。契約電力が大きくなるほど許容値は大きくなる。

通常、空調機メーカーが製造しているパッケージエアコンは、アクティブフィルタがない場合であっても換算係数 Ki=1.8 を超過しないように設計されているのが一般的である。高圧受電で、進相コンデンサに直列リアクトルを付与していれば、ほぼ全ての需要家において高調波に対する特別な対策を必要とせず、計算書の作成は簡易に済ませられる。

 
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