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電気設備の知識と技術 > 照明設計・電球の知識 > 電撃殺虫器・捕虫器の仕組み

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電撃殺虫器とは

電撃殺虫器は、接触した虫類に電気ショックを与えて捕虫する、殺虫用の電気設備である。単相100V・200Vの低圧回路を変圧し、2,000~7,000Vの高圧を発生させることで、接触した害虫にショックを与えて捕虫する。薬剤などを使用しないため、空気をクリーンに保ったまま殺虫できるという利点がある。

殺虫器は殺虫灯とも呼ばれているが、構造や用途は同一である。紫外線を多く含む光で害虫を引き寄せて、電圧によりショックを与えて害虫を駆除する。

電撃殺虫器は、電圧を印加したグリッド状の格子に、虫が接触することで捕虫する単純な仕組みである。電圧を印加したグリッドは「電撃格子」とも呼ばれる。青い光を放つことで殺虫器に誘虫し、電撃を発生させる格子(グリッド)に接触した瞬間に衝撃を与えて捕虫する。

食品業界や外食業界では、虫一匹の混入でも大きなクレームにつながり、これら害虫が感染症を伝染させるおそれも考えられ、虫対策のための電気設備の設計も重要となっている。

天井吊りで設置されている電撃殺虫器の写真

高電圧による捕虫の仕組みと安全対策

高電圧が印加されたグリッドを害虫が通過する瞬間、グリッドの絶縁が破壊されて放電を起こし、電撃音と共に害虫を感電死させる。高電圧を発生させる業務用の製品では、バチバチという音響と放電の光を発生させ、多数の害虫を駆除できる。

虫が接触する部分の電圧は著しく高いが、二次短絡電流は20mA以下となっており、人体が接触しても致命的な損傷を受けないよう、安全措置が施されている。高電圧部分に接触すると痛みを伴うショックを受けるため、ガードが取り外された状態で運用するのは危険である。

ガードを取り外し、捕虫部分を露出したままでの運用をしてはならない。通常、ガードが取り外された場合に通電を遮断するよう、インターロックが施されている。

光による虫の制御

建築物に対し、害虫による衛生面の問題を解決するには、「虫を建物に近寄らせない」という方法がまず考えられる。虫を近づけない方策として、建物よりも遠い場所に虫を誘い込むのが有効であり、これは照明計画で一般的に行われている。

建物から離れた場所に虫を寄せるために、虫を誘いやすい高出力水銀灯などを設け、建物付近の照明器具は嫌虫ランプや低誘虫ランプを使用すれば、虫の接近を予防できる。これら措置を講じても全ての害虫に対して防虫できるわけではなく、建物内に侵入した虫は、電撃殺虫器や捕虫器で確保すると良い。

住宅の出入口や庭、レストランの飲食店、公園、スーパーやコンビニなど、虫の侵入を特に阻止したい場所には、電撃殺虫器や捕虫器を設けることが多い。電撃殺虫器は薬剤を使用していないため、設置しても空気が汚れる心配がなく広く用いられるが、機器の内部に虫の死骸が溜まるので、定期的に内部を清掃しなければならず、運用面の負担は大きい。

虫のすう光性を利用した仕組み

電撃殺虫器や捕虫器は、夜行性の虫が青い光に誘われるという「すう光性」を利用しており、虫が敏感に光を感じる365nm(青色)付近の光を放出して、高い誘引効果を発揮する。

多くの昆虫類は、人間が感じられない350~400nmの光を敏感に感じ取り、誘引される性質がある。紫外線を放出するランプは非常に誘虫性が高く、一般の白熱電球の誘虫性を100とすると、捕虫器専用の蛍光灯は10,000を超える誘虫能力がある。この誘虫能力によって害虫を引き寄せて、電撃殺虫器や捕虫器で捕獲する。

照明メーカーでは、光源別に誘虫性能を算出して公開している。代表的な照明器具の指数は、パナソニックが公開している下記の数値の通りである。メーカーが独自に調査して数値を定めているが、発光原理が同じであれば、どのメーカーであっても概ね同様の数値を示す。

近年普及が進んでいるLED照明は、蛍光灯よりも紫外線放出量が少ない。一般的に、蛍光灯の50~60%の放出量とされており、蛍光灯をLEDに交換するだけでも、低誘虫効果が得られる。

捕虫器とは

捕虫器は、電撃殺虫器と同様に、虫が敏感に感じ取る波長の光を利用して虫を誘引し、粘着テープのカートリッジに虫を付着させる装置である。誘虫ランプを用いるだけでなく、害虫を引き寄せるフェロモンを塗布した粘着材料を利用するなど、誘虫のための仕組みが数多く取り入れられている。

電撃によるショックを原理としておらず、粘着式のテープを用いた捕虫器が広く採用されている。

捕虫器は電撃殺虫器と違い、虫を駆除する際に音や光を放たないため、食品工場やレストランにおいて、捕虫時に虫を飛散させたり、カートリッジ交換に伴う作業者の不快感を大きく軽減できる利点がある。

粘着テープは多数の虫を捕まえると効果を失うため、定期的に交換する必要がある。虫の量が多ければ交換頻度も高くなる。

交換に際して、捕まった虫が直接見えないよう視線を遮る配慮を施した製品もあり、交換時の不快感を軽減させる配慮もなされている。

電撃殺虫器のような高電圧の発生がないため安全性が高く、ランプ交換や粘着シートの交換時も容易である。電圧を変換する変圧器もなく、誘虫ランプのみの構成であるから消費電力は小さい。

飲食店等で使用することを前提に、各種メーカーがデザイン性を向上した製品を展開している。間接照明やブラケット照明のような外観の製品もあるが、放つ光色は青であり、設置場所にはデザイン的配慮が必要である。

紫外線ランプの寿命と交換周期

紫外線ランプは、照度を確保するためのランプではなく、紫外線を放出させることを主目的としたランプである。虫は紫外線に強く誘われる性質があるため、紫外線をカットすれば虫が寄りにくくなる。人間は紫外線を可視光としていないので、紫外線をカットしても明るさ感に変化はない。

紫外線は、長時間人体に照射すると悪影響を及ぼすとして知られている。253.7nmの波長は「殺菌ランプ」の放出する波長として、厨房や水槽などの殺菌に用いられている。誘虫ランプとして用いる照明は、350nm程度の近紫外線であり、長時間近接照射すると日焼けを起こす程度の紫外線を放出するランプが使われている。

紫外線の放出量低下に注意を要する

紫外線を積極的に放出する専用のランプは、点灯時間が経過するごとに放出性能が低下する。光束と共に紫外線量も低下するが、光束と紫外線量の低下速度は同一でなく、紫外線量の低下が早いため、光束が失われる「ランプ切れ」の前に、紫外線切れを起こすことになる。

人が可視光として認識できる青い光がランプから放出されていても、虫が誘引される不可視光である紫外線量が低下していれば、誘虫効果も低下することになる。長時間利用しているランプは特に顕著であり、光が出ているのに虫があまり寄らないという問題につながる。

捕虫器や電撃殺虫器に使用する紫外線ランプの寿命は、一般的に6ヶ月程度とされている。人が点灯したランプを見ると、青い光を放っているため、まだ誘虫効果があると勘違いをする可能性がある。可視光線が放たれていても、紫外線量のほとんどが失われた状態では、誘虫効果があまり期待できない。

ランプが切れていないためといって、6ヶ月を超えて紫外線ランプを点灯させても、捕虫性能が著しく低下しているため効果が薄く、電気代の無駄となることも考えられる。ランプの取付けた日を記録し、点灯時間を管理することで適切な誘虫効果を維持できる。

電撃殺虫器の消費電力・電気代

電撃殺虫器の消費電力は、高電圧を発生させるための変圧器と、内蔵している誘虫用の蛍光灯によって発生する。殺虫装置は安全性に配慮されているため、電圧は高くても電流が小さく、消費電力も非常に小さい特徴がある。50~60W程度が一般的である。

電撃殺虫器1台の消費電力を50W(0.05kW)、1kWhあたりの電気料金を32円として電気代を計算すると、1時間あたりの電気料金は 0.05kW × 1h × 32円/kWh = 1.6円 である。1日に24時間運転した場合でも、電気代は33.6円程度で、それほど大きな数字ではない。

家庭用電撃殺虫器の消費電力・電気代

業務用の電撃殺虫器は、二次電圧7,000Vの高電圧で殺虫を行うが、家庭用の電撃殺虫器は捕虫する虫の量が業務用ほど多くなく、かつ安全性を優先した仕様となっており、小さな製品が基本である。

電撃を与える部分の電圧は500~900V程度であり、業務用の1/10程度としている。捕虫用の蛍光灯も業務用のような大きなサイズは不要で、3~5Wの小さなランプが使われる。消費電力はほとんどが蛍光ランプの点灯分になり、長時間使用をしても電気代はわずかである。

電撃殺虫器1台の消費電力を5W(0.005kW)、1kWhあたりの電気料金を32円として電気代を計算すると、1時間あたりの電気料金は 0.005kW × 1h × 32円/kWh = 0.16円 である。1日に24時間運転したとしても、電気代は3.84円である。

太陽電池式の電撃殺虫器

コンセントの電源が確保できない場所では、太陽電池式の電撃殺虫器を使用するという方法がある。太陽電池によって内蔵の蓄電池に充電を行い、3~4時間程度の動作を行うというのが一般的である。

家庭用のソーラー電撃殺虫器は粗悪品も多く、「充電しても光が弱い」「電撃が弱く殺虫しない」といったおそれがあるため、十分な効果が発揮できるか、確認が重要である。

太陽光による充電は、十分な日射が得られることを最低条件としており、高木や植栽に覆われて影が発生している場合、捕虫に必要な電力まで充電できない可能性がある。試樹木や植栽が多い場所では、木の枝や葉が影になることも考えられるため、ソーラーパネル部分が影にならないような配置を検討しなければならない。

電撃殺虫器の設置計画と注意点

電撃殺虫器は高い電圧を発生させる機器であり、人が容易に触れられる場所に設置してはならない。特に業務用の電撃殺虫器は高い電圧を発生させているので、子供などが容易に手を触れられず、異物を挿し込むようなことがない位置に取り付けるのが基本である。

火花を発生させる電気機器のため、爆発性のある危険物や粉塵の多い場所への設置も厳禁である。

電撃殺虫器の安全な取付高さ

業務用など、数千ボルトの高電圧を発生させる電撃殺虫器であれば、電気設備技術基準に準拠し、安全な取付高さが定められている。通常、取扱説明書に記載されているが、軒下に設置する場合は高さ1.8m以上、屋外では3.5m以上の高さに設置しなければならない。

樹木などが触れると、異常放電して火災の原因となるため、30cm以上の離隔を確保し、葉や枝が電撃殺虫器に接触しないように配置する。

電撃殺虫器を取り付けてはならない場所

粉じんが多い場所、羽毛などが多く飛散する場所に電撃殺虫器してはならない。高電圧の火花によって粉塵に引火すると、爆発を引き起こすおそれがあり大変危険である。ガソリンスタンドなど、揮発性の引火物を取扱う施設の付近も同様で、引火し爆発するおそれあるので設置してはならない。殺虫剤やスプレーを照射するのも危険で、爆発につながり危険である。

建物の近くや窓の近くに電撃殺虫器を設置すると、青い光に誘われて開口部に虫が近寄り、害虫が建物内に入り込むことがあるので、開口部からできるだけ離隔して設置すると良い。

建物の出入口や窓の付近には設置せず、開口部から離れた場所に設置するのが基本となる。屋内に設置するのであれば、窓の外から見える場所に設置すると、外からの虫を呼び込んでしまうので注意する。

電撃殺虫器を室内に設置する場合の注意点

電撃殺虫器を室内に設置する場合、衛生面で重要な場所に虫が入り込まないよう、人の出入りがある出入口付近に設置し、人と一緒に侵入してくる虫を捕獲するという考え方が基本となる。

建物外部からの虫の呼び込みを避けるため、必ず「外から光が見えない場所」に設置しなければならない。外部から誘虫の青い光が見えると、光に向かって室内に虫が飛び込んでくるおそれがある。

電撃殺虫器に入り込んだ虫は、衝撃でトレイ内部に入らず、トレイの外まで飛散するおそれがある。床を清掃し易い場所に本体を設置するのを原則とし、部屋の中央に設置しないよう注意する。

衛生面に配慮が必要な食品工場などでは、生産機器の上部に電撃殺虫器や捕虫器を設置してはならない。捕虫時に虫が機器内から飛び出して落下した場合、虫がラインに混入するおそれがある。

果樹園などに設置する場合の注意点

果樹園に電撃殺虫器や捕虫器を設置する場合、紫外線ランプの放つ青い光によって害虫、益虫を問わず、多数の虫が集中する。樹木に対して必要な虫まで誘い込むおそれがあり、生育に悪影響を及ぼすことが懸念される。

通信機器へのノイズ原因となる

電撃殺虫器が動作する瞬間の高電圧で、無線機器など通信機器にノイズが発生するおそれがある。付近で無線機器を使用していたり、常設している通信機器がある場合は、その影響への配慮が必要である。

蚊とハエは有中効果が薄い

電撃殺虫器は、害虫として代表的な「ハエ」や「蚊」を誘い込みにくい。ハエは種類により、光に誘引される個体とされない額があり、一般的には光よりも「臭気」に強く誘引される。

蚊も同様に、光によって誘引されない場合がある。蚊の誘引は紫外線ではなく、人間の呼吸や、生ごみなどから発生する炭酸ガスなど、二酸化炭素に強く誘引されるという性質がある。蚊による被害を防止するために、紫外線を誘虫に用いる電撃殺虫器を計画しても、効果が発揮されない。

電撃殺虫器に誘引された虫の死骸は、時間によって炭酸ガスを放出するため、このガスに引かれて蚊が入り込む可能性があるが、時間を要する上に、二酸化炭素を多量に放出するような状態ではトイレに対流の死骸が入っている可能性があり、衛生面からも推奨されることではない。

トレイを清掃せずに、長期間使用するのは避けるべきであり、炭酸ガスの発生を目的として、清掃をしないという使い方は、望ましい利用方法ではない。蚊やハエなど、電撃殺虫器では捕獲しにくい害虫の対策としては、薬剤などを使用して誘い込むことを検討すると良い。

薬剤を利用する場合でも、充電部分に薬剤が触れないよう注意を要する。

JISに規定された電撃殺虫器の仕様と安全性

電撃殺虫器はJIS C 9335-2-59 に規定された電気機器であり、高い安全性が確保されている。

電撃殺虫器は「2以上のグリッド間に、電圧を印加することによって昆虫を感電死させる機器」として定義されており、「二次開放電圧7,000V以下の場合、または保護装置を設けた場合であれば、地上から1.8m以上の高さに設置できる。」「保護装置がないもの等は、高さ3.5m以上に設置しなければならない」と規定され、安全性を維持するために、取り付け方法に規制を与えている。

JISでは、電気機器の製造者に対して「取扱説明に記載する事項」「安全を確保するための構造・試験方法」などを定めており「ガーデンホースの水を電撃殺虫器に向けると感電の危険があることを明記すること」という詳細な規定までを含む。

「清掃方法」「ランプ交換頻度・交換時の予防措置」なども明記対象とされており、電撃殺虫器はそれだけ危険性が高く、取扱いを間違えると事故につながりやすい電気機器と理解しなければならない。

 
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