電気設備の知識と技術 > 自動火災報知・防災設備 > 非常照明・非常用照明の設置基準と計画
非常用照明は、避難するための通路や居室に対して、一定の照度を確保するための防災設備である。非常用照明には内部に電池が収納されており、電源供給が断たれた際であっても、自動的に内部電池から給電されるよう作られている。火災を原因として停電しても、避難するための明るさは自動的に確保される。
非常用照明に類似した防災照明に「誘導灯」がある。非常用照明と同様、照明器具に電池が搭載された器具ではあるが、誘導灯は消防法に定められた「避難する方向を示すための設備」であり、非常用照明と用途が異なる。
停電時に点灯する照明器具であるものの、誘導灯は非常用照明の代替設備として認められておらず、誘導灯の明るさで非常用照明の照度を確保することは不可とされている。
火災や事故によって停電が発生すると、避難方向や周囲の状況を把握できなくなるため避難が困難となる。火災時は商用電源が失われている可能性が高く、照明器具が設置されていても、有効な明るさが確保できる保証はない。
戸建住宅など小規模な建築物であれば、非常用照明の設置義務はないが、一定規模以上の建築物や、不特定多数を宿泊させるといった用途の場合、非常用照明を設け「電池によって一定時間は照度が確保できる照明器具」を設置しなければならない。なお非常用照明の設置基準は、建築基準法によって定められている。
非常用照明はミニ電球やハロゲン電球、または蛍光灯を光源として使用するのが標準であり、それ以外の光源の利用は認められていなかった。省エネルギーの観点からは、無駄の多い電球が用いられていたことになる。近年のLED普及により、白熱電球の生産は終了状態てなっており、ほぼLEDを用いた非常用照明が普及するに至っている。
白熱電球や蛍光灯は電球寿命が短いため、頻繁なランプ交換が必要である。LEDを使用すれば、寿命が極めて長いためランプ交換の手間がなくなり、定期的な交換は内蔵電池のみとなる。
電源内蔵型の非常用照明であればLEDランプの使用が認められているが、電源別置きの場合はLED電球を使用することができない期間が長期に渡り続いたが、パナソニックが電源別置仕様のLED非常用照明の大臣認定を取得し発売を開始した。現在では、非常用照明器具自主評定(JIL評定)も取得されており、一般的な非常用照明のひとつとして数えられることとなった。
JIL評定は、対象の非常用照明が「建築基準法及び工業会規格JIL5501「非常用照明器具技術基準」に適合していること」を確認し評定するものであり、これに適合した非常用照明を設置することとなっている。評定は年4回に渡って開催され、製造事業者はスケジュールに則って、製造した器具の評定を取得している。
非常用照明に関わる告示「平成22年3月29日 国土交通省告示第242号」により、照明器具の構造として下記を求めている。
LED電球は「白熱灯」でも「蛍光灯」でもないため、非常用照明に採用できないとされていた。以前の告示では「同等以上の耐熱性、即時点灯性を有する」という記述があったが、平成22年3月29日の国土交通省告示で削除された。高圧水銀ランプによる非常用照明の記載も削除されており、実質「白熱灯」「蛍光灯」の2種類でなければ、非常用照明として成立しないよう規制されている。
この改正により、省エネルギー光源であるLEDを用いた非常用照明は、今後この告示が改正されない限り現存できない。非常用の照明装置の構造方法を定める件等の一部を改正する告示案に関するパブリックコメントの募集の結果についてに、意見募集の結果に関するPDFが公開されているが、この改正に関わるパブリックコメントは存在していなかった。
平成26年11月に、パナソニック社よりLED光源による非常用照明の発売開始がプレスリリースされた。「国土交通大臣認定制度」を活用し、自主評定マークを取得した製品群として、LED光源の非常用照明が普及した。
白熱電球からLEDに変わることで、非常用照明の小型化と、省電力化が図ることができることとなった。電源内蔵型ではどのメーカーでも100Φというサイズが標準であった非常用照明であるが、LEDの採用により60Φまで小型化された。これは電源別置型の非常用照明と同等サイズであり、意匠性の向上につながると期待されている。
設計における注意点として、LED光源による非常用照明の確保すべき照度基準は2lx以上であり、蛍光灯による照度基準と同様となる。LED光源となることでランプ本体の定期的な交換は不要となったが、ランプを点灯させるための電源である内蔵蓄電池は消耗品であり、4~6年で交換しなければならない。電源内蔵型の非常用照明を選定した場合にあっては、LED光源を採用したとしても、交換が困難な高天井部分に設置するのは避けるべきである。
電源別置型のLED非常用照明であれば、定期的な交換を必要とする蓄電池部分が集中設置されているため、照明器具本体はランプ交換のみ行えば良い。非常用照明の本体にはランプしか搭載されていないので、基本的にLEDが不点灯とならない限り交換が不要なため、長期間に渡ってメンテナンスフリーでの運用が可能となる。
平成26年11月時点で、電源別置形のLED光源を採用した製品は生産されておらず、白熱電球等の電球を使用する選択肢しかなかった。平成30年現在では、LED光源による電源別置型の非常用照明が普及することとなり、選択肢は大きく広がった。
電源内蔵型の非常用照明は、名称の通り、蓄電池を内蔵した非常用照明である。機器内に収容されたバッテリーにより、電源供給が断たれた際、自動で非常電源に切り替わることで照度を確保する。
非常用照明器具にはニッケルカドミウム蓄電池が内蔵されており、繰り返し充放電に耐えられる。機器本体には蓄電池の充電状態が確認できる充電モニターランプが取り付けられており、充電状況を目視確認できるのが特徴である。
器具本体には引き紐が取り付けられており、これを引くことで強制的に非常時と同様の点灯状態になるため、日常点検も容易である。
照明器具単独で非常電源回路が完結しており、充電用として敷設する配線に「耐火性」や「耐熱性」を求められないため、VVFケーブルなどの一般電線で計画する。
非常用照明の回路構成は、照明器具の回路と同一にし、照明回路が停電した際に非常用照明を点灯するのを基本とするが、主幹の二次側が停電した時点で点灯する計画という考え方もあり、確認申請時に審査機関または建築指導課等に確認すると良い。
どのような場合であっても、非常用照明は「ブレーカーの二次側」に設け、ブレーカーが動作し電源供給が断たれた瞬間に点灯しなければならない。誘導灯のように、電源回路の一次側から電源供給する配線計画してはならない。ブレーカーが遮断された場合に、電源供給が続いてしまう回路とならないよう、誘導灯と非常用照明の違いを理解するのが重要である。また、発電機電源が供給される回路につなぐと、発電機からの電源が供給されることで通電状態となり、消灯してしまうことになるため注意を要する。
電源別置型の非常用照明では、蓄電池設備を別に用意する必要があり、大きな蓄電池を設けることでコストメリットが生まれるため、特に大規模な施設で採用される。非常用照明本体での停電検出が出来ないため、停電を検出するためのリレーを電灯分電盤に設けなければならない。停電検出のためのリレーは「不足電圧継電器」呼ばれ、停電状態を検出し、非常用照明専用回路のマグネットスイッチを動作させる。
不足電圧継電器を電灯分電盤内に設け、継電器からの信号でマグネットスイッチを動作させ、停電時に蓄電池から給電する自動化システムを構築する必要があり、小規模な建築物ではコストメリットが出にくい。
電源別置の非常用照明の電源に蓄電池を用いる場合「停電時に30分以上点灯できる容量を持つ」仕様が求められる。蓄電池のみで30分以上点灯する容量は合理的ではなく、電池が非常に大きくなってしまうため、蓄電池による点灯時間を短くし、非常用発電機を組み合わせて計画するのが一般的である。
電源別置型の非常用照明を採用する場合、蓄電池から非常用照明までの配線が焼け落ちてしまうと点灯不能となるため、耐火ケーブルによる配線計画としなければならない。蓄電池は建物のいずれかに一括設置されるが、非常用照明は多くの場所に分散配置されるため、耐火ケーブルが非常に多くなりコストアップにつながる。
電源別置の場合、非常用照明の本体は安価であるが、蓄電池設備、耐火電線、不足電圧継電器といった各種機器が必要となり、小規模施設では電池内蔵型の非常用照明よりもシステム全体のコストが高くなる傾向にある。大規模施設でなければ採用は難しい。
電源別置とする利点は、「非常用照明本体に電池が設置されていないため、蓄電池交換を電源装置のみに対応すれば良い」という点が挙げられる。例えば、数千台もの非常用照明を設置するような大規模建築物であれば、電源を別置きすることでコストメリットが生まれる。
電源内蔵型非常用照明の内蔵電池は4~5年で寿命となるため、設置した器具の電池は、ひとつずつ交換しなければならない。数千台もの蓄電池をひとつずつ交換していくのは、電池交換の労務コストが極めて高くなるため、経済的とはいえない。
電源別置のシステムを採用していれば、交換対象となる電源装置は集約されており、これを交換するだけで電源装置の更新が完了する。非常用照明にはランプのみ取り付けられているが、内蔵電池の交換と比べて非常に簡易であり、交換コストが大幅に低減できる。
電源別置型非常用照明は、設置のためのイニシャルコストは高いが、ランニングコストでメリットを得られる可能性があるため、運用シミュレーションを十分に行うのが重要である。
LED光源の使用が可能となったことにより、防災用蓄電池の容量を大幅に低減できる。通常、白熱電球とLEDの消費電力は6倍以上の差があるため、単純計算であっても、蓄電池容量を1/6まで低減できるという大きな利点がある。蓄電池容量が小さくなれば、整流器やキュービクルのサイズなど、附属設備もより小型化可能であり、建築計画に対するメリットも大きい。
非常用照明装置を点灯させ、30分間非常点灯させた状態で、床面1ルクス以上の照度を確保する。照明メーカーのカタログを参照し、光の有効範囲を確認しながら器具を配置する。蛍光灯やLED光源を非常用照明とする場合、2ルクス以上の照度が必要になる。
蛍光灯は白熱電球と違い、火災による高温で照明効率が低下するおそれがあるため、2ルクスを確保するよう定められている。これはLED光源であっても同様である。
照度基準のほか、「非常用照明器具を30分以上点灯できる予備電源を有すること」「140℃の雰囲気の中で30分以上点灯を維持できる耐熱性を有すること」などが規定されている。
非常用照明は、一定規模以上の建築物に設置しなければならない防災設備である。規定されている規模は、下記の通りである。
これらに外灯しない建築物であっても、所轄消防などから非常用照明の設置を指導される場合がある。例として、アラーム弁や消火ポンプといった室に、非常用照明を設置する事例は多い。
学校や体育館、ボウリング場、スキー場、スケート場は、火災発生の危険性が少なく、避難も容易と判断されているため、非常用照明の設置が免除される。
ただし、全ての場所で設置が免除できるわけではなく、「無窓となっている避難経路」「体育館が集会場としても利用されている」といった要件があれば、免除対象の建築物であっても非常用照明の設置が求められる。
非常用照明は「直接光」で避難経路を照らすのが原則であり、壁に反射した光などは原則として認められない。非常用照明は意匠性を損なう防災設備のひとつとして扱われがちであり、見えない場所に隠すよう要望されやすい傾向があるが、間接照明のようにして照度を確保することは禁止されている。
直接光であれば良いので、ルーバー天井の上部に非常用照明を設置するといった計画であれば適法である。ただし、ランプ交換が容易であること、非常用照明のランプが視認できることといった各種条件を満足しなければならない。
ルーバーを介して照射する場合、光が阻害されることによる照度低下が懸念されるため、定期的なルーバー面の清掃や、事前に設計照度を増強しておくといった配慮が求められる。
非常用照明の設置基準を緩和する告示改正が、平成30年3月29日に発表された。ホテルや旅館など、多数の者が利用する建築物は、居室及び避難経路に対して非常用照明の設置が義務付けられているが、この設置すべき場所が大きく緩和されている。
規制の適用を受けない居室として「30㎡以下の居室で地上への出口を有するもの」「地上まで通じる部分に非常用照明を設けたもの」「地上まで通じる部分が採光上有効に直接外気に開放されたもの」となっている。
これにより、ホテルや旅館といった宿泊施設にあっては、建設費の圧縮を図ることができるほか、住宅からホテルへのリノベーションといった用途変更に対しても、コストや追加設備の増強範囲が小さく抑えられ、より円滑な用途変更が期待されている。
なお、この規制によって「規制の適用を受けない居室」となった場合であっても、安心や安全の観点から、非常用照明を自主設置することに問題はなく、従来の規定に基づいた非常用照明の設置を継続することも考えられる。
電源内蔵型の非常用照明は、器具内部に蓄電池が搭載されているため、電源供給するための電線は、VVFケーブルなど一般のケーブルで問題ない。電線が火災で焼け落ちても、内部の蓄電池に蓄えられた電力によって、非常用照明を点灯させることが可能なためである。
非常用照明に電源を供給する系統は、常に充電状態としなければならないため、スイッチを設けることはできない。照明器具と同一系統とする場合、照明スイッチによって電源供給がカットされることがないよう注意を要する。
非常用照明の電源配線は、下記を基準とすると良い。
一般照明は常用電圧線から電源供給され、これにスイッチを設置することに問題はない。非常用照明は非常用電圧線から電源供給を行い、常時通電状態を確保しなければならない。
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