自動制御の基礎知識 | シーケンスとフィードバック・PID動作

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自動制御の基礎知識

空調機の運転や各種数値の計測は、その多くが自動化されており、これらは「ビルディングオートメーション」という名称で普及している。制御には、人が直接操作する「手動制御」と、タイマーやリレー、電場弁などを用いて自動的に操作する「自動制御」がある。

手動制御は、設備監視員が自ら目視し操作するもので、毎日毎時間、同じ動作をしなければならない電気機器に対しては、投入忘れなど、ヒューマンエラーの原因となることもあり自動化が推奨される。

制御する設備系統が高度かつ複雑であったり、操作に危険を伴うような場合も同様で、自動制御システムを構築し、人の手による操作をできる限り除外することが望まれる。

自動制御されるロボットアームの写真

自動制御システムの重要事項

自動制御は「制御値と目標値の一致」「修正動作の即応性」「安定動作」の3項目が重要視される。エアコンは身近でわかりやすい自動制御の一つなので、紹介する。

家庭用エアコンを自動運転にし、目標とする温度を決めた場合、エアコンは室温を計測し、設定温度にできるだけ近付けようとする運転を行う。設定温度から大きく室温が離れた場合、圧縮機に電源を供給して稼働させ、インバーターは室温を設定値に近付けようと運転を行う。

設定値に近づいた時点で、消費電力を軽減させるため、圧縮機の運転を止め、送風運転にすることで省エネルギーを図る。以上の一連の流れは、自動制御のシステムによって成り立っており、エアコンに限らず多くの電気機器に内蔵されている。

建築設備分野の自動制御は、バルブ、センサー、ダンパーなどが、建物に応じて設計され、台数、制御方法などは建物ごとに違う。自動制御を行う場合、パナソニックやアズビル、ジョンソンコントロールなど、建築設備用に特化したメーカーが製造している中央監視装置を設け、自動制御を組み込んで利用する。

三菱電機は「PLC」と呼ばれるシーケンサーを提供しており、建物規模によって処理できる点数や、速度に違いがある。どのメーカーも同様であるが、流量や電流、電圧の「アナログ値」、電力量や給水量の「パルス信号」の入力を受けられる。位置決め、角度制御のパーツを組み合わせて、建物の用途に応じて設計される。セントラル空調機があれば、インバーターやCAV・VAVといった空調機器の制御を行う。

建築設備での自動制御は、全ての建物がオリジナルとなるため、パーツを外付けし、必要な機能を追加したり、不要な機能を削減することでコスト調整も可能で、多岐に渡る用途に適合する。

設計者は、建物規模と制御対象を理解し、必要な機能を持つメーカー製品を選定し、機能を満足しつつ、過剰コストが発生しないシステムを提案しなければならない。

自動制御の種類

自動制御は、定量的制御と定性的制御の2種類に分類される。定性的制御とは、オンオフによる2値を用いた制御である。

定性的制御は、制御対象に対して目標値を定め、結果の目標との差を検出して制御・処理をしていく方式である。上記のような制御方式は、シーケンス制御、フィードバック制御、フィードフォワード制御という名称で呼ばれている。

シーケンス制御

オンとオフ、0と無限大など、2値を利用した自動制御にシーケンス制御がある。基本要素を2値で制御するので、あらかじめ決められたステップに従って順次進める制御に適しており、前の動作から後の動作に移る要素は「前の動作が完了したこと」「一定時間経過した後」の情報を使用する。時間的要素、空間的要素から不連続な量の制御がなされる。扱う情報に連続性が無く、外部からの作業命令によって制御されるという特徴を持っている。

オンオフを主体とした制御では、リレーと呼ばれる電磁開閉器や、電磁弁と呼ばれる機器が使用される。リレーは電気回路の開閉を行う接点として使用し、電磁弁(ソレノイドバルブ)は水・ガス・蒸気など気体・流体を制御するために用いられる。

ハンチング

オンオフ制御は、オンの点とオフの点を設定し、条件の合致によって制御されるため、オン点とオフ点を狭く設定すれば、頻繁にオンオフを繰り返すことで制御性が良くなる。リレーや電磁弁は開閉寿命があるため、頻繁な開閉を繰り返すと早期に寿命を迎えてしまい、ハンチングと呼ばれる振動状態が発生する。

簡単なハンチングの事例として水温を40℃にしたい場合の制御を考える。水温が41℃になった瞬間に冷却し、39℃になった瞬間に加熱するような、オン点とオフ点が極めて小さな設定で自動制御を構築すると、頻繁に加熱・冷却が繰り返されてしまい、リレーや電磁弁は開閉を繰り返し、目標の数値に落ち着く事ができない。オンオフ制御では、ハンチングの幅を小さく緩やかにすることは可能でも、完全に無くすことは不可能である。

シーケンス制御の基本回路

シーケンス制御の基本回路は、AND、OR、NOT、NOR、NANDの5種類をベースにして構築される。

AND回路

ANDは論理積と呼ばれ、2つの接点が直列に接続された回路である。どちらの接点も閉回路にならなければ、動作しない。これをAND回路と呼ぶ。

建築設備におけるAND回路の採用事例として不活性ガス消火設備の事例を説明する。不活性ガス消火設備で警戒されている部屋の場合、火災感知の瞬間にガスを放出すると、室内に人がいた場合、ガスを吸ってしまい重篤な人的被害につながる。自動火災報知設備として設置されている感知器と、ガス消火設備として設置されている感知器の両方を感知させることで、ガス消火設備を噴出させる制御とする。系統の違う2つの感知器によるAND回路と見なせる。

OR回路

ORは論理和と呼ばれ、2つの接点が並列に接続された回路である。どれか一つの接点が閉回路になれば動作する。これをOR回路と呼ぶ。

NOT回路

NOTは否定と呼ばれ、入力側の接点が閉状態の際に、出力が開となる回路である。

NAND回路

NANDは否定論理積と呼ばれ、AND回路の出力をNOTで反転させたものである。全ての入力接点が閉になっているときだけ、出力側が開となる。

NOR回路

NORは否定論理和と呼ばれ、OR回路の出力をNOTで反転させたものである。どれか一つの接点が閉になっていると、回路を開にする。

フィードバック制御

フィードバック制御は、目標値と制御値の偏差を検出して、自動制御を行う方式である。現時点での要素値を検出するための時間が必要になるため、制御には必ず遅れが伴う。偏差が検出されるまで制御系は全く動作しないという特徴がある。扱う情報は連続性を持っており、制御の回路構成は閉ループとなる。

フィードバック制御は、目標を変更した場合すぐに制御値が追従させる場合、外乱に対してその作用を打ち消す場合に採用される制御方法である。フィードバック制御の比例動作(P動作)、積分動作(I動作)、微分動作(D動作)の3種類がある。比例動作は単独で使用されているが、積分動作と微分動作は比例動作に組み合わせて使用する。

比例動作(P動作)

比例動作は、操作量をオンオフのような2値ではなく、0%~100%の幅で連続的に変化させる制御方式である。比例制御では、比例帯と呼ばれる制御量の変化幅を決め、その範囲内で0%~100%の制御を行う。比例帯が狭い場合、0%から若干の変化をしても大きく制御値が変化する。比例幅を小さくすればするほど、オンオフ制御に近くなる。

逆に、比例幅を広くすると、制御できる幅が小さくなるが、制御の設定値と結果に対しての安定性が高まる。比例動作を行う場合、比例帯を適正に設定し、制御対象に合わせたシステムを構築するのが重要である。

比例制御では、温度センサーや圧力センサーなど、検出部の情報を取り込んで適正な制御値に近づける動作を行う。高温蒸気と水を用いた簡単な温度制御で考えてみる。

50% - 50℃ としている水温目標値を、75% - 75℃ に設定変更した場合、温度センサーによって水の温度検出を行い、目標の75℃に近づくまで蒸気の電磁弁を開放して温度調整する。

温度センサーが目標温度に近づくまで、蒸気が開放・閉止を繰り返し、水温がプラス・マイナス方向に何度も行き来した後、ある一定値になったことを検出部が検知して制御が完了し、以降は温度が変化するまで制御は停止状態である。しかし、比例制御だけではどれだけ安定した状態を目標にしても、若干の偏差が残っていることが多く、これは定常偏差と呼ばれている。

比例動作では、瞬間的に発生した外乱や目標値の変更に対して、即応しようとする。目標値と制御値がいつまでも収束せず、一定の偏差が残ってしまう。目標値に対し制御値が振動してしまう、持続振動状態である。

積分動作(I動作)

積分動作は、偏差の積分値に比例した操作が可能な動作である。比例動作の限界である定常偏差をリセットし、制御を安定させることが可能である。比例動作と積分動作を組み合わせ、比例積分動作(PI動作)として利用されている。

積分制御では、比例動作で発生した偏差を足していき、時間と共に制御値を微調整し、定常偏差がゼロになるように制御する動作である。

比例積分動作では、偏差が外乱などで急激に変化したとき、即応することが困難である。偏差が発生しても、一定の時間が経過しなければ制御されず、即応性に欠ける。そこで、制御に微分動作を組み合わせ、偏差の急激な変化に素早く応答し、安定した制御とできる。

比例積分微分動作(PID動作)

比例積分微分動作は、線形動作でも最も安定した動作であり、比例動作が持っている定常偏差を解消しつつ、即応性のある制御が可能な制御である。微分動作は、偏差の変化率を検出し、変化率に比例した操作量で制御される。偏差の変化率から、将来どれくらいの偏差が発生するかを予測して操作量が決められるため、微分動作を組み込むことで、偏差の変化に対しての過渡応答特性を改善でき、安定した制御が可能である。

比例動作で現在生じている偏差を小さくし、積分動作で偏差をゼロに近づけ、微分動作で大きな偏差の変化にも安定を維持するといった制御も可能である。

 
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