直流電動機
直流電動機の基本構造と速度制御
直流電動機は、直流電源によって駆動する電動機である。固定子側に界磁極、回転子側に電機子を配置し、整流子とブラシを介して電流を供給する構造が基本となる。入力電圧を変化させることで広範囲かつ滑らかな速度制御が可能であり、始動トルクも大きいため、高い応答性が求められる産業用の大型クレーンや圧延機などの動力源として利用されてきた。
回転子の回転に伴い、整流子とブラシが機械的に接触とスリップを繰り返すことで、電機子コイルに流れる電流の向きを切り替え、一方向への連続した回転力を生み出している。
ブラシの摩耗と保守管理の課題
直流電動機における保守上の課題は、機械的接点である整流子とブラシの摩耗である。電動機が稼働している間、ブラシは常に整流子に押し当てられているため、物理的な摩擦による摩耗が避けられない。摩耗したカーボンブラシは定期的な交換が必須であり、メンテナンスの手間と運用コストが増大する要因となる。
また、摩耗によって発生するカーボン粉が内部に堆積すると、絶縁不良の原因となる。整流子との接触面では火花が発生しやすいため、粉塵爆発のリスクがある化学工場や、引火性ガスが存在する防爆エリアでの使用には適さない。このような保守上の制約から、後述するブラシレス方式や交流の誘導電動機への置き換えが進んでいる。
結線方式による特性の分類と用途
直流電動機は、界磁巻線と電機子巻線の結線方法によって特性が異なり、用途に応じた選定が行われる。代表的な結線方式とその特性は以下の通りである。
- 直巻電動機は、界磁巻線と電機子巻線が直列に接続される方式である。始動トルクが大きく、負荷電流が増加すると回転速度が低下する特性を持つ。巻き上げ機や電気鉄道の駆動用として適している。無負荷状態では回転速度が過大に上昇するため、ベルト駆動など負荷が外れる可能性のある機構には使用しない。
- 分巻電動機は、界磁巻線と電機子巻線が並列に接続される方式である。負荷の変動に対して回転速度が大きく変化せず、一定の速度を保ちやすい特性を持つ。精密な速度制御が求められる工作機械や、一定速度で稼働するコンベアなどに用いられる。
- 複巻電動機は、直巻と分巻の両方の界磁巻線を備える方式である。始動トルクが大きく、かつ無負荷時の異常な速度上昇も抑えられるため、直巻と分巻の中間的な特性となる。プレス機やエレベーターなどに採用される。
ブラシレスDCモーターの技術的優位性
従来の直流電動機が抱えるブラシの摩耗問題を解決するため、機械的な整流機構を半導体スイッチング素子を用いたインバーター回路に置き換えた「ブラシレスDCモーター」が開発されている。回転子側に永久磁石を配置し、固定子側の巻線に流す電流を電子回路で制御することで回転磁界を作り出す構造である。
ブラシが存在しないため、摩耗部品がベアリングのみとなり、定期的なブラシ交換が不要となることでメンテナンスコストが低減される。同時に、機械的接点がないため電気ノイズや火花の発生も抑制される。直流電動機本来のメリットである速度制御性の高さと高効率を維持しているため、産業用電動機にとどまらず、エアコンや冷蔵庫などの白物家電、自動車の電動パワーステアリング、鉄道車両の空調用送風機などに広く普及している。事務機器の分野においても、ハードディスクやCD・DVDドライブのディスク回転用モーターとして採用されている。
制御回路の複雑化と初期コストの課題
ブラシレスDCモーターの導入における留意点は、システム全体の初期費用の増加である。モーター単体で回転できる従来の直流電動機とは異なり、ローターの磁極位置を正確に把握するための位置検出センサーや、センサーレス制御を行うための演算処理能力が必要となる。
これらの制御には、専用のインバーター回路やプログラムマイコンの実装が不可欠であり、単純な構造の電動機と比較して部品点数が増加し、イニシャルコストが高くなる。しかし、日本国内における省エネルギー基準の要請や、製品のライフサイクルコスト全体での消費電力削減効果を考慮すると、初期投資を回収できるケースが多く、設備設計においては総合的な経済性評価に基づいて採用が決定される。
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