逆相
三相交流回路において、電圧の位相順序(相回転)が正常な状態(正相)とは逆の順序で供給されている状態を「逆相」と呼ぶ。日本の電気設備における三相電源は、通常R相・S相・T相(機器側はU・V・W)の順に波形が変化して回転磁界を作り出すが、電源の接続間違いなどによってこの順序が入れ替わってしまうと、接続された機器に対して悪影響を及ぼす。
三相交流の位相のずれを利用して回転力を得る三相誘導電動機(モーター)において、逆相状態は直ちに「モーターの逆回転」という事象として現れるため、電気設備工事の施工や保守において注意深く確認しなければならない項目のひとつである。
逆相による三相誘導電動機の逆回転と弊害
時計回りに回転するようにあらかじめ磁極が配置され、設計されている電動機に対して逆相の電力が供給されると、内部の回転磁界の方向が反転し、電動機は反時計回りに回転を始めてしまう。
ファンや送風機、揚水ポンプなどの動力機器は、定められた一方向(順方向)に回転することで、初めて正しい気流や水流を生み出す構造となっている。機器の本体ケーシングには、正しい回転方向を示す矢印マークが刻印されていることが多い。電動機が逆回転すると、目的とする方向へ流体が進まないばかりか、羽根車(インペラ)に想定外の過剰な流体抵抗がかかり、モーターに大きな過負荷電流が流れる原因となる。
さらに、全閉外扇形と呼ばれる一般的なモーターは、自身の軸に取り付けられた冷却ファンを回すことで本体を空冷している。逆回転状態ではこの冷却用の気流も適切に発生しなくなるため、モーター本体の冷却機能が損なわれ、異常発熱や巻線の焼損といった故障に直結する。
結線の修正と施工完了時の確認手順
万が一、機器が逆方向に回転し始めた場合は、電源供給元の3本の電力線のうち、任意の2本を入れ替えて接続し直すだけで回転方向を反転させ、正常な正相に戻すことができる。R・S・Tのうち、「RとS」「SとT」「RとT」のいずれの組み合わせで入れ替えても結果は同じである。
ただし、実際にモーターを稼働させて逆回転させてしまうと機器を破損するリスクがあるため、電源を投入する前に相回転の順番が正しいかを測定機器で事前に確認するのが一般的な設計手法および施工管理の基本である。
- 検相器(相回転計)の使用:ブレーカーの二次側やマグネットコンタクターの一次側に検相器のクリップを接続し、LEDの点灯順序や回転盤の動きを見ることで、正相か逆相かを安全に判別する。
- 単体テスト(寸動):配管などを接続する前のモーター単体の状態で、一瞬だけ電源を入れてすぐに切る「寸動(ジョギング)」を行い、軸の回転方向を目視で確認する。
逆相リレーによる保護回路の構築
コンプレッサーや大型の冷凍機など、一瞬の逆回転であっても内部の圧縮機が物理的に破壊されてしまうようなデリケートな機器においては、ヒューマンエラーによる結線ミスを防ぐための二重の安全対策が求められる。
このような回路には、逆相によるモーターの始動を自動的に阻止するための「逆相リレー(逆転防止リレー)」を制御盤内に組み込むのが標準的な仕組みである。逆相リレーは電源の相回転を常時監視しており、正相のときのみ接点を閉じる。もし逆相状態で電源が投入されても、リレーが異常を検知してマグネットコンタクター(電磁接触器)の操作回路を遮断したままにするため、モーターの起動スイッチを押しても一切動作しないという安全装置として働く。
発電機における逆相電流と不平衡負荷の影響
モーターへの電力供給だけでなく、非常用発電機などの電源設備側においても逆相の概念は重要となる。三相交流発電機に対して、単相負荷ばかりを偏って接続するなどの理由で極端な「不平衡負荷」をかけると、三相の電流バランスが崩れる。
この不平衡な電流は、対称座標法という計算手法において「正相電流」「逆相電流」「零相電流」の3つに分解して考えられる。このうちの逆相電流は、発電機の固定子に「回転子の回転方向とは逆方向に回る磁界」を発生させる。これが回転子とすれ違う際に大きな渦電流を引き起こし、回転子表面やダンパー巻線を異常に過熱させる。
逆相電流が過大になると、発電機本体の異常振動や発熱による故障につながるだけでなく、逆方向の磁界がブレーキとして働くため有効なトルクが減少し、発電機全体の出力や効率の低下を招く。そのため、三相回路の負荷バランスはできる限り均等になるよう配線計画を行う必要がある。












