誘導障害
電力線からの影響による通信・人体への障害
誘導障害は、高電圧・大電流が流れる電力線(強電線)から発生する電磁界の影響により、近接する通信線(弱電線)や人体に対して意図しない電圧や電流が誘起され、通信品質の悪化や機器の誤動作、感電などの被害を与える現象の総称である。
発生メカニズムによって、電流が原因となる「電磁誘導障害」と、電圧が原因となる「静電誘導障害」の2種類に大別される。建築設備の実務においては、構内LANケーブルや電話線へのノイズ混入対策として電磁誘導を、特別高圧送電線下の敷地利用計画において静電誘導を考慮する必要がある。
電磁誘導障害と離隔対策
電磁誘導障害は、電力線に流れる電流によって生じる磁束が、並行する通信線と交鎖することで相互インダクタンスにより起電力(誘導電圧)が発生する現象である。電力線の電流が大きいほど、また並行して敷設される距離が長いほど、通信線には大きなノイズ電圧が乗ることになる。
これを防ぐための効果的な対策は、強電線と弱電線の離隔距離を十分に確保することである。内線規程などでは、低圧配線と弱電配線は原則として別々の配管に収めるか、あるいはセパレーター(隔壁)のあるケーブルラックを使用し、物理的に距離を離すことが求められている。やむを得ず接近・交差する場合は、並行敷設を避けて直角に交差させるか、通信線側にシールド付きケーブル(STPケーブルなど)やツイストペアケーブルを採用し、ノイズを相殺する措置を講じる。
静電誘導障害と特別高圧送電線
静電誘導障害は、電力線の電圧によって生じる静電界(電界)により、近接する物体や人体に電荷が蓄積され、対地間に電位差が生じる現象である。電流が流れていない無負荷状態であっても、電圧がかかっていれば発生するのが特徴である。
身近な例としては、特別高圧送電線の直下で傘をさしたり、自転車に乗ったりした際に、手元に「パチッ」や「ビリビリ」とした電撃を感じることがあるが、これが静電誘導によるものである。需要家側での対策は困難であり、送電線からの離隔距離を確保するか、建築物を接地された金属屋根や網で覆う(静電シールド)ことが基本的な対策となる。
東北電力ネットワークでは、鉄塔下部の電磁界を調査し報告している資料として送電線周辺における磁界の測定値を公開しているが、鉄塔下部では概ね7μT(テスラ)の磁束密度が発生していると記載している。
近傍落雷による誘導雷サージ
誘導障害の極端かつ頻発する事例として、落雷による「誘導雷」が挙げられる。これは、建物や避雷針への直撃雷(直撃雷サージ)とは異なり、近隣の樹木や地面、あるいは数キロメートル離れた場所への落雷によって発生する強力な電磁界変動が原因となる。
落雷の瞬間、周辺空間には急激な磁界の変化が発生し、電磁誘導の原理によって付近の架空配電線や電話線、アンテナ線、さらには建物内の長い配線に対して数千ボルトから数万ボルトの過電圧(サージ電圧)が誘起される。このエネルギーが配線を通じて建物内に侵入し、パソコンやネットワーク機器、火災報知機、監視カメラといった耐電圧の低い電子機器の基板を破壊する被害をもたらす。
侵入経路と被害の特性
誘導雷サージは、電源線(コンセント)からの侵入だけでなく、通信線(LANケーブルや電話線)や接地線(アース線)からも逆流して侵入する特性がある。特に、電源線と通信線の両方が接続されているパソコンやルーターなどの複合機器は、異なる経路から侵入したサージによる電位差が発生しやすく、内部回路が焼損するリスクが高い。
近年では、建築物の高気密・高断熱化に伴い、電子制御化された空調機器や給湯器が増加しているため、一般家庭においても誘導雷による家電製品の故障被害が拡大している。
SPDによる過電圧保護
誘導雷対策として、SPD(Surge Protective Device:避雷器)の設置が設計上の標準となっている。SPDは、通常時は絶縁状態を保っているが、サージ電圧が侵入した瞬間に内部素子(バリスタなど)が導通し、過大な電流を大地へ逃がす(バイパスする)ことで、後段の機器にかかる電圧を抑制する保護装置である。
分電盤の主幹ブレーカー付近に設置する「電源用SPD」と、弱電機器の手前に設置する「通信用SPD」があり、保護対象や侵入経路に応じてクラスI(直撃雷対応)やクラスII(誘導雷対応)を選定する。SPDが動作して劣化すると表示窓の色が変化し、交換時期を知らせる機能を持つ製品が一般的である。
等電位ボンディングの重要性
SPDを設置するだけでは、すべての雷害を防ぐことはできない。機器を守るための根本的な概念として「等電位ボンディング」が重要となる。これは、建物内の鉄骨、水道管、ガス管、電気設備の接地極などをすべて電気的に接続し、雷サージが侵入した際に建物全体の電位を同時に上昇させる手法である。
建物全体が同電位となれば、機器間に電位差(電圧)が発生しないため、電流が流れず、機器の破損を防ぐことができる。近年では「統合接地」として、避雷針用アースと通信・電源用アースをあえて接続し、SPDを介して等電位化を図る設計が、データセンターや重要施設を中心に主流となっている。
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