電気設備の知識と技術 > 弱電・放送・避雷設備 > クラウドコンピューティングの建築設備利用
建築設備分野においても「クラウドコンピューティング」または「クラウド」という用語が普及するようになった。クラウドの語源はその単語の通り「cloud:雲」を示すもので、データをインターネット上に保管し、インターネット回線を用いて外部からアクセスし閲覧する手法である。
外部にデータがあり、ローカルな情報端末にはデータをインストールする必要がない、という考え方は従来からあり、YahooやGoogleなどが提供している「Webメールサービス」は、クラウドサービスのひとつである。どの情報端末からでも同じデータにアクセスでき、閲覧や編集が可能である。
個人ユースでは、電話帳や写真データを外部保存しておき、端末が変更されても同じデータにアクセスできるという点で、利便性の向上を図ることができる。スケジュールやメモ帳などを外部化することも考えられる。
閲覧だけでなく、データの編集や削除、更新といった操作が可能なので、パソコンやデータサーバーを個別に運用する必要なく、ローカルの設備投資を簡素化できるメリットがある。
クラウドサービスに含むものには、ソフトウェアやアプリケーションのほか、ストレージなども適用可能である。建築分野では主にストレージをクラウドサービスに適用する事例が多く、どの場所でも同じデータにアクセスできる利便性が、中央監視設備に適用されつつある。
建築分野ではBIMの活用も進められており、複数のCADオペレーターがひとつのデータを更新することも多くなる。クラウド化されたデータの更新を行えば、データの交換といった煩雑さが解消される可能性があり、期待されている。
ストレージが外部化されれば、スマートフォンやノートPCなど、移動端末からインターネット回線を用いてアクセスできるほか、現場事務所の移動拠点においてもクラウド化されたサーバーにアクセスすればデータの統一が図ることができる。どんな環境であっても同じデータを使用できる利便性のほか、グループウェアのように多人数のアクセスや、編集が可能というのもメリットの一つである。
ストレージを提供している事業者をいくつか紹介する。
どれも個人使用に特化しており、身近に普及しているクラウドサービスである。一覧は「ストレージの外部化」であり、どこでも写真や音楽データにアクセスできるという利便性向上が図ることができる。
クラウドサービスを建築設備分野に導入する事例が増えている。中央監視設備や警備システムにおいては、建物ごとに主装置とサーバーを設けて管理するのが一般的である。
建物ごとに監視装置等の主装置が設けられた場合、その設備を維持・運用する設備要員の配置が不可欠であり、管理コストの増大につながる。インターネットを通じた外部サービスに委託すれば、管理の手間を省くことができる。
ユーザーは、クラウドサービス提供事業者に対し、月額・年額コストを支払ってサービスを受ける。外部に設置されたハードウェアやインフラにアクセスし、データを取り出して利用する。
中央監視設備を例に紹介する。クラウドサービスを用いた中央監視設備の運用では、給水メーターや電力メーターの計量データを、インターネット回線を通じて外部サーバーに送信して保管する。「ユーザー名とパスワードを入力すればどこの端末からでもデータ閲覧が可能」といった使い方が、近年普及している。
このシステムでは、ローカルに設置する監視用の主装置は省略せず、計測データを外部サーバーにアップロードし、通信端末からアクセスする。省エネルギー支援ツールを提供しているクラウドサービスであれば、照明・空調・昇降機といった分野ごとの計量データをクラウドサーバーに送信することで、クラウド側のソフトウェアを用いて「グラフ作成」「日報・月報データ作成」「報告書の作成」といった省エネ支援を受けられる。
近年では、スマートメーターの普及に伴い、電力量など「エネルギーの見える化」が進められている。使用したエネルギー量が数値化されることで、省エネルギーに対する意識の向上につながることが期待されており、クラウドサービスによるエネルギーの見える化が、広く普及していくと考えられている。
クラウドサービスを利用することで、多くのメリットが得られる。幾つかの事例を紹介する。
中央監視装置や警備システムなどをクラウドサービス化すれば、建物内に主装置やサーバーを設置する必要がないため、イニシャルコストの低減を図ることができる。購入費を削減できる代わりに、クラウドサービス提供者にランニングコストとして支払いを行う。
クラウドシステム提供者は、ニーズに応じたシステム構築までを完了させていることが多く、利用者はユーザー登録するだけですぐに利用開始できるのが一般的である。
全てのシステムをクラウドに任せるか、データの計測や分析といった一部機能をクラウド化するか判断し、決定しなければならない。クラウドサービスの注意点として述べるが、個人情報や顧客情報など、セキュリティー上重要なデータをクラウドサービスに保管するか判断しなければならない。
クラウドサービスに任せる設備は、これを維持管理する必要がない。ストレージを外部化した場合、定期的なメンテナンスや更新といった作業が発生するが、クラウドサービスに委託した設備は、クラウドサービス事業者が一括して管理するため、バージョン更新といった手間も省ける。
ストレージサービスをクラウド化した場合、データ保管容量の不足が発生した場合、従来はストレージの物理的更新や追加が必要である。クラウドサービスでは「利用料を追加で支払うことで、割り当てられるストレージ容量が多くなる」といったメニューを提供しているため、これを利用すれば設備増強も容易である。
クラウドサービスを適用する場合、いくつかの欠点や注意点を理解し、必要なシステムを選択しなければならない。クラウドサービス提供者の信頼性も重要指標である。
クラウドサービスは「インターネット」を用いたデータの外部化であり、インターネットが接続されていない場所では使用できない。近年ではインターネット普及率が大幅に高まっており、誰もがスマートフォンを持ち、自宅では固定回線が接続されている時代となったので「インターネット回線がない」という事態はあまり想定されない。
しかし、移動端末では「通信が不安定」ということがまだあり、トンネル内、地下、山奥など、安定した通信ができない場所も数多く存在する。場所によって使用できないことを理解しなければならない
通信回線が途切れないよう、複数の通信キャリアを契約して冗長性を高めることも検討する。
クラウドサービスを提供している事業者が、機器のメンテナンスや、機器の不具合を発生させた場合、クラウドサービスの使用ができない。稼働率ができるだけ高く、不測の故障に対してどれだけのバックアップ体制が確保されているか、クラウド利用に対して調査するべきである。
万が一クラウドサービスが利用不可になった場合、ローカルから緊急用としてデータを取り出して使用する方法もあるが、ローカルにデータを定期的に保存して緊急時利用するという考え方は、クラウドサービスを利用する意味性が薄れ、コストアップにつながる。
インターネット回線を通じて、データを外部化するということは、ハッキングの攻撃に晒される可能性が高まる。クラウドサービスに保管するデータの重要性によっては、データ漏洩時の被害の拡大につながる。
「重要情報はインターネットに接続されていないコンピューターでのみ使用する」といった情報管理の徹底を行っている企業や団体があるなか、顧客情報の重要情報を、クラウドサービスにアップロードすることの危険性を理解しなければならない。クラウドサービス提供者の信頼性を判断することも重要である。
サービスによっては、クラウドに送信できない重要情報は社内サーバーなどで運用し、それ以外をクラウドで運用するといったハイブリッドな環境構築ができる事業者もあり、幅広い選択が可能である。事業者を活用するのも一考である。
クラウドサービスを提供している事業者が、どのようなデータサーバーを運用しているか評価するのも重要である。データサーバーがすぐにダウンするような事業者は避け、堅牢なシステムを運用している事業者を選ぶと良い。サーバーが「災害の少ない場所」に設けられていることや、耐震性の強化や、地震対策が施されているかも判断基準である。
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