漏洩同軸ケーブル
漏洩同軸ケーブル(LCX)の概要と原理
漏洩同軸ケーブル(Leaky Coaxial Cable / LCX)とは、同軸ケーブルの外部導体(シールド部分)に、「スロット」と呼ばれる意図的な切れ込みや小孔を設けることで、内部を伝送される高周波信号の一部を外部へ放射(漏洩)させる機能を持たせたケーブルである。簡単に言えば「ケーブル状の長いアンテナ」である。
通常の同軸ケーブルは電波を外部に漏らさない(遮蔽する)ことを目的としているが、LCXはその逆の発想で作られている。ケーブルの敷設ルートそのものが通信エリアとなるため、電波の直進性が強く障害物に遮られやすい高周波帯域であっても、ケーブルに沿って均一で安定した通信環境を構築できるのが特徴である。
主な用途とフェージングへの強さ
LCXは、通常の点音源(ポイント)としてのアンテナでは電波が届きにくい、細長い閉鎖空間や遮蔽物の多い場所で威力を発揮する。
- トンネル・地下街:道路トンネル、鉄道の地下区間、地下街など。
- ビル・屋内:エレベーターシャフト内、高層ビルの窓際、電波暗室など。
また、通常のアンテナ方式では、反射波同士が干渉して通信品質が激しく変動する「マルチパスフェージング」が発生しやすいが、LCXは広い範囲から微弱な電波を均一に放射するため、激しいフェージングが起きにくいという物理的なメリットがある。これにより、高速移動中の列車や車両に対しても安定した高品質な通信を提供できる。
長距離伝送を支える「グレーディング」技術
LCXを数キロメートルにわたって敷設する場合、信号源(送信機)に近い側では信号が強く、末端に行くほどケーブル損失と放射損失によって信号が弱くなってしまう。このレベル差を解消し、全区間で均一な電波強度を保つために用いられるのが「グレーディング(Grading)」という技術である。
これは、送信機に近い手前側のケーブルには「結合損失が大きい(電波が漏れにくい)」タイプを使用し、末端に行くに従って徐々に「結合損失が小さい(電波が漏れやすい)」タイプに接続し直していく手法である。スロットの形状や密度を変えた種類の異なるLCXを段階的に繋ぎ合わせることで、長距離区間でもフラットな通信エリアを形成することが可能となる。
無線LAN・MIMO技術への応用
かつては防災無線や列車無線が主用途であったが、オフィスや商業施設における無線LAN(Wi-Fi)構築でもLCXの活用は可能である。
通常のアクセスポイント(AP)を多数設置すると、AP間の電波干渉調整(チャンネル設計)が難しくなるが、LCXを用いれば1台のAPで広範囲をカバーできるため、干渉制御が容易になる。さらに、2本のLCXを平行に敷設することで、Wi-Fiの高速化技術であるMIMO(Multiple Input Multiple Output)にも対応可能であり、意匠性を損なわずに大容量通信環境を構築できる。
施工上の留意点
LCXは通常の同軸ケーブルと違い「管」のような構造をしており、剛性が高く曲げにくい。無理な曲げを加えると外部導体のスロットが変形し、周波数特性が悪化したり、異常な電波放射(VSWRの悪化)を引き起こしたりする原因となる。
そのため、施工時にはメーカーが指定する許容曲げ半径を厳守するとともに、ケーブル表面のスロットを塞がないよう、支持金具の取り付け位置や金属体との離隔距離(スタンダオフ)について適切な管理が求められる。












