電気設備の知識と技術 > 電気設備設計の基礎知識 > サーマルリレーの原理と設定方法
サーマルリレー(thermal relay)とは、バイメタルとヒートエレメントが内蔵された保護継電器である。熱によって動作するため「熱動継電器」とも呼ばれている。電動機に電源を供給する動力制御盤を計画する場合、電動機の保護は「配線用遮断器」だけでなく、サーマルリレーを組み合わせるのが一般的である。配線用遮断器は、モーターの温度上昇を検出するのは不向きであり、電動機専用のモーターブレーカーを設けた場合であっても、高い信頼性が確保できない。
電路の短絡保護を配線用遮断器の役目とし、電動機の温度異常はサーマルリレーで間違いなく検出し、マグネットコンタクターを動作させて過負荷を遮断するのが、一般的な動力盤の設計手法となる。
誘導電動機を設計する場合、過負荷運転に対して保護しなければならない。電動機が過負荷運転となれば、巻線が温度上昇を起こす。電動機の回転子が抵抗によって拘束されることが、異常過熱の原因となる。
厨房排気ファンでは、ファンに油脂の汚れが付着し、回転に負荷を与えるほどになった場合、回転子に拘束を与えられた状態になり、異常発熱を起こす。
発熱を放置すると、巻線の温度が許容範囲を超過し絶縁不良になり、電動機所定の寿命を満足しない。発熱が大き過ぎれば、電動機の主要機器が焼損することも考えられる。
電動機の上位側に設置する配線用遮断器は、電路が短絡した場合に保護するための役割を持つものであり、始動電流で動作しないように選定するので、電動機の過負荷に対しては保護できない。
電動機を保護するためには、過負荷による発熱を保護するために、電動機を設置する場合、サーマルリレーを電路に設ける。サーマルリレーは熱動継電器とも呼ばれ、回転機温度スイッチ・継電器、または過負荷継電器の総称である。回転機の温度が設定値以上になった際に動作するもので、異常電流の発生による発熱を検出すると動作し、電磁接触器を動作させて電路を遮断し、保護を行う。
黄銅とアンバーのように、2枚の膨張率が違う金属を張り合わせたバイメタルが使用され、温度の上昇によって黄銅が伸縮し、湾曲し接触することを利用している。
サーマルリレーによる保護は、ヒートエレメントに電流が流れることによる熱検出を行っているため、電動機の巻線温度上昇と電流の増加が相関関係になければ使用できない。間欠運転を行う電動機や、負荷を変動させて使用する電動機では、巻線の温度上昇と電流の大きさに相関関係が薄く、適正な保護ができないおそれがある。
サーマルリレーは過負荷や電動機の拘束、電動機結線の欠相から保護するための装置であり、短絡や地絡を保護する機能を持っていない。必ず、配線用遮断器や漏電遮断器と組み合わせて使用される。
サーマルリレーの最も標準的な保護すべき要素として、過負荷がある。過負荷の原因は多岐に渡っており、負荷が重くなった場合や短絡事故により、規定よりも過大な電流が流れた場合に動作する。過負荷のまま運転を続けると、モーターが高温となり焼損事故となるため、直ちに回路を遮断しなければならない。
電動機の保護を検討する場合、運転開始時に発生する大きな始動電流を考慮しなければならない。電動機の始動時には、定格電流の5~7倍という大電流が数秒流れるので、この電流で過負荷要素が働いてしまうと、モーターの運転を開始できない。これに対応するため、過負荷が何秒継続するかを同時に検出し、事故による過負荷なのか、始動電流なのかを判断している。
電動機は、始動時に必ず始動電流による一定の過負荷を受けることが想定されており、これによって機器が焼損することはない。サーマルリレーの設定は、この始動電流の発生時間まで動作しないように整定する。
定格電流~105%では動作せず、過負荷120%~125%で動作するように整定する。動作時間の設定は、始動時の保護と同様に一定時間は過負荷を許容する設定と、始動時以外は瞬時に遮断する設定があるが、対象とする負荷に応じて選択することが望まれる。
電動機は三相電源で動作する電気機器であるが、このうちの一相が何らかの理由で失われた場合、欠相運転が発生する。欠相状態では、三相電源が単相電源と同様の位相となるため、回転磁界を生み出せず、電動機は回転を始められない。停止時に欠相状態となった電動機は運転を開始できず、始動電流がいつまでも流れ続けることにより過負荷を発生させる。
過負荷要素の保護がなされていれば、欠相による過負荷を保護することはできるが、結線の緩みや断線など、電動機が運転中に欠相が発生した場合、軽負荷状態であれば回転磁界が発生しなくても、単相電動機として回転を継続してしまうことがある。デルタ結線の電動機であれば過負荷要素で保護できるが、スター結線のモーター外部欠相が発生した場合には、過負荷要素が働かずに巻線を焼損してしまう可能性がある。
欠相状態では過負荷の発生だけでなく、電線のゆるみや断線・外れによる原因であればそこから地絡や感電事故へ波及することが考えられる。欠相状態で軽負荷運転を継続していては、いつ停止するかもわからない不安定な設備となる。欠相状態を早期に検出し、改善を行うためには欠相要素をサーマルリレーに含むことが望まれる。
逆相(反相)要素は、電動機の相順を逆にしてしまうことによる逆回転を防止するための要素である。ファンやポンプなどが主体となる建築設備分野において、電動機が逆に回転して適正品質を確保できないため、その逆回転を防止するために用いられる。
しかし電動機は設置時に相回転を検査し、適正な方向に回転することを確認する。モーターが運転中に突然逆回転を引き起こすことはまず考えられないため、逆相(反相)要素は必ずしも付与することはない。逆回転が施工中であっても許容できない場合や、移動用電動機など結線の取り外しが頻繁に行われる電源系統であれば、この要素を付与する意義がある。
サーマルリレーを計画する場合、電動機の容量と電流値に注意が必要である。サーマルリレーの電流設定値はシビアであり、設計変更等でファンサイズが変わった場合、サーマルリレーも変更しなければミストリップの原因となる。
下位のファンを保護する電流設定のサーマルリレーを設置していた場合、電源を投入するたびにサーマルリレーが動作し、逆に上位のサーマルリレーを設置していれば、動作しないため焼損事故につながるおそれがある。
電動機の全負荷電流に整定されたサーマルリレーなら、汎用電動機の保護が可能であるが、始動時間の長い大型のファンでは、始動電流が思いがけず長時間続くことによるミストリップの可能性もあり、逆に整定電流値を上げてしまうと、始動できても、過負荷保護が不能となる。場合は、長限時形のサーマルリレーを採用するなど、保護協調を考慮した計画を行う。
サーマルリレーの一般的整定として、電動機定格電流の105%で不動作、120%で動作する設定とし、電動機拘束による大電流発生は2~30秒で保護動作することとすれば、二次側に設置した電動機を安全に保護できる。
ファンやブロワなど、始動時間が長い大型電動機を保護する場合、始動電流が10秒程も続く場合があり、通常のサーマルリレーでは不要動作をしてしまうことがある。負荷をサーマルリレーで保護する場合は、飽和リアクトル付サーマルリレーなど、動作時間の長いサーマルリレーを選定すべきである。
ホットスタートとは、サーマルリレーに不動作電流を2時間通電し、電流を流し始めるまでの時間特性を示す。運転している電動機や、再起動時に温度異常を発生した場合は、ホットスタートに該当する。ホットスタート時はサーマルリレーが通電により温まっているため、動作範囲の電流倍数が低くなり感度が高くなる。
コールドスタートとは、サーマルリレーのヒータ温度が周囲温度と同じ状態で、電流を流し始めてから動作するまでの時間特性を示す。サーマルリレーが冷えているため、動作はホットスタートよりも緩慢である。モータ始動時に適用する特性である。
サーマルリレーの主要メーカーは、富士電機、三菱電機FAが主力である。どちらも配線用遮断器や電磁接触器など、分電盤や制御盤の各種保護装置を製造しているメーカーである。
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