電気設備の知識と技術 > 電気設備設計の基礎知識 > メッセンジャーワイヤーの選定
メッセンジャーワイヤーは、ケーブルを架空配線する場合に、ケーブルに張力が掛からないために敷設するワイヤである。電線の固定だけでなく、照明器具を吊り下げるために使用することもあり、架空配線用材料として広く普及している。ワイヤーに照明器具を吊り下げる方式は「カテナリー照明」と呼ばれ、商業施設などで賑やかさを演出するための手法として用いられる。
メッセンジャーワイヤーは、電柱間や電柱~建築物間など、屋外で使用する事例が数多く有る。メッセンジャーワイヤー及び吊架したケーブルには風圧力や積雪荷重が掛かるため、ワイヤのサイズを選定する場合、風・雪の荷重を考慮しなければならない。
メッセンジャーワイヤーは、亜鉛めっき鋼より線が一般的に使用されている。他にもアルミ鋼の製品もあるが、亜鉛めっきより鋼よりも普及率は低くなる。
メッセンジャーワイヤーは、保証する破断力によって撚り線の太さが定められている。通常、7本撚り線の太さによって破断力が違っており、太いサイズほど高い保証破断力を示すが、重量が大きくなるため、支柱や金物類への負担が大きくなる。
メッセンジャーワイヤーの規格は JIS G3537 に定められている。どのメーカーも、JISの基準以上の能力を持った無亜鉛めっき鋼より線を製作している。
メッセンジャーワイヤーを電柱間に敷設する計算を行う。計算を行う場合、敷設するケーブルの種類、許容する弛みの比率、敷設距離、風圧荷重の条件が必要である。その他、氷雪比重や氷雪厚、安全率の条件が必要であるが、これらは電気設備技術基準に規定されている一般値を採用する。計算条件は下記一覧とする。
メッセンジャーワイヤーを含ケーブルが吊架されているものとして合成荷重の計算を行う。合成荷重は下記の計算式で算出できる。
合成荷重 W[kgf/m] = √( (Wc + Wi)^2 + Ww^2 )
合成荷重は、夏季と冬季に分けて計算しなければならない。夏季は風圧力が大きくなるが氷雪荷重は0である。冬季は風圧が小さくなるが氷雪荷重が大である。どちらの荷重が大きくなるかを確認する。氷雪のおそれがない地域の場合、 Wi = 0 として計算できる。ここでは、氷雪が付着するおそれがある地域を計算条件とした。
高温季は、氷雪荷重を0として計算できるため、Wi = 0 になるため、ケーブルに掛かるのは自重と風圧力だけである。ケーブル重量は Wc = 3.34[kgf/m]を使用する。
風圧荷重は Ww = Vs × d × 10^-3 [kgf/m] より
Ww = 100 × 40 × 10^-3 = 4.0[kgf/m]
合成荷重 W = √( (Wc + Wi)^2 + Ww^2 ) より
W = √( (3.34 + 0)^2 + 4.0^2 ) = √(11.1556 + 16) ≒ 5.21[kgf/m]
低温季は、ケーブルに付着した氷雪を荷重条件に加える必要がある。ケーブルに掛かるのは自重・風圧力・氷雪の3種類である。ケーブル重量は Wc = 3.34[kgf/m]を使用する。
氷雪荷重は Wi = ρ × π × h × (d + h) × 10^-3 より
Wi = 0.9 × 3.14 × 6 × (40 + 6) × 10^-3 ≒ 0.78[kgf/m]
風圧荷重は Ww = Vw × (d + 2h) × 10^-3 より
Ww = 50 × (40 + 12) × 10^-3 ≒ 2.6[kgf/m]
合成荷重 W = √( (Wc + Wi)^2 + Ww^2 ) より
W = √( (3.34 + 0.78)^2 + 2.6^2 ) = √(16.87 + 6.76) ≒ 4.86[kgf/m]
高温期の合成荷重は 5.21[kgf/m]、低温季の合成荷重は 4.86[kgf/m]と算出できた。比較すると、高温季の荷重条件がより厳しいということが判明したので、メッセンジャーワイヤーの選定は、高温季の合成荷重 5.21[kgf/m] が基準となる。
メッセンジャーワイヤーに掛かる張力を計算し、サイズの選定を行う。ここではケーブルの自重のみを使用した計算になるため、メッセンジャーワイヤー自身の重さは考慮されていない。仮張力計算となる。
弛度の計算式 Dm = W × S^2 / 8 × T を変形し、 張力 T[kgf] = W × S^2 / 8 × D で計算を行う。
張力 T = W × S^2 / 8 × D[kgf] = 5.21 × 30^2 / (8 × 0.3) = 1953.75[kgf]
メッセンジャーワイヤーに必要な張力は、1953.75[kgf] 以上と判明した。しかし、電気設備技術基準により安全率を2.5に以上しなければならないため、1935.75 × 2.5 = 4884.375[kgf] が最低必要な張力となる。
4884.375[kgf]以上の張力を負担できるメッセンジャーワイヤーは、亜鉛めっき鋼より線の場合 45[sq] である。負担できる張力は 5322[kgf] である。ここで、本計算はケーブル自重のみを計算しているため、メッセンジャーワイヤーの自重や、メッセンジャーワイヤーに掛かる風圧力・氷雪荷重が考慮されていない。メッセンジャーワイヤーを含んだ計算をさらに行なっている。
メッセンジャーワイヤーを含んだ合成荷重の計算を行う。メッセンジャーワイヤーを含む合成荷重 W[kgf/m] = √( (Wc + Wi + Wm)^2 + Ww^2 ) で計算する。
メッセンジャーワイヤーの荷重は、45[sq]の場合 366[kgf/km] である。メートル換算すると、0.366[kgf/m] である。
風圧荷重は Ww = Vs × d' × 10^-3 [kgf/m] で計算する。d' はケーブル外径とメッセンジャーワイヤー外径を加味しなければならないため、平均外径を計算する。
平均外径 d' = ((40 + 8.7) + 40) / 2 = 44.35mm とする。
風圧荷重は Ww = Vs × d' × 10^-3 [kgf/m] より
Ww = 100 × 44.35 × 10^-3 = 4.435[kgf/m]
合成荷重 W = √( (Wc + Wi + Wm)^2 + Ww^2 ) より
W = √( (3.34 + 0 + 0.366)^2 + 4.435^2 ) = √(13.73 + 19.67) ≒ 5.78[kgf/m]
氷雪荷重は Wi = ρ × π × h × (d' + h) × 10^-3 より
Wi = 0.9 × 3.14 × 6 × (44.35 + 6) × 10^-3 ≒ 0.85[kgf/m]
風圧荷重は Ww = Vw × (d' + 2h) × 10^-3 より
Ww = 50 × (44.35 + 12) × 10^-3 ≒ 2.82[kgf/m]
合成荷重 W' = √( (Wc + Wi + Wm)^2 + Ww^2 ) より
W' = √( (3.34 + 0.85 + 0.366)^2 + 2.82^2 ) = √(20.76 + 7.95) ≒ 5.36[kgf/m]
高温期の合成荷重は 5.78[kgf/m]、低温季の合成荷重は 5.36[kgf/m]になったので、高温季の荷重条件がより厳しいため、合成荷重は 5.78[kgf/m] を基準とする。
張力 T' = W × S^2 / 8 × D で計算を行う。
張力 T' = W × S^2 / 8 × D = 5.78 × 30^2 / (8 × 0.3) = 2167.5[kgf]
メッセンジャーワイヤーの自重を含め、必要な張力は2167.5[kgf] 以上になった。安全率を2.5としており、2167.5 × 2.5 = 5418.75[kgf] が最低必要な張力となる。45[sq]のメッセンジャーワイヤーが負担できる張力は 5322[kgf] であり、このメッセンジャーワイヤーでは荷重条件を満足できない。上位のメッセンジャーワイヤーを選定しなければならない。
ワンサイズアップし、55[sq]のメッセンジャーワイヤーで計算を行う。
再選定したメッセンジャーワイヤーを含んだ合成荷重の計算を行う。メッセンジャーワイヤーを含む合成荷重 W'[kgf/m] = √( (Wc + Wi + Wm)^2 + Ww^2 ) で計算する。
メッセンジャーワイヤーの荷重は、55[sq]の場合 446[kgf/km] である。メートル換算すると、0.446[kgf/m] である。
風圧荷重は Ww = Vs × d' × 10^-3 [kgf/m] で計算するが、まず平均外径を計算する。
平均外径 d' = ((40 + 9.6) + 40) / 2 = 44.8mm とする。
風圧荷重は Ww = Vs × d' × 10^-3 [kgf/m] より
Ww = 100 × 44.8 × 10^-3 = 4.48[kgf/m]
合成荷重 W = √( (Wc + Wi + Wm)^2 + Ww^2 ) より
W = √( (3.34 + 0 + 0.446)^2 + 4.48^2 ) = √(14.33 + 20.07) ≒ 5.87[kgf/m]
氷雪荷重は Wi = ρ × π × h × (d' + h) × 10^-3 より
Wi = 0.9 × 3.14 × 6 × (44.8 + 6) × 10^-3 ≒ 0.93[kgf/m]
風圧荷重は Ww = Vw × (d' + 2h) × 10^-3 より
Ww = 50 × (44.8 + 12) × 10^-3 ≒ 2.84[kgf/m]
合成荷重 W = √( (Wc + Wi + Wm)^2 + Ww^2 ) より
W = √( (3.34 + 0.93 + 0.446)^2 + 2.84^2 ) = √(22.24 + 8.07 ) ≒ 5.51[kgf/m]
高温期の合成荷重は 5.87[kgf/m]、低温季の合成荷重は 5.51[kgf/m]になったので、高温季の荷重条件がより厳しいため、合成荷重は 5.87[kgf/m] を基準とする。
張力 T[kgf] = W × S^2 / 8 × D で計算を行う。
張力 T = W × S^2 / 8 × D[kgf] = 5.87 × 30^2 / (8 × 0.3) = 2201.25[kgf]
メッセンジャーワイヤーの再選定により、必要な張力は2201.25[kgf] 以上になった。安全率を2.5としており、2201.25 × 2.5 = 5503.125[kgf] が最低必要な張力となる。55[sq]のメッセンジャーワイヤーが負担できる張力は 6495[kgf] であり、このメッセンジャーワイヤーで荷重条件を満足する。
メッセンジャーワイヤーの計算は、手計算で行うと上記のように煩雑なため、表計算ソフトを活用し自動計算させるのが良い。計算ミスを避けるためにも、勧められる方法である。
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