吊りボルト
吊りボルトの概要と材質選定
吊りボルトは、コンクリートスラブや鉄骨梁などの建築構造体から、天井下地、空調機器、配管、ケーブルラック等を吊り下げるために使用される、全域にねじが切られた棒状の鋼材である。「全ねじボルト」や「ずん切りボルト」とも呼称される。
材質は、一般屋内環境ではユニクロメッキや有色クロメート処理が施された軟鋼製が標準的に用いられる。厨房、プール、屋外軒下など、湿気や腐食性ガスが滞留する環境においては、経年劣化による錆や破断を防ぐため、ステンレス製(SUS304等)を選定することが望ましい。径はW3/8(三分)が最も一般的であるが、重量物の支持にはW1/2(四分)以上を選定するなど、許容引張荷重に基づいたサイズ選定が必要である。
構造体への固定手法と施工区分
吊りボルトを支持構造体に固定する方法は、建物の構造種別によって異なる。
RC造の場合、コンクリート打設前にあらかじめ「インサート金物」を型枠に固定し、スラブ完成後にボルトをねじ込む手法が一般的である。改修工事やインサートの欠損時には、「あと施工アンカー」を打設して固定するが、アンカーの引抜強度が既存コンクリートの強度に依存するため、施工管理に注意を要する。S造の場合、デッキプレートの床スラブにインサート金物を打ち込む方法のほか、溝を利用するハンガー金物や、H形鋼のフランジを挟み込むなどして固定する。
ナットの緩み止めと機器の落下防止
空調機、換気ファン、変圧器など、常時振動を発生させる設備機器を吊り下げる場合、微細な振動の継続によりナットが徐々に回転し、脱落に至るリスクがある。
これを防止するため、主要な支持部には「ダブルナット(二重ナット)」施工を行うことが標準仕様とされる。スプリングワッシャーの併用も有効であるが、確実性を期すためにはダブルナットとし、上下のナットを互いに締め付けることで摩擦力を高める手法が推奨される。また、ボルトの余長(突き出し長さ)は、ナット面からネジ山が3山以上出るように施工し、地震時の突き上げ等でナットが脱落しないよう配慮することが望ましい。
長尺ボルトの座屈防止と耐震振れ止め
吊りボルトの長さが1.5m~2.0mを超えるような長尺となる場合、地震発生時にボルト自体が振り子のように揺れ、座屈(折れ曲がり)や、周辺設備との衝突、あるいは天井材の脱落を引き起こすおそれがある。
国土交通省の「建築設備耐震設計・施工指針」に基づき、一定の長さ以上の吊りボルトには、アングル材やチャンネル材を用いた「振れ止め(斜材)」を設置し、水平方向の拘束を行う必要がある。特に特定天井(吊り天井)や重量機器においては、X軸・Y軸方向へのV字補強(ブレース)を行い、揺れを抑制する措置を講じることが重要である。
インサート金物の詳細についてはインサート金物の種類を参照。












