電気設備の知識と技術 > 弱電・放送・避雷設備 > 直撃雷・誘導雷の特徴と安全対策
近年は落雷による被害が数多く発生し、メディアでも取り上げられている。家電やPC機器が落雷で壊れたという事象も多く、常にコンセントを接続している場合、エアコンやテレビ、パソコンの電子基板が破壊されるという事故がしばしば発生する。
落雷による被害は、大きく「直撃雷」と「誘導雷」に分類される。直撃雷は、対象そのものに落雷することを指し、電気機器であればほぼ間違いなく破損する。人体に落雷した場合、死亡率70%以上ともされる。直撃雷が発生した場合、電気機器を保護することは不可能ともいわれており、いかに雷が直撃しないか検討を要する。
誘導雷は、付近周辺に落雷した際に発生した電圧が誘導電流を起こし、周囲に影響を及ぼす現象である。直撃雷と同様に、家電などが破損する大きな原因となるが、直撃雷よりも電圧・電流ともに小さく、電気機器を保護できる。
落雷は夏季に発生すると思われがちであるが、冬季にも落雷が発生する。冬季に発生する雷は、夏季のものよりも大きな電流が流れる事が多く、電気機器の破損の可能性が高くなる。
落雷といえば、夏に発生するイメージが強いが、冬季にも多くの雷が発生する。日本国内では、日本海沿岸で発生の事例が多いといわれる。シベリアからの寒気と対馬暖流からの水蒸気が、日本海側沿岸の山岳地帯でぶつかりあい上昇気流が発生し、これが積乱雲となる。冬季雷は夏季雷よりもエネルギーが大きく、雷被害も大きなものである。
気象庁では、雷検知数の季節的特徴という情報を公開しており、夏の雷は関東や中部など広い範囲で観測されるのに対し、冬の雷は日本海沿岸など限られた場所であることがわかる。落雷が頻繁に発生する時間も夏と冬では明確に違っており、夏は午後から夕方にかけて、冬は昼夜を問わず発生することがわかっている。
落雷には、直撃雷と誘導雷がある。電気機器に直接雷が直撃するのが直撃雷、直撃雷が発生し、大地を通じて電流が流れ込む現象を誘導雷と呼ぶ。
直撃雷はその名前の通り、電気設備・人体、その他の物体に雷撃が直撃することを呼ぶ。直撃雷による電圧・電流は極めて大きく、電気設備や人体にどんな保護を行っても、直撃雷を受けた場合に落雷被害をゼロにすることは、まず不可能である。
国内の落雷では、電圧は数百万V、電流は1,000~20,000A程度が多いとされている。エネルギーが大きい場合、200,000Aを超えるような放電電流が観測されたこともあるが、数値となるのは稀である。
誘導雷は雷撃の直撃ではなく、近くに落雷した際に拡散するエネルギーに電磁界が大きく乱されることにより発生する。誘導雷に近くに敷設されている電線やケーブル、電気機器に対して誘導電流が発生し、異常電圧によって機器の焼損・破損を及ぼす。室内において、パソコンや電話が雷で壊れたという事故は、ほとんどが誘導雷による異常電圧や誘導電流によるものである。
電源線やテレビアンテナに落雷が発生した場合、その電線を通じて雷サージ電圧が発生する。サージ電圧は電線を通じて大地に流れようとするが、その電流経路は電気機器のケースや接地ラインを流れようとしてアーク放電を起こし、電子部品などが破壊される。この電圧は通常時使用する電圧より非常に大きく、電源スイッチをオフにしていても効果がない。コンセントやアンテナの同軸ケーブルを電気機器から外さなければ、被害を受ける可能性がある。
直撃雷を電気設備や人体が受けた場合、時間は短いものの、数十万ボルトからの電圧が対象に印加される。電気設備であれば、瞬間に絶縁が破壊され破損、または焼損する。落雷が人体に直撃した場合、過大な電圧と電流によるショック症状や、心室細動による死亡事故につながるおそれがある。直撃雷に対する保護を計画する場合、電気機器の絶縁性能を高める方法では無理があるため、他の場所に落雷するよう落雷を誘引する設備を別に設け、いかに安全に地面へ逃がすかがポイントとなる。
市街地では、人が直撃雷を受けるという事例は極めて少ない。直撃雷が死亡事故につなかる主な事例は、ゴルフ場での事故が多く見受けられる。上空や周囲が開けた場所で、ゴルフクラブを振りかざしたり傘をさすという行為は、落雷しやすい状態となる。
金属製の指輪や、メガネなどを外せば落雷しにくくなるといわれることがあるが、小さな金属体には雷を引き寄せる効果などなく、人体そのものが突起物になっているため雷が引き寄せられる。部分的な金属物を外しても避雷効果はないため、速やかに建物内に避難するといった対策が必要である。
車の中に避難するのは、非常に効果的な安全対策である。これはファラデーケージ効果とも呼ばれており、スチールに囲まれた車内は、導体に囲まれていることになるため、雷によって電位差が発生しても内部まで影響せずに大地に流れ、人体に落雷が及ぶことがない。車内に避難した場合は扉など金属体部分に触れない事が重要である。
逆に、樹木の近くに逃げ込むのは極めて危険な行為である。高い樹木は雷が落ちやすい上、樹木に落雷した場合、樹木を通って地面へ雷電流と電圧が流れるため、人体が雷撃の通り道の樹木に近づいていると、樹木から人体への再放電による側雷を受けてしまう。
雷撃の電圧は数十万ボルト以上あるので、小枝や葉っぱを通して空気の絶縁を破壊し、枝先や葉っぱから雷撃が襲ってくる。雷が鳴っている際には、樹木には絶対に近づかないのが原則である。
電柱の下では、直撃雷が人体に落ちることはほぼないが、電柱や電線に落雷した場合、電柱の接地線を伝って地面に広がった雷撃が影響し、歩幅電圧により足元から感電を引き起こす。落雷がある場合、できるだけ室内や車内に避難するのが賢明である。
歩幅電圧とは、人体の歩幅によって発生する電位差である。落雷による電圧は極めて高いため、人の歩幅という小さな距離でも数百ボルトの電位差が発生し、これに感電するということがある。雷が発生し付近に落雷した場合、大電圧が減衰するように四方へ拡散していくが、この範囲内に人体があると、歩幅による電気抵抗の差によって電位差が発生する。右足と左足の電位差で100~200Vの電圧が発生し、衝撃や火傷を受ける。
歩幅電圧を避けようとして、雷が発生した時に地面に突っ伏すことは好ましくない。顔からつま先にかけ、全身で感電するおそれがあり大変危険である。なるべく歩幅を狭くし、すぐに建物や車内に避難することが重要である。
電気機器を損傷させる原因は、直撃雷よりも誘導雷において多発する。送電線や付近の電柱に落ちた雷は、配電線を経由して建物内部へ侵入し、接地線から大地へ流れようとして放電を起こす。この電流の通り道に耐電圧性能の低い電子機器があれば、絶縁破壊によって破損する。プリント基板など、低電圧かつ低電流で動作する電子部品は異常電圧に弱く、高電圧や大電流が印加されると故障する。
誘導雷の最も有効な対策は、電源ケーブルと通信ケーブルをそれぞれのアウトレットから引き抜き、雷の通り道から浮いた状態にする。屋上のテレビアンテナに落雷し、同軸ケーブルを伝って室内のテレビアウトレットまでサージ電圧が印加され、テレビの内部に侵入するという落雷経路がある場合、テレビに接続される同軸ケーブルをアウトレットから外しておけば、異常電圧が流入することはない。
誘導雷は建物内につながるケーブルを伝わってくることがほとんどであり、雷が鳴り始めたら速やかにアウトレットやコンセントからケーブルを引き抜くのが良い。
しかし、情報化が著しい近年、個人でも24時間運用のサーバーを持っているなど、容易に電源ケーブルや通信ケーブルを取外せない事例も多くなる。サージアレスタなど避雷器と呼ばれる保護装置を挿入する方法がある。避雷器は、誘導雷による異常電圧が電線から伝わってきた場合に、避雷器内部で放電または吸収し、通信機器への異常電圧や異常電流を食い止めるものである。
一度でも大電流を受けた避雷器は、本来の機能を失うものもあるため、繰り返し使用できるか機器仕様を十分確認すべきである。最近の住宅用分電盤では、分電盤内に避雷器を内蔵し、住戸内の電源を落雷から保護できるというものも販売されている。
近年の家電は電子機器が多く内蔵されており、異常電圧に弱い傾向がある。故障した場合、数万~数十万円の修理費が必要となったり、買い替えが必要となったりする可能性がある。十分な雷対策を施すべきである。
雷撃による異常電圧による機器の破損・損傷は「電位差」が発生するために起こる。つまり、電位が上昇した場合にも、雷撃の経路全体が電位上昇すれば、電位差が発生しないため放電が発生せず、機器の故障も発生しない。
この効果を期待し、電気機器と建物・金属製の配管・金属製の架台など、全ての金属製の部分に対して接地線を接続し、この接地線を通して落雷時にも電位を同位とする保護方法を、等電位化と呼ぶ。
従来から、病院の接地として利用されており、微弱な電位差が患者の身体に流れ込まないよう、患者が触れる可能性のあるベッド、電気機器などを全て接地線で接続して等電位化し、電位差を限りなく0に近づけるという方法が行われている。
これと同様の考え方で、誘導雷に対してもすべての接触機器の電位が同時に上昇すれば、電位差によって電気機器が故障することもなく、人体も感電することがなくなるという考えである。
等電位化を考える場合、設備機器だけではなく、建築仕上げを含めて全ての電位を統一しなければならない。ガスや水道の引込管、屋上パラペットのアルミ笠木など、金属部分があれば接地線を接続し、電位を同一にする。接地の取り忘れがないように、電気工事だけでなく機械工事・建築工事に対しても注意が必要である。
サイト内検索