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電気設備の知識と技術 > 電気の基礎知識 > 自動販売機の消費電力と省エネルギー

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自動販売機の普及

日本国内には極めて多くの自動販売機が設置されており、深夜も時間を問わず、清涼飲料水や菓子類を購入できる。市街地であれば各所に自動販売機が設置されており、街の灯りとともに夜の街を自販機が照らしているというのも、日本特有の風景となっている。

自動販売機は冷蔵庫機能と保温器機能が搭載されており、同じ箱の中で冷たい飲料水と温かい飲料水が購入可能である。スナック菓子などはLED照明器具が主体のため消費電力は極めて小さく抑えられているが、温める・冷やすという機能を持つものは、コンプレッサーが搭載されているため常時電力を消費している。

国内の自動販売機設置台数は500万台近くを数え、消費電力は2000年まで、8,000,000,000kWh(80億kWh)を超えていた。家庭の電力単価である24円/kWhで換算すると、年間1,920億円の電気代を支払っているというほどの数値である。(2005年普及ベース・日本自動販売機工業会の推計では66億4千万kWhである。)

なお、自動販売機を設置している需要家の全てが低圧受電ということはなく、高圧受電では13~17円/kWh、特別高圧受電では10~13円/kWhといった設定であるため、実際の数値はこれよりも安価と考えて良い。

令和5年現在、低圧受電では32円程度まで電気代が高くなっており、高圧受電であっても22~23円と、2005年ベースと比較して、1.5倍もの電気代の高騰が続いている。

連立した自動販売機の写真

自動販売機1台あたりの消費電力

自動販売機1台あたりの消費電力は、標準機種で概ね500W~1,000W程度を定格電力として表記している。しかし、常に最大電力を使用しているということはない。自動販売機には商品の視認性を高めるため、40W蛍光灯やLED照明が2~3本程度内蔵されており、さらに商品を冷却したり、加熱するための圧縮機を内蔵している。

これらは製品を冷却・加熱するために常時通電されており、冷蔵庫のようにオンオフを繰り返して運転されている。このような機器が搭載されている大型の自動販売機は、当然ながら消費電力も大きくなっていくことになる。

自動販売機はその販売方法の特性上、24時間いつでも購入できることが利点となるため、冷却や加熱を常に続けていなければならないことも、自動販売機の消費電力を押し上げる一因となっている。

自動販売機の消費電力の大きさ

自動販売機500万台について、単純に1台あたりの消費電力を1.0kWとした場合、1.0[kW/台] × 500[万台] = 500万kW となる。福島第一原子力発電所1号機から6号機まで、全ての定格電気出力合計が469万kWと発表されているため、単純に数字を並べてみると、原子力発電所1箇所の消費電力と自動販売機の電力が一致する。

ここでは、自動販売機が瞬間的に必要とする消費電力を1.0kWと仮定しており、多くの自動販売機の定格消費電力はエコベンダー化が進み、300~500W程度が主流となっている。しかし外気温が低い状態での加熱運転や、外気温が高い状態での冷却運転は、コンプレッサー負荷が増大するため定格値に近い電力値となり、それは大きな負担となる。

電力会社の持つ発電設備は、瞬間的な負荷に対しても電力を供給しなければならないため、多くの時間が低い電力であっても、夏の暑い時間帯に数多くの自動販売機が一斉に冷却モードとなれば、その瞬間的に発生する大きな電力により、電力会社の発電設備にも負担を掛けることになる。

暑い時間帯に大きな電力を使用する機器には、冷蔵庫、エアコンといった電化製品があるが、これらと同様、夏季には冷やすための電力が多く利用されている。対して冬季は冷やすための電力は小さくて済むが、温めるための電力が大きくなるため、暖房電力と合わせて大きな負担となっている。

自動販売機の設置台数と消費電力

総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会 自動販売機判断基準小委員会 最終取りまとめによれば、2005年普及ベースで飲料用自動販売機が約267万台、食品用自動販売機が約10万台、たばこ用自動販売機が約62万台、自動券売機が約4万台、その他約91万台、合計で約434万台となっている。

たばこ用自動販売機や自動券売機は、照明による電力消費がほとんどで、コンプレッサー類を持っていないため、消費電力は小さい傾向にあり、消費電力は極めて小さい。

自動販売機の電気代を償却するための売上げ本数

総容量1.2kWの自動販売機群(定格消費電力600Wの飲料用自動販売機×2台など)を24時間フル運転した場合、1.2kW × 24時間 × 30日 = 864kWh の消費電力が、月あたりに発生するという計算が思い浮かぶ。低圧電灯の単価を24円/kWhとした場合、864kWh × 24円/kWh = 20,736円の電気代が掛かる、というのが、24時間絶え間なく消費電力を最大と考えれば、このような数値となってしまう。

しかし、上記数値はコンプレッサーや照明の稼働率を見込んでいない。自動販売機には省エネルギーに配慮した多くの機能が搭載されており、24時間フル運転が継続することはない。また、自動販売機の内部は外気温がそのまま伝わらないように、また商品の熱量が外部に逃げてしまわないように断熱されており、エネルギーの無駄遣いにならないよう配慮されている。

2005年頃の飲料水自動販売機は、1台あたりの年間消費電力は1,500kWh程度とされており、一日あたり4.1kWhとなる。定格消費電力が1000Wとすれば、コンプレッサーの稼働時間は20%程度と推測する。

実際の消費電力としては定格電力が使用されるが、これは短い時間帯に限られている。稼働率を20%として計算した場合、1kW × 24[時間] × 30[日] × 24円/kWh × 20% = 3,456円/月となる。

エアコンの効いた室内に設置されている自販機と、直射日光が当たる屋外に設置されている自販機では消費電力も大きく変化することなり、一概に同じ数値を用いることはできないが、それでも大きな電気代であることに変わりはない。

なお2015年の統計では、自動販売機の平均的な年間消費電力は700kWh程度まで低減され、大きな省エネルギーが図られている。

自動販売機による電力と回収

5,000円の電気代を自動販売機の売上げで償却するためには、飲料水の売上本数による収益を、電気代よりも伸ばす必要がある。120円の飲料水1本につき、10%のマージンを得られると仮定した場合、1本を売上げる毎に12円の収益が発生する。

先ほど計算した20,736円の電気代を12円の収益で償却するためには、20,736円 / 12[本/円] = 1728[本] の販売が月々に必要である。一日あたりにすれば、58本程度が販売目標となる。

省エネに配慮した自動販売機を選定し、消費電力を削減して、仮に電気代が月に4,000円とした場合、月の必要売上げ本数は333本となる。一日あたりにすると、11本を売上げれば良い。

バスや駅の待合では、これだけの本数を売り上げることも可能だが、閑静な住宅街に設置する場合は、十分な検討が必要である。売上げ利益よりも電気代の方が高くなり、赤字になるケースも多々考えられる。

設置する自動販売機の省エネ性能と実際の消費電力、設置する予定場所にどれだけの購買力が見込めるか、1本あたりのマージン率により、設置台数や自動販売機のサイズを計画しなければならない。これには綿密なシミュレーションが要求される。自動販売機を設置すれば例外なく利益を生む、ということはないため、コスト検証を十分に行うのが良い。

自動販売機の省エネルギー対策

自動販売機の省エネルギーを図るには、照明と冷却・加熱を低減させることが有効である。

自動販売機のシステム

自動販売機の内部には、冷却用の圧縮機と、加熱用のヒーターが内蔵されている。冷たい飲み物を提供するために冷却用圧縮機によって冷気を作り、飲料水を冷却している。自動販売機で暖かい飲み物を同時に提供する場合は、加熱も合わせて行う。

省エネルギーに配慮した自動販売機の場合、冷却のために使用した圧縮機はヒートポンプサイクルにより暖気が発生するため、排熱回収を行うことで省エネルギーに貢献する。熱交換効率を大きく向上させ、消費電力の節約を行える。

照明の消灯・減光

自動販売機は、商品の視認性を高めるため、40W蛍光灯が数本内蔵されている。自動販売機を利用しない時間帯など、無人の状況で照明を点灯させるのはエネルギーの無駄となるため、自動的な照明オフが求められる。

天井や壁に設置されている照明器具があるのに、自動販売機からの照明も店頭するのがもったいないと思われる場合は、自動販売機を設置している室内照明が点灯時に、自動販売機の照明をオフにする制御をしたり、深夜に無人となる時間帯に照明をオフにするといった制御を取り込めば、より高度に消費電力を抑えられる。

自動販売機のゾーンクーリングと学習機能

ゾーンクーリングとは、自動販売機内の全体を冷却せず、販売される直近数本の飲料水のみを冷却する方法である。ゾーンクーリングを採用すれば、冷却のための圧縮機運転時間を短くできるので、消費電力を低減できる。

事務所の休憩所など、同じ時間帯に一斉に購入されるおそれがある場合、適温でない飲料水が出てくることがある。自動販売機の学習機能により、販売本数が多い時間帯や、どのレーンの販売が多いかといった情報を学習させ、冷却本数や冷却箇所を調整することで問題解決を図るといった努力がなされている。

自動販売機に対する電気設備設計

電気設備設計上、自動販売機を負荷としてコンセントの計画をする場合、注意する点がいくつかある。

自動販売機の電源はELB系統とし、漏電時には電源を遮断する。1台あたりの消費電力が大きいため、単独回路として設計すべきである。コンセントプラグは、常時接続されているため、抜け止めのコンセントを設置する方が良い。

自動販売機のコンセントプラグは、接地極付きのほか接地端子に直接接地線を接続することも考えられる。接地端子を用意しておくのが望ましい。

自動販売機の高さは概ね1,800mm~2,000mm程度となるため、コンセントの取付高さをH=2,100mm程度にし、無理なくプラグを接続できるよう配慮すると良い。トラッキング火災を防止するという観点からも、コンセントの状況が目視確認しやすく、かつ清掃しやすい位置に設けることも重要である。近年はトラッキング火災の前兆を検出して警報を発信する「トラッキング防止コンセント」という製品も販売されているため、そのような製品を選定することも一案である。

また、自動販売機によって発生した電力を計測することができれば、収支管理がより高度となるため、専用の電力量計を設置できるよう考慮することも重要である。自動販売機の電力コストを別に請求するような運用方法も想定されるため、課金に用いる場合は検定付電力量計を選定しなければならない。電気料金の算定に計測データを用いる場合、検定付電力量計を使用しなければ計量法違反となるため注意を要する。

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