電気設備の知識と技術 > 弱電・放送・避雷設備 > ITV・監視カメラ設備の基礎知識
ITV設備は、監視カメラを用いて建物内部の重要場所を監視する防犯設備のひとつである。天井や壁面に監視カメラを設け、カメラで監視していることを見せることによる犯罪発生の抑制や、発生した事件や事故を監視モニターに表示して警備員を向かわせたり、録画した画像を警察機関に提出することで、事件の早期解決を図る。ITVは「industrial television」の略称であり、工業用に用いるテレビ:監視カメラを示した用語である。
ITV設備の目的は「カメラを見せることで犯罪の抑制を図ること」「事件や事故を録画して証拠とすること」である。監視カメラで録画されていることがわかれば、不審な動きを記録されてしまうことになり、不審者が近づくおそれが低減し、防犯効果が高まる。
ITV設備は、監視するカメラ本体のほか、撮影した動画を伝送するケーブル、伝送された画像データを録画するレコーダー、監視場所に設けるモニターなどで構成される。
監視カメラで撮影した画像情報の伝送は、同軸ケーブルに信号を載せる「アナログ方式」と、デジタル情報に変換してLANケーブルで伝送する「ネットワーク方式」に分けられる。
従来はアナログカメラによる方式が主流であるが、カメラ画質向上によるデータ量の増大により、同軸ケーブルでは伝送できるデータ量に限界があるため、数百万画素の高画質データを伝送できるネットワーク方式が一般化している。
ネットワークカメラ方式ほど高画質で多機能なカメラを使用せず、安価で単純なシステム構成を求める場合、アナログ方式が選定される。カメラの画質は38万~137万画素程度の製品を用い、同軸ケーブルに電源を重畳してカメラを駆動する。
アナログ方式の場合、38万~137万画素程度の比較的低画素な監視カメラが用いられる。デイナイト兼用のカラーカメラが一般的で、照度が低い場所や時間帯では、カラー情報の撮影が困難なため、白黒カメラモードに切り替えて撮影が行われる。
赤外線をカメラ本体から放射して、照度がほぼ0lx場所であっても撮影が可能な「赤外LED照明」を搭載した製品もある。カメラへの電源供給は、カメラそれぞれに電源供給をしなくても済むように、ITV主装置に設ける「カメラドライブユニット」と呼ばれる電源装置から、同軸ケーブル1本で供給可能である。
通常、ITVカメラで撮影するのは画像情報のみであり、音声信号を取得する計画はほとんどない。会議室や受付など、音声の取得が必要な場合、マイクを別に設けなければならない。
監視カメラから伝送された画像情報を録画する装置である。従来はリールによる磁気テープに録画する方式であるが、近年のITV設備ではデジタルレコーダーが主流で、大容量ハードディスクを搭載しており、10日以上の録画時間を確保するのが一般的な設計手法である。
レコーダーは卓上に置く簡易な製品から、多段ラックに収容できる大規模施設用の製品まで多数ラインナップがある。録画した情報に参照するための機能が多数組み込まれており、カレンダーによって時間帯を指定して閲覧したり、イベントを設定して呼び出すなど、多くの機能がある。
ハードディスクによって録画をするという特性上、データが破損する危険に配慮しなければならず、複数のハードディスクを用いて二重バックアップする「ミラーリング機能」を搭載すると安心である。
録画を24時間継続しなければならない場所で「再生をするために録画を停止する」といった動作は許容されないため、録画をしたまま再生やデータ出力ができるような製品を選定しなければならない。USBやDVD、BDなど外部媒体へのデータ出力についても同様である。
レコーダーには内部時計が搭載されているが、外部信号で時刻合わせをしなければ、自動火災報知設備、放送設備、セキュリティ設備など、それぞれが搭載している時計と少しずつずれてしまい、警報の発生時間と録画時間にラグが生じる。数秒のラグが許容できない場合、外部信号によって時刻合わせをするようシステムを構築する。AM電波やFM電波を用いて時報に合わせる方法や、タイムサーバーに接続して時刻合わせする方式が採用される。
監視カメラで撮影した情報はレコーダーに記録されるため、事故や事件が発生した後での閲覧はできるが、警備員や管理人が常駐している施設であれば、監視モニターで目視確認することも考えられる。
目視による監視を必要とする場合は、スイッチャーと呼ばれる装置に監視モニターを接続して、撮影しているリアルタイム情報を表示する。複数のカメラが接続されている施設では、常に1台のカメラ情報を表示すのは合理的ではないため、時間と共に表示画面を切り替えるか、4分割、8分割など複数のカメラを同時に表示できるようにし、監視の見落としができるだけ発生しないよう配慮する。
20型程度の小型モニターで16分割表示をしても、小さすぎて目視監視をするのは困難である。16分割など細分化する場合は、40型以上の大型モニターを用い、かつ事件や事故につながるイベントが発生したカメラ情報をポップアップ表示するような機能を持たせておくと、品質向上が図ることができる。
例として「モーションディテクション機能」と呼ばれる機能がある。これは「動く物体が記録された際に警報を発する」という機能であり、カメラをセンサー監視設備のように使うことも可能である。
カメラの性能向上により、1920×1080のフルHD画質に対応した製品が作られるようになり、従来のアナログ方式では情報伝送が困難となったため、LANケーブルを用いた「ネットワーク方式」が普及している。多くのクライアントやデベロッパーは、ITVカメラをネットワーク方式とするよう要求しており、アナログカメラはあまり使われない。
ネットワーク方式では、200万画素を超える高画質な画像情報をLANケーブルで伝送するのが大きな特徴である。
有効画素数200万画素を超える高画質カメラが使われる。画像情報はLANケーブルによって伝送され、ネットワークレコーダーに情報が送られる。カメラを駆動させる電源は「PoE方式」と呼ばれる「LANケーブルに電源を重畳する」方式で供給されるため、カメラ個別への電源配線は不要なのが一般的である。
旋回カメラなど、モーターへの電源供給が必要なカメラでは、カメラ個別に電源供給が必要な場合があったが、PoE方式では比較的大きな電力が送れるため、旋回モーターが搭載されていても電源線が不要であることがほとんどである。
監視カメラとして必要な基本機能はアナログ方式とほぼ変わらず、デイナイト兼用の撮影や、赤外LED対応のラインナップは変わらない。音声信号を取得するためにはマイクが必要なことも、アナログ方式と同じである。
エレベーター内部に監視カメラを設ける場合、エレベーター会社が手配するカメラの情報を取得するが、ほぼ確実にアナログカラが選定される。ネットワークカメラシステムを構築している場合、アナログ情報をデジタルに変換する装置が必要になるため、設計時は必ず電気工事で見込むようにすべきである。
ネットワークカメラを複数台接続して、同時録画ができるレコーダーである。パソコンを使用して監視する大規模用システムもあるが、比較的小規模用であれば、パソコンを用いず、ネットワークレコーダーのみで画像や音声信号を記録可能である。
H.264対応カメラの接続が可能で、フルHD画質で撮影されたデータを記録し、ハードディスクに書き込む。高画質でのデータ書き込みが行われるため、ハードディスク容量は大きな製品がラインナップされており、8~16TB以上の大容量ハードディスクが搭載可能である。
製品の仕様により、8台、16台、32台など、接続できるカメラ台数が違う。カメラ台数が6台の計画で、32台接続可能なネットワークレコーダーを選定するのはコストの無駄が多くなるため推奨されない。直近上位の8台仕様とするか、将来用を見込んで16台仕様とするなど合理的な設計が望まれる。
録画した画像の閲覧や監視をするためのモニターは、アナログ方式と変わらない。
ITVカメラを計画する場合の注意点や、一般的な手法を紹介する。
監視カメラを設置する場合、その用途を十分計画し、必要な場所に対して最小限の台数で配置しなければならない。カメラは消耗品であり、通常6~7年程度で故障が多発するので、リプレースが必要となる。
監視カメラを設置するのが推奨される場所は下記の通りである。
人同士が応対する場所は、トラブルが発生するおそれがあり、事件や事故につながるおそれが高い場所である。金銭を扱う場所も同様で、盗難に備えた監視は大変重要である。
駐車場や駐輪場は、同様に盗難・車上荒らしといった事件が発生しやすい場所であり、監視するのが望まれる。金融機関のATMは、複数のカメラで監視することが強く求められる。
エレベーター内部は密室となる場所であり、犯罪が発生しやすい場所である。エスカレーターは駆け上がりや駆け下りなどで転倒事故が発生しやすく、警備員や管理人がすぐに駆け付けられるように、上下の乗降口を監視するのが一般的である。
建物用途によって監視カメラの設置場所に違いはあるが、これら基本的な考え方はどの建物でも同様である。さらに「監視していること」を見せて犯罪抑制を図るのも効果的なため、ダミーカメラなどを組み合わせている施設もある。
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