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電気設備の知識と技術 > 自動火災報知・防災設備 > 蓄電池設備の設置基準と容量計算

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蓄電池設備の概要

蓄電池設備は、静止形電源設備という名称でも呼ばれる。直流電源装置としてキュービクル内部電源として用いたり、停電時の非常用照明などの電源として用いるなど、防災用電源として広く用いられている。これは「防災用蓄電池」とも呼ばれている。

電気設備分野で用いられる蓄電池設備は、主に「非常用照明の電源用」「受変電設備の制御電源」であり、蓄電池、整流装置などで構成され、停電時には一定時間、直流電源を供給することで防災負荷の始動や、非常用照明の点灯、受変電設備の表示・操作電源に利用されている。ここでは、非常用照明・受変電設備の制御電源のバックアップとして使用する、防災用蓄電池設備の計画・設計について解説する。

屋上に設置された蓄電池設備の写真

充電装置の計画

蓄電池設備を充電する為の充電方式として、浮動充電・均等充電・トリクル充電の3方式がある。

浮動充電(フローティングチャージ)方式

浮動充電方式は、電源に対して蓄電池と負荷を並列につなぎこむことで、蓄電池設備本体の自己放電や、常時使用している直流電源の供給を交流入力電源から負担し、停電時や大電流使用時には、蓄電池設備からも電源供給するという方式である。

蓄電池は常に充電と放電が続いているという運用である。

回復充電

停電などで、蓄電池が放電されたあとは、すぐに回復充電を行い次の停電に備える必要がある。防災用の蓄電池は、24時間以内に回復充電を行う必要があるため、充電装置の出力電圧を上げて急速充電を行う。

鉛蓄電池は24時間、アルカリ蓄電池は8時間の回復充電時間が必要である。タイマー設定時間まで充電を回復させる動作を行うが、十分な充電が完了したことが検出されれば、回復充電を停止する。回復充電中に異常発熱といった問題発生時には回復充電を中止するなど、各種安全機能が搭載されているのが一般的である。

均等充電方式

均等充電方式は、蓄電池設備の放電や充電を繰り返した際に起きる蓄電池容量のばらつき・電圧のばらつきを補正するために、定期的に行う充電方式である。

浮動充電を続けていると、蓄電池のセル毎に充電容量が違ってしまい、電位差による循環電流の悪影響が懸念されるため、最低でも6カ月に1回(メーカー毎に推奨値がある)は、均等充電を行って電源品質をリセットすることが望まれる。均等充電は回復充電と同様に、充電器の出力を上げ、過充電を行う。

トリクル充電方式

トリクル充電方式は、蓄電池に微小電流を流して充電を続け、負荷を使用し続けるという充電方式である。蓄電池の自己放電を補うため、負荷から切り離した状態で微小電流充電を行う。液体が滴り落ちることを示す「トリクル(trickle)」の名前が示すように、微小な電流を流し続けることで放電電流と充電電流を常に平衡させ、蓄電池は満充電状態を維持する。

トリクル充電方式は大電流による急速充電方式とは違い、過充電のおそれが小さいため蓄電池に負担や悪影響が小さいという特徴がある。電圧が低下した蓄電池を充電する場合、まず大きな電流で70~80%まで高速充電を行い、80%を超え100%になると、充電電流を小さくしトリクル充電に切り替えることで、蓄電池への負担を軽減して耐用年数を維持する。

常に満充電状態で運用する必要のある「防災用蓄電池」や「UPS」に採用されている充電方式である。急速に充電する方式と比較して、満充電までに長時間を要するが、満充電状態で充電電流を流し続けても、バッテリー劣化を最小限とできる特徴がある。

メモリー効果のあるニッケルカドミウム蓄電池やニッケル水素蓄電池は、トリクル充電を行うと著しい容量低下を引き起こすため注意が必要である。メモリー効果の発生しないリチウムイオン蓄電池に適した充電方式である。

電圧補償装置

シリコンドロッパ方式と、トランジスタ方式がある。蓄電池設備は停電時の放電に蓄電池から供給される電圧が変動する。通信設備への電源供給を行う場合に問題になることが多く、電圧の±10%程度の変動を許容できるなら「シリコンドロッパ方式」、電圧の±5%までの高精度を求めるなら「トランジスタ方式」の負荷電圧補償装置を用いると良い。

蓄電池設備の種類選定

蓄電池設備は、鉛蓄電池・アルカリ蓄電池の二種類が多く使用されている。極の構造や液口栓に各種分類がある。

蓄電池設備の極材質の違い

鉛蓄電池は、電気設備用途として広く普及しており、一般的に採用される蓄電池設備である。陽極に二酸化鉛(PbO2)、陰極に鉛(Pb)、電解液に希硫酸(H2SO4)を使用している。

アルカリ蓄電池は、陽極にオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)、陰極にカドミウム(Cd)、電解液に苛性カリ溶液(KOH)を使用している。機械的強度が高く、放置時の過放電にも良く耐える。大電流への放電特性が良く、長寿命という多くの利点があるが、コストが高いため採用実績は鉛蓄電池に劣る。

蓄電池設備の蓋の種類と特徴

蓄電池の蓋は、ベント型とシール型に分類される。鉛蓄電池のベント型は、防爆防沫装置を取り付けてあり、火気による誘爆や、酸霧の飛散を防ぐ措置が施されている。ベント型は充放電ガスを外部に放出する仕組みであり、補水が必要である。

シール型の蓄電池は、防爆防沫装置に代わり、触媒栓を設けることでガスを水に戻す方式(触媒栓方式)と、発生ガスを陰極板に反応させる方式(陰極吸収方式)がある。どちらも補水はほぼ不要であり、メンテナンスが容易である。

蓄電池設備の極構造の違い

鉛蓄電池の構造は正極側の構造で決められており、クラッド式とペースト式がある。クラッド式蓄電池はCSと表記され、材質の違う2つの材料を使用することにより機械的強度を高め、振動に強い構成になる。クラッド式蓄電池は振動や衝撃に強いため、フォークリフトの機械に搭載して利用されている。

ペースト式蓄電池はHSやPSと表記され、鉛粉を化成してペーストにしており、機械的強度は低く、振動や衝撃には強くない。キュービクルやラックに搭載し床や基礎に固定して、振動や衝撃を与えないようにして運用する。

蓄電池設備の寿命は、設置する環境によって大きく左右され、設置場所の周囲温度が常に40℃近くなるような場合、半分以下まで寿命が短くなる。蓄電池を運用する場合、できる限り25℃に近く、変動しない温度環境に設置することで、最大限の寿命時間を確保できる。

MSE蓄電池(制御弁式)の特徴

蓄電池設備としては、陰極吸収方式シール型蓄電池である「MSE」の鉛蓄電池が大半を占めている。HSE蓄電池も広く使用されていたが、MSE蓄電池はHSE蓄電池よりも2年程度寿命が長く確保でき、8年程度の長寿命を得ることが可能である。

制御弁式の鉛蓄電池は、蓄電池から発生するガスを蓄電池内部で吸収させ、電池内で化学反応を完結させることにより、補水を不要にしている。蓄電池の充電中は、負極板で海綿状鉛と酸素ガスと反応し酸化鉛が生成するが、電解液と直ちに反応し硫酸塩と水である。硫酸塩は充電の継続により水素と反応し、還元され海綿状鉛に戻る。水素はほとんど発生せず平衡状態を保つ。

正極板は、負極側で発生した水が、水素ガスと酸素ガスに変化しているが、負極側で酸素と水素が常に反応を続け、充電状態と放電状態が常に同時進行状態となっているため、酸素ガスも水素ガスも、見かけ上発生していないのと同じである。蓄電池内の反応により、電解液の水分が消失することはなく、補水しない蓄電池の仕組みが構築されている。

充電時は蓄電池の内圧が上昇するが、ケーシング強度を高めることにより、若干の内圧上昇には耐えられるようになる。しかし、ガス吸収の反応速度を大きく超えるような大電流で充電され、内圧が異常な上昇をした場合は、制御弁が動作して、圧力を外部に逃がす仕組みになる。

従来、防災用蓄電池は液面監視の必要性、触媒栓の交換手間、3~6ヶ月毎の均等充電の必要性など、保守にコストと手間が発生していたが、補水や比重計測が不要な、制御弁式鉛蓄電池の普及により、メンテナンスを簡易に行えるようになる。

均等充電を行わないため、均等充電回路が不要で、制御装置を小さく設計できる。横倒しにしても漏液しない安全性の高さや、耐酸処理が不要になること、大電流放電性能の高さなど多くの利点がある。なおMSEの長寿命タイプとして、FVL蓄電池という製品もある。MSE蓄電池よりも寿命が長く、約14年の連続使用が可能といわれている。補水不要で、MSE蓄電池との互換性がある。

蓄電池設備の寿命

蓄電池設備は寿命が比較的短く、温度環境に大きく影響する設備である。代表的な蓄電池種類とその期待寿命は下記の通りである。この期待寿命は設置周辺温度が25℃の場合であり、温度上昇とともに寿命は著しく低下する。周囲温度25℃を基準として10℃温度上昇すると、期待寿命が半減するとされる。

室温が25℃に維持されていても、蓄電池を収容している場所が他設備に挟まれていたり、通気が悪く冷房された空気が流れ込まないような環境では、蓄電池周囲の温度だけが上昇してしまう可能性がある。設置場所の換気計画にも十分な配慮が必要である。

周囲温度に限らず、夜間や休日に施設全体の電源をオフにしてしまうような場所では、放電回数が著しく多くなり、過放電による劣化・寿命低下を引き起こす。負荷が大きく放電電流が過大になった場合も寿命に影響するので、設置環境の十分な把握が計画上重要である。

蓄電池設備の容量計算

蓄電池設備の電源容量は、 C = 1 / L { K1l1 + K2( l2 - l1 ) + K3 ( l3 - l2 ) + ・・・ という式で求める。Cは必要な蓄電池容量、L = 保守率 = 0.8、Kは負荷への電源供給時間ごとに容量換算した係数、Iは放電電流である。

容量換算時間を算定する場合、蓄電池を設置する室の周囲温度が何度なのかに数値が左右される。通常換気されている室であれば5℃、寒冷地であれば-5℃、常に空調されている場合にのみ、25℃や15℃が採用できる。

非常用発電機を持つ施設において、蓄電池周囲温度が5℃、非常用照明として100A(10分で非常電源切替)、受変電設備の監視用として10A(10分)、遮断器操作として30A(6秒)の負荷をもつ場合を考えてみる。

周囲温度5度で、10分間運用する場合のK値は0.9とする。これを使用して計算する。非常照明と監視電源を合計すると、110Aとなるため、これがまず始めに負荷としてかかる。

C1 = 1 / 0.8 × 110 × 0.9 = 123.8[Ah]

続いて、非常用発電機に電源が切り替わり、60分間運転した後に遮断器操作(30A)を行う部分を計算する。周囲温度5度で、60分間運用する場合のK値は2.05、50分間運用する場合のK値は1.82、6秒(0.1分)運用する場合のK値は0.57とする。(K値は選定したメーカー値の仕様書に記載されている数値で補正のこと。)

C2 = 1 / 0.8 { 110 × 2.05 + 1.82 ( 10 - 110 ) + 0.57 ( 30 - 10 ) } = 1.25 × ( 225.5 - 182 + 11.4 ) = 68.7Aである。

C1とC2を比較して大きい方、C1の123.8[Ah]以上の蓄電池設備を選定し設置する。

整流器の容量計算

蓄電池を充電するためには、整流器と呼ばれる装置が必要である。充電用の整流器は、定電圧充電と定電流充電を組合せて行え、一定の電流以上が流れないように制御する。

整流器の容量選定は、採用する電池が鉛式か、アルカリ式かによって計算式が変化する。蓄電池の充電時間として、鉛蓄電池は10時間率を使用し、アルカリ蓄電池は5時間率を使用して算出する。この数値に対し、監視電源など常時流れる電流を加算した数値以上の整流器を選定する。

鉛蓄電池300[Ah]、常時監視電流10Aの蓄電池設備の整流器容量を計算する。

I = 300 / 10 + 10 = 40A となるため、整流器は40A以上の容量を選定する。整流器の定格充電電流は「5」「10」「15」「20」「30」「50」「75」「100」が通常であり、この場合では40Aの直近上位である50Aの整流器を選定する。

蓄電池設備の消防法による規制

蓄電池設備は、消防法や火災予防条例によって規制させる電気設備となる。バックアップ電源としてUPSや蓄電池を設置するが、同一の場所にある蓄電池の容量の合計が、4,800Ah・セル以上となる場合、蓄電池設備が消防法に規制されることになり、規制範囲以上の蓄電池設備を設置する場合、所轄消防に設置届を提出する。

蓄電池の設置場所の制限

蓄電池は、点検に便利で、火災による被害を受けない場所に設置するのが原則である。不燃材料で区画された専用の室(専用不燃室)に設置することが求められる。もし蓄電池が、告示基準に適合したキュービクル式の場合、専用不燃室だけでな、変電設備室、発電設備室、機械室、ポンプ室など、専用ではない機械室に設置できる。

告示基準のキュービクル式以外の蓄電池を屋外や屋上に設置する場合、隣接する建築物から3m以上離隔すること、3m以上の離隔が確保できない場合は建築物側を不燃にし、開口部には防火設備を設ける。

変電設備室や発電機室など、他の電気設備が収容されている室内に蓄電池設備を収容する場合は、保有距離として操作面1m以上の確保、また受変電設備や発電機との離隔を1m以上確保する。

所轄行政が定めている火災予防条例に周囲温度を40℃以下に抑えること、直射日光が入らないこと、点検面保有距離0.6m以上を確保することなど、多くの規制があるので確認が必要である。

専用不燃室・機械室の仕様

専用不燃室や機械室には、屋外に通じる換気設備、ダクト等の貫通部分は不燃材料で埋戻しされていること、水が侵入しない構造であることなどが定められる。可燃物が設置されていないことや、ガス機器またはガス管が敷設されていないことなどが規定される。照明の設置も必須となる。

レドックス・フロー電池とは

レドックス・フロー電池とは、電解液循環型電池と呼ばれる仕組みで充放電を行う電池を示しており、電力貯蔵用として利用されることの多い二次電池である。「フロー」という言葉が示すように、ポンプ循環によって還元作用と酸化作用を行う。

大容量の電力を充放電することに適している上、サイクル寿命が長いことから太陽光発電・風力発電用の蓄電池システムとして期待されている蓄電池である。

レドックス・フロー電池の利点・メリット

レドックス・フロー電池の利点は「長寿命」「常温駆動可能」「容量調整が容易」「有害ガス発生なし」「バナジウムのリサイクルによる省資源効果」といった利点がある。

正極・負極に炭素繊維を用い、電解質に金属バナジウムと硫酸バナジウムを用いる。充放電サイクルにおける寿命が極めて長いこと、NaS電池と違い常温での駆動が可能であること、電解質が液体であるためタンク大型化により容量増が容易であることなど、多くのメリットがある。タンクの設置場所を自由に計画できるため、建築計画上のスペース確保が容易という利点も考えられる。

正極・負極のどちらもバナジウムが使用されており、バナジウムの価数が変化することにより充放電を行う仕組みとなっているため、酸化・還元による劣化が著しく小さいという特徴がある。電解液はタンク内をポンプによって循環するだけであり、劣化がなく長期間の使用に耐える。常温で駆動するという特性から、セル部分の劣化も少なく、10年以上の寿命を持つとされる。

レドックス・フロー電池の欠点・デメリット

他の電池と比較し、電力密度が低いという欠点がある。大容量の電池を構築する場合、タンク容量やポンプ動力を大きく設計しなければならないとされる。大容量蓄電池として利用されているNaS電池は約780Wh/kg、リチウムイオン電池は約580Wh/kgもの理論エネルギー密度を持っているが、レドックス・フロー電池のエネルギー密度は100Wh/kg程度であり、同規模の蓄電池システムを構築するためには5~8倍の規模が必要となる。

NaS電池等との大きな違いとして、電解液を循環させるためのポンプ、電解液タンクなど、電池を構築するための付帯設備が多くなることが欠点として挙げられる。循環ポンプやタンク本体など、蓄電池本体以外の付帯設備増加に伴うメンテナンスコストの増大などが考えられる。

 
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