電気設備の知識と技術 > 電気設備設計の基礎知識 > 分電盤・配電盤の仕組みと違い
分電盤とは、配線用遮断器や漏電遮断器といった各種ブレーカー、電力量計(電力メーター)、リモコンリレーやタイマーの制御装置を収容した、金属製またはプラスチック製の収容箱である。電力会社から受電した電力を、必要な電気容量にあわせてブレーカーによって分岐し、事故が発生した場合に被害を最小限にとどめる機能を持たせることができる。
分電盤は壁に埋め込む方式や、直接壁面に露出して取り付ける方式に分類されており、住宅用に特化したホーム分電盤や、業務施設などで用いられる鋼板製の分電盤が存在する。
電気を使いすぎて「ブレーカーが落ちる」という事象は「分電盤内部に取り付けられているブレーカーが動作する」という意味である。同時に多くの電気機器を動かしてしまい、回路が過負荷になった際には分電盤内部のブレーカーによって電路を遮断して、安全を確保する。ケーブルの損傷や以上発熱等によりショートや漏電といった事故が発生した場合でも、分電盤内部のブレーカーが事故を検出して電路を遮断する。事故が発生した電路だけを遮断して、それ以外の健全な回路はそのまま利用し続けるという思想で設計するのが通常である。
分電盤内部には、電線に許容以上の電流が流れないよう保護するための配線用遮断器のほか、漏電が発生した電路を自動で遮断する「漏電遮断器」などが設置される。
これに対して、電力会社から高圧電力で受電した電力を、変圧器を経由して多数の分電盤に電力を供給するために「配電盤」を設けることが考えられる。配電盤には幹線ケーブルが接続され、分電盤に至り分岐ブレーカーを用いて照明器具やコンセントに至る。
住宅用分電盤はホーム分電盤とも呼ばれ、比較的小さな幹線が接続され、多くのブレーカーが搭載でき、かつ意匠性に優れた形状となっている。
住宅用途としての使用を想定して製作されているため、電力会社と個別契約を結ぶためのリミッター(電流制限器)収容スペース、漏電遮断器や配線用遮断器の組み換え、分岐用の配線用遮断器(安全ブレーカー)の個数が住宅規模や仕様にあわせて選定できるといった利点があり、多くのラインナップから選定できるようになっている。
ホーム分電盤は樹脂製で表面に保護カバーを設けることで、安全性と軽量化、省サイズ化を図っている。クローゼット内や洗面所の扉上などに設けることが多い。壁付けで露出させても、美観上耐えるように作られている。
メインブレーカーとなる主幹容量は30A~100Aまでがラインナップされており、分岐回路はコンパクトブレーカーを使用することで、非常に小さな分電盤に仕上げている。
分電盤を設ける場合、事故発生時に間違いなく分電盤にアクセスできるように、「分電盤の前面に物が置けないよう配置する」という計画上の安全対策をおこなわなければならない。これは分電盤の設置について「内線規程」と呼ばれる基準において「電気回路の開閉が容易に行える場所」に設置しなければならないことが定められているためである。
住宅用分電盤のブレーカーはプラグインタイプを用いること可能である。プラグインタイプは、ブレーカーの取外しや取付による増設が容易で、負荷変更に対応できる。エアコンや電磁調理器などを導入する場合、100Vのブレーカーを200Vに交換するといった工事が必要となるが、電圧の変更を伴うブレーカー交換工事もプラグインブレーカーであれば簡単に行える。
ホーム分電盤はコンパクト仕様が一般的で、高さ320mm程度、幅は40A・12回路程度の一般的サイズであれば450mm程度が基本サイズとなる。ブレーカーを多数取り付けたり、電力メーターを組み込んだりすれば、組み込んだ設備のボリュームに応じて幅が大きくなる。
奥行きは110~140mm程度であり、業務用の分電盤よりも薄く製作されているため、クローゼットに収容するのも容易である。
ホーム分電盤は、契約アンペアに応じてリミッターが設けられる。深夜電力など特殊な電気契約を結ぶ場合、通常の電気契約のほか、電気温水器など専用計量を求められる場合には、リミッターよりも上位の位置に電気温水器やエコキュート専用の遮断器を用意することも可能である。
時間帯別契約に対応した住宅用分電盤や、太陽光発電設備の系統を構築するなど、多様な契約体型に応じて分電盤を選定すると良い。過電圧保護機能を搭載した連系用ブレーカーを用意したもの、セキュリティ用1次側電源送りを用意したものなど、用途に応じた多数の住宅用分電盤が販売されている。
電力会社との契約により住宅用分電盤の内部に設けるリミッターは、アンペア数によってブレーカーのツマミの色が分けられており、契約アンペア毎に基本料金が設定されている。下記は令和6年時点、東京電力パワーグリッド「従量料金B」の料金単価である。
契約するアンペア数によって基本料金が違っており、大きな電流値で契約するほど基本料金が高く設定されている。それほど大きな同時利用がないのに、高い電流値で契約するのは基本料金がムダとなってしまう。同時利用する電気機器の電流値を計算し、無駄にならない設定値とするのが良い。
地震によって家電製品本体や接続されているケーブルやコードなどが破損すると、漏電や発熱が発生し感電や火災事故につながる。地震を要因とした電気火災は、家具や什器が地震の揺れによって大きく移動し、ブラグに差し込んだ状態のまま電線が切れたり、引っ張られて損傷するといった事故につながりやすい。
このような状態は火災につながるおそれが高く、その多くが「通電火災」と呼ばれる、停電が復旧した際に発生する火災が原因とされている。ここで、通電火災が発生する仕組みを説明する。
地震が発生する以前に使用していた照明器具やコンセントにつながる電気ヒーターやオーブン、テレビや冷蔵庫などは、地震発生直後の停電により電源供給が遮断される。しかし、これら電気機器のスイッチをオフにせず避難すると、電力会社からの送電再開により、これら電気機器に電気が供給されてしまう。
天井照明などはあまり問題にならないが、電気ヒーターなどコンセントに接続されている電気機器は火災の原因となりやすい。大きな地震では家具などが倒れたり、使っている電気ヒーターに毛布や衣類、棚から落ちたものが覆いかぶさってしまうことがあり、停電が解消して通電すると、これが原因で火災になってしまうおそれがある。電力会社からの通電が再開しても、電気機器に通電されないようブレーカーを遮断してしまうことが望ましい。
電気ヒーターには、転倒防止センサーが設けられており、ヒーターが傾いていたり倒れていたりすると、安全装置によって通電がオフとなる機構が組み込まれている。しかし、ヒーターが立ったままの状態で衣類が覆いかぶさっているような状況も考えられるので、転倒防止センサーがあれば安全であるとは言い切れない。
通電火災を防止するため、分電盤に「感震装置」を組み込むという安全対策がある。感震装置は、一定以上の揺れを検出した際にブレーカーを自動的に落とすというシステムで、震災後の電気的な安全対策として注目されている。
地震発生時にブレーカーを自動的に遮断すれば、電力会社からの電力が復旧しても、電気ヒーターなど危険な電気機器への通電を防止できる。
分電盤は建物用途や設置される電気機器の使い方に応じて選定方法する必要がある。電力量計の有無、制御装置、配線用遮断器と漏電遮断器の使い分けと保護協調、予備回路の数、盤の材質、鍵の種類、扉の有無など、考えるべき部分は多岐に渡る。
分電盤は、一次側幹線が接続される主幹ブレーカーが設けられ、二次側に複数の分岐ブレーカーが配置される。分岐遮断器の二次側にはリモコンリレーやマグネットスイッチが設けられ、タイマーやリモコンスイッチによって自動・遠隔制御を行うことも可能である。
主幹には、配線用遮断器や漏電遮断器が使用され、系統全体の過負荷保護や漏電保護を行う。分岐遮断器は、照明やコンセント、空調機など、電源を供給する負荷の種類・種別で区分する。
配線設計に際しては、用途に応じて分岐ブレーカーを設けて、電気事故発生時にできるだけ被害を最小限とすることが求められる。そのため、照明、コンセント、空調、換気など、負荷の種別ごとにブレーカーで分離した構成にすることが望ましい。照明とコンセントを同一回路とした場合、コンセントに接続した電気機器の過負荷で、照明まで一緒に停電してしまうことになる。
このように、負荷種別ごとに回路を分離し、できるだけ同一回路にしないことが原則である。ただし、EPSやPSといった狭い空間で、照明とコンセントが1つずつしかないといった場合でも確実に分離する、というのはコストと合理性に反することも考えられるので、同一回路とすることを検討しても良い。
分電盤に内蔵する配線用遮断器や漏電遮断器は、電気回路を開閉することによる衝撃や発熱により劣化を伴うため、開閉回数に制限がある。大きなフレームの遮断器ほど、大きな電流を遮断する機会が多くなり、耐えられる開閉回数が少なくなる傾向にある。無負荷状態の電路を開閉するよりも、負荷が流れた電路を開閉するほうが機器本体に負担を与えるため、同じブレーカーであっても設置する回路の場所によって劣化は大きく異る。
例えば、100AF以下の遮断器では、通電6,000回・無通電4,000回、計10,000回の開閉が、メーカーの性能として保証されている。しかし、引外し装置の作動(過負荷や短絡)の場合、1,000回の開閉で耐久回数を超過する。
テストボタンによる動作も同様であり、テストボタンは引外し装置を強制的に動作させているため、ブレーカーのツマミを手動で動作させるよりも過酷な環境となる。ブレーカーの開閉をテストボタンで代替し続けると、規定開閉回数よりも著しく少ない開閉で、ブレーカーの開閉上限回数に至ることになる。
漏電遮断器を主幹とする場合は、分岐遮断器と主幹の保護協調を確保しなければならない。分岐遮断器は一般的に30mA以上の漏電が発生すると、遮断動作が行われる。
分岐遮断器と主幹遮断器が同じく30mAに設定されていると、漏電した際に主幹と分岐遮断器が同時にトリップしてしまうので、広範囲停電となるおそれがある。広範囲停電を防ぐために、主幹遮断器の漏電電流設定を100mAや200mAに設定して、保護協調を確保することが望まれる。
分電盤の主幹は配線用遮断器(MCCB)にするのが原則である。主幹を漏電遮断器(ELCB)にすると、その回路の二次側で漏電事故が発生した際に主幹で落ちるおそれがあり、広範囲の停電を引き起こす。できる限り、分岐遮断器で漏電事故が遮断できるように計画する。
もし主幹を漏電遮断器とする必要がある場合は、分岐ブレーカーと同じタイミングで遮断されないように、感度変更可能型などにすることで保護協調を確保できるよう計画すべきである。
分電盤は、点検が難しい場所や、操作できない場所に接地することは禁止されている。遮断器や開閉器といった操作部分が容易に点検、操作できる場所で、かつ安定した場所に設けなければならない。配電盤や分電盤の専用スペースが確保されている部分を除き、戸棚の中などに接地することは禁止されている。そのため、クローゼットなどの内部に設ける場合は、分電盤の前面に物が置けないように、棚の性能を失わせた分電盤専用スペースが設けられることが多い。
住宅にあっては、緊急時に容易に立ち入ることが求められるため、トイレ内部に設けることはできない。浴室内など湿気が充満する場所、火気を使用する部分の上部など、分電盤に対して漏電や汚損のおそれがある部分も、設置場所としては避けるべきである。
分電盤は、設置できる場所に対する性能に屋内形と屋外形に分類される。屋内形は雨水に対する抵抗力がまったくなく、内部に水が侵入してしまう。耐候性を期待できないため、雨が当たる場所に設置できない。水に対して抵抗が必要な場合、防水機能を持つ屋外仕様の分電盤を選定しなければならない。分電盤の特殊仕様として、防滴、防塵、防食・耐塩害など、設置する場所に応じた対策品が生産されている。
分電盤の取付方法の分類として、小規模な分電盤では壁掛形、大規模分電盤では自立形がある。壁掛形の分電盤は、固定するために壁面強度が必要であり、重量に応じた壁補強が必要である。ALCなど、アンカー強度が期待できない建材の場合、ALC背面の鉄骨部材から支持を取ることや、ALCを大きな面積で挟み込むなど、特別な対応が必要である。
外箱の材質は、鋼板やステンレスの金属製、樹脂製のものがあり、設置する場所によって適合する材質の分電盤を選定しなければならない。
一般屋内では鋼板製が多く、焼付塗装とした分電盤が用いられる。屋外で使用することも可能であるが、耐候性の高い塗装を用いたり、溶融亜鉛めっきやステンレス製といった特殊な仕様とすることも考えられる。ステンレス製の盤は耐候性が高く、塩害地域でも支障なく設置できるが、鋼板製よりも高価である。溶融亜鉛めっきを施した鋼板は、ステンレスよりも比較的安価で高い耐候性があるので、多く用いられている。
キュービクルと同様に、分電盤も一般屋内・屋外・沿岸地域など、設置場所に応じた塗装仕様を設定しなければならない。沿岸部に通常仕様の分電盤を設置すると、数年を待たずに錆が発生し、期待される耐久年数を満足できなくなってしまう。通常屋内よりも劣悪な環境に分電盤を計画しなければならない場合、所定の膜厚以上の塗装厚を確保するなど、十分な耐候性をもった分電盤を選定すべきである。
分電盤の塗装色は2.5Y9/1(ベージュ)または5Y7/1(グレー)が標準で、これはキュービクルも同様である。盤本体への日射が反射することで眩しさを感じることがあるため、屋外盤は5Y7/1のグレー、屋内盤は2.5Y9/1など使い分けることが考えられる。
塗装は色だけでなく、ツヤも選定が可能である。屋外に設置する場合は全ツヤまたは半ツヤとし、雨により汚れが落ちやすい仕様を選定すると良い。ツヤなしの塗装は汚れが落ちにくいため、屋内盤に使用するのが良い。
単純に「屋外盤なので全ツヤとする」と考えてしまうと不具合が発生する。日射の強い場所に盤を設置した場合、全ツヤでは日光を強く反射してしまい、まぶしさを感じる場合がある。近隣に高層の建物や住宅があった場合、反射した光によるクレームの発生のおそれも考えられる。
屋外であっても、半ツヤや7分ツヤなどを選定することも考えられるので、色々な不具合シミュレーションを通して、ツヤの選定を行うようにすべきである。
分電盤の幹線やケーブル、内部導体には大きな電流が流れるため、導体の緩みなどで接続不良があると、過負荷時に異常発熱につながりやすい。異常発熱が継続すると発火・焼損の原因となり危険である。
分電盤の電線接続部や銅バー部分は充電部であり、触診による温度確認はできないので、接触による温度計測は不可能である。早期に異常発熱を検出するため、銅バーなど大きな電流を流す導体の接続部には、非可逆性のサーモラベルを貼付することで温度変化を記録するといった安全対策が図られている。
分電盤は、負荷の利用時間によって電流の流れ方が違うため、サーモラベルを異常温度の検出として利用する場合、サーモラベルの検出部を非可逆性にしないと、温度の変化によって異常状態が元通りになってしまい異常検出ができなくなってしまう。
一度でも温度異常が発生した時点でサーモラベルの色が変化し、もとに戻らないという仕組みで温度検出を図り、何が原因で異常温度となったかを調査する必要がある。
サーモラベルの変色原因として、過負荷による銅バーの過熱のほか、締付の緩みによる電気抵抗の増大で発生する異常加熱などが考えられる。精度の高い温度異常の検出のため、サーモラベルの温度設定は、70℃・80℃・90℃程度の3温度表示が良い。
防災設備に電源を供給するための盤は、建築基準法では「予備電源」、消防法では「非常電源」と称され、規制されている。建築基準法と消防法で、若干の基準の相違があるが、技術面や機能面ではほぼ同等な基準となっている。
お互いの法規で規制される電源はそれぞれ違う名称であるものの、「排煙設備」は建築基準法上の排煙設備と、消防法による排煙設備の二種類が存在することになる。盤の仕様条件、設置場所の条件などが複数ある場合、条件の悪い側(性能の高い側)を選定し、どちらの基準であっても満足しなければならない。
耐熱盤の選定を行う場合、建築基準法上、火気使用のない耐火区画室では一般形分電盤で良いこととされている。消防法では電気室に限定した不燃区画のみ、一般形で良いとされている。
耐火区画室として構成された「機械室」に排煙設備の電源を設置する場合を例にすると、建築基準法上は一般形の盤で良いが、消防法の規定においては「電気室」でなければNGとされるため、防災電源盤は二種耐熱盤を選定する必要がある。
このように、複数の法的規制が存在する場合はどちらの基準も満足する仕様としなければならず、解釈に注意を要する。
二種耐熱形は、最高温度280℃で30分過熱した際に、問題なく電源供給できる性能を持っている。内部機器は120℃まで耐えるような部材で構成されており、火災時であっても一定時間は安全かつ確実に電源供給が継続される。
建築基準法上は、耐火区画室以外の室内、延焼のおそれのない屋外・屋上、開放廊下、不燃区画された廊下、不燃区画された一般階段(避難用ではない階段)に予備電源盤を設ける場合、二種耐熱盤とすることが求められている。
消防法では、不燃区画の機械室、シャフト内、屋外・屋上、開放廊下、避難階段に非常電源を設ける場合、二種耐熱形とする必要がある。
一種耐熱形は、最高温度840℃で30分過熱した際に、問題なく電源供給できる性能を持っている。内部機器は280℃まで耐えるような部材で構成されている。
建築基準法上は、居室内、延焼のおそれのある屋外・屋上、一般廊下、一般階段(避難用ではない階段)に予備電源盤を設ける場合、一種耐熱盤とする。
消防法では、居室内、一般廊下、一般階段に非常電源を設ける場合、一種耐熱形とする必要がある。
規制される法令によって盤の耐熱仕様が違っているため、どちらの基準も満足するように設計しなければならない。電源の必要な電気機器が「建築基準法」に規制されるのか、「消防法」に規制されるのかを確認し、どちらの法令であっても準拠するように計画を行うのが重要なポイントである。
分電盤は、床面積500㎡~800㎡に1箇所程度設置し、末端負荷までの距離を50m以下とし、かつ電圧降下2%程度として計画すると、経済的かつ合理的な設計となる。
分電盤はできる限り負荷の中心部に設置するように計画し、二次側配線が遠くならないように考慮することが望ましい。扉を90°開放できることや、保守点検が容易な場所に設置することで、メンテナンス効率が良くなり、安全性や利便性が向上する。
倉庫や事務室に分電盤を設置した場合、棚や荷物の置場が制限されるため、ものを詰め込んだり、机や棚が配置されてしまうことで分電盤が開けられない状態にならないよう注意しなければならない。分電盤が適切に点検できるように維持することが重要である。
ひとつの分電盤から供給する面積が広すぎると、分電盤から負荷までの距離が長くなるため大きな電圧降下が発生し、二次側配線のサイズアップが必要となることがある。分岐回路数が多くなるため分電盤が大型になり、維持管理の上からも望ましくない。
分電盤は各階1面以上を原則とし、1階にある分電盤で2階の負荷に電源供給するような計画は避けるべきである。ただし、小さな屋上やペントハウスなど、最上階から供給することが合理的である場合は、下階の分電盤から供給することが望ましい場合もある。
分電盤はEPSなど専用室に設置することが原則であるが、場合によって事務室や通路、倉庫などに設置することも考えられる。どの場合であっても適切なメンテナンスが可能な配置な場所とすることが望ましい。エントランスホールなど、部外者が来訪するような場所に設置することは避けるべきである。
防災設備への電源供給を行っている場合、EPSの専用室以外に設置すると耐熱盤・耐火盤の規制が厳しくなるため、思いがけないコストアップとなる場合がある。
分電盤を壁面埋め込みで計画することも多いが、その壁面が構造上重要な耐震壁であるなど、埋め込みができない場所であったということも考えられる事象である。断面欠損による構造上の弱点となる場合、適切な補強が必要となるので構造設計者との綿密な打ち合わせが欠かせない。
また、盤改造やメーター更新、メーター読みなど、維持管理を考慮した場所に設置することも、計画上重要なポイントである。分電盤の大きさにあったメンテナンススペースの確保はもちろん、扉の開閉、増設の改修工事の容易さなども考慮するべきである。
分電盤を設置する場所に応じた、盤本体の仕様選定にも注意が必要である。屋内に設置する分電盤は通常、特殊な耐候性を必要としないが、外気取入れを行う空調チャンバーとなっている機械室では、湿気や塩分を含んだ室内環境となるおそれがある。このような環境では屋内であっても、盤の塗装を耐塩仕様としたり、屋外形として耐候性を高めるなど、一般的な屋内形の分電盤以上の性能で設計すると良い。
次のような場所は、分電盤の設置に適していないため、防水仕様や耐熱仕様としても、できる限り設置しないよう計画すると良い。
分電盤は、盤の上端が2.0mを超えない位置に設置すると、人が無理なく目視確認できる。あまり高い位置に取り付けると、盤を開けるために脚立などが必要になり、メンテナンスが困難となってしまう。
電力量計を内蔵した分電盤の場合、検針のたびに盤の扉を開けなくても済むように検針窓を設置することが望まれるが、高い場所にあるとメーター読みが難しくなってしまう。検針窓は高さ1.5m程度とし、目の高さに合わせると良い。
壁掛分電盤を軽量下地に支持する場合、盤の重量を支えられる強度のある下地に取付しないと、盤の自重によって壁面が損傷することになる。大型の盤になる場合は、自立型にすることを考慮すべきである。コンクリート壁を取付面に選定する場合、アンカーボルトやドリルアンカーなどを利用して、強固に取付を行う。コンクリートは強度が高いので、壁面側に特別な補強を行わずに設置できる。
ブロック壁に分電盤を取付たい場合は、壁面に十分な強度を得られない場合があるので、ブロック内部の鉄筋にアンカー溶接するか、ブロックを貫通させ、平鉄やダクターチャンネルを挟み込み、締め付けることで強固に固定できる。さらに、耐震補強として振れ止めの確保などを行えば、地震時にも安心して電力供給できる。
埋め込み盤にする場合、前述のように耐震壁となっていないか、防火区画を構成する壁になっていないかといった条件を確認する必要がある。防火壁を埋込盤で貫通した場合、盤の裏面に防火壁を構成するための追加壁面が必要になり、納まりが複雑になるため注意を要する。
空気中には一定量の水蒸気が含まれており、温度に偏りがなければ空気中に含まれたままであり、水分として現れる事はない。しかし、温度が低下することで飽和水蒸気量の上限値が下がり、空気中に水蒸気として含むことができない状態になると、水分が目に見える形として現れる。
夏の暑い環境においてコップに冷えた水を入れると、表面に水滴が発生する。コップ表面で空気が冷やされ、飽和水蒸気量の上限が低くなり、空気中に含まれている水蒸気が水滴に変化し、コップ表面に現れるというのが結露発生の仕組みである。
この結露現象は、分電盤や配電盤といった盤類の表面でも発生するおそれがある。電気設備に結露が生じると、電気機器の絶縁低下を引き起こし、絶縁不良による地絡の事故につながる。
外気が急激に低下すると、配電盤本体が冷やされるため、飽和水蒸気量が変動し、空気中の水分が水滴となって盤に付着する。盤の換気口から高湿度の空気が流入するなど、盤の内部で結露が発生する可能性は多々ある。
分電盤の結露には、冬型結露と夏型結露に分類される。冬型結露は、外気温の急激な低下により、盤内壁面に水滴が付着する結露である。夏型結露は、高湿度で暖かい外気が盤内に流入したとき、内部機器や盤壁面に水滴が付着する結露である。どちらも、水滴による金属部の腐食促進や、ほこりや汚れがトラッキング現象を発生させるおそれがあるので、結露防止を行うのが重要である。
冬型結露を防止するには、盤内の急激な温度変化を避け、換気口を設けて温度を一定にすることや、スペースヒーターによって露点温度を上昇させるといった対策が考えられる。夏型結露に対しては、分電盤を密閉して高温多湿の外気を流入させない方法や、除湿装置を内蔵するという方法がある。
措置を講じた場合でも、内部結露が発生するおそれがある。盤内に溜まった水分を外に出すため、盤下部に水抜き穴を設けることも考慮すべきである。
盤内に発熱機器がある場合、盤内温度が上昇していれば、結露の発生は比較的少なく安全である。配電盤の場合は盤内部には変圧器など、熱源となる設備が収容されており、運転状況にもよるが変圧器表面温度は40℃~70℃程度まで上昇するため、結露に対しては安全である。
盤内の温度を確保できない場合、盤の下部にスペースヒーターを設け、飽和水蒸気量が低下しないように管理を行う。スペースヒーターの容量は、盤の容積1m3毎に20W~40W程度とすれば、結露を効果的に予防できる。
外気湿度100%の環境で、盤内結露を防止するには、湿度を85%まで低下させなければならない。盤内温度を外気より5℃以上高くすることで、有効な結露防止となる。換気口を設けて空気を流通させて結露を防止する方法や、盤表面に断熱材を敷き込んで温度差を緩和する方法なども考えられる。
分電盤を繊維工場や食品工場に設置する場合、盤の設置場所に粉塵が内部に侵入するおそれがある。粉塵がたとえ非導電性物質であっても、水分を含むことで導電性を持つことがあり、トラッキング現象による機器の破損が考えられる。分電盤は防塵形を採用し、入・出線部を密閉し、粉塵が侵入しない構造にする。
自立形の分電盤では、キャビネット下部のチャンネルベースの隙間から異物が侵入するので、完全密閉コーキングを行う方法がある。しかしチャンネルベースの四周を完全に密閉すると溜まった水が抜けず、長期間水と接触した金属部は腐食・絶縁不良が発生しやすくなる。
水が抜けるように水抜き孔を設けるか、チャンネルベースと基礎の隙間をコーキングしないという判断も有り得る。基礎を傾け、水が溜まらないように配慮することも重要である。
分電盤を軽量下地の壁面に埋め込む場合、キャビネットの開口部に壁内の粉塵・虫などが盤内に侵入する。侵入を防止するためには、仕切り板やパテ、コーキングにより、開口部を全て閉塞するのが効果的である。
開口部まわりは、開口孔明け作業による切粉が付着していることがあり、主幹や分岐のバーに接触すると、短絡事故につながるおそれがある。通電する前に十分清掃を行ない、切粉や電線くずを除去すると良い。
分電盤は、内蔵している設備毎に寿命が設定されている。電磁開閉器やコンデンサは約10年、配線用遮断器やスイッチ、継電器類は約15年が耐用年数といわれる。箱体は設置場所によって違うが、EPSの屋内設置であれば、40年から60年は使用できる。これは錆や傷が発生した場合、補修するなどして維持管理・保全を十分に行った場合の年数である。
耐用年数の考え方には、物理的劣化だけではなく、性能の陳腐化による社会的劣化も考える必要がある。従来の機器に比べ、著しく機能が上昇する製品が販売されたり、安全性が飛躍的に高まる製品が販売され、既存設備の陳腐化が著しくなった場合でも、機器交換を行うことが望まれる。
耐用年数に到達していなくても、遮断器やコンデンサの温度異常、異常膨らみ、異音・振動、発熱などが発生していれば、交換することを推奨する。遮断器のスイッチが入りにくかったり、途中で止まってしまうなど、動作に支障がある製品も交換するべきである。
分電盤の箱は長寿命であるが、ハンドルや箱に錆が発生しているもの、腐食等によって固着しているものについては、無理な開閉をすると箱本体が致命的な損傷を起こすので、開閉時には注意が必要である。
配線用遮断器も、絶縁抵抗測定によって劣化診断できる。500V絶縁抵抗計に対地間の絶縁抵抗を測定したとき、5メグオーム以下となっていれば交換するべきである。
配線用遮断器の二次側に設置されている電気機器に、電圧印加による損傷を与えるおそれがある場合は、125Vレンジを使用するなど配慮する。電子機器に絶縁抵抗試験をすると、高電圧によって機器を破損させてしまうため、十分な注意が必要である。
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