電気設備の知識と技術 > 電気設備設計の基礎知識 > 接地工事の種類と接地抵抗
2024.10.05
接地とは、電線管や金属製の外箱、電気回路の中性線などを大地に接続する電気工事のひとつである。その役割によって、強電用や弱電用、通信用というように用途別に分類されている。大地は非常に安定した電位を持っているため、大地と接続することで電位が安定する。
電気設備のひとつに代表される強電用の接地は、感電防止などを目的とした保安接地であり、人体よりも接地線に電流を多く流すことで、人体への損傷を軽減させるという役割を持つ。対して弱電用接地は、電位を安定させて装置の動作を助けることを主目的としている。
電気機器の外箱に接地を施し、常に大地に接続しておくことで、感電時の被害を最小に食い止めたり、電気回路の中性点に接地することで事故時の異常電圧を低減させる効果がある。電子機器や通信機器類の基準電位を確保することで、通信機器や弱電装置の安定性を保つといった効果も期待されるなど、数多くの役割を担っている。
通信機器などに代表される電子機器類は、その機器本体内外で発生する電磁波やノイズの影響を受けて誤動作を誘発する。電気機器では、接続するケーブル類や本体そのものをノイズから遮蔽することで、誤動作を防止することが多い。その遮蔽物は、多くの異常電圧やノイズ、電磁波の影響を受けることになるため、安定した電位を持つ大地と接続することで逃がし、内部の重要機器に悪影響が及ぼさないようにしている。
接地という単語には数多くの役割と意味が包含されており、その用途に応じて適切な接地を行わなければ、感電事故や機器の不具合、故障につながるため注意を要する。
なお、接地は通称「アース」とも呼ばれており、聞き馴染みのある言葉として普及している。家電など住宅用の電気機器では、アース、アース線といった呼ばれ方であるが。ここではアースという単語は用いず「接地」という名称で統一して解説する。
国内の需要家内の電気回路は、ほとんどが接地系で構成されている。変圧器の二次側をB種接地で大地と結び、接地された変圧器の二次側から電源が供給されている。
変圧器二次側で接地されているため、万が一漏電が発生しその電路に人体が電路に触れた場合は、人体から大地を通り、二次側の接地線を通って変圧器に戻っていくことになる。これだけを聞けば、変圧器二次側で接地されているため感電するのだともいえる。事実、変圧器二次側で接地をしなければ、電流が還流する部分がないため、感電することはない。しかし、国内の電路は接地系で供給されているのが実情である。
非接地方式であれば感電しないのであれば、なぜ国内の電路は非接地ではなく接地方式を採用しているのか。これは「電路全てを非接地のまま維持することが困難である」ということが理由のひとつである。
住宅や業務用ビルなど用途を問わず、一つの建物内には天井裏、壁内、コンクリート打ち込み、地中というように、多岐に渡って電線やケーブルが張り巡らされる。その総延長は数十kmにも渡っており、各所に設けられた照明器具やコンセント負荷に電力を供給している。
非接地方式にするということは、この電路の全ての場所で絶縁が確保されていることが前提となる。
もし建物内のどこか末端で電線の絶縁が不良となり、微地絡状態で大地と繋がっていたとすれば、その場所から接地が確保されてしまっていることになり、非接地系統ではなくなる。地絡した電気配線部分は接地となり、さらに地絡が進行すると大地を通じて電流が流れてしまい感電につながる。
このように、非接地方式は保守管理が難しい接地であるため、変圧器二次側の電線路が短く、限られた範囲内で用いることが望ましいとされている。非接地系統とする場所は、微細な地絡電流も許容しない「医療機器」、地絡発生時に被害が大きいことが予想される「水中照明」など、限定された場所に採用されることが多い。限定された電路のみであれば電気管理者の管理が行き届きやすく、絶縁状態の維持も現実的な範囲である。
さらにもう一つの要素として、非接地系統は異常電圧発生を抑制できないという点が挙げられる。接地系統では、中性線を接地することで低圧側の電圧を150V以下に低減させることが義務付けられている。接地が確保されていなければ、高圧と低圧が混触した場合に、そのまま低圧側に高圧が入り込むことになり、高電圧により機器を破損させ、大事故につながるおそれがあり大変危険である。
中性点接地方式は、アーク発生等による地絡時の異常電圧発生防止、一線地絡事故時の健全相異常電圧の防止、地絡保護継電器の確実な動作を行うために使用される方式である。
接地抵抗値が小さいほど地絡電流は大きくなり、異常発生する電圧は小さくなる。地絡電流が大きく確保できれば、保護継電器の動作が確実になるため、より安全な保護が可能となる。
異常電圧の低減という視点から考えれば、接地抵抗値をできるだけ小さく抑えることが望まれるが、接地抵抗値が小さければ小さいほど地絡電流が大きくなるため、接地線付近に敷設している通信線に対し地絡電流を起因とした誘導障害を与えるなど、悪影響を及ぼすことがある。
保護継電器が確実に動作する地絡電流を早期検出し、漏電遮断器などで遮断して地絡している電路を切り離すことが望ましい。
大地に接続されている建物躯体に接地線を接続し、直接接地をする方式が広く普及している。建築物は鉄筋や鉄骨、杭など多くの金属体が大地と接続されており、極めて低い接地抵抗値を確保するための手法として技術確立されている。大地の接地抵抗値がそのまま接地抵抗値として計算でき、地絡電流は最も大きくなる。
地絡電流が大きくなりすぎると、接地線が異常加熱するほか保護装置への過剰な電流で焼け付いてしまうことも考えられる。大きすぎる地絡電流を小さくするために、抵抗器を接地系統に付加する「抵抗接地方式」を採用するという手法もある。
感電保護を目的とするA種、C種、D種接地工事は、構造体と接続して統合し、低い接地抵抗値とすることで感電に対する安全性向上が見込める。しかし建物全体地絡電流が大きくなりすぎることを避けるため、変圧器二次側に設けるB種接地工事だけは単独接地とし、構造体接地と接続しない方式が一般的である。
この方式とする場合、B種接地と統合接地間に接地抵抗値の差が発生し、これが電位差として現れるため、SPD(避雷器)を介して接続しておき、異常電圧発生時のみ接続されるという保護手法を採用すると良い。
接地工事は電圧によって区分されており、一般的に高電圧ほど危険性が高いため、要求される接地抵抗値を低く維持しなければならない。なお、高圧であれば必ずA種接地工事が求められる。
機械器具の使用電圧 | 要求される接地工事の種類 |
---|---|
300V以下 | D種接地工事 |
300V以上 | C種接地工事 |
高圧 | A種接地工事 |
設置工事は、要求される性能や接地抵抗値によりA種からD種までの4種類が規程されており、電気機器が使用されている限り指定された接地抵抗値を維持しなければならない。接地抵抗値は大地に含まれる成分や水分によって変動するため、季節や天候にも左右されるため、年間を通してもっとも条件の悪い時期であっても確保していなければならず、接地抵抗値が悪化した場合は速やかに改善しなければならない。
接地工事の種類 | 要求される接地抵抗値 |
---|---|
A種接地工事 | 10Ω以下 |
B種接地工事 | 変圧器一次側の一線地絡電流のアンペア数で150を除した値以下(最低5Ω) |
C種接地工事 | 10Ω以下(定格感度電流100mA、動作時間0.5秒以下の漏電遮断器を設ける場合は500Ω) |
D種接地工事 | 100Ω以下(定格感度電流100mA、動作時間0.5秒以下の漏電遮断器を設ける場合は500Ω) |
高圧や特別高圧など、高い電圧で使用している電気機器に対して行う接地工事は、A種接地工事と呼ばれる。高圧の電気設備で感電した場合、そのほとんどが致命傷になり、わずかな漏電による感電でも大きな損傷を受けることになる。A種接地工事における接地抵抗値は10Ω以下を確保するように接地極を埋設し、万が一人体に感電が発生した場合でも、極めて小さな分流となるよう配慮されている。
接地線の接地抵抗が小さければ小さいほど、人体側に分流する電流も少なくなるため、感電時の被害を低減可能である。接地線の太さや接地極のサイズなど、接地関連設備には高い性能が要求される。表面積の大きな接地極と、容易に切れることがない太い接地線を敷設する必要がある。
人体が感電した場合、接地線が無ければ人体に全ての漏電電流が通過することになり、大電流により人体に重篤な損傷が与えられる。接地線があれば人体と接地線に電流が按分されるため、人体の損傷をより小さくできる。
A種接地工事では接地極の埋設方法として、地上より75cm以下の深さに埋設すること、鉄柱の金属体が近くにある場合はその底部より30cm以下の深さに埋設することに注意する。
A種接地工事に使用する電線は、直径2.6mm以上の軟動線または、同等以上の強さと太さを有するものを使用することと規定されている。また、避雷器用のA種接地工事では、断面積14sq以上の電線を使用すべきである。
低圧電路と高圧電路を接触させたとき、低圧側の電圧を上昇させないための接地である。B種接地工事がなければ、変圧器の故障で低圧と高圧が接触(混触)した場合、低圧の200Vや100Vの電路に高圧の6,600Vが流れるという大事故が発生する。100Vや200Vで使用する機器に高圧を印加すれば、間違いなく焼損・故障する。
B種接地工事で確保しなければならない抵抗値は、電力会社の送電線や電柱から届けられる配電用の電線距離及び電線サイズによって変動する。必要となる接地抵抗値は100Ω近い場合もあり、20Ω前後といった小さな数値の場合もあるため、電力会社に問い合わせて必要数値を確認する。
変圧器二次側に接続するB種接地線のサイズは、電線の温度上昇式を用いて算出する。計算式は簡易であり、「0.052In」に数値を代入して求める。Inは変圧器二次側の定格電流として算出する。
接地線サイズは、130sqの直近上位である150sqとなる。
接地線サイズは、43sqの直近上位である60sqとなる。埋設するB種接地線の太さは計算した接地線サイズの内、最大のものとすべきである。もしその変電設備を増設対応可能とする場合、増設予定の変圧器サイズを見込んでB種接地工事のサイズを決めると良い。変圧器増設時に接地線を太くするというのは現実的ではない。
高圧受電の需要家の場合、B種接地抵抗値は電力会社に数値を問い合わせしなければわからない。自分で計算することは不可能で、電力会社に対し「B種接地工事の抵抗値を計算してほしい」という依頼を掛けて、その数値を算出してもらう必要がある。
B種接地工事の必要値は、供給先の変電設備に対し、管轄する変電所から敷設されている電線の総延長と太さを用いて算出している。このため、需要家側では計算が不可能である。
特別高圧で受電する需要家の場合、構内のケーブルや電線は全て需要家が所有しているものなので、構内電線長の把握ができ、計算が可能である。
受電点に設置した特別高圧の変圧器二次側から、フィーダを経由して末端までのケーブル長さを合算する。特高変圧器二次側に高圧送出遮断器が5台設けられ、それぞれA・B・C・D・E変電所に供給されていた場合、A・B・C・D・Eまでの全ケーブル長さを合算する。
構内に敷設された架空電線またはケーブルの長さを上記計算式に代入すると、一線地絡電流値が算出できる。
先に求めた一線地絡電流からB種接地抵抗値を求めるため EB = 150 / I1 [Ω] を算出する。この数値以下のB種接地抵抗値を確保できるように接地極を埋設する。電気設備技術基準において「B種接地工事の接地抵抗値は(中略)5Ω未満の値であることを要しない。」と規定されているため、計算上5Ω以下の接地抵抗値が必要であっても、5Ωを確保すれば良いとされている。
変圧器一相分の容量 | 接地線サイズ | ||
100V | 200V | 400V | |
5kVAまで | 10kVAまで | 20kVAまで | 2.6mm以上 |
10kVAまで | 20kVAまで | 40kVAまで | 3.2mm以上 |
20kVAまで | 40kVAまで | 75kVAまで | 14sq以上 |
40kVAまで | 75kVAまで | 150kVAまで | 22sq以上 |
60kVAまで | 125kVAまで | 250kVAまで | 38sq以上 |
75kVAまで | 150kVAまで | 300kVAまで | 60sq以上 |
100kVAまで | 200kVAまで | 400kVAまで | 60sq以上 |
175kVAまで | 350kVAまで | 700kVAまで | 100sq以上 |
300Vを超える低圧の電路に接続される機器は、100Vや200Vの機器による感電事故よりも危険性が高いため、A種と同様に10Ωの接地抵抗値を確保する。多くは400Vで使用している電動機やファン類、太陽光発電設備、電気自動車充電器などに対してC種接地工事を施す。
300Vを超える低圧用の機器の鉄台、金属製外箱、金属管など、金属体に対して接地を行う。感電時に重篤な被害が発生する「水中照明」に対する接地工事としても、C種接地工事が求められる。
緩和規定として「低圧電路において、電路に地絡を生じた場合に0.5秒以内に自動的に電路を遮断する装置を施設する場合は500Ω以下でよい」という定めがある。C種接地工事を行う場合、引張強さ0.39kN以上の金属線、または直径1.6mm以上の軟銅線で接地を行う。
従来、水道管など建物に引き込まれている設備配管の金属体を利用して接地を得るという方法もあったが、最近の給水管はポリエチレン化も進んでおり、大地から絶縁されている可能性がある。所定の接地抵抗値が確保できない可能性があるので、水道管を用いる方法を採用せず、単独接地極を埋設することが望ましい。
太陽電池モジュールや蓄電池の普及に伴い、300Vを超える直流電源が幅広く用いられるようになり、C種接地工事が求められる事例が多くなっている。C種接地工事は0.5秒以下で自動的に動作する漏電遮断器がない場合10Ω以下の接地抵抗値が求められているが、450V以下の直流電源かつ、下記の要件を満足する場合は、100Ω以下の接地抵抗値まで低減できるため、コスト削減の観点からも検討するのが望ましい。
住宅や業務用施設の照明、コンセント、換気扇や冷蔵庫に使用されている接地工事である。感電防止に用いる接地工事であり、接地抵抗値は100Ω以下を確保することと規定されている。住宅用家電を例にすると、冷蔵庫や電子レンジに付属される接地線は、このD種接地に接続することで感電被害の防止を図っている。
各種接地工事の要求で最も低い10Ω以下が確保できるようであれば、感電防止に用いられるA種・C種・D種接地をすべて共用することも可能である。A・C・D種接地を共用、B種接地を単独、ELB動作用D種接地を単独という形とすれば、接地極は3つで完結する。
D種接地工事では、漏電遮断器で保護されている回路と保護されていない回路を同一系統にしてはならないと規定されている。漏電遮断器で保護されていない回路で漏電が発生した場合、漏洩電流が接地線を伝わり、漏電遮断器で保護されていない回路とともに電位上昇を引き起こすおそれがあり危険である。電位上昇が発生しても、事故電流は漏電遮断器を経由しないため、漏洩状態が継続したまま遮断されることがない。
結果的に、各種電灯盤や動力盤へは2本の接地線をつなぐことになる。接地抵抗値を2Ω以下に抑えられれば、全ての接地系統を共用できるが、構造体接地をせずに2Ω以下の接地抵抗値を確保するのは困難であるため、共用接地を行いたい場合は構造体接地を組み込むことを検討すると良い。
D種接地工事は、金属体同士を電気的・機械的に接続し、電気抵抗値が100Ω以下であれば「接地工事を施したもの」としてみなすことができる。例としてケーブルラックの直線材や自在継手の接続部にあってノンボンド仕様の製品であれば、ボルトで電気的・機械的に接合されているため接地工事が連続しているものとみなされる。分電盤の筐体と扉に対しても同様に、丁番で電気的に接続できれば省略可能である。
C種またはD種接地工事のサイズは、B種接地工事と同様、接地線の太さ 0.052In の計算式で算出する。Inは系統を保護する遮断器の遮断電流値を使用する。100ATの遮断器で保護された系統の負荷であれば、100 × 0.052 = 5.2[sq]以上の接地線が必要となるため、5.5[sq]のIV線を接地線として採用する。
400ATの遮断器で保護された系統であれば、400 × 0.052 = 20.8[sq]以上となるため、22[sq]以上のIV線を使用する。このため、ケーブルラックなどに60sq程度の接地母線を敷設しておけば、実用的な範囲内で用いられるサイズの遮断器増設に対しても、汎用性の高い計画となる。
なお、C種またはD種接地工事における接地線サイズの早見表は下記の通りである。ここで示す電流値は配線用遮断器や漏電遮断器の動作電流を示すものであり、サーマルリレーや電磁接触器の保護電流ではないことに注意を要する。
過電流遮断器の容量 | 接地線サイズ |
---|---|
20A以下 | 1.6mm(2sq)以上 |
30A以下 | 1.6mm(2sq)以上 |
60A以下 | 3.5sq以上 |
100A以下 | 5.5sq以上 |
150A以下 | 8sq以上 |
250A以下 | 14sq以上 |
400A以下 | 22sq以上 |
600A以下 | 38sq以上 |
800A以下 | 60sq以上 |
1000A以下 | 60sq以上 |
1200A以下 | 100sq以上 |
次に該当する場合、接地工事を省略できるため、活用することで安全性を維持したままコストダウンを図ることができる。
接地極の性能を十分確保するためには、土に対して十分に接触していなければならない。これは75cm以下の深度まで埋設することで確保することが求められる。埋設部分の近くに金属体がある場合、地絡電流が金属体に影響するため、1m以上離隔して敷設する必要がある。
接地極は銅板・銅棒など、接地工事専用に販売されている製品を使用することが原則であるが、金属製の材料であれば代替も可能である。
亜鉛めっき鋼管や厚鋼電線管など、給排水工事で使用されている配管材や電線管も接地極として認められる。内線規程によれば、これらの配管材の場合、外径25mm・長さ0.9mを最小寸法として規定しており、どれだけ接地抵抗を低く確保できる地域でも、この数値以上の材料を使用する。
接地極はなるべく水気のある場所を選び、接地抵抗値を低く確保するよう計画すると良い。接地極も長期に渡る埋設状態によって腐食するおそれがあるので、腐食防止を目的に、ガスや酸の発生のおそれがない場所を選定し埋設しなければならない。
地中の接地抵抗は天候や季節に左右される。夏季は地中の水分量が多くなるため低い接地抵抗値を示し、冬季は乾燥により接地抵抗値が高くなる傾向にある。通年、規定の接地抵抗値が確保できるような場所を選ぶことが重要である。
大地抵抗率は湿潤な地域ほど低いため、良好な接地抵抗値を確保できる。粘土質の湿地、粘土質の畑地などは抵抗率を低く確保できるが、岩盤地帯の山地や、砂利の河岸は極めて高い大地抵抗率であるため、接地銅板や接地棒1つでは所定の抵抗値の確保が困難であることが多い。
地下水位の変動でも接地抵抗値は変動する。接地極を地下水位に合わせて埋設しても、その地下水を多量に汲み上げてしまえば、大地抵抗率が上昇して接地抵抗値が高くなる。埋設期間が長期に渡ると銅板が腐食・劣化していくため、定期的な接地抵抗測定を行い、健全な抵抗値が確保できているか確認する。接地抵抗値が変動し、規定の数値を満足しなくなった場合は、速やかに接地極を追加するなどして数値を低減しなければならない。
自然的な影響だけでなく、人為的にも接地抵抗値が変動する。接地極を埋設している場所付近を掘削するなど、接地極埋設部の周辺の土量が減ってしまうと、接地抵抗値は高くなる。
地震や地盤沈下、掘削工事の影響で土量が変化したり、接地極が振動の張力によって外れることを防止するため、銀ろう付けやテルミット溶接など確実に接続される方法で接合しなければならない。既製品以外の接地極を使用する場合は、管理を十分に行うべきである。
大地抵抗率の高い地域では、単独の接地工事では所定の接地抵抗値が確保できない場合も考えられる。埋設する接地極の接地抵抗値を低くしたい場合、下記の方法が採用される。
地中下部にトンネルや高速道路など大型構造物があったり、埋設場所が建物と隣接しているなど、土量が少ない地域では接地極を埋設しても所定の接地抵抗値が確保できないことがある。複数の接地極を接続することで抵抗値を低く抑えるのが基本ではあるが、数値が確保できない場合には接地抵抗低減材を使用するという方法もある。
低減材を使用すると、接地抵抗値を30%程度低減できるとされており、山岳地など大地抵抗値の高い地域で効果的である。
接地極の周辺に炭や水、塩を撒くと、一時的に接地抵抗値が低くなる。しかし、これらはすぐに大地に流出・拡散して失われ、接地抵抗値もすぐに元に戻ってしまう。塩に至っては金属腐食を促し、周辺の植物や金属帯に塩害を引き起こすので使用してはならない。環境負荷の少ない材料をベースに、大地に拡散しないよう固化材を用いて長期間に渡って接地低減効果を与えるのが、接地抵抗低減材の役割である。
接地抵抗低減材は、地中埋設した接地極と一体化することで、大地に接する電極の見かけ表面積を増大して接地抵抗値を高めるという仕組みを利用した化学物質である。接地低減材はセメントと炭素系物質が混合されている。
接地極を敷設した場所に低減材を投入し、水を加えることで化学反応を起こして固化し、低減材の結晶と電極が絡みあって見かけ表面積が大きくなる。水が確保できない地域でも使用できるよう、大地に含まれる水分を利用して固化する製品もある。
従来、接地抵抗低減材で抵抗値を下げる場合、その化学材料による土壌汚染、自然分解による接地抵抗値の上昇、低減材の施工性の悪さなどが問題視されていた。しかし最近では、自然環境で容易に分解せず長期間接地抵抗が維持できるもの、植物など自然環境への汚染が広がらない材料などが、各種メーカーが生産・販売をしているので、環境負荷は低減されていると考えて良い。
接地極は建物が存在する限り必要となる重要設備であり、接地抵抗値を下げられる期間を確認し、異常発生時には接地極を掘り起こして再度埋設できるよう、配線系統や埋設位置を考慮することが望まれる。設計水準や仕様書で「接地抵抗低減材を使用してはならない」と定めている事業主もあるので、安易な使用は避けるべきである。
接地抵抗低減材は「日本地工」「サンコーシャ」「三井化学産資」など多くのメーカーが生産している。
A種からD種の接地端子を中継し、接地抵抗値の測定を行うための試験用の盤を、接地端子盤と呼ぶ。接地端子盤は電気室内やキュービクル内部など受電設備の付近に設置し、電気設備の点検時に使用する。
接地端子盤には、Ep端子やEc端子を設けることにより、各種端子の接地抵抗値をその場で測定できる。端子はネジ留めされているだけであり、接地の切り離しを伴う試験も簡単に行える。
接地極が埋設されている場所に配置する表示板で、埋設年月日、接地極位置、接地種別、接地抵抗値を記載する。表面プレートはステンレス、黄銅製があり、意匠性を勘案して選定する。旧JISによる避雷設備用の接地ではこのような表示を行うことが義務付けられているが、保安接地の場合はこのような明確な表示は義務付けられていない。
共用接地とは、各種接地工事の接地線を共用接地極につなぎ込む方式である。総合接地抵抗値を低く保てれば、A種接地とD種接地を共用できるため広く採用されている。400Vの低圧機械器具に接続しているC種接地も同様、A種接地と共用できる。
各種接地工事は共用する場合、A種接地・C種接地は10Ω以下が規定されており、D種接地は100Ω以下が規定されているので、10Ω以下の接地極を敷設できれば、A・C・D種共用接地端子として使用できる。
接地抵抗値を2Ω以下の値に常時保つことができれば、B種を含めて全ての接地工事を一つの接地極にまとめられる。接地抵抗値を低く抑えるための方法としては、建物の鉄骨などの金属体と接地極を接続することで実現する手法が多く採用される。鉄骨造であれば柱・梁が確実に接続されるが、鉄筋コンクリートの部分は電気的に接続されていないことがあるため、注意を要する。
なお、避雷設備や避雷器の接地については、落雷時に極めて大きな電流と電圧が発生するため、電気機器用の接地とは別にしておき、SPDを介して接続する方法を採用するのも一案である。
低い接地抵抗値を確保するためには、建築物の基礎など構造体を利用した接地を行うのが効果的である。山留めのH鋼、シートパイル、杭は、地中深くに鋼材を埋設しているため、これらに鉄筋で接続されている地中構造物は、非常に低い接地抵抗値が確保されている。
コンクリート内には鉄筋がメッシュ状に敷設されており、断面積が非常に大きいため雷電流に十分耐え、鉄筋はアルカリ性のコンクリートに覆われているため腐食に強いという特長がある。鉄筋は接地材料として非常に優れた性能を持っている。
鉄筋は、電気的な対応を何も行わない場合でも、鋼材同士が接触しているため一定の接地抵抗値が確保されているが、完全な電気的接続ではない。構造体全体が電気的に接続されるように、要所で鉄筋同士を接続していく作業が必要である。
上階が鉄骨造の場合は、地中の鉄筋と地上の鉄骨が電気的に接続されていないため、ベースプレートやアンカーボルトと鉄筋を電線で接続し、建物全体を電気的に接続する。柱についても、鉄筋同士を接続する継手が機械式の場合、電気的に接続されていないことになるため、鉄筋相互を電線で結んでいく必要がある。
建築基準法上の避雷設備用として接地を行う場合、構造体を接地極としてみなすためには、JIS-A4201「接地極の省略」に基づいて、接地極の省略計算を行わなければならない。
連接接地は、個別に敷設した接地極同士を接続する方法である。共用接地は、ひとつの接地極に対して接地線を多数接続する方式であるが、連接接地は多数の接地極に対し、接地線を互いに接続させる方式となる。
接地極を連接することで接地極間の電位が同一化し、雷サージ発生時の電位上昇を抑えられる。接地を共用するためには、2Ω以下の低い抵抗値を常に確保できることが条件となる。
B種接地工事を他接地と共用した場合、接地抵抗値がほぼ0に近い数値となることから、地絡電流が短絡電流と同様な大電流となるため、接地線は短絡電流に耐えるサイズとしなければならない。
また、接地抵抗値が低いことで電位上昇を防止できるが、B種接地の接地抵抗値が低くなりすぎるため、地絡電流が過大になることが問題点として挙げられる。
地絡電流を低く抑えるためには、接地抵抗値を人為的に引き上げることが有効である。B種接地線に抵抗器を設け、地絡事故時に抵抗を経由することで電流を制限する方法が採用される。抵抗器により地絡電流が抑制され、高調波電流も同時に抑制される。電気設備技術基準におけるB種接地工事の最大抵抗値以上まで抵抗を高められないため、抵抗器による抵抗値の増大を計画する場合、選定時には注意を要する。
等電位接地(等電位ボンディング)は、接地線、建物内に導入される金属製配管、構造体などをすべて接地線で連接することで、金属間の電位差をゼロにし、落雷や開閉サージによる異常電圧発生時には金属部全体の電位を等しく上昇させることで電位の発生を抑え、機器故障や感電事故を防止する技術である。
従来から使用されている個別接地方式は、A種・B種・C種・D種接地を個別に埋設し、それぞれの接地抵抗値によって管理していたので、落雷などで大きな電圧が地表に流れた場合、接地極ごとに抵抗の違いにより互いの接地極に電位の変動が波及し、異常電圧が還流してしまうことがあった。等電位接地では電位が等しく上昇するため、電位差が発生せず事故を防止できるメリットがある。
しかし、接地極にはそれぞれ役割があり、保安用に用いるA・C・D種、通信用の専用接地、変圧器用のB種接地などを単純に連接すると、接地抵抗値に減少により地絡電流が大きくなり、B種接地については絶縁監視装置の故障など不具合につながる。
これを解消するためには、B種接地に抵抗器を接続したり、ギャップ付SPDと呼ばれる「落雷時異常電圧が発生した瞬間だけ導通する」SPDを設け、通常時は個別接地として機能し、非常時のみ等電位化するという仕組みを構築するのが一般的である。
金属製の給水管や消火管はSPDを設けずに直接接地できるが、通信線や電力線の充電部などは常時大地に接続することが不可能なため、SPDを経由して接続する。なお、ポリエチレンなど合成樹脂を使用している設備配管には電位が発生しないため、接続する必要はない。
等電位ボンディングを計画する場合、建築物の鉄骨や鉄筋に接地極を接続し、建物全体を電気的に接合して等電位を図りつつ、接地抵抗値の低減を行うのが一般的である。建物全体が等電位であれば、その建物内部にいる人、電気機器は落雷時でも一様に電位上昇するため、電位差による感電や故障リスクが低減する。
注意しなければならないのは、等電位が図られていないフェンス、柵、周辺建物に対しては大きな電位差を与える。自身の管理する建築物について等電位を図ったとしても、近隣や周辺建物に対しては電位差を与えているため、SPDといった避雷器を設けず、等電位が図られていない周辺の工作物や建築物に対しては被害のおそれが残る。
周辺建物を含め、接地線を接続して地域全体を等電位にするという考え方も構想されているが、施工時期や施工場所が違う周辺建物や地中埋設物に対して、すべての接地線を接続するのは現実的ではないため、構想に留まっている。
接地線には、事故の度合いによっては非常に大きな電流が流れる可能性があるため、細すぎる電線を選定すると、事故電流で焼き切れてしまうことがある。また、電線が細すぎると、大電流が流れた瞬間に対地電圧が上昇してしまい、感電被害の可能性が高まる。
接地線を鉄柱や金属体に沿って敷設しなければならない場合、接地極を地中で金属体から1m以上離隔するか、金属体の底部から30cm以上の深さに埋設する。接地線の地下75cmから地表上2mまでは、厚さ2mm以上の合成樹脂管などの高い絶縁性能がある管路で覆う必要がある。
人体に電流が流れこみ、大地へ抜けるという一連の流れが感電である。若干の刺激を感じる程度、手を離せなくなるもの、心室細動を起こすものなど、程度によって数段階に分けられている。
漏電遮断器は、一般型では30mA以上の漏電で動作し回路を遮断する。これは人が離脱できなくなる30mAを見越して設定された数値であり、漏電遮断器があれば致命傷を避けることが可能である。ホテルのユニットバスなど、水気のある場所に設けるコンセントなどでは15mAで遮断する高感度の漏電遮断器が規定されており、より安全な仕様が求められている。
工事現場では、42Vを(死にボルト)と呼んでおり、100Vはもちろんのこと、60V以下であっても感電すれば死亡事故につながるとして、注意を喚起している。感電は身体の内部火傷を起こすため、表面上は損傷していなくても、体内で致命的な損傷を受けていると言うことも考えられる。感電事故を起こした場合、必ず医療機関で治療を受けることが必要である。
漏電の疑いがある電気機器やケーブルに触れる場合、感電時に心臓を経由しない右手の甲でケーブル表面に触れることが望ましい。手のひらでケーブルを触った場合、もしケーブル表面が漏電状態となっていた場合、感電のショックで無意識にケーブルを握ってしまい離れることができなくなる。手の甲で触れば、もし漏電していてもすぐに外せることが理由である。
感電に人体に電流が流れると、心臓が清浄に拍動できなくなり、いわゆる「心停止」の状態を引き起こす。心停止状態では、体内に血液を送れないため、すぐに回復させなければ死亡につながる。脳への血液が不足した状態が3分継続すると、脳が回復せず重い後遺症を残すといわれる。
心室細動による心停止が始まった瞬間から、救命率は1分ごとに10%低下していくとされている。救急車は通常、消防署に通報しても10分程度の時間を必要とするので、心停止した人を放置した状態では脳へのダメージが深刻となり、生存率が極めて低く、生存したとしても後遺症が残るおそれが高くなる。
心停止状態からの回復を図るため、早期に心臓に対して外部からAED(自動体外式除細動器)により電気ショックを与えて、心臓を正常な拍動に戻すのが不可欠である。近年では病院や福祉施設だけでなく、駅や空港といった公共施設や、商業施設など不特定多数の人が使用する建物にAEDが常備されている。
AEDの使用には、資格や専門技術が必要なものではなく、誰でも使用可能である。
人体の抵抗値は、完全に乾燥した状態であれば2,000Ωから5,000Ω程度を維持している。しかし汗や水分で濡れた状態になると、抵抗値が減少し500Ω程度の数値を示す。
一般家庭に供給されている100Vの電圧で、接地していない機器に乾燥した人体が感電した場合、I = V/R = 100/5000 = 0.02A → 20[mA]の電流が流れる。しびれを感じる程度の感電である。
人体が濡れた状態で感電した場合、I = V/R = 100/500 = 0.2 A → 200[mA]の電流が流れる。30mAを6倍以上も上回る電流のため、手を離すこともできず、致命傷になる。
家庭用の電気機器で漏電のおそれがある部分に設置する場合、D種接地を電気機器に取付ける。D種接地の場合100Ω以下の接地抵抗値を確保することになっており、これは濡れた人体の500Ωと比較しても1/5以下の数値である。電流は並行回路において分流するので、接地線側に5倍の電流が流れるため人体側は1/5の電流で済む。
20mAの漏電電流であれば、約16mAの電流が接地線に流れ人体への漏電電流は4mAで済む。接地線は人体の安全を確保する上で、非常に重要な役割を持っているのである。
高圧の電気設備を点検する際には作業用短絡接地を行う。停電作業中の安全確保として一般的に行う措置に、回路を開いた高圧電路の二次側に対し、三相を全て短絡させ接地線に接続する作業用短絡接地がある。
作業用接地を行うことで、作業中誤って高圧を通電してしまった際、作業中の人が高圧電路に接触して人身事故にならないよう、大地と電路を全て接続することで、三相短絡電流が流れても人ではなく大地に電流が流れるようにし、過電流継電器や地絡継電器、限流ヒューズなどで電路を解放させ、人に対して感電や火傷被害を及ぼさない安全対策である。
一般に、高圧電路の点検においては作業区画の施錠や通電禁止表示、テープ張り、監視人の配置などを行って停電作業時の安全対策とするが、重ねて三相短絡接地を行えば、ヒューマンエラーによる誤投入時の高圧感電事故を未然に防げる。
作業用接地線には、誤った操作によって発生する短絡電流を、安全に大地に流す事ができ、継電器動作やヒューズ溶断に至るまでの時間、支障なく短絡電流を流せる電線サイズや、機械的強度が求められる。
作業用接地は、常に接地された状態を維持しなければならない。作業用の短絡接地を行う場合は接地側を先に接続して、高圧電路への取付を行う。取り外す際も、接地側を接続したままにして高圧電路から切り離す。常に接地側を接続してあるので、万が一の事故時に接地線へ電流を流せる。
接地の一般的言語として「接地を取る」という言い方をするが、高圧作業時は使用しないよう務めるべきである。接地を「取る」という言葉には「取り付ける」と「外す」の意味が混在するので、誤操作によって万が一の事故を発生させるおそれがある。
漏電した機器に接触し、人体に印加される電圧を接触電圧といい、下記のように区分分けされている。
C種・D種接地工事は、低圧の漏電遮断器を確実に動作させるため重要である。漏電遮断器は入る電流と戻る電流の違いを検出して動作するように作られている。100Aの電流を流したのに99Aしか戻らなかった場合、1Aがどこかで漏電したとみなして動作する、と考えればわかりやすい。
感電事故が多いといわれている家庭用洗濯機を例に挙げる。洗濯機の内部機器が損傷し洗濯機表面が漏電状態になった場合、接地線が洗濯機に取付けられているならば、漏電した電流は接地線を伝わって地面に流れる。すると、漏電遮断器は入りの電流はあるのに戻りの電流がないことを検知してブレーカーを動作させる。こうすれば人が感電することはない。
もし接地線が取付けられていなければ、洗濯機に漏電電流が発生したままになり、人が洗濯機に接触した時点で漏電電流は人体を経由して地面に流れる。この場合でも漏電遮断器があれば遮断できるが、感電による衝撃を受ける。もし漏電遮断器を取付せずに洗濯機を使用していたりすれば、死亡事故にもなりかねない。
冷蔵庫や電子レンジにも、接地するための端子や電線が付属している。冷蔵庫や電子レンジがシンクの水回りと近いなど、水気が多い場所にこれらの機器を配置する場合は、感電防止のため接地線を取付けなければならない。
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