保安器
保安器は、落雷によって発生する誘導雷サージや異常電圧から、建物内の通信機器を保護するための安全装置である。主にメタル回線(銅線)を用いた通信回線の引込点に設置され、外部から侵入する過大な電圧や電流を速やかに大地へ逃がす役割を持つ。
通信線路は屋外の電柱を経由して長距離を配線されるため、近隣への落雷による電磁誘導で発生した高電圧を拾いやすい。このサージ電圧が建物内に侵入すると、接続されている電話機、FAX、ルーターなどの電子回路が絶縁破壊を起こして焼損する。保安器は加入者線の引込み経路に設けられ、規定値以上の電圧を検知した瞬間に大地へのバイパス経路を形成し、機器の破損を防止する。
内部構造とSPD(サージ防護デバイス)との関係
保安器の内部には、過電圧を放電するガスアレスタ(避雷管)や、過電流を遮断するヒューズなどの保護素子が組み込まれている。これらは、電源回路における内部雷保護を目的に設置される通信線用SPD(サージ防護デバイス)と同等の機能を持つ。
過去には炭素(カーボン)を用いた避雷器が使用されていたが、放電の繰り返しによる劣化でノイズが発生しやすいため、現在ではガスアレスタ方式が主流である。保安器がその性能を正常に発揮するためには、D種接地工事などの適切な接地が施され、サージ電流を確実に大地へ流せる電気的経路(接地抵抗100Ω以下)が確保されている必要がある。
通信事業者との責任分界点
保安器は通信事業者(NTTなど)と建物所有者の「責任分界点」としての役割を持つ。責任分界点とは、通信設備に障害が発生した際の保守責任および費用負担の境界を示す区分である。
- 保安器から電柱側の通信線路(引込線含む)および保安器本体に起因する故障は、通信事業者の資産および責任範囲となり、事業者の負担で修理・交換が行われる。
- 保安器から建物内部の屋内配線、情報コンセント、および接続された通信機器に起因する故障は、建物所有者または利用者の資産および責任範囲となり、自己負担での対応となる。
設置場所とMDF(主配線盤)への収容
建築物の規模に応じて保安器の設置形態は異なる。一般的な戸建住宅や小規模店舗の場合、屋外の軒下や外壁面に単独の保安器ボックスとして設置される。設計時には、電力用の引込計器盤や開閉器と近接した位置を保守スペースとして確保する。
オフィスビルや集合住宅など、数十から数百のメタル回線を引き込む業務用施設においては、建物内にMDF(主配線盤)を設置し、その内部に多数の保安器モジュールを集中的に収容する。建築側はあらかじめ保安器スペースを備えたMDF盤と外部からの引込配管を用意し、通信事業者がその盤内に保安器を組み込んで結線する設計手法がとられる。
メタル回線の通信障害とADSLへの影響
保安器は、アナログ電話やISDN、ADSLといったメタル回線を使用する通信サービスにおいて、通信品質を低下させる要因となることがある。内部のアレスタの劣化や、接点部分の酸化による接触抵抗の増大が、信号の減衰やノイズの混入を引き起こす。
特にADSL回線は高周波帯域を利用するため、古い規格の保安器を経由すると、通信速度の低下や通信の切断といった障害が現れる。通信障害の原因が保安器にあると特定された場合、通信事業者に依頼してADSL帯域に対応した最新型の保安器へ交換する工事を行うことで、線路状態が改善される。
光回線(FTTH)への移行と保安器の扱い
近年主流となっている光ファイバーケーブルを用いた通信回線(FTTH)においては、ケーブルの材質が石英ガラスやプラスチックなどの絶縁体であるため、光ファイバー自体を伝って雷サージが侵入することはない。
そのため、光回線を新規に引き込む場合には従来のメタル回線用保安器は設置されない。ただし、光回線に接続されるONU(回線終端装置)やルーターは、電源コンセント側から侵入する雷サージ(雷サージ侵入経路の逆流)によって破損するリスクがあるため、コンセント側に電源用SPDを設けるなどの雷対策は引き続き必要となる。












