カテナリー照明
カテナリー照明の概要と原理
カテナリー照明とは、建物間や支柱間に張られたワイヤー(カテナリー線・吊架線)を利用して、空中に照明器具を吊り下げる照明手法のことである。「カテナリー(Catenary)」とは、ロープや鎖の両端を持って垂らした際に自然に形成される曲線(懸垂線)を意味し、この物理特性を利用して器具を支持する構造全般を指す。
一般的な街路灯のように地面から支柱(ポール)を立てる必要がないため、地上の空間を占有せず、空中に光源だけが浮いているような独特の景観を作り出すことができる。このため、広場や商店街の通路、商業施設のプロムナードなどで、空間演出と機能照明を兼ねて採用されることが多い。
主なメリットと導入効果
カテナリー照明を採用することで、ポール式照明にはない以下のようなメリットが得られる。
- 空間の開放感:足元に支柱が不要なため、歩行者の通行を妨げず、広場や道路の有効幅員を最大限に活用できる。
- 柔軟な配灯計画:ワイヤー上の任意の位置に器具を固定できるため、照射したい対象(モニュメントや特定の路面)に合わせて光源位置を自由に調整しやすい。
- 高い演出性:照明器具自体が空中に浮遊するデザインとなるため、視線を上に誘導する効果があり、イベント空間や賑わいの演出において誘目性が高い。
構造上の課題とデメリット
意匠性に優れる一方で、吊り構造特有の技術的な課題やデメリットも存在する。
ワイヤーで吊り下げられている構造上、風の影響をダイレクトに受けてしまう。強風時に照明器具が激しく揺れることや、不快なちらつき(フリッカー)の原因となるほか、金属疲労によるワイヤー断線や器具落下の危険性が高まる。そのため、耐風圧計算に基づいた十分なワイヤー強度の確保や、揺れ止めワイヤーの追加といった対策が必要となる。
照明器具が空中の高い位置に固定されており、昇降装置などが付いていない限り、ランプ交換や清掃には高所作業車が必要となる。支柱式であれば脚立等で対応できる場合でも、カテナリー照明では大掛かりな作業となり、維持管理コストが増大する傾向にある。
鉄道設備(架線)との関連
「カテナリー」という用語は、鉄道の電気設備においても頻繁に用いられる。列車に電力を供給するための架線(電車線)の吊り下げ方式も、カテナリー構造が基本となっている。
鉄道のカテナリー方式では、上部の「ちょう架線(吊架線)」から「ハンガー」と呼ばれる金具を介して下部の「トロリ線」を吊り下げることで、パンタグラフが接触するトロリ線を水平かつ一定の高さに保っている。照明設備におけるカテナリー方式も、基本的にはこの力学構造を応用したものである。
計画・設計時の留意点
カテナリー照明を計画する場合、単にワイヤーを張れば良いわけではなく、両端の支持点(建物や支柱)にかかる張力の検討が不可欠である。
ワイヤーをピンと張ろうとすればするほど(たわみを小さくするほど)、支持点にかかる水平張力は増大する。そのため、既存の建築物にアンカーをとる場合は、建物躯体がその張力に耐えられるかどうかの構造計算が必要となる。また、道路上空に設置する場合は、道路法に基づく占用許可基準(路面からの高さ確保など)をクリアしなければならない。












