トロリ線
移動体への連続給電システム
トロリ線(Trolley wire / Contact wire)は、天井クレーン、ホイスト、モノレール、自動搬送車(AGV)、そして鉄道車両といった、定位置から移動する電気機器(移動負荷)に対して、連続的に電力を供給するための接触電線システムである。固定された電源設備から、移動する負荷へ電力を送るための「動くコンセント」としての役割を担う。
基本的な構造は、裸電線または絶縁被覆の一部が開口した導体を軌道に沿って敷設し、そこへ集電装置(コレクタシュー、パンタグラフ、トロリーホイールなど)を物理的に接触・摺動させることで通電回路を形成する。ケーブルによる給電と比較して、移動距離の制約がなく、高速移動や曲線ルートにも追従できる点が特徴である。
産業用絶縁トロリーとバスダクト的構造
工場や倉庫の天井走行クレーンに使用される産業用トロリ線は、かつては裸硬銅線やアングル鋼を用いたアングルトロリーが主流であったが、感電事故防止と相間短絡防止の観点から、現在は導体部分を難燃性の絶縁樹脂で覆った「絶縁トロリー」や、複数の導体を一体化した「多線式トロリー(ハイトロリール等)」が標準的に採用されている。
これらはバスダクトと同様に、あらかじめ工場でユニット化された製品を現地で接続するプレハブ方式が採られており、定格電流も60A程度の小型用から、1,000Aを超える大型クレーン用まで幅広いラインナップを持つ。外部からの塵埃や湿気の侵入を防ぐため、導体収納口を下向きまたは横向きに設置し、集電アームがその隙間を縫って集電する構造が一般的である。
工事用トロリ線の摩耗管理と集電特性
工場や倉庫のホイストクレーンに用いられる絶縁トロリーや剛体トロリーにおいては、鉄道用のような強い張力管理よりも、レールやガイドの「直線精度」と「ジョイントの段差管理」が摩耗対策の主眼となる。導体には硬銅やメッキ鋼板が用いられるが、これらは集電アームとの機械的摩擦に加え、離線時に発生するアーク放電による電気的摩耗の影響を受ける。
特に、支持ブラケットの取り付け不良や経年劣化による芯ズレが発生すると、集電シューが偏摩耗を起こしたり、ジョイント部で衝撃を受けて破損したりする原因となる。保全実務としては、カーボン製集電シューの摩耗限界線の定期確認と交換、および導体接触面の荒れや粉塵堆積の清掃が重要であり、著しいスパークが見られる場合は、導体の張り替えや清掃、アームのバネ圧調整を行う必要がある。
電圧降下対策とフィードイン計画
トロリ線は数百メートルに及ぶ長距離敷設となるケースも多く、末端における電圧降下が設計上の大きな課題となる。導体抵抗による電圧ドロップを許容範囲内に収めるため、電源供給点(フィードイン)を片端だけでなく、線路の中央(センターフィード)や両端、あるいは等間隔に複数箇所設ける「多点給電方式」を検討する。
特に始動電流の大きなクレーンモーターなどが末端で起動した場合、瞬時電圧降下によって制御盤のマグネットスイッチが開放してしまうといった電気的トラブルを防ぐため、詳細な電圧降下計算に基づいた幹線太さと給電点配置の決定が必要である。
熱伸縮への対応と支持設計
金属導体であるトロリ線は、周囲温度の変化や通電によるジュール熱によって伸縮する。例えば、銅の線膨張係数は約1.7×10^-5/℃であり、100mの長さで温度差が40℃あれば約6.8cm伸縮する計算となる。この伸縮を吸収しないと、支持碍子の破損やトロリ線の蛇行や座屈を招くため、一定区間ごとに「エキスパンション」を挿入し、機械的に縁を切る必要がある。
施工設計においては、エキスパンション部分は集電シューの通過に不安定さを生じやすいため、フィードインポイントをこの直近に設けることは避け、支持点が安定している剛性の高い箇所から給電を行うと良い。また、トロリ線を支持するブラケットは建築の鉄骨梁から持ち出す形で設置されるため、クレーンの振動や地震力に耐えうる強度計算と、建築構造図との取り合い調整が不可欠である。
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