電気設備の知識と技術 > 電線・ケーブルの種類 > KIP電線
KIP電線は、主に高圧電線路に用いられる電線のひとつであり、キュービクル式受変電設備の配電盤内配線として利用されている。高い可とう性を持ち、耐熱性も十分確保されているため、高温になりやすい配電盤内配線に適している。
構造が似ている電線として「PDC電線」がある。これは高圧架空電線路からの引下電線であり、導体とセパレータまでは同一構造であるが、絶縁体が架橋ポリエチレンとなっており、屋外でも使用できる高い耐候性により表面が極めて硬く加工しづらい。
KIP電線のサイズは最小8sqから最大325sqまでが市場流通しているが、325sqは可とう性が悪いため、38sq~200sqの範囲での利用が多い。盤内で大電流を流す場合は、すずめっきを施した銅バーなどを活用し、曲がりが必要な部分と直線部分での使い分けがなされる。
KIP電線は、第一種電気工事士の実地試験において、加工を行う試験が出題されている。自家用電気工作物の盤内・機器内配線として一般的であるため、KIP加工ができるか否かは電気工事士として重要であり、実際に切断・接続する試験によって、電気工事士の技術力を確認している。
試験で用いられるKIP電線は8sqであり、もっとも細いものとなっている。これを切断・被覆除去といった加工を施し、トランスを模した端子台に接続するといった試験が行われている。
KIP電線はケーブルではなく、絶縁体を覆う被覆が存在しない絶縁電線である。盤内及び機器内で使用するのが前提のため、天井裏への敷設や、造営材に固定するといった過酷な環境での利用は想定されていない。天井裏への転がし配線など、ケーブル工事としての敷設は禁止されている。
すずメッキ導体を覆うように、EPゴム(エチレンプロピレンゴム)を絶縁体とし、セパレーター(半導電層)が設けられている。エチレンプロピレンゴムは耐熱性・耐寒性が高く、老化・オゾン・紫外線などにも高い耐性を示すため、電線の被覆材として広く用いられている。高いトラッキング性能により、汚損にも強い。
ただし、ガソリンやベンゼン、鉱油、有機酸を含む溶剤などに対する耐性が低いため、使用場所に注意を要する。
JISに規定された試験方法として、空中で22kWを1分間、水中で18kVAを1分間印加し、十分耐えることが確認される。耐トラッキング性能についても性能が規定されており、噴霧回数101回において0.5A以上の電流が表面を流れず、燃え上がらないことが確認されており、高圧の電圧を印加するにも十分である。
KIP電線はポリエチレン被覆を施すことにより、最高使用温度80℃の性能を確保しているが、類似の電線として、KIV(ビニル被覆)や、KIC(架橋ポリエチレン被覆)が存在し、それぞれ性能が異なる。
KIP電線は、架橋ポリエチレン被覆により、KICよりも高い許容温度・許容電流が確保されている。外径や柔軟性、可とう性は同一とされているため、上位品として取り扱われている。
電線分野には、廃棄時にハロンガスやダイオキシンガスを排出しないエコ電線と呼ばれる電線がある。公共建築ではエコマテリアルの採用が事実上必須事項なので、このような環境負荷の低い電線の需要は高い。
KIP電線にはエコ電線のような区分はなされていないが、鉛など環境負荷の高い材料が使用されていなければ、環境配慮型の電線と同等であるという解釈も存在する。詳しくは一般社団法人日本電線工業会が発行しているEM電線・ケーブルQ&Aを参照。
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