電気設備の知識と技術 > 電気設備設計の基礎知識 > PCB使用禁止と廃棄処分の法規制
PCBとは、ポリ塩化ビフェニルとも呼ばれる化合物であり、209種類存在するPCBの同族体のうち、約100種類が電気設備の絶縁油に利用されてきた。PCBは熱に対し安定した性質があり、不活性かつ難燃性で安全性が高いことや、高い絶縁性能を持つ物質であるため、変圧器や進相コンデンサの内部に収容する「絶縁油」として利用されていた化学物質のひとつである。
しかし、毒性が強く、人に対して発がん性のおそれ、内臓障害のおそれが高いという点が社会問題となり、PCBを含む電気機器を新たに電路に敷設することが禁止され、現在電路で稼働しているものを除き、新たに製造・輸入・使用はできなくなった。
PCBは脂肪に溶けやすい性質があり、人体へのPCBの吸収が継続されると、悪影響を及ぼすとされている。吐き気、肝臓障害などを発症するおそれがあり、皮膚に付着した場合でも、皮膚からの吸収によって皮膚障害が発生するおそれがある。
PCBには209の異性体があり、その中でも「コプラナーPCB」と呼ばれる物質は毒性が強く、ダイオキシン類のひとつとして区別されている。
PCBによる事故昭和43年に発生した「カネミ油症事件」がある。食用ライスオイルに、PCBを含む汚染物質が混入し、これが食用油として流通してしまったことにより、西日本を中心にPCBを含む食用油を摂取したことによる中毒症状が広がり、一万人を超えるPCB中毒者が発生したという事故である。
長期間に渡ってPCBを摂取したことにより、吹き出物や色素沈着、皮膚障害、肝臓障害など多くの症状が広がり、この事故以降、PCBの使用が厳しく制限されている。現在に至っても、多くのPCBを含有する電気機器が存在しており、早期の交換や、適正な廃棄が求められている。
現在稼働している電気機器にPCBが混入している場合、その電気機器を使い続けることは法令違反ではない。しかし、更新などでその電気機器が電路から取り外された場合、再利用することは禁じられている。
電路から取り外されたPCB機器は、産業保安監督部に対して「PCB含有電気工作物の廃止」を届出した上で、PCB特別措置法に基づいて都道府県知事への届出、PCB廃棄物としての保管・処理が義務付けられる。
PCBは、現在使用している電気機器を除き、PCBを含有する電気機器については「新設」「移設」「PCBを使用していない電気機器をPCB使用電気機器に交換する」といった行為も禁止されている。電気機器に対して、新たにPCBを含む物質を混入、入替え、補充を行うことも禁止されているため、古い電気機器から部品や材料を再利用できない。
PCBを含む電気機器は、譲渡や受け渡しが禁じられており、これに違反すると懲役や罰金が科せられる。PCBを含む電気機器を使用している事業者に、合併や統廃合があった場合、PCB電気機器も同様に継承が必要となり、管理義務も継承される。
照明器具、変圧器を電路から取り外したり、撤去する場合「1952年~1972年に製造されたもの」である場合、PCBが混入している可能性がある。
PCBが混入されているおそれのある電気機器は「蛍光灯」「水銀灯」「高圧ナトリウム灯」および「変圧器」であり、この時期に生産されたものであれば、PCB含有の分析判定が必要である。
蛍光灯では、ラピッドスタート形やフリッカレス形のものでPCBが勧誘されている可能性が高く、「シーケンス式」、「直列逐次点灯式」といった特殊な製品でもPCBが使用されていた。
水銀灯も同様に、一般型だけでなく、フリッカレス形や高力率形の製品でPCBが多く使用されている。
PCBが使用された電気機器は1972年以降、新たに生産されていないが、微量のPCBが絶縁油に混入してしまう事例があった。PCBの濃度が、5,000mg/kg以下の微量な混入については、微量PCBまたは低濃度PCBとして管理が必要である。
「PCBを使用していない」と明記しながらも微量なPCBが混入しているとされる期間は長く、1990年頃の電気機器まで「微量PCBの混入機器」となっている可能性がある。微量PCBが混入した電気機器を使用している場合、自治体への報告、取扱、管理義務が、高濃度PCBと同様に発生する。
微量PCBの汚染は「絶縁油として利用する鉱油が既に汚染されていた」「製造工程などでPCBとの接触があった」の理由で、微量のPCBが、生産中止後も継続していたという事例であり、メーカーから報告されている。これらに該当する電気機器を使用している場合は、一般的な産業廃棄物として破棄することはできず、PCB含有の汚染物質として処理が求められる。
PCBを含む電気機器を発見した場合、一般的な産業廃棄物として処理できず「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づき、特別管理産業廃棄物として処理しなければならない。廃PCBやPCB汚染物は、特別管理産業廃棄物管理責任者を置き、所定の方法で厳重に管理する。
「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(特措法)」に基づき、都道府県知事に対して保管状況を届出しなければならない。自治体によって処置の取り扱いが異なるため、所轄行政機関への確認が必要である。
詳細は、環境省が公表しているポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理に関する特別措置法についてを参照。
PCB特別措置法とも呼ばれているこの法律は、PCBが難分解性であり、かつ人に与える健康被害のおそれが高いことから、PCBの保管や処分について規制し、処理のための体制を整えるためのものである。
PCBは、1957年頃から市場での利用が進み、蛍光灯や放電灯の安定器、変圧器など、絶縁油を必要とする電気機器で数多く利用されている。
現在、PCBを含有する電気機器の製造は行われていないが、PCBを含む電気機器は古い建築物に数多く残されており、今も現役で運用している需要家も存在する。旧式の受変電設備や照明設備にPCBが数多く含まれており、その中でも下記が代表的である。
これらPCBを含有している電気機器は「電気事業法に基づく電気関係報告規則」により、PCBを含有する電気機器を所持していることに関する記録を産業保安監督部に提出しなければならないと定められている。
家電製品に組み込まれたPCB機器、蛍光灯安定器は対象外とされ、報告義務はない。しかし、蛍光灯安定器は数量が非常に多く、もしPCBを含む材料を使用した蛍光灯を利用している場合、早期交換をすることが求められている。
PCBの使用報告内容に変更が生じた場合は、PCB電気工作物の設置場所を所轄している経済産業局長に、変更報告を行うのが義務付けられている。使用しているPCBを含有する電気機器を廃止・使用中止する場合も同様に、PCB電気工作物の廃止の理由、機器を特定するための事項などを明記し、PCB電気工作物の設置場所を所轄している経済産業局長に報告する義務がある。
PCBは高い毒性を持つ有害な物質であり、安定した化学的性質がある。廃棄予定のPCB使用機器は、厳重に管理されたPCB保管庫に集積されているのが通常であるが、地震・洪水により保管庫が破損し、大量のPCBが溶出してしまう事故が考えられる。
実際に、東日本大震災に代表される、津波を伴うような激甚災害が発生すると、PCBを含む電気機器が津波によって保管庫ごと押し流されてしまい、がれきと混合して各所に散らばってしまう。
事故が発生すると、PCBを回収するのが不可能になるだけでなく、がれきにPCBが溶出することで、がれきを撤去する人に対する有毒性・有害性の問題が発生する。がれき撤去後の土壌に対する悪影響もあり、多くの問題が懸念される。
津波に耐えられる強度がある保管庫を構築するというのは実現性が薄いため、PCBなど有害性の高い物質を保管する保管庫は高台に設置することを検討し、事故時の被害を最小限に食い止めるという考え方が合理的であると考えられる。
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