迷走電流とは
迷走電流は、電気鉄道や溶接機などを起因として発生する、「本来想定していない場所に流れる電流」の総称である。例えば電気鉄道では、電力をパンタグラフから供給するという特徴から、変電所からの電流がパンタグラフを通じて流れ、レールを通じて変電所に戻っている。
レールは砂利や枕木を経由して設置されているものの、大地に対して完全絶縁ではないため、レールを流れる電流の一部が大地に漏れ出し、大地を通じて供給元の変電所に戻ることになるが、これは迷走電流として区分される。
迷走電流の流れる大地付近に金属製の埋設配管が埋設されている場合、電流がその金属体に対して流れるようになり、電流が電線管から大地に戻る終点付近で腐食が進行する。特に、配管の塗装面に損傷がある場合などは、迷走電流が塗装の損傷部から流出し、配管の局部的腐食を著しく促進することが知られている。
電気鉄道沿線に位置する高圧受電設備や埋設設備、埋設タンクなどは、鉄道本体からの迷走電流による影響を受けるおそれがある。鉄道運営者による根本対策には限界があるため、受電設備や埋設設備の所有者が、自ら実施可能な防護対策を検討しなければならない。
迷走電流による周辺影響
電気鉄道沿線の埋設配管は、迷走電流による電解腐食の被害を受けやすい。特にビニル製の配管は絶縁体であるため迷走電流の影響を受けるおそれはないが、給水配管・消火配管・ガス配管といった金属製の配管や、電力ケーブルを保護する厚鋼電線管やSGP管では、迷走電流が配管から土壌に流出する箇所で激しい腐食が進行する。
腐食の強度は配管材質や土壌条件、流れる電流の大きさにより異なるが、鋼管では年間数ミリメートルの腐食速度となる場合もあり、短期間で穿孔に至る危険性も考えられる。
構造体への影響
地中に埋設されているのは埋設配管だけでなく、鋼製の電柱や鋼製ポール、埋設オイルタンクといった部位も、迷走電流の影響を受けるおそれがある。直流迷走電流は金属体を腐食させ、ピンホールといった物理的な損傷につながる。特定の部位に迷走電流が発生しやすい状況にあっては、局部的な急速劣化が懸念され、亀裂や破断といった致命的な劣化にもつながる。
電気設備への電気的障害
迷走電流が交流の場合、迷走電流によって引き起こされる誘導によりノイズが拡散し、接地系統の電位が変動し、保護継電器の誤動作や計器の測定誤差が発生するおそれがある。特に溶接機を用いる場合、溶接対象以外の母材にケーブルを接続すると、仮設足場や躯体を通じて迷走電流が流れ、思わぬ場所での感電や発火を引き起こすおそれがある。
接地に故障電流が流れ込んだ場合、故障電流と迷走電流が重畳して異常な電位上昇を引き起こすことも考えられ、設備損傷の原因となり、感電事故のおそれも高まる。さらに接地と溶接位置が離れている場合、どこに電流が流れるかわからないという危険性を伴うため、母材側のケーブル接続状況を十分確認し、迷走電流の発生を防止しなければならない。
東京消防庁の審査基準では、地表面電位勾配(S/S)について5mV/m以上で腐食のおそれが高く、5mV/m未満であればおそれが低いものとして規定しているため、これを基準とする事例も多い。
迷走電流の保護と対策
迷走電流が発生する場所にあっては、適切な防食方法を採用することで配管や部材の劣化を防止することができる。下記に一例を紹介する。
絶縁継手による電気抵抗の増大
埋設配管の迷走電流対策として、絶縁継手による電気的分離が考えられる。配管系統への絶縁継手を設置すれば、管路全体の電気抵抗が増大し、迷走電流の流入を抑制できる。建物への引込部や敷地境界などに絶縁継手を設置するなど、迷走電流の侵入経路となる部分に絶縁継手を設けることも一案である。
絶縁被覆(塗装)による保護
絶縁被覆による保護も効果的であり、新設の配管については、絶縁被覆となる塗装を施すという方法も採用される。ポリエチレン系やエポキシ系の絶縁被覆材により配管表面を完全に覆うことで、土壌との電気的接触を遮断する。ポリエチレンライニング鋼管などは、鉄管が内外ともに絶縁塗装に覆われているため、損傷がない限り、迷走電流が流入することはない。
代表的な防食方法
絶縁対策と併用して電気防食法を導入することで、より高度な防食が実現できる。電気防食法には「外部電源方式」と「流電陽極方式」があり、用途や規模によって使い分けられている。
外部電源方式は直流電源装置により配管を陰極に分極し、腐食を電気化学的に防止する。防食のために電流を流し続けることになるため、電源が必要かつ電流発生のため維持費が必要となるが、土壌抵抗率の変動にも速やかに対応できるなど環境変化に追従できるというメリットがある。
流電陽極方式では、マグネシウムや亜鉛等の犠牲陽極を配管に接続し、自然電位差を常に与え続けることで保護する。被保護対象の配管等に接続するだけで保護が可能であり、電源などは不要であるが、追従性がなく、時間とともに犠牲となった陽極部材の更新やメンテナンスが必要となる。












