電気設備の知識と技術 > 電気の資格 > 危険物取扱者
危険物取扱者は、一定の数量以上の危険物を取り扱うために必要な国家資格のひとつである。危険物施設には「製造所」「貯蔵所」「取扱所」があり、指定数量以上の危険物は、この3分類の場所以外での取り扱いが禁じられている。
これら定められている3種類の施設において危険物を取り扱うためには、危険物取扱者の免状を持つ必要がある。
多くの危険物を取り扱う業態として、化学工場やガソリンスタンドが考えられるが、危険物取扱場所においては、危険物取扱者の資格保持者が、取り扱い、定期点検、保安監督の業務を行わなければならない。
危険物取扱者は、甲種、乙種、丙種に分類されており、取り扱いができる危険物の種類が定められている。甲種危険物取扱者は、消防法に規定されているすべての危険物を取り扱い、定期点検、保安監督を行えるため、危険物の取り扱いという分野においては、実質上の最上位資格に位置する。
乙種危険物取扱者は、その危険物の種別に応じて取り扱える分野が限定されている。取り扱える危険物は6種類に分類されており、類によって特性が大きく異なる。
危険物施設には、製造所、貯蔵所、取扱所の3種類があり、製造所を除く2分類については、それぞれが細分化され規定されている。
下記は、平成20年に消防庁によって調査された、危険物施設の数と種類を円グラフで表している。最も数が多いのは「地下タンク貯蔵所」となる。大規模なオフィスビルや病院では、24時間以上運転できる非常用発電機を設けている場合が多く、その燃料用として広く普及している。
地下タンクによる燃料貯蔵は、他の貯蔵方式と比べて安全であり、より多くの燃料を貯蔵できるため、建築設備分野でも頻繁に採用される方式である。
危険物取扱者は、取り扱える危険物の種類として、第1類~第6類まで分類されている。甲種危険物取扱者はすべての危険物を取り扱えるが、乙種においてはその危険物の種類や性質に6種類に分類され、該当する分野の危険物のみを取り扱える資格となる。
さらに、取り扱いの機会が多いとされる「第4類」の分野に限って「丙種」という細分類が設けられている。ガソリン・軽油・灯油・重油など、ガソリンスタンドの運営や、発電機の燃料管理に特化した資格が設けられており、取り扱える措置が講じられている。
酸化性固体の取り扱いを行う。酸化性固体は、物質内に大量の酸素を含んでいるため、熱による分解で激しく燃焼する危険性がある。加熱や衝撃によって燃焼しやすく、酸素を放出する性質があるので、燃焼を助け、爆発的に燃え上がる性質がある。
「塩素酸塩類、過塩素酸塩類、無機過酸化物、亜塩素酸塩類、臭素酸塩類、硝酸塩類、よう素酸塩類、過マンガン酸塩類、重クロム酸塩類の酸化性固体」に限り、第1類の危険物取扱者が取り扱える。
可燃性固体の取り扱いを行う。可燃性固体は、着火しやすく燃焼速度が高いという危険性がある。加熱によって容易に着火し、激しく燃え上がるものもあるので、火災予防の観点から「熱を避ける」必要がある。マグネシウムは、燃焼実験が学校の授業でも行われており、危険物の燃焼を体験できる。
静電気や粉じんによる爆発の危険性もあるので、静電気の除去、粉じんの除去を行わなければならない。
「硫化りん、赤りん、硫黄、鉄粉、金属粉、マグネシウム、引火性固体の可燃性固体」に限り、第2類の危険物取扱者が取り扱える。
自然発火性物質及び、禁水性物質の取り扱いを行う。空気にさらされたり、水と接触することで発火したり、可燃性ガスを発生させる危険性がある。
酸化性の個体や液体と接触すると、爆発する危険性があるので注意を要する。容器は十分に密閉し、空気に触れないよう貯蔵するのが基本である。火災が発生した場合は乾燥砂を充填して窒息消火を行う。
電気設備分野で用いられる第3類危険物では「NaS電池」と呼ばれる大型の蓄電池は、ナトリウムと硫黄を主体としており「禁水」の管理をしなければならない。
「カリウム、ナトリウム、アルキルアルミニウム、アルキルリチウム、黄りんの自然発火性物質及び禁水性物質」に限り、第3類の危険物取扱者が取り扱える。
引火性液体の取り扱いを行う。引火性液体は、引火性の蒸気を多量に発生させる危険性があるので、火気や静電気で容易に引火する。保管場所は十分な湿度を維持し、静電気が発生しないような対策が望まれる。勢い良くタンク等に注入すると、流速によって静電気が発生することがあり危険である。
危険物取扱者資格の中でも、最も受験者数が多い分野で、ガソリンスタンドなどでのアルバイト勤務において、優遇されることが多い資格である。
「ガソリン、アルコール類、灯油、軽油、重油、動植物油類の引火性液体」に限り、第4類の危険物取扱者が取り扱える。
自己反応性物質の取り扱いを行う。加熱によって自己反応を起こしやすく、衝撃や摩擦によって爆発的に燃焼するおそれがある。分子内に酸素を含有しているため、着火すると積極的に燃焼が続き、大きく燃え上がる特徴がある。
「有機過酸化物、硝酸エステル類、ニトロ化合物、アゾ化合物、ヒドロキシルアミンの自己反応性物質」に限り、第5類の危険物取扱者が取り扱える。
酸化性液体の取り扱いを行う。酸化性が強く、接触したものを強く腐食させる。可燃物と接触すると発火するおそれがある。
「過塩素酸、過酸化水素、硝酸、ハロゲン間化合物の酸化性液体」に限り、第6類の危険物取扱者が取り扱える。
危険物取扱者免状は、試験に合格し、都道府県知事に申請することで交付を受けられる。交付を受けた危険物取扱者免状は有効期限なく使用できるが、写真の更新のみ10年に1度実施しなければならない。
本籍や氏名が変更になった場合も、変更を申請して書き換えが求められるので注意を要する。
危険物の取り扱いに従事していなければ保安講習を受ける義務はないが、危険物取り扱い施設で作業に従事する場合は、保安に関する講習を受ける義務が発生する。取り扱い業務に従事した1年以内、以降は3年以内ごとに受講しなければならない。
危険物取扱の業務に従事していなくても、希望すれば講習を受けられる。
どの分類の試験であっても、出題される試験科目はほぼ同一で「危険物に関する法令」「物理学・化学」「危険物の性質・火災予防・消火方法」という3つの科目に応じた試験問題が出題される。甲種は高度な出題がなされ、乙種、丙種の順に、より基礎的な主題がなされる。
甲種危険物取扱者資格については試験科目の免除は存在せず、すべての科目について受験する必要があるが、乙類、丙類の場合は一部科目の免除規定が存在する。
乙類にあっては、受験する類の他の類の免状を取得している場合「危険物に関する法令」「物理学・化学」について全問免除できる。「危険物の性質・火災予防・消火方法」のみを受験すれば良く、問題数も10問のみ回答すれば良いため、試験時間も35分まで短縮される。
さらに「1類」「5類」について、火薬類免状を取得している場合は「危険物の性質・火災予防・消火方法」についても一部免除が適用され、5問という問題数での試験が実施される。合格基準は60%以上の点数が必要なので、5問という問題数であれば、3問以上の正答が求められる。
試験科目を免除することで、求められる正答数の比率が高くなり、試験難易度がより高くなる可能性もあるので、必ずしも免除を受けることが有利に働かない。
危険物取扱者の資格試験は、甲種のみ受験資格に制限があり、乙種・丙種は受験資格の制限はなく、誰でも受験できる。中学生や高校生でも受験でき、比較的難易度が低く、化学に関する基礎知識を得られることから、資格試験の登竜門として人気となる。
甲種危険物取扱者は受験のための資格条件がある。
以上、5つの項目のうちいずれかの条件を満たすことが定められている。
危険物取扱者の合格率は、甲種で30%前後、乙種では平均50%前後となる。数値だけを見ると、受験者の半数が合格するという、比較的簡単な資格のように見受けられる。
乙種危険物取扱者の合格率は平均50%程度とされているが、これは1~6類の全ての合格率を平均しており、分類によって合格率が違っている。
4類を除く1・2・3・5・6類の合格率がそれぞれ70~80%であるのに対し、人気の高い4類の合格率が40%程度であることから、これを平均して「50%程度」という数値に落ち着いている。
第4類以外の分類で扱える危険物は、その用途が「化学工場」で使用するものであったり、化学物品として運搬されるものがほとんどであり、受験者の受験目的が明確であり、十分な事前の学習を済ませて受験するのがほとんどであるため、高い合格率を維持しているものと考えられる。
第4類はガソリンスタンドのアルバイトなどで優遇されやすい「ガソリン」「軽油」「灯油」の取り扱いができる資格であり、誰でも安価に受けられる国家資格ということもあり人気が高く、受験者数が他の類と比較して著しく多いのが特徴である。
ガソリンや灯油の燃料の特性や、消火と燃焼の仕組みといった内容は、化学の基礎を学べることもあって、学生の教育用としても価値がある。授業の一環として学生に資格取得を推奨する専門学校などもあり、教育現場に広く活用されているが、受講申請をしたもののまったく勉強せずに受ける事例も多く、合格率が低くなっている。
危険物取扱者資格の合格基準は「危険物に関する法令」「基礎的な物理学及び基礎的な化学」「危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法」の3つについて、全て60%以上の正答率でなければならない。
科目の一部免除をした場合は、その免除分を除いて、60%以上の成績でなければならない。どれかひとつの科目でも60%を下回った場合、不合格となる。
「火薬類免状を有する者」として試験を一部免除すると「基礎的な物理学及び基礎的な化学」は4問「危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法」は5問まで問題数が削られるので、ここから60%以上の正答率としなければならない。
問題数が減ることで、難易度が上がる可能性があるので、一部免除を受けるかは慎重に判断すると良い。
サイト内検索