水銀灯・バラストレス水銀灯 | 安定器寿命と耐用年数・発光原理

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水銀灯の概要

水銀灯は、HID照明としてもっとも普及している放電ランプであり、極めて古い歴史のある電球のひとつである。水銀とアルゴンを発光管内に封入し、高い水銀蒸気圧で放電するよう設計されたHIDランプで、安価で寿命が長く大光束を得られるため、一般照明用、投光照明用として広く使用されていた。2021年以降、一般照明用の高圧水銀灯の製造や輸出、輸入が禁止されたこともあり、照明器具としての利用は実質的に終了となっている。

白熱電球よりも高効率かつ長寿命であり、白熱電球の5~6倍以上となる「約12,000時間」の期待寿命を持つため、街路灯・工場など大空間、スタジアムなど、大きな空間に対して高い光束を必要とする空間に広く用いられていた。

HID照明には水銀灯のほか、マルチハロゲンランプやメタルハライドランプがある。水銀灯とメタルハライドランプを比較した場合、光束は小さいが保守率が高いため、長期に渡って安定した照度確保が可能である。

水銀灯は、8,000時間点灯後の光束維持率が80%を超えるという高い保守率が特長であり、高天井の工場のベース照明など、ランプ交換が難しい場所に適しているとされていたが、現在は水銀条例の規制や、LED光源の高性能化が進み、新規に水銀灯を設置することはなくなっている。

電柱頂部に設けられたHID投光器の写真

水銀灯の選定方法と採用事例

水銀灯は、工場や駐車場など、機能的な大光束を得ることを目的とする空間で広く利用され、数十メートルという高天井や外壁などの投光照明として活用されていた。高い輝度で、高所から空間全体を照らす用途に適しているが、CDMランプやセラミックメタルハライドなどの高輝度が得られるランプと比較して演色評価数が低く、照射対象の色を正確に表現できないという欠点がある。

道路や公園、広場など、演色性よりも機能性を重視し、所定の明るさを省エネルギーで得ることを優先する空間では、水銀灯を代表とするHID照明が活用された。

投光照明としてHIDランプを利用しなければならない空間で、照射対象の色を的確に表現する必要がある場合、水銀灯ではなくセラミックメタルハライドやCDM-Tランプなど、特に演色性の良いランプが選定された。

水銀灯は、リフレクタ付きランプや調光ランプなど、用途に応じて多くの種類がある。特殊機能を有するランプであっても、一般的な水銀灯と類似した簡素なホルダに接続できるが、安定器はランプ専用品も数多く、同じ安定器を使用するのであれば適合性判定が重要となる。

一般的に、高圧ナトリウムランプや、ハイカライトといった水銀灯に類似したランプであれば水銀灯と同じ安定器を使用できる可能性が高いが、メーカーへの確認は必須である。

近年はLED光源の性能向上により、水銀灯などのHID光源から、LEDへの置き換えが進んでいる。瞬時再点灯が可能、寿命が40,000~60,000時間と極めて長い、演色評価数が高い、消費電力が小さいなど多くの利点があり、安定器とランプを交換すれば既存の灯具やポールがそのまま活用できるため、LED更新の実例も非常に多い。

新築の建築物では、新たに水銀灯を設置する事例はほとんどなく、LED光源の照明器具が採用されるようになっている。製造や輸入ができない以上、一般照明用の高圧水銀灯の利用は今後不可能となるが、メタルハライドランプや高圧ナトリウムランプの利用は可能とされているため、既存照明の利用は当面問題ないとされている。

水銀灯の種類

水銀灯のガラスグローブには「透明形」と「蛍光形」の二種類がある。ガラス面の加工方式によって分類されている。白熱電球のクリア電球とシリカ電球のように表面処理の違いで光り方が大きく異なり、演色評価数や色温度・輝度などに大きな差があるため、設計者は環境に適合したランプの選定が求められる。

透明形水銀灯の特徴

透明形水銀灯はランプ表面が透明になっており、緑がかった青白色の光を放つ水銀灯のひとつである。色温度は5,700Kと、蛍光灯よりも青みの強い光を放出する。演色評価数はRa14であり、照射対象の色の判別はほぼ不可能で、全て青白く表現されるため、ライトアップ用照明としては適していない。演色評価数は低いが、高い輝度と照明効率を持つ大光束ランプのため、照度の確保を最優先する場合に適している。

蛍光形水銀灯

蛍光形水銀灯は、ガラスの内面に蛍光体を塗布したランプである。色温度は4,100Kと、温白~昼白色に近い光を放出する。演色評価数はRa40まで改善されており、透明形よりは色の表現が可能となっている。CDMランプなどRa80を超えるような高性能なランプとは比較できないが、外壁のライトアップにも使用できる。

水銀灯の構造と点灯原理

水銀灯は、発光管を外管に収容した二重構造となっており、これはメタルハライドランプやマルチハロゲンランプも同様の構造である。発光管内部には水銀とアルゴンが封入されており、高い水銀蒸気圧が保たれている。

発光管の両端には、タングステン製の主電極と補助電極が設けられ、電圧を印加すると補助電極と主電極の間に放電が発生する。補助電極は主電極の加熱・保温に用いられ、通電により電極が温められると電子の放出が促進される。

主電極間で放電が安定すると、補助電極と主電極の放電は停止し、主電極間の放電側が継続する。放電によって発生した電子は水銀に接触し、紫外線を多量に放出する。蛍光塗料が塗布された外管内面に紫外線が衝突すると、強く発光する。

水銀灯安定器の原理

水銀灯を発光させるためには、蛍光灯と同様に安定器を必要とする。安定器によって放電が安定して継続し、ランプの点灯が継続される。

水銀灯安定器は、チョークコイルや磁気漏れ変圧器を用いた「低力率形安定器」と、コンデンサによる力率改善が施された「高力率形安定器」に分類されている。電気回路への負担を抑えるため、電流を抑制した高力率形安定器の選定が一般的である。

高力率形であっても、水銀灯の点灯時は大きな始動電流が流れて回路に負担を与えるため、より始動電流を低減した「低始動電流安定器」も存在する。水銀灯の安定器はメタルハライドランプや高圧ナトリウムランプと共用されている製品が多いため、水銀条例により水銀灯の精算が終了となっても、安定器は2021年以降も製造継続されている。

始動時間と再点灯

水銀灯を点灯させるには、電圧を印加し電極が保温され、水銀蒸気圧が十分に高くなるまで約5分の時間を要する。ランプ点灯時は主電極と補助電極のグロー放電が発生し、アーク放電に移行し水銀蒸気圧が高くなるまでの間、輝度の低いぼんやりとした光だけが放出される。

一定時間経過し、水銀蒸気圧の上昇に伴って輝度が急激に高くなる。一度点灯状態となれば、電圧が変動しない限り高い輝度を維持し発光する。

水銀灯は、再始動する場合にも長い時間を必要とする。消灯や瞬時電圧低下による立ち消えが起きると、再点灯させるためには再度5分程度の時間を要する。これはHID照明全般における特徴であり、点灯していた水銀灯はガラス管内の水銀蒸気圧が高く、かつ温度が上昇している状態となっているため、消灯状態から電圧を印加しても、再点灯するための放電が発生しないことが原因である。

点灯していた水銀灯を再点灯させるためには、時間を掛けて発光管の温度を下げ、水銀蒸気圧が低くなるのを待たなければならない。

セラミックメタルハライドランプや、エコセラといった高効率HID照明では、再始動時間が水銀灯よりも長い。より高い温度で発光させていることや、効率と安全性を高めるため「三重管方式」となっているような特殊ランプでは、一般的な水銀灯と比べて放熱性能が悪く、再始動時間には25分もの時間を要する。

周囲に放熱を阻害するようなカバーの取り付けられた製品もランプ温度が低下しにくく、再点灯までに時間を要する。

バラストレス水銀灯

バラストレス水銀灯は、水銀灯を点灯させるために用いる安定器をランプに内蔵することで、別置きの安定器を省略した水銀灯のひとつである。演色評価数はRa49程度であり、水銀灯とほぼ同一の特性を示す。水銀灯特有の青みの強い光と、電球のような赤い光を混合した、混光(カクテル光)を放出する。

バラストレス水銀灯に電圧を印加した瞬間、内蔵されたバラストフィラメントが点灯するため、水銀灯の発光前であっても一定の明るさを確保できる。水銀灯側の発光管は約3分で安定するため、一般的な水銀灯よりも速く明るさを確保できる。再点灯時間は水銀灯と同様、5分程度でありHID照明の中では高速である。

バラストレス水銀灯の寿命は、一般水銀灯よりも若干短く、6,000~9,000時間とされている。

バラストレス水銀灯は、発光管とフィラメントが二重点灯するので、口金に近い側と、電球先端の発光が違って見える。照射対象を均一に光らせることが難しく使用場所は限られる。仮設照明など一時的に用いることが多い。

水銀灯の寿命と耐用年数

水銀灯のランプは、6,000~12,000時間が期待寿命として設定されており、年間3,000時間の点灯であれば、約2~4年という長い交換周期で保守計画を立てられる。

水銀灯の安定器は、JISに定められた標準条件で安定器を使用した場合、平均寿命40,000時間とされている。照明器具のメーカーは、交換推奨時期を10年程度としているが、これは年間あたり4,000時間点灯させる環境を平均として想定し、約10年間で交換をするのが安全として定めている。

ランプ交換の予算が得られない等の理由により、切れてしまったランプのみを交換するという運用を続け、安定器は20年以上に渡って使用しているといった特殊な事例もある。表面に視認できるほどの劣化がなくても、安定器内部で劣化が進行していることが多く、異音や振動が発生しているようであればすぐに交換すべきである。安定器の劣化による振動騒音だけでなく、発煙や出火による火災につながるおそれがあり、大変危険である。

安定器の寿命と温度管理

安定器の寿命は、安定器を構成する巻線、コンデンサ、絶縁物など各種部品の耐用年数によって決まる。絶縁物は温度が高くなるほど劣化が進行する特性を持っており、高温多湿の場所に安定器を設置したり、異常電圧による発熱や衝撃を経験した電気機器は、寿命を大きく損なっている。

巻線の温度を80℃以下に維持できれば、安定器を30~40年使用することも可能とされるが、常に低温状態を維持するのは難しく、電気事故や落雷など非常に大きな電流や電圧によるショックを受けることも考えられる。

安定器は天井裏など環境の悪い場所に設置されることが多く、ほこりや粉塵による汚れが安定器表面に堆積することで放熱性能が劣化し、発熱につながる可能性も高い。照明メーカーが標準設定している安定器寿命8~10年を基本として、更新を行うのが望ましい。

安定器だけでなく、寿命に近いランプを使用することでも異常発熱のおそれがある。点灯と不点灯を繰り返すような状態が続くと、始動時のパルス電流が長時間に渡って流れるなど、安定器や内部配線へ負担を与える。

電圧による水銀灯ランプの寿命変動

水銀灯は、定格電圧での点灯を前提に設計されており、供給電圧が高くても低くても寿命が短くなる。メーカーによって若干の違いがあるが、電圧を5%変化させ点灯すると、寿命は3~5%低下する。定格電圧から10%変化させ点灯すると、15~20%もの寿命低下を引き起こす。

供給する電圧が高すぎると、電極や発光管が著しく消耗する「過負荷点灯状態」となる。電圧が低すぎる場合は、始動性能が悪くなるため「始動電圧異常」となり、同様に寿命の低下につながる。

水銀灯と安定器のコスト

近年は水銀灯のLED代替が進んでいるが、現在でも数多くのユーザーが水銀灯を利用しているため、ランプや安定器の供給は続けられている。LEDはイニシャルコストが高いため、新設照明に水銀灯を選択するユーザーも未だ存在する。

下記は、カタログ定価ベースにおける水銀灯と安定器の価格帯である。購入個数のまとまりによって価格は変動するが、希望小売価格として一般的に設定されている数値を紹介する。

水銀灯の消費電力と電気代の試算

水銀灯は蛍光灯と同様、ランプのワット数に安定器損失を加えた電力を必要とする。小型の水銀灯では40W程度であるが、スタジアムやゴルフ場で使用する大型投光器用の水銀灯は1000W以上にもなる。選定したランプの定格電力に、接続する安定器の損失分を加算して消費電力を算出する。

水銀灯への入力電力は、ランプ定格電力の20%が一般的である。定格電力80Wの水銀灯であれば、入力として必要な電力は96W程度となる。水銀灯は始動時に大きな電流が流れる特性があり、電圧印加からランプ点灯までの時間は消費電力も大きくなるが、この数値は正確に計算できない。

LEDへの置き換えによる省エネルギー効果

水銀灯は「白熱電球より省エネルギー」「蛍光灯より大光束を得られる」という大きなメリットがあったが、現在ではLED光源が広く普及しており、新たに水銀灯を選定する機会はほとんどない。

水銀灯相当で40~2,000Wクラスまで、LED光源での置き換えが可能となっており、ゴルフ場やスタジアムの照明器具の多くがLEDに置き換えられている。

水銀灯が設置してある建築物に対し、全てをLED照明に交換すると消費電力は1/4程度まで低減される。かつ、水銀灯の欠点である点灯時間の長さ、演色性の悪さなどが改善され、「即時点灯」「立ち消え防止」「発熱量低減」「電気回路への負担減」など、LEDに交換することで数多くのメリットが生まれる。放出する紫外線量が少ないため、害虫を寄せにくいという副次的な効果もある。

水銀灯の寿命は12,000hであるが、LED照明は40,000~60,000時間と極めて長寿命であり、8~10年はランプ交換が不要である。大出力の水銀灯ランプは高所など交換が難しい場所に設置されることが多いので、ランプ交換のメンテナンス労務の削減というメリットも期待できる。

100Wの水銀灯を10時間点灯させた場合、電気代を27円/kWhとして計算すると、100W / 1000 × 27円/kWh × 10時間 = 27円の電気代が掛かる。1時間あたりに換算すると2.7円程度であるが、LEDに交換すれば0.7円程度まで低減できる。

LED交換時の注意点

水銀灯をLEDに置き換える場合、本体の重量が非常に大きくなる点には注意が必要である。LED照明は高温に弱いため、放熱機構が照明器具の大部分を占める。400W級の水銀灯であれば、その重さは3~4倍である。天井材や支持材に大きな負担を与える事が考えられるため、落下防止にも配慮が必要である。

LED照明は高温に弱く、一般のLED器具は35℃以上の周囲温度空間に設置すると、寿命が著しく短くなる。本来40,000~60,000時間の長寿命を持つLED照明は、周囲温度が上昇することにより、期待寿命を大きく下回ってしまう。

水銀灯は周囲温度が40~60℃といった環境であっても期待寿命を維持できるが、LED照明では多くの器具で35℃以下での運用を求められ、高天井器具専用の器具であっても、周囲温度50~60℃以下となるよう求められる。

体育館や天井の高い工場など、高所では40~60℃の高温になるおそれがある。換気ファンによる熱抜きを行うなど、熱に対する対策が不可欠である。

水銀汚染防止法と製造禁止

水銀に関する水俣条約の策定に伴い、一定量の水銀を用いた水銀灯の製造、輸出、輸入が2021年より制限される。水銀灯はランプ内に含まれている水銀蒸気からの放射で発光するため、多くの水銀が含有されており環境負荷が大きい。

微量の水銀しか用いていない蛍光灯やセラミックメタルハライドランプなどは対象外であるが、一般用の水銀ランプ、バラストレス水銀灯は対象となっているため、照明器具の交換が必須となっている。高圧ナトリウムランプやメタルハライドランプなど、水銀使用量が少ないランプは規制対象外であるが、省エネルギーの観点から、交換が推奨されている。

新規製造や輸入が制限されているものの、現在設置されているランプを水銀灯に交換してはならないという意味ではないので、在庫が保持されている間は水銀ランプを使い続けることも可能だが、メーカーが新規に水銀ランプを流通させない以上、LEDなどへの置き換えは時間の問題である。

 
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